日本一負けた御子 ①
『私を信じて下さい。』
シンはその言葉に違和感を覚えた。
「……?」
いつもなら。
作戦の成功率。危険性。必要な装備。
聞いてもいないことまで説明するECOが――何も言わない。
「……お、おう…策があるんだな…」
シンは頭を掻いた。
「ま、行ってこい!」
『ありがとうございます』
ECOは静かに《AI Level.12》へ向き直る。
そして――
刀を天へ掲げた。
「……?」
空気が変わる。
ステージ上空へ、黒い雲が集まり始めた。
ゴロゴロゴロ――。
低い雷鳴が響く。
「【曇天】……そうか!威力を上げるんだな!!」
《雲ノ太刀――【曇天】》
他の技の威力を大幅に引き上げるための技
黒雲の中を、青白い雷が走る。
そして――
《AI Level.12》もECOと同じように動く。
刀を天へ掲げる。
その頭上にも、黒雲が集まり始めた。
だが――格が違った。
「……いや、デカくね?」
『はい。ですが……これでいいのです。』
ECOのものより。
明らかに大きい。
黒く。
重く。
雲の中を走る雷光も、激しい。
『出力差を確認。やはり、《AI Level.12》が上回っています』
「くそ、上位互換かよ……」
シンが顔をしかめる。
「で? どうすんだ?」
『…………』
ECOは答えない。
代わりに、刀を構える。
バチッ――。
青白い雷が、刀身を駆けた。
「雷ノ太刀……」
《AI Level.12》が見ている。
その刀にも――雷が宿る。
バチバチバチッ!!
「……おい」
シンの表情から、少しずつ笑みが消えていく。
何かがおかしい。
『…………』
ECOが。
ゆっくりと――刀を返した。
切っ先が向いた先は《AI Level.12》ではない。
「…………」
ECO……自分自身。
「……はぁ?」
シンの目が見開かれる。
「おい?」
『…………』
「ECO???」
返事はない。
そして――
《AI Level.12》も。
刀を返した。
同じように。自らへ。
そこでシンはすべてを理解した。
「――待て」
『…………』
「待て待て待て待てッ?!」
ECOが空を見上げる。
黒雲の奥で。
雷が鳴った。
「ECO!! やめろ!!」
『落ち着いて聞いて下さい。マスター』
「作戦中止だッ!!」
『…………』
「聞こえてんだろ!? やめろ!!」
ECOは――動かない。
「そんなもん戦略でもなんでもねぇだろ!!」
シンが叫ぶ。
「ただの自爆じゃねぇか!!」
『いいえ』
ECOは静かに否定した。
『私は、勝ちます。』
「何を根拠に――!」
『根性です』
「――――」
シンの言葉が止まった。
『マスターが、仰ったではありませんか』
「いや……あれは……!」
『あとは、なんとかなる』
ECOの刀に雷が集まっていく。
『根性だ。と』
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!!」
『存じています』
「だったら!!」
ECOが――ほんの少しだけ振り返る。
『ですが、』
その黒い瞳が。
真っ直ぐにシンを見る。
『私は――あなたと“日本一の御子”になりたい』
「――ッ」
『だから』
ECOは再び前を向いた。
《AI Level.12》も。
まったく同じ構えで立っている。
『私達はここでは、止まりません』
「ECO……!」
『信じて下さい』
最初と。
同じ言葉だった。
だけど今度は――
その意味を。
シンも理解していた。
「…………っ」
止めたい。
今すぐ中止させたい。
勝ちなんてどうでもいい。
それでも。
シンは拳を握り締める。
ECOが。
自分で選んだ。
『行ってきます』
「…………」
シンは歯を食いしばった。
そして――
叫ぶ。
「絶対……止まんなよ!!」
『はい。大丈夫ですよ――マスター』
雷が、落ちた。
ドォォォォォォォンッ!!
ECOの全身を、雷撃が貫いた。
『――――ッ!!』
「ECOォォォォォッ!!」
そして――より巨大な雷が。
《AI Level.12》自身へ落ちた。
ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!
二つの雷柱が、ステージを白く染める。
轟音。衝撃。
砂が舞い上がる。
「…………ECO」
雷が消えていく。
煙の向こう。小さな影があった。
脚が震えている。全身から煙が上がっている。
それでも。
刀を杖のように砂へ突き立て――
ECOは。立っていた。
「……ECO!」
『…………』
ゆっくり。
刀を砂から引き抜く。
『言った……はずです』
息を整える。
『ここでは……止まりません』
そして。
もう一つの煙の向こう。
《AI Level.12》も立っている。
「くそっ……!」
だが。一歩。
踏み出そうとして――
ガクン。
両膝が砂へ落ちた。
「…………え?」
《AI Level.12》の構えが崩れた。
『いくら…技をコピー…できても…、経験までは…コピー……できませんよ』
――《AI Level.12》の視線だけはECOに向ける。
『……マスター』
シンは息を呑む。そして。
拳を握った。もう止めない。
「行け」
ECOの身体が前へ傾く。
「行ったれぇぇぇぇぇッ!! ECOォォォォォ!!」
『――はいッ!!』
一歩。また一歩。ゆっくりと《AI Level.12》に近づく。
警告表示が視界を埋め尽くす。
《AI Level.12》が刀を持ち上げようとする。
だが――動かない。
あと3メートル。ECOが、一歩。
《AI Level.12》の指が動く。
刀を持ち上げようとする。
だが、上がらない。
あと2メートル。ECOの膝が揺れる。
『――ッ』
倒れそうになりながら、それでも踏み出す。
あと――1メートル。
そして………
『私達の…勝ち…です。』
ECOが刀を振り上げた。
静寂。
大型モニターに表示される。
《AI Level.12》CLEAR 幾千神楽 制覇
そして爆発したかのような歓喜が会場に響き渡る。
「やりやがったぞ?!あのガラクタ共…」
「マジかよ!!」
「幾千神楽、制覇だぞ!?」
「甲級までぶっ倒しやがった!!」
「ガラクタが……勝った……」
一人。また一人。観客が立ち上がり、会場が、揺れた。




