第33話
兄さんの訪問からキールからの視線はめっきり減った。決してゼロになったわけではないがかなり回数としては減ったと思われる。
「マァト、ダン実(=ダンジョン実習)明日だけど、準備大丈夫?」
「だいたいはいいんだけど、矢と矢筒がなくて…」
「マァトは弓矢で戦うんだね!それなら一番大事なものなんでまだ準備してないの!?」
そりゃそーだ。メインは剣でずっときてたし、そもそもあの弓に物理的に矢はなくていいやつだからね。でもあの力を大っぴらに見せてたら色々と面倒くさそうだし、ちゃんと矢をつがえて使おう。………と思ったのがさっきである。
「弓矢は最近始めたんだ。今まではずっと剣で戦ってたんだけど、ある人からいい弓をもらったからそれを使ってみようかなって。正直剣は使えば大概負けないからダンジョンの浅い層なら練習にもちょうどいいかと思って。」
「それなら仕方ないか。今日授業終わったら一緒にお店見に行こう。多少の目利きはできると思うから手伝うよ。」
「ありがとう。助かるよ。さぁご飯行こうか。」
入学してすぐはダメダメだったけど、一ヶ月以上も経つとスティアの寝起きは随分良くなった。自発的に起床できることも増えてきているのだ。おかげで朝にもお話の時間を持てるときもある。
そして食堂に行くとよく姉さんと会うのだ。
今までたまたまと思ってたけど、たぶん生活サイクルが似ているのか最初のばったりからずっとだ。少なくとも2日に1回はどこかのタイミングで会う。そして会うと必ず……
タックル!!
姉さんからの愛が溢れてるようだよ
学校の中で敵が多くなる…
あの嫌な視線のもとはキールだけじゃなくてこれも原因の一つではないかと最近はよく思う。
「マァぁぁくぅぅぅうん!!」
ドンっ!
「おはよう。姉さん。今日も朝から元気だね。」
いつも手の置所がなくてつい頭を撫でてしまう。
そうすると姉さんの笑顔がさらに可愛くなるのだ。
「朝からマァ君に会えたら元気にもなるわよ!今日も1日元気に過ごしてね。」
突風のように当たってすぐさま去っていく。
あんまり長々とベタベタしないから強めの挨拶のハグ程度に思われてるのかお付き合いしているような噂はまわっていない様子。
「マァトいつものことながら羨ましさがたまらないよ。おそらくお姉さんは学内どころかもっと広い範囲での美女No.1だよ!」
「ありがとう。お褒めの言葉は本人に伝えておくよ。」
………
授業が終わると買い物の待ち合わせで寮で待つことになっていた。
ガチャ
「あっ!待たせたかな?」
「いや、ついさっきついたとこ。」
このやり取りは〜
恋人もしくはこれからそれになるやつのやり取りぃいぃぃい!
決して男同士では何も生まれないが、前世の知識からつい反応してしまう。
「さぁ行こうか!」
……
授業後の商店街はかなり活気に溢れている。
それぞれの必要なものを買うといってもみんな違うのであちこちのお店には人が出たり入ったり。
「矢を買うならあそこがいいよ。」
「何か違いがあるの?」
「あそこで買った矢なら潰れた鏃もサービスで打ち直ししてくれるからしっかり矢を回収できるとお得なんだよね」
「最初に回ったっきり商店街来てなかったからそんなの全然しらなかった。ありがとう!」
得意気なドヤ顔
「か…彼女に教えてもらったんだ。」
!!!!!
「ちょっ、まっ!かかかっかかか彼女ぉぉぉぉ!?そういう話はこういう所じゃなくて違うタイミングで聞きたかったよ」
「言い出すきっかけが無くてさ…まぁまだ付き合い初めだからまだまだこれからさ。彼女も弓矢を使う人でマァトの話をしたら教えてくれたよ。」
ドヤ顔はなくなって少し恥ずかしいのか顔が紅くなっていた。
「今度お礼をしなくちゃな!ちゃんと挨拶も兼ねてね。んでどういう経緯?」
「ん〜同じクラスの子で、僕は勉強が苦手だから教えてもらってるうちに…ね。」
さっきよりもっと紅くなっている
矢を買いに来て人の色恋沙汰をじっくり話すもんでもないか…
「彼女いるのに姉さんに美女とか言ってていいのかなぁ?」
「あぁ。それは彼女も公認で美女だからね!」
してやられた。ちょっかい出してやろうと思ったのに…
これだからイケメンは…
スティアは無骨な大きな手をしているが顔立ちから体躯までガッシリしたさわやか系なイケメンである。
ワイルドな雰囲気なのに柔らかい人当たり…ナイスギャップ!
「今度しっかり話してもらうぞ!」
矢筒と矢を購入して部屋に戻る。
「そういえば弓って話してたけど、マァトの荷物に見当たらなくない?」
「あぁそれなら…」
空中に異空間を作り出しそこに腕を突っ込む。
スッとだした弓を見て
「今のなに!??」
「アイテムボックスっていうスキル…かな。前に話したユニークジョブのやつね。自分だけの異空間に何でも入れておける。だから入寮の時荷物が少なかったんだ。さすがに初対面のスティアにそこまで信じて見せたりはできなくて…」
驚いていて弓どころではないらしい。そしてこの世界ではやはりアイテムボックスはレアどころのスキルではないようだ。
「そりゃあそうだね。正しいと思う。神獣化もそうだし君は本当にとんでもないね。これから先も見せる相手は選ばないと大変なことになるよ。」
「ありがとう。気をつけるよ。」
…………………
「全員そろったかー??」
今日はダン実のため実習区の入り口で集合となった。10人ごとにリーダーではないが、点呼管理者をおいたのでそれらからの合図があった。
「浅い階層といえどモンスターもいるし、罠もある。足場のよくないところもあるからケガする可能性もあるから気をつけていけよ〜。全員揃ってるみたいだから行くぞ。」
いっぱいゾロゾロいるけど、ついにダンジョンだ!
気を抜けない状況ではあるけど、楽しもう!




