【師走萬神楽編】 初戦③
『さぁぁぁ!! 興奮冷めやらぬ師走萬神楽!!』
『続いては――Bブロックゥゥゥ!!』
ワァァァァァァァァッ!!
会場を揺らす大歓声。
『まずは――東方!!』
『“記念を壊す者”として悪名高きヒール!!』
『だがァ!! ここに立てる実力は本物だァァァ!!』
『――憶形 彰ァァァァッ!!』
ワァァァァァァッ!!
『そして、その御子――オイ選手ゥゥゥ!!』
「…………」
シンは入場口の向こうを見る。
「……あんなやつでも、やっぱ実力はあるんだよなぁ?」
「当たり前だ、ガキが!」
遠くから聞こえた。
「いや、地獄耳かよ!!」
そして――いよいよ。
『対するは――西方!!』
一瞬。
実況が溜める。
『半世紀の時を越え――今、ここに立つ!!』
『今期最大の下剋上!!』
『敗北! 敗北!! また敗北ッ!!』
『それでも!! それでも立ち上がり続けたァァァ!!』
シンの目が、大きくなる。
『その名を知らぬ者は――もういないッ!!』
『かつて嘲笑と共に呼ばれた、その名を――』
『今や歓声に変えてしまったァァァァ!!』
シンが息を呑む。
『――【ガラクタのECO】ォォォォォォォッ!!』
ドッ――!!
会場が、揺れた。
「ECOォォォォォ!!」
「ガラクタぁぁぁ!! 今日もやったれぇぇぇ!!」
「勝てよォォォ!!」
「…………」
シンは、その歓声を聞いていた。
少しだけ頬を掻く。
「……なんか恥ずかしいや……」
『マスター』
「ん?」
『行きましょう』
ECOが一歩、前へ出る。
『勝ちに。』
「…………おう!」
◇◇◇
――しかし。
勝負が始まって間もなく、その優劣はハッキリと現れた。
オイは高速遠距離攻撃型。
圧倒的な機動力でECOとの間合いを維持し、決して刀の届く距離には入らない。
対するECOは――防戦一方。
その様子を、憶形はただ腕を組んで眺めていた。
「守ってばっかやな……いや、当たり前か。ガラクタやもんな♪」
ニヤリと笑う。
「なぁ、オイ」
「はい」
「ヤツのダミーシールド――全部壊せ」
「了解しました」
次の瞬間――
オイのビー厶ライフルがダミーの盾を撃ち当てていく
『精密かつ速いッ!!』
ECOのシールドへ砲撃が直撃する。
オイは止まらない。
着地。
跳躍。
射撃。
そして、また移動。
ドドドドドッ!!
『撃つ! 移動! また撃つ!!』
『ECO選手を一切近づけさせないッ!!』
「くっ……!」
ECOがシールドを構える。
ドンッ!!
ドォンッ!!
『ECO選手、防ぐ!! 防ぐッ!! だが――!!』
ギギギ……ッ。
度重なる砲撃を受け続ける。
『マスター』
「ん?」
『どうしましょう。このままでは千日手です』
「ん~~粘ればいつか好機が――」
ギギギギ……ッ。
「…………」
『…………』
ECOは、自らのシールドを見る。
また一つ、大きな亀裂が走った。
『訂正します』
「ん?」
『圧倒的にこちらが不利です』
「早めに訂正してくれてありがとう」
『このままでは、いずれ守りが崩壊します。』
「…………」
シンは腕を組み、少し考える。
「…………よし」
『はい』
「もう……突っ込むか!」
『はい?』
「相手が近づいて来ないなら――」
シンがニヤッと笑う。
「ECOが飛んで近づけばいい!」
『………はい?』
「俺のビットに掴まれ」
『…………』
「最速で距離詰めて――叩き込む!」
『マスター』
「なんだ?」
『発想が原始的です』
「最新兵器使ってんだけど?!」
ビットに引かれ、ECOの身体が一気に加速する。
『速いィィィィ!!ECO選手、自ら弾丸となってオイ選手へ突っ込んだァァァ!!』
「行けぇぇぇぇ!!」
ビットから手を離し、ECOが刀を振り抜く。
だが――
スンッ!!
「――!」
空を切った。
オイは僅かに身体を傾けただけで、ECOの一撃をかわしていた。
「…………」
憶形が鼻で笑う。
「アホか。そんな原始的な攻撃が効くか?」
『ECO選手、届かなァァァい!!』
『やはり空中戦ではオイ選手が一枚上手かァァァ!!』
ECOとオイがすれ違う。
「…………へへ」
シンが笑った。
「俺がECO“だけ”を近づけると思ったか?」
「……あ?」
憶形の眉が動く。
その瞬間――
ギュンッ!!
ECOを加速させていたビットが、オイの背後に来ていた。
狙う先は――
オイの背部。
「――オイ!」
ドンッ!!
『あーーーとッ――!?』
火花が散る。
オイの飛行ユニットが、大きく弾け飛んだ。
『これはァァァァ!?』
『捨て身ではないッ!! 狙いは最初から飛行ユニットだったァァァ!!』
「ヨッシャぁぁ!!」
憶形のニヤけ顔が初めて解けた。
「…………やるやんか原始人」
『決まったァァァ!! シン選手のビットが、オイ選手の飛行ユニットを破壊ィィィ!!』
「まずいッ!」
飛行能力を失ったオイの身体が、真っ逆さまに落ちていく。
そして――
ECOもまた、落下していた。
二機が地上へ向かって加速していく。
その最中。
ECOが空中で身体を捻った。
太刀の切っ先を――オイへ。
「……ハッ!」
憶形が鼻で笑う。
「落下の勢いを乗せて、そのままトドメのつもりか?」
憶形は腕を組んだまま叫ぶ。
「オイ! かわせるよな?」
「了解です」
落下中――
オイが僅かに身体を反らす。
ヒュンッ!!
