時代遅れの戦い方 ③
転送ゲートが開き、白く、シンプルな御子が姿を現した。
装飾らしい装飾はない。
武装も、たった一本の刀だけ。
ECOは警戒し、距離を取り、構える。
しかし――
《AI Level.12》は動かない。
「……?」
シンが端末を確認する。
「どうした?」
ECOが《AI Level.12》を解析する。
『……遠距離、射撃武装を確認できません。』
「え?」
『近接武装以外の武装も、確認できません。』
シンが目を丸くする。
「他に武装なし? マジか?」
『はい。刀一本のみです。』
その時だった。
《AI Level.12》が、ゆっくりと刀を抜く。
カチン――。
そして、一歩。
ザッ。
砂が沈む。
その構えを見た瞬間――
ECOの瞳が、僅かに揺れた。
「……?」
シンも、何かに気付く。
「……おい。」
《AI Level.12》が、刀を一振りした。
ヒュッ――。
次の瞬間。
スゥゥゥ……
白い霧が、地面から一気に広がった。
『――ッ!?』
ECOが息を呑む。
「【霧隠】ッ!?」
見間違えるはずがない。
あれは――
ECO自身が使っていた技。
白い霧が視界を覆う。
ほんの一瞬。
だが――
《AI Level.12》の姿が消えた。
『マスター周囲に敵影―』
「直感的に……右からッ!!」
遅い。
シュッ!!
霧の中から《AI Level.12》が現れる。
ECOが刀を構える。
だが――
ガッ!!
強烈な蹴りがECOの手元を襲った。
「なっ――」
ズボッ。
刀が砂地へ落ちる。
ECOの身体がよろめく。
シンは、言葉を失った。
「…………は?」
ECOも、目の前の御子を見つめる。
《AI Level.12》は何事もなかったかのように、静かに刀を構え直した。
そして――
ECOの瞳が、大きく見開かれる。
『…………』
その構え。
重心。
刀の角度。
切っ先の向き。
すべて、見覚えがある。
いや――
見覚えがあるどころではない。
ECO自身が。
何度も、何度も繰り返してきた構え。
『……その構えは……』
「……おい」
シンも気付いた。
顔から、笑みが消える。
「おいおいおいおい……ッ!?」
《AI Level.12》が、一歩踏み込んだ。
ザッ――。
その瞬間。
ECOが呟く。
『――【細雪】』
「――やらせるかよッ!!」
シンは即座に纏を発動した。
転送光が走る。
ECOと《AI Level.12》の間に、巨大なシールドが出現する。
直後。
キィィィン――。
白い斬撃が、シールドを撫でた。
「……は?」
一瞬だった。
パキッ。
斬撃が触れた一点から、白い霜が広がっていく。
ピシ……。
ピシピシ……。
「お、おい……」
凍結が止まらない。
瞬く間にシールド全体を覆い尽くし――
バキィィンッ!!
巨大なシールドが、粉々に砕け散った。
「――ッ!?」
氷片が舞う。
シンは息を呑んだ。
知っている。
この技を。
何度も見てきた。
何度も使ってきた。
だからこそ――分かってしまう。
「……威力が……」
違う。
同じ【細雪】なのに。
ECOのものとは――まるで違う。
『マスター!!』
「距離をとれぇぇぇッ!!」
シンが叫ぶ。
散った氷の向こう。
《AI Level.12》は――
もう、次の構えに入っていた。
「纏ッ!! 最速装備!!」
転送光。
装甲換装。
ECOの脚部と背部に加速ユニットが展開される。
『換装完了――出力最大。』
ドンッ!!
