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一歩進んだ景色

「幾千神楽を突破できたのは――僅か8名のみ!」


「いや~、今回の幾千神楽では、新たな試みとして【ドッペル】が採用されましたからねぇ~」


「皆さん、かなり苦戦されていましたね!」


「ええ。ですが――今、この『師走萬神楽』へと駒を進めたのは、その【ドッペル】を攻略した8名! 面白い展開が予想されますね!」


「そうですね~。私としては、大神楽常連の『ビター☆キャラメル☆ニッパー』選手を推していますが……」


「やはり注目は――」


「『ECO』選手でしょう!」


「わたくしも『ECO』選手には驚かされてばかりです! 幾千神楽では、まさかの甲級攻略!」


「ですが――されど初期型」


「『サクラ』選手や『ロロロ』選手を相手に、どこまで通用するのか。見ものですね!」


「さあ――それでは間もなく、組み合わせ抽選開始です!」


「今年最後の大舞台――」


「『師走萬神楽』!」


「栄光を掴むのは――果たして誰だ!!」


     ◇ ◇ ◇


「マスター、足が震えてますよ?」


「だ、大丈夫。武者震い」


「先ほどから三分ほど震えていますが」


「長めの武者震いだよ」


「そうですか」


大型モニターから実況が響く。


待合室の壁越しにすら、地鳴りのような歓声が聞こえてくる。


これまで戦ってきた簡易アリーナとは違う。


その向こうには――


《AI Level.12》を突破した8組を待つ、大観衆。


『ECO選手とシンさ~ん! 会場への移動お願いしま~す!』


「…………」


「マスター?」


「なんか、腹痛くなってきた」


「行きますよ」


「ちょっ、待っ――!」


ECOがシンの袖を引っ張る。


「最後の壁――『萬神楽』です」


ECOは会場へと続く通路を見る。


その先から、眩い光が差し込んでいた。


「ですが――ここも、まだ通過点です」


「お、おう……お、お、おし……い、行くか!」


「ダメそうですね……」


二人は通路を抜ける。


一気に視界が開けた。


眩しい照明。


巨大なステージ。


そして――満員の観客席。


「ECOォォォォォォ!!」


「ガラクタぁぁぁ!! 今日もやったれぇぇ!!」


「幾千神楽、見てたぞぉぉぉ!!」


「…………」


シンが立ち止まる。


「なぁ、ECO」


「はい?」


「俺ら……応援されてね?」


「そのようですね」


「…………」


シンは押し寄せる歓声を見渡した。


「なんか腹立つな」


「なぜですか?」


ドンッ――。


「うおっ!?」


不意に背中から突き飛ばされ、シンがよろめく。


「おい、ガラクタ使い。そんな所で止まんな。邪魔」


「あ、ごめ――」


シンの言葉が止まった。


その声。


忘れるはずがない。


ゆっくりと振り返る。


見栄えのする派手な装い。


そして――


あの日と変わらない、腹の立つ顔。


記念を壊す者(メモリアルブレイカー)。


「…………」


シンの顔から、笑みが消えた。


「お、お前ッ!?」


「あ?」


男がシンを見る。


数秒。


「…………誰や、お前」


「覚えてねぇのかよッ!!」


「いちいち覚えるほど暇じゃねぇよ」


「じゃあ、なんでココに……」


「あ?」


男の視線が――ECOへ向く。


「最近よぉ」


「?」


「調子乗ってるヤツがいるらしいじゃねぇか」


ニィッ――。


男の口元が歪む。


「壊しに来た」


「…………」


一歩。


シンへ近づく。


「オメーらだよ」


そして、吐き捨てる。


「――ガラクタ」


「…………」


シンは男を見つめる。


だが――


やがて。


「……ガラクタ、ねぇ」


笑った。


「ECO」


「はい」


「俺ら、まだガラクタだってよ」


「そのようですね」


「じゃあさ、」


シンがニヤリと笑う。


「ガラクタに負けるコイツらは、なんて呼ぼうか?」


少し考える。


「――粗大ゴミ?でしょうか」


男の眉が動いた。


「あ? 喧嘩売ってる?」


「売ってませーーん!!」


「…………」


「ゴミだけに」


「……お前ら」


男が額に青筋を浮かべる。


「俺の名前は――『憶形 彰』」


「おくがた……あきら?」


「ああ。覚えとけ」


彰は自分の頭を指でトントンと叩く。


そして――鼻で笑った。


「あぁ、悪ぃ」


「?」


「ガラクタの記憶容量じゃ、無理か?」


「…………」


「…………」


シンとECOが顔を見合わせる。


「ECO」


「はい」


「覚えた?」


「記録しました」


ECOは憶形 彰へ視線を戻す。


「粗大ごみの彰」


「全ておかしいやろがッ!!」


「ぶはっ!」


「笑ってんじゃねぇぞ、ガラクタ使い!!」


「いや、お前……粗大ゴミって……!」


「テメェが言い出したんやろが!!」


先ほどまでの緊張は、どこへやら。


シンの足は――もう震えていなかった。


『それでは――組み合わせ抽選を開始いたします!』


「ちッ! いいか、ガラクタ使い。今のうちに精々笑っとけ。余生は涙と共に生きろ!」


憶形はそう言い残し、ステージへと向かっていった。


「…………」


「…………」


シンは、その背中を見送る。


「……なぁ、ECO」


「はい」


「アイツ、面倒くさいな!」


「記録にありません」


「ガラクタだから?」


「はい」


「お前、気に入ってんじゃん。その呼び方」


シンはもう一度、憶形の背中を見る。


「……ま、いいや」


拳を握る。


「当たったら――ぶっ飛ばす」


「はい」


ECOもステージへ向かう。


「行きましょう、マスター」


「おう!」

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