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吠えろ!ガラクタ~塵芥戦術~  作者: 堀尾 朗
第12章「飯島教」
46/56

—1—

 美緒とダニエルに案内された先は、駿河にとって馴染みのある建物だった。


薄暗い照明。赤い絨毯。

映画館特有の空気と、わずかに埃っぽい匂いが鼻を掠める。


すでに閉館しているのか、受付には誰の姿もない。

もともと閑散としていた館内は、照明が落ちたことで、さらに陰気さを際立たせていた。


――灯台下暗し、か。


飯島教の“教会”。

言い換えれば、その隠れ家が――駿河の務める交番の管轄内。しかも、馴染みの映画館だったのだ。


驚きを覚えつつも、ふと納得する。

考えてみれば、この映画館は、五十年以上も前のレトロ作品を、客足がなくとも流し続けていた。

好き好んで、あるいは意固地に。

その実態を思えば、ここが拠点であっても不思議ではない。


建物の奥へと進む。

劇場へ続く細い通路を横目に見ながら、さらに奥へ。

やがて、「STAFF ONLY」と書かれた室内表示板が貼られた鉄扉の前で足が止まる。

美緒がそれを開き、駿河たちは中へ通された。


さらに奥へ進むと、そこは休憩室だった。


――そして、その中には、一人の老人がいた。

突然の来訪者に驚いたのか、老人は一瞬目を見開き――やがて、くしゃりと顔を崩して笑った。


「紹介します。この方は――あたしたち飯島教の、三人しかいない信者のもう一人。高山さんです」


「どうも~、高山裕次郎です」

腰は少し曲がっている。白髪頭で、年齢は七十を優に超えているだろう。だが、パリッとしたグレーのスーツを着こなし、目はやけに生き生きとしていた。


見た目は紳士然としているのに、その軽い調子。そのギャップに、今度は駿河たちの方が面食らう。


「いやいや、突然驚いたなぁ。びっくり仰天で、腰がいっちまいそうだ。来訪者なんて、しばらくなかったしなぁ」

一気にまくし立てる。


「ん? 君、どこかで見たことがあるな……ああ、そうか。よくうちの映画館に来てくれてる警官の人じゃないか」

「えっ、あ……はい。よく通わせてもらってます。駿河と申します」

怒涛の勢いに呆気に取られつつ、駿河は戸惑いながら名乗った。


「おっ、それと、そこのお嬢さんも見たことあるな。いやいや、美しいから覚えているよ」

「あっ、はい。和奏と申します。よくこの映画館に――」

「いや、一回しか見たことないね」

「はい。一回しか来たことがありません」

和奏は慌てたあまり、どこかちぐはぐな自己紹介になってしまう。


「さすが高山さん……! もうご存じなんですね!」

そのやり取りを見ていた美緒が、拝むように手を組み、羨望の眼差しを向けた。


「それと……」

今度は甲斐の方へと視線を移し、高山は少し首を傾げる。

「君は見たことがないね」

「大丈夫です。僕も見たことがありません」

甲斐は胸を張って、堂々と宣言した。

それに対抗するように、高山もぐいっと背筋を伸ばし、胸を張る。

どうやら――一番気が合いそうなのは、この二人らしい。


「今日は、どういった要件なのかな?」

高山が美緒に問いかける。

美緒は姿勢を正し、改まった様子で答えた。


「はい。この方たちが、あたしたちの教会に入信したいとのことで。まずはお話を聞くことになりました」

「いや、さらっと嘘をつかないでくれよ。入信したいなんて言ってないだろ」

話がこじれるのを察し、駿河がすかさず割って入る。


高山は一瞬、事情が飲み込めない様子で困った顔を見せたが、すぐに表情を緩めた。

「よくわからないが……まぁいいや。とりあえず、そこに掛けたらいい。確か、冷蔵庫にお茶が入ってたはずだな」

「あっ、いいです。あたしがやります。高山さんも座っていてください」


立ち上がろうとする高山を見て、美緒が慌てて制し、小走りで冷蔵庫へ向かう。

休憩室には、テーブルを挟んで大きなソファが二つ並んでいた。

そこへ、それぞれ腰を下ろす。


六人で座るには、やや手狭だ。

駿河、甲斐、和奏の三人が肩を寄せ合うように一つのソファへ。

向かいには、高山、ダニエル、そしてお茶を配り終えた美緒が、同じく身を寄せ合って座る。


自然と――両者は、向かい合う形になった。


「じゃあ、ワシが必要になったら声をかけてくれ」

そう言い残すと、高山は懐からゲーム機を取り出した。背中を丸め、その場で遊び始める。


あまりにも自由奔放な振る舞いに、駿河と和奏は言葉を失った。


一方で、甲斐だけは違った。

何のゲームなのか興味をそそられたのか、軽い足取りで高山の背後へ回り込み、その手元を覗き込む。

なんとも忙しない男である。


やがて二人は、ゲームをきっかけに意気投合したらしく、意味不明な単語を飛び交わせながら会話を始めた。おそらくゲーム用語なのだろう。


「……勝手にやってろ」

呆れたように、駿河が小さく呟く。


そのとき、美緒が口を開いた。

「さっきの、不思議な力……あれは何なの? あの大袋から、次から次へと玩具を出していたよね。どう考えても、最初から持っていたとは思えない。それに、あの男の子……どうして急に態度が変わったの? まるで別人みたいだった。あなたたちは、あれが何だったのか、わかっているの?」


矢継ぎ早の質問に対し、駿河は少しだけ間を置いてから、口を開いた。

「玩具については……まぁ、言語化にするなら“神の力”ってやつかな」

「神の力……?」


「もともと、“ガラクタ”っていうヘンテコな神がいてな。そいつが力を与えてくれたんだ。正直、俺も原理はよくわかってないけど……」

駿河は、できるだけ順序立てて説明する。

突然“神の力”などと言っても、簡単に信じられる話ではない。


どこで出会ったのか。どんな存在だったのか。

栄丸神社に祀られている塩椎神に酷似していること。

そして、ここに至るまでの経緯。

ひとつずつ、言葉を選びながら語っていく。

「……事実として、ガラクタが来てから、色々な人と知り合えたのは確かだな」


「とにもかくにも、気持ち悪い奴です」

和奏が、割って入るように言い切った。

美緒の賛同を得たい一心なのだろう。だが、見た目についての説明が抜け落ちているため、美緒にはいまひとつ伝わらない。


「ん? どうしてそうなるの? 今聞いた限りだと、いい神様にしか思えないけど」

首を傾げる美緒に、和奏は身振り手振りを交えて続けた。


「だって、髭もじゃで、変な歌を歌うんです! しかも、顔をぐいっと近づけてきて……うぅ……わかります?」

「ごめんね。ちょっと、わからないかな」

美緒は肩をすくめる。


和奏としては、美談のように語られるのが我慢ならず、必死に訴えたのだが――あまりにもざっくりとした説明では、伝わるはずもなかった。


結果、彼女は、わかりやすく落ち込んだ。

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