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吠えろ!ガラクタ~塵芥戦術~  作者: 堀尾 朗
第11章「差別教」
45/56

—4—

「……事情はわかった……」


駿河の話を黙って聞いていた美緒が、ようやく口を開いた。

騒がしかった子供たちは去り、辺りは静まり返っている。ここは片田舎の歩道。車の往来もまばらで、周囲には寂れた店舗と住宅が並ぶばかりだった。


駿河の背後では、甲斐と和奏がどこか浮き足立った様子で立っている。期待が滲んでいるのは明らかだった。

だが、美緒の返答は、その期待をあっさりと裏切るものだった。


「でも、ごめんなさい。協力はできない。復讐なんて……そんなの……。あたしたちは、あまり過激な活動はしたくないの。あくまで、自分たちの意見を発信して、賛同してくれる人を探しているだけで……」

美緒は視線を落としたまま、言葉を続ける。

その姿が――駿河には、ただの“被害者面”にしか見えなかった。


「子供を洗脳しようとしてたくせに」

思わず、嫌味が口をつく。


「違う! あれは……」

反射的に否定するが、その先の言葉が続かない。正当化しようにも、うまく言葉が見つからず、美緒は押し黙った。


「駿河さん。いきなりそんな言い方は、あんまりです」

非難の視線を向け、和奏が間に入る。

そして俯く美緒へと、柔らかく声をかけた。

「わたしのこと、覚えていませんか?」

「……覚えてる。確か、いつだかファミレスにいた子だよね」

「そうです、そうです!」

和奏の表情がぱっと明るくなる。

彼女はそのときの思い出や、ずっとあの店で待っていたこと、探していたことを、楽しそうに語り始めた。


その無邪気な語り口に、少しずつ美緒の警戒は解けていく。

やがて――美緒たちは、自分たちの素性を明かし始めた。


「あたしたちは、“飯島教”っていう新興宗教なの。……まぁ、宗教法人としては認められてないんだけど。しかも、会員もここにいるダニエルと、もう一人と、あたしだけの零細団体なんだけどね」

自嘲気味に、美緒が肩をすくめて笑う。

それを引き継ぐように、今度はダニエルが口を開いた。

「私たちは、古き良き日本の心を布教する活動を主にしています」

そう言って、ダニエルは飯島教の活動目的や内容について、淡々と語り始めた。

口に出すのは憚られるが――その日本語は、見た目に似つかわしくないほど流暢だった。


駿河たちからすれば、「差別教」などと揶揄されているくらいだ。よほど過激な思想を掲げているのだろうと予想していた。だが、話を聞く限りでは、その印象は大きく裏切られる。

過激どころか――むしろ穏健。拍子抜けするほどに。


(……生ぬるいな)

それが、駿河の率直な感想だった。


「協力はできないかもだけど……あたしとしては、あなたたちには興味ある。特に、さっきのあれは何なの? あの男の子、急に別人みたいに変わったし……」

「それについては、話すと長くなる」

駿河は短く答える。

“神の力が宿っている”などと、いきなり説明しても信じられるはずがない。順序立てて話す必要があると考えていた。


美緒はしばらく思案するように黙り込み、やがてダニエルに耳打ちする。

ダニエルは小さく頷いた。

「あなたがそうしたいなら、私は構いません」

どうやら、彼は従順な性格らしい。


「よかったら……あたしたちの教会に来ませんか?」

美緒が、少しだけ身を乗り出す。

「心配しないで。変な勧誘とか、そういうのじゃないから」

「めちゃくちゃ胡散臭いじゃん」

甲斐が、思ったことをそのまま口にした。

美緒の眉がぴくりと動く。明らかに、不機嫌そうだった。

その様子を見て――和奏が、ひとつ溜息をついた。


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