—4—
「……事情はわかった……」
駿河の話を黙って聞いていた美緒が、ようやく口を開いた。
騒がしかった子供たちは去り、辺りは静まり返っている。ここは片田舎の歩道。車の往来もまばらで、周囲には寂れた店舗と住宅が並ぶばかりだった。
駿河の背後では、甲斐と和奏がどこか浮き足立った様子で立っている。期待が滲んでいるのは明らかだった。
だが、美緒の返答は、その期待をあっさりと裏切るものだった。
「でも、ごめんなさい。協力はできない。復讐なんて……そんなの……。あたしたちは、あまり過激な活動はしたくないの。あくまで、自分たちの意見を発信して、賛同してくれる人を探しているだけで……」
美緒は視線を落としたまま、言葉を続ける。
その姿が――駿河には、ただの“被害者面”にしか見えなかった。
「子供を洗脳しようとしてたくせに」
思わず、嫌味が口をつく。
「違う! あれは……」
反射的に否定するが、その先の言葉が続かない。正当化しようにも、うまく言葉が見つからず、美緒は押し黙った。
「駿河さん。いきなりそんな言い方は、あんまりです」
非難の視線を向け、和奏が間に入る。
そして俯く美緒へと、柔らかく声をかけた。
「わたしのこと、覚えていませんか?」
「……覚えてる。確か、いつだかファミレスにいた子だよね」
「そうです、そうです!」
和奏の表情がぱっと明るくなる。
彼女はそのときの思い出や、ずっとあの店で待っていたこと、探していたことを、楽しそうに語り始めた。
その無邪気な語り口に、少しずつ美緒の警戒は解けていく。
やがて――美緒たちは、自分たちの素性を明かし始めた。
「あたしたちは、“飯島教”っていう新興宗教なの。……まぁ、宗教法人としては認められてないんだけど。しかも、会員もここにいるダニエルと、もう一人と、あたしだけの零細団体なんだけどね」
自嘲気味に、美緒が肩をすくめて笑う。
それを引き継ぐように、今度はダニエルが口を開いた。
「私たちは、古き良き日本の心を布教する活動を主にしています」
そう言って、ダニエルは飯島教の活動目的や内容について、淡々と語り始めた。
口に出すのは憚られるが――その日本語は、見た目に似つかわしくないほど流暢だった。
駿河たちからすれば、「差別教」などと揶揄されているくらいだ。よほど過激な思想を掲げているのだろうと予想していた。だが、話を聞く限りでは、その印象は大きく裏切られる。
過激どころか――むしろ穏健。拍子抜けするほどに。
(……生ぬるいな)
それが、駿河の率直な感想だった。
「協力はできないかもだけど……あたしとしては、あなたたちには興味ある。特に、さっきのあれは何なの? あの男の子、急に別人みたいに変わったし……」
「それについては、話すと長くなる」
駿河は短く答える。
“神の力が宿っている”などと、いきなり説明しても信じられるはずがない。順序立てて話す必要があると考えていた。
美緒はしばらく思案するように黙り込み、やがてダニエルに耳打ちする。
ダニエルは小さく頷いた。
「あなたがそうしたいなら、私は構いません」
どうやら、彼は従順な性格らしい。
「よかったら……あたしたちの教会に来ませんか?」
美緒が、少しだけ身を乗り出す。
「心配しないで。変な勧誘とか、そういうのじゃないから」
「めちゃくちゃ胡散臭いじゃん」
甲斐が、思ったことをそのまま口にした。
美緒の眉がぴくりと動く。明らかに、不機嫌そうだった。
その様子を見て――和奏が、ひとつ溜息をついた。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、評価して下さるとありがたいです。