砂地が爆ぜた。
ECOが一気に後方へ飛ぶ。
だが。
《AI Level.12》は――追わない。
ただ、静かにECOを見ていた。
『……追ってはこないようですね』
「不気味なやつやなぁ~」
ECOは速度を落とさないまま、《AI Level.12》との距離を保つ。
『おそらく……追う必要がないと判断したのでしょう』
「追う必要がない?」
『はい。こちらから接近するのであれば、追跡によるエネルギー消費は無駄になります』
「合理的っちゃ合理的だけどよぉ……」
シンは《AI Level.12》を睨む。
白い御子は、微動だにしない。
ただ刀を手に、こちらを見ている。
「飛び道具もビットもねぇしなぁ……」
シンの表情が変わる。
「しかし……あの技……」
『はい』
ECOも視線を逸らさない。
『【霧隠】。【細雪】。どちらも私たちが使用しているものと同一です』
「えぇ~……パクリかよ!」
『問題はそこではありません』
「え?」
『私達はまだ彼に【霧隠】を使用してません。
そして、精度。発動速度。そして威力』
わずかな沈黙。
『……すべて、あちらが上です』
「…………」
シンの頬が引きつる。
「データ解析されたうえに本家超えてくんの?」
『現時点では、二つの技しか確認できていません。ですが――』
ECOが刀を握り直す。
『もし、他の技も使用できるのであれば……』
その言葉に、シンも気付く。
「……まさか」
『はい』
ECOの瞳が、静かに《AI Level.12》を捉える。
『あれは私の――』
一瞬、言葉を止める。
『いえ』
否定する。
『私たちの戦闘スタイルそのものを、上回っている可能性があります』
「…………マジかよ」
二人の視線の先。
《AI Level.12》は――
まだ、動かない。
「だったら――」
シンがニヤリと笑う。
「まだ一度も見せてねぇ技ならどうだ!」
『了解しました』
ECOが最速装備を解除する。
転送光が走り――装甲が切り替わる。
その手に握られた刀へ、青白い光が集まり始めた。
バチッ。
バチバチバチッ――!!
刀身を雷光が駆け巡る。
《AI Level.12》は動かない。
ただ――見ている。
「よし……」
シンが拳を握る。
「こいつは初見だろ!」
ECOが腰を落とす。
右足を引く。
刀を下段へ。
雷光が、さらに激しく弾ける。
そして――
《AI Level.12》が動いた。
「……え?」
右足を引く。
腰を落とす。
刀を――下段へ。
ECOと。
まったく同じ構え。
シンの笑みが消えた。
「……おい」
バチッ――。
《AI Level.12》の刀身からも、雷光が弾ける。
「おいおいおいおい……!」
『…………』
ECOの瞳が揺れる。
だが、もう止められない。
『雷ノ太刀――』
《AI Level.12》が踏み込む。
ECOも同時に砂を蹴った。
『【雷電】!!』
二つの刀が――振り抜かれる。
ズバァァァンッ!!
二条の雷刃が、真正面から激突した。
轟音。
雷光が弾け、ステージ全体を青白く染める。
「いけぇぇぇぇ!!」
拮抗――
しない。
「……え?」
衝突点が。
ゆっくりと――ECO側へ動いている。
『出力差を確認――こちらが押されています!』
「退避ーーーッ!!」
ECOが即座に横へ飛ぶ。
直後。
押し切られた雷刃が、ECOのいた場所を呑み込んだ。
ドォォォォンッ!!
砂煙が舞い上がる。
「なんなんだよアイツ!!」
シンが叫ぶ。
「一目でコピー可能かよ!? チートじゃん!!」
『そのようですね……』
「どうすんだよ! 初見技までパクられたら打つ手ねぇぞ!」
『…………』
ECOはじっと《AI Level.12》を見つめている。
「ECO?」
『……マスター』
「なんだ?」
『一つ攻略の、糸口が見つかりました。』
「マジで?!」
『はい。私が動作を開始してから、《AI Level.12》が同一動作へ移行するまで、約0.3秒の遅延を確認しました』
シンが《AI Level.12》を見る。
白い御子は、静かにこちらを見ている。
『おそらく、私の動作を観測、解析。その後に最適化して再現しています』
「ってことは……」
シンの目が細くなる。
「最初から技を知ってるわけじゃねぇ」
『はい』
「俺たちを見てから――パクってる」
『その可能性が高いかと』
「…………」
0.3秒。
短い。
あまりにも短い。
しかも、その僅かな遅れを利用して先手を取ったところで――
速度。
精度。
出力。
すべて、向こうが上。
同じ技を使えば、押し負ける。
「なら……どうやって……」
シンが頭を掻く。
『一つ、試したいことがあります』
「おっ!」
シンの表情が明るくなる。
「なんだなんだ!?」
『私を信じて下さい。』




