【師走萬神楽編】 初戦④
シンは一本の太刀を転送する。
ECOがそれを受け取り――
オイへ差し出した。
『どうぞ』
「お借りします」
オイは太刀を受け取る。
そして、静かに一礼した。
「ですが――手は抜きませんよ」
三歩 オイは距離を取る。
「…………」
太刀を構えた。
次の瞬間――
ヒュンッ!!
刃が舞う。
一閃。
返し。
踏み込み。
流れるような剣捌き。
つい先ほどまで近接武器すら持っていなかったとは思えないほど、その動きに迷いはなかった。
『な、なんと美しい剣捌きィィ!!』
「…………マジ?」
シンの頬が引きつる。
その横で――
憶形が思いっきり胸を張った。
「どや、ガラクタ!!」
「なんでお前がドヤるの?」
「見たか!! 第七世代の能力!!」
憶形がオイを指差す。
「初めて触る武器でも――完璧にこなせる!!」
ニヤリ。
「これが時代の賜物!経験なんざ――いらんのや!!」
「…………」
シンの表情から笑みが消える。
ECOは。
ただ静かに、太刀を構えた。
『……なるほど』
「ん?」
『八十点ってとこですか……』
オイを見る。
『では――』
ECOが静かに太刀を構える。
『残り二十点の厳しさを――知ってください』
オイとECOの接近戦が、再び始まる。
オイが深く腰を落とす。
次の瞬間――
ガキンッ!!
目にも止まらぬ居合い斬り。
『――!』
ECOが受ける。
間髪容れず――二撃目。
ガキンッ!!
受ける。
三撃目。
ガキィンッ!!
それにも――対応する。
速い。
正確。
無駄がない。
つい先ほど太刀を握ったばかりとは、とても思えない。
しかし、
「……なんや、これ」
憶形の眉間に皺が寄る。
「オイの方が速い……動きも綺麗や」
ガキンッ!!
「反応も悪くない。演算も上や……」
ギィンッ!!
一合。
また一合。
刃を重ねるたび――
オイが、一歩ずつ後ろへ下がっていく。
「なのに――」
ガキィィンッ!!
オイの体勢が、大きく崩れた。
「なんで……」
憶形の表情から、完全に笑みが消える。
「なんでオイが圧されてるんや……?」
『八十点までは――早いんです』
「……あ?」
『ですが』
ECOが一歩、踏み込む。
オイも太刀を構え直す。
『残り二十点は――』
静かに。
ECOが太刀を構えた。
『どんな才能でも届かないんですよ』
ガキィィィンッ!!
オイの手から――太刀が弾け飛んだ。
クルクルと宙を舞い、
カラン――。
凍った地面を滑っていく。
「――ッ!」
オイは無手。
対するECOは――
すでに踏み込んでいた。
太刀を振り上げる。
あと一撃。
それで――終わる。
その瞬間。
「こ、降参や……」
『――!』
ECOの太刀が止まった。
「マスター」
オイが振り返る。
憶形は――俯いていた。
握った拳が、僅かに震えている。
「……降参や」
静寂。
そして――
ブーーーーッ!!
試合終了を告げるブザーが、会場に響き渡った。
大型モニターが切り替わる。
【WINNER――ECO】
ワァァァァァァァァァァッ!!
『決着ゥゥゥゥゥ!!』
『Bブロック勝者――ECO選手ゥゥゥゥゥ!!』
「…………」
シンは――動かなかった。
歓声が。
少しずつ、遠ざかっていく。
――降参。
その言葉を、シンは知っていた。
◇
『――降参や』
「…………は?!」
あの日。
ECOが負け続け――
ようやく掴めると思った、初めての勝利。
それを。
目の前の男は、笑いながら壊した。
『勝ちましたよ、マスター』
初めて見た――ECOの笑顔。
なのに。
嬉しいはずだったのに。
どうしても――喜べなかった。
「おめでとう」
あの声。
あの笑い。
『おめでとさん。君達の大切な初勝利は――不戦勝だ(笑)』
「…………」
シンは拳を握る。
――あの日。
初めてだった。
「降参」という言葉が。
こんなにも――
屈辱的だと思ったのは。
◇
「…………」
歓声が戻ってくる。
目の前には――
同じ男がいる。
憶形は俯いたまま、拳を握っていた。
笑っていない。
あの日とは――違う。
「……チッ」
憶形が顔を上げる。
悔しそうに。
本当に、悔しそうに。
「負けたわ」
「…………」
「強ぇな、お前んとこのガラクタ」
シンは何も言わない。
憶形が鼻を鳴らす。
「……なんや」
「…………いや」
シンは大型モニターを見る。
【WINNER――ECO】
同じだった。
あの日と。
勝者は――ECO。
相手は――憶形。
決着も――降参。
なのに。
「…………へへ」
シンの口元が、緩んだ。
「全然違ぇや」
「あ?」
シンは拳を突き上げる。
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は。
心の底から――
勝ったと思えた。




