第88話
それから少しバカンスを楽しんだ後に俺達三人は一度学校に戻った。
寮に戻るとスティアからの手紙が入っていた。
龍神国での旅行中に不穏な噂を耳にしたとのことだ。直接話がしたいからもし戻っているなら待っていてほしいと。
幸い手紙に書いてあった予定日は1週間後だった。入れ違いにならなくてよかったよ。
ハルとディケにも一応同席してもらった。
「久しぶりスティア!旅行楽しかった?」
「龍神国も聖教国も色々勉強になったし、楽しかったよ。マァト達は予定通り早めに課題を終わらせて長めの休み…かな?」
「予定通りね…まぁ予定通りか。そうだよ。来期が始まるまでは休みってことになったよ。」
「2人にクートのお土産。これどうぞ。」
「ありがとう!火の魔石のついたブレスレットだね。」
「俺達3人もつけてるから5人分お揃いだよ。」
「それで手紙に書いてた件なんだけども…聖教国が大変らしいんだよね。ディケ、今までテミス家がずっと教主をし続けてたよね?」
「そうね。国としては世襲制じゃないけど、結果的にはそういう感じになってるわね。本来は貴族による選挙制だけど、色々手を回してそこの席にい続けているのよ。」
「そのテミス家の牙城が崩されそうになってるんだって。近頃は反テミス派がいて得票数が危ぶまれているって話だったよ。」
「あんな実家なんて権力の座から落ちてしまえばいいのよ。って私は思ってるわ。驚きはあるけど、私も手助けしたいくらいよ。」
「ディケはそっちの立場なんだね。聖教国でも龍神国でも同じような話を聞いたんだ。ディケが言ってた通り、票取りのために色々と手を回してるって話もついてきてたよ。」
「私の婚姻もそういうのに利用されそうだから今回の休みで帰ったらお断りしてくるのよ。そこで諍いが起きるようなら家からは出ていくわ。」
「ねぇ、マァト。ディケを1人で行かせて大丈夫?」
「そこまで心配しなくて…」
「いや、ハルの言う通りだよ。何かあってからでは大変だから送り迎えするよ。」
「ありがとう。マァ君に甘えようかな。帰った日の夕食か翌朝には父様に伝えるから次の日の昼には迎えに来てくれれば準備できているはずよ。」
「あの、クソタヌキがそう簡単に引き下がるかいささか心配だな。ディケのような切り札を手放すとは思えないんだよ。」
「私も同感よ。ディケは少し安易に考えてるように見えるわ。あのドークスもいるんでしょ?」
「そうね。無理矢理結婚させて私が逃げ出したらメンツ丸つぶれだから最低限私が認めない限りさせないと思うんだよなぁ」
「スティア、情報ありがとう。警戒しておくよ。」
それから数日してディケの帰省の準備が整ったので転移でテミス家の前まで行った。
「ここに来るのはいつぶりだろ…」
「そうだね。あの日以来だもんね。」
「今となってはどうでもいいけど、あまり長居するような場所じゃない気はしてる。」
「そうね。また明日のお昼にここに来てもらっていいかな?」
「もちろん。途中に何かあるようならすぐ通信の魔導具で連絡してね。」
「ありがとう。それじゃあまた明日ね。」
そう言ってディケはテミス家の豪邸に入っていった。
隠冠を使って潜入するのも考えたが、以前手に入れたドークスのエルフ不法奴隷の売買履歴の資料を反テミス派の近くで間違って落としてこないといけないしな…
意図的にテミス家を害する行動は契約書で縛られてるからあくまで間違って落とすのがポイントだ。
ディケと別れてから反テミス派を謳う貴族の邸宅を何軒かまわり資料を間違って落として回った。
翌日昼になりテミス家の前でディケを待つ。
「あれ?時間間違ったかな?」
時間に遅れるような人ではないんだけどな…
「おい!穢らわしい人間がこんなとこで何をしている!」
ドークスだ。
「アンタに用はないんだよ!俺はディケを迎えに来たんだ。」
「ディケは来ない。いや、ここには呼んでやろう。お前は1人で帰ることになるからわからせてやる。」
一旦引っ込んでディケと共にニヤニヤしたドークスもでてきた。
「あなた、穢れてるマァトじゃないの。私の結婚のお祝いでもしにきたの?でもあなたから祝われた方が不幸になりそうだからやめてちょうだいね。」
「は?結婚?ディケ何言ってんだ?」
「私の名前を呼ばないでくれる?悪いことが起こりそうだから。さっさと帰って。私の視界から消えてよ。」
そう言ってディケは屋敷に戻っていった。
「わかっただろ。お前は1人で帰れ。ディケはもう学校に行くこともないだろう。ここでお別れだ。ハハハハハハ!」
ドークスは捨て台詞を放って背を向け屋敷に入った。
何で?昨日家に帰ってから何があった?
そもそもさっきのは本当にディケなのか?
納得も理解もできない。やはり潜入するべきだったか…
今からでも間に合わないだろうか。ひとまずハデスを使って屋敷に入ろう。
まずはドークスの部屋に潜入した。
「ハハハ!あの顔見たか!?ディケを商品として使わない訳がないだろ!家にさえ来ればこっちのもんだ。これであの公爵家のオヤジはこっちになびくだろうから票固めは安心していいだろう。それにしてもこの魔道具がこんなにすごい効果があるとはな。」
「ドークス様。誰に聞かれているかわかりませんのでご用心くださいませ。」
「おう。わかってる。もし誰かに聞かれてるようならそいつにもこの魔道具を使って新たな人格を埋め込めばいいさ。」
(新たな人格を作り出す魔道具?なんて物を使ったんだ。そのせいでディケは…)




