第75話
コンコンコン
「あら!マァトから訪ねてくれるなんて。どうしたの?」
「その…デート…しない?」
「いいわね!行こう!」
「でもどこいくのがいいか俺にはわからないからオススメ教えてよ」
「いっぱいあるから覚悟しておいてよ〜」
ランチには巷で人気のモコモコシープの香草パイ包み焼きを食べて、色々なお店を見て回り、ゲイルに乗っかって空のドライブをした。
「なんだかんだで一番はゲイルの背中に乗ってたところかもしれないわ。」
「ゲイルのスピードにビビってたくせに〜」
「最初は仕方ないわ!あの速さを体験することなんてどこにいてもできるものじゃないもの。」
「確かにそうだね。どれだけ速い馬に乗っていてもあの速さは出せないだろうね。」
「今日は誘ってくれてありがとうね!楽しかったわ。」
「こちらこそ!美味しいお店もたくさんあったし。楽しかった。少し早いけど明日、寮に戻ろうと思ってる。ハルはどうする?」
「私はギリギリまでこっちにいようと思ってる。」
「それがいい。せっかくの家族でいられる時間は大切にした方がいいよ。」
「ありがとう。」
翌朝一通り挨拶を終えて学校に行こうとした時、
「マァト!待って!」
廊下の向こうからジャンヌ様と一緒にハルが走ってきた。
「次またいつ会えるかわからないから渡したい物があったの。もう私には必要ないから。」
一冊の本だった。
「聖書よ。かなり古ぼけてるし、あなたの国の言葉じゃないから読めるかわからないけど、少なからず私が持ってるより有用だと思うわ。」
「どうしてこれを?」
「転生した時なぜか近くにあったみたいなの。でもこっちではキリストも聖書も何も関係ないから必要ないのよ。文字も掠れてるし、紙もボロボロだからまともに読めないかもしれないけどね…」
「ありがたく頂戴します。」
七つの大罪について何かヒントとか調べることができるかもしれない。
部屋に戻ったら読んでみよう。
「お世話になりました。またの機会を楽しみにしています!」
「未来のお婿さん。私たちはいつでも歓迎するから好きな時にいらっしゃいな。」
「未来のお婿さんって…」
「お母様!それは恥ずかしいです!」
ハルも俺も顔を赤らめたままで時を止めてしまったので無理矢理切り出すしかなかった。
「じゃ、じゃあ行きますね。ではまた!」
《転移》
一瞬で寮の部屋まで戻ってきた。
昼食までには時間があったからさっそくもらった聖書を開いてみた。
ジャンヌ様の言っていた通りかなりボロボロでページをめくるために持ち上げただけで破損していく。インクもかなり掠れていて消えていたりして読めたもんじゃない。
そもそも、フランス語なんて全然わからん!!
前世でフランス語勉強しとけばよかった…
なんとなくでペラペラめくっても本が壊れていくだけで何も得られるものはなかった。最終的には背表紙からパッカリ割れて、もう本とは言える状態ではなくなった。
あ!
《鑑定》
聖書:異世界の聖典
状態:破損(大)
「くっ!鑑定でもわからんかぁ〜」
せっかく頂いたものだけど、何も得られるものはなかった。
ため息交じりに歩いて食堂まで行くとスティアとフラウがいた。
「あっ!マァトじゃないか!こっちおいでよ!」
夏休みで人が少ないから座席はガラガラだった。大声出さなくても声がよく通る。
「スティアももう戻ってたんだね。早いんじゃない?」
「フラウの魔導具製作が気になって早めに戻ってきたんだよね。」
「そういえば試作品の2号機はどうなったの?」
「できてるわよ。ハルがきたら2人にも試してもらおうと思ってるの。」
「今回はどんな感じなの?」
「聞いて驚かないでちょうだい!なんと!同時に複数の人と遠隔で話せるの!しかもイヤリング型だからオシャレ!」
「オシャレ…かどうかは置いといて素晴らしい機能だね!これでみんなの手の届きやすい価格で作れるなら大発見だよ!」
「そこ…なのよね…」
「平民でも誰でも使いやすい価格って言ってなかった?」
「機能を増やした結果、使う魔石が僕しか作れないものじゃないとできなくなっちゃったんだ。」
「スティアの魔石彫金師ってやつだよね?それだと量産は難しいね…みんなで話す機能をなくして決まったペア同士をつなげるだけならできないもんなの?」
「……!それならスティアの力を使わないでも私だけでも、レシピさえ理解できれば誰でも量産できるかもしれない。」
フラウは黙って計算しているようだ…
「前に見せた試作1号機はそんな感じだったけど、2号機を試作した時に少しコツがわかったから1号機の状態に戻してもいいものが作れそうだわ。」
「もしよかったら俺にも製作しているところを見せてもらってもいいかな?」
「もちろん。ごはん食べたらまた研究室に戻るから一緒においでよ!」
「二人のお邪魔にならないならお願いしたい。」
「お邪魔なんて…マァトは友達なんだからそんなの気にしないでよ!邪魔そうな時はちゃんと言うからさ!」
「スティアも言うようになったな!」
やっぱりスティアもフラウも二人とも大切な友達だ。一人部屋になったけど、こうやって笑い合って話せる関係は絶対に大切にしなきゃな…




