第72話
バルコニーに出るとすでに隣の部屋外に出ているハルがいた。
「それで?クート王国はどうだったの?」
「あぁ…クートに行く船の時点で海龍がいるからってルート変更して船長くなったことから始まり、そしてそれを解決したら冒険者ランクがA級になったり王城に呼ばれたり…ね。」
「まだ何か隠してそうな顔してるけど?それで終わりなの?」
「いや、クートに俺を取り込もうとする策略があってそれで急いでこっちにきたんだよね。日に日に増えていく侍女が無駄に対応を増やしていったりして最終的に夜伽をされそうになって焦ったよ〜あっ!してないからね!絶対に。」
「本当にぃ〜??美味しい思いをしてきたんじゃないの?飽きたからこっちに来たんじゃないの?」
「そんなことないよ!むしろしてきたならこっちに来ないし。もっとズブズブに取り込まれてるさ。」
「そりゃそーね。そもそもあなたはそんなのに応じないでしょうし。心配も疑いもしてないわ。信じてる。」
「ありがとう。それにしても本当にすごかったんだから。少し疲れたよ。」
「それにしてもマァトを取り込もうだなんて!クートには気をつけないと…お父様にも伝えておかないといけないわね!」
「今回は獣人自治区に行ってみようかなって思ってる。」
「その前にお母様に会っていってくれないかしら?」
「ハルが前に言ってた強〜いお母様だっけ?」
「そうよ!たぶんマァトには勝てないんだろうけど、すんなりも勝てないはずよ。やればわかるわ。」
「あえて全部言わないで気にさせるやつね。いいよ!乗ってやろうじゃないか!」
ハルからの挑戦状を受けるために数日皇城へ滞在することになった。
皇后様との模擬戦は城内であちこちで噂になり、当日を迎えて闘技場は満員御礼の状態になった。
見世物として触れ回ったのか賭けをしたり、各所で物販もしている。
「もうこれは、お祭りみたいなもんだな。」
ガヤガヤしているのを控室でも聞こえてきたが、待機場所にまでくると歓声のすごさに圧倒された。
「それでは今回龍討伐の英雄・マァト殿と皇后・ジャンヌ・ダルク様との模擬戦を執り行います!両者入場!」
「え?今何つった?ジャンヌ・ダルク?はぁ?確かにハルの家名はダルクだけども、歴史上の偉人がまたこんなとこにいるのか?たまたま同名なのか?」
舞台の中心まで来るとエルフ特有の美人の戦士が現れた。線は細く、パワータイプってよりスピードタイプのようにみえる。
「ルールはどちらかが降参すれば負け。場外はカウント10で敗北です。マァト殿は龍などの助力は無しでご自身の武を持って臨んでいただきたい。魔法は相手の命を奪うような強力なもの以外なら使用可能です。武器は木剣です。」
「あなたがマァト君ね。初めましてがこんな形になって申し訳ないけど、精一杯よろしくね!」
ハルのようなイタズラっぽい笑顔だ。親子なのを感じる。
「はじめまして。こちらこそよろしくお願いしますね。ハルと同じように笑いますね。」
「あら!そんなこと言われたのは初めてよ。でも嬉しいわ。お話はあとにして始めましょうか!」
一歩ステップバックしたと思ったらもう剣の間合いにいる。俺が気づけないほど速いダッシュに袈裟斬り。
「おっと!かなりの速さですね!危なく一瞬で終わるところだった。」
「あらあら!そんなこと言って褒めても無駄よ。」
口は動くが、手はもっと動く。
お互い決め手がなく、剣で受けることなく避けるか斬るかの応酬。
「う〜ん…このままじゃただのマラソンよねぇ。」
ジャンヌは強めに切り払い、隙間が空いたところに氷の槍を生成した。
「それっ!」
「おっと!」
それからは防戦一方。剣を出そうにもすでにそこにはジャンヌの剣がある。魔法と速い剣技で押されていく。
ガンっ!
初めて剣で受ける。何せもう闘技場の瀬戸際なもので。
「そろそろ俺もいいですかね?」
ジャンヌの頭上に大きな氷塊を生成する。
重量もあるのでそのまま自然落下
ドンッ
石材の闘技場を一部破壊するほどの硬さと重量だった。
「あなた!殺す気?ちょっとは加減しなさいな!」
ここからはお互いの魔法の応酬。
火球と氷塊、氷の刃と風の刃。
発射してはぶつかり壊れるを数度繰り返す。
「このままじゃあ埒が明きませんね。これならどうですかっ!」
魔法の応酬をしながら前進する。
ジリジリと近づく。
ここだっ!
ダッシュで死角に入り一太刀。
これで決ま…らなかった。
何故か避けられた。確実に死角だったはずなのに。
「ざ〜んねん!ちゃ〜んと視えてたわよ。」
「視えてた?死角だったはずなのに。」
「そう。視えてたの。私にはね。」
魔力を込めて地面を砕いて砂煙を巻き上げて目眩ましをした。これならいけるはずだ!
「これまた残念!当たらないわよ!でも…」
あぁ!もうっ!
火球を飛ばす。
「これもダメ〜!あっ!」
避けたところにすぐさま影魔法:影縫でその場に縛り付ける。
「これならどうだ!さすがにわかってても避けられないものはあるわね。降参よ。」
「勝者!マァト殿!!」
「龍を打ち負かせた実力は流石のものね。」
「いやいや、ここまで決定打に欠けるのはなかなかないですよ!なんであんなに避けられたのかが不思議でたまりません。確実にいけるタイミングだったはずなのに…」
「それはね…」