ECOの剣先が、その身体を掠め――
空を切った。
「詰めが甘いんじゃ!」
憶形が笑う。
「そんな見え見えの――」
「最初っから当たると思ってねぇよ!!」
「――あ?」
シンが地上を指差した。
「ECOォ!!」
落下するECO。
その太刀の先にあるのは――
もはやオイではない。
「雪ノ太刀――!!」
地面が迫る。
「そのまま地面へ突き刺せぇぇぇぇ!!」
『了解です____雪ノ太刀【零度】』
ECOが両手で太刀を握る。
そして――
ズドォォォォンッ!!
落下の勢い、その全てを乗せて。
太刀がステージへ突き刺さった。
一瞬の静寂。
パキッ――。
「…………は?」
憶形の表情が止まる。
パキパキパキパキパキ――!!
ECOを中心に、白い氷が爆発的に広がっていく。
『な、なんだァァァァ!?』
『ステージが!! ステージそのものが凍っていくゥゥゥゥ!!』
着地したオイの足元にも――
氷が迫る。
「オイ! 離れろ!!」
「了解――」
ツルッ。
「…………」
ガシャァン!!
オイが盛大に転んだ。
「…………」
シンの口角が、ゆっくりと上がった。
「ねぇ、今どんな気持ち?」
「…………あ?」
「さっきまで空飛んでイキってたのに、地面に落とされた気持ちどんな気持ち??」
「テメェ……」
「ねぇねぇ、どんな気持ち? 粗大ごみさん(笑)」
「ぶっ殺すぞ小学生ッ!!」
『マスター』
「ん?」
ツルッ。
ドシャッ!!
「…………」
ECOも転んだ。
『すみません。私も上手く歩けません…が問題ありません』
「ECOさーーーーーん???めちゃくちゃ転んでるけど?!」
その一方――オイが静かに立ち上がる。
「路面状況を解析」
一歩。
滑らない。
二歩。
その足取りは、すでに安定していた。
「げっ……!?」
「歩行制御、再構築完了しました」
憶形がニヤリと笑う。
「残念やったな」
「…………」
「いつの時代の御子と戦っとるつもりや?」
シンがECOを見る。
「ECO……いける?」
『はい』
ECOも立ち上がる。
一歩。
二歩。
滑らない。
『問題ありません』
ECOは何事もなかったように刀を構える。
『厨房の油に比べれば――余裕です』
シンが胸を張る。
「どやッ!居酒屋舐めんなよ。」
「掃除せぇやッ!!」
ECOが刀を構える。
オイも構える。
「…………」
シンが目を細める。
「お前……それ」
オイがライフルを両手で握る。
『接近戦用武装を確認できません』
「だよな?」
憶形が叫ぶ。
「オイ!! それで殴れ!!」
「了解しました」
「ライフルでぇぇぇ!?」
ガキィィンッ!!
ECOの太刀と、オイのライフルが激突する。
しかしやはりライフル。一度の衝撃で狙撃機能は失われた。
「――ッ!」
オイが後退する。
一歩。
二歩。
明らかに――押されていた。
『オイ選手、苦しいッ!!』
『遠距離戦では圧倒していたオイ選手!! しかし、距離を潰されてからはECO選手が押しているゥゥゥ!!』
ガキンッ!!
再び太刀がライフルを叩く。
銃身が大きく歪んだ。
「…………チッ」
彰の表情から、余裕が消える。
「オイ」
「はい」
「接近戦……無理か?」
「現状の装備では不利です」
「…………」
彰が舌打ちする。
そして――
「おい、小学生!!」
「誰が小学生だ粗大ごみ!!」
「待て待て!!ライフル相手に刀は卑怯やろ?!」
「どの口が言ってんだよ?!」
「うるさい! なぁ、太刀一本貸せ!」
「…………は?」
シンが固まった。
「…………」
ECOも止まった。
「…………」
オイも止まった。
『…………』
実況まで一瞬、止まった。
「いや」
シンが首を傾げる。
「なんで試合中に敵から武器借りようとしてんの?」
「しゃあないやろ! こっちは近接武器ないねん!」
「知らねぇよ!!」
「頼む!」
憶形が両手を合わせる。
「もし俺らが負けたら――なんでも一つ言うこと聞いたる!」
「…………」
「それに!」
彰がシンを指差す。
「二度とガラクタ呼ばわりせぇへん!」
「…………!」
シンの眉が上がる。
「な?」
憶形がニヤリと笑った。
「悪ない条件やろ?」
「…………」
シンはECOを見る。
「ECO」
『はい』
「どうする?」
ECOは少しだけ考え――
『貸してあげましょう』
「マジ?」
『はい』
ECOはオイを見る。
そして――
『その方が、言い訳できませんので』
「…………!」
憶形の口角が上がる。
「……言うやんけ、ガラクタ」
「お前いまガラクタって言ったよな?!」
「まだ負けてへんからセーフや!!」




