時代遅れの戦い方 ②
『上手くいきましたね。』
「ああ。――いや、このまま!! 高く空へ!」
『え? ……いえ、了解しました。』
一瞬だけ疑問を挟みながらも、ECOは即座に指示へ従った。
飛行ユニットを纏う。
背部に展開された翼状のユニットが淡い光を放ち、次の瞬間――ECOの小さな身体が一気に上空へと舞い上がった。
高度が上がる。
さらに上へ。
眼下のステージが、みるみる小さくなっていく。
『マスター。この高度で何を?』
「行くぜ、ECO!! 纏ッ! 【天照】だ!!」
『――よろしいのですね?』
珍しく、ECOが確認を返した。
「おう!」
迷いのない返事だった。
『了解……最終装備へ換装します。』
――纏。
ECOの全身が、眩い光に包まれた。
展開された装甲が次々と形を変え、飛行ユニットすら呑み込むように巨大な光輪が形成されていく。
ステージは照らされる。
そして――
空には、薄っすらと虹がかかった。
まるで天照の登場を祝福するかの様に。
『【天照】――換装完了。』
その姿は、まるで小さな太陽。
シンは上空を見上げる。
そして、口角を上げた。
「よっしゃぁ! 【太陽の雫】を――地面へ放てッ!」
『……地面へ?』
ECOが眼下を見る。
そこには――まだ、何もいない。
『攻撃対象を確認できません。』
「いいから! そこにぶち込めぇ!!」
『了解です。』
ECOが両手を掲げる。
その頭上に、小さな光が生まれた。
光は膨張する。
一メートル。
二メートル。
さらに――巨大に。
熱を帯びた光球が、太陽のように燃え上がる。
『【太陽の雫】――生成完了。』
「撃てぇぇッ!!」
『了解。』
ECOが腕を振り下ろした。
巨大な火球が、ゆっくりと地上へ落ちていく。
まだ、敵はいない。
だが――
その瞬間。
――ブゥン。
ステージ中央。
転送ゲートが起動した。
光の粒子が集まり始める。
次の対戦相手を構築するために。
それを見たシンが――ニヤリと笑った。
『……なるほど。』
ECOもようやく理解する。
敵が転送される場所。
敵が転送される時間。
それが分かっているのなら――
避けられる前に撃てばいい。
「行ったれぇぇぇッ!!」
転送完了。
《AI Level.11》が姿を現す。
――その頭上には。
すでに、太陽があった。
《AI Level.11》が顔を上げる。
回避動作――
その判断が下されるより早く。
ドォォォォォォォンッ!!
巨大な火球がステージへ激突した。
爆炎。
閃光。
衝撃。
ステージ全体が白く染まる。
転送されたばかりの《AI Level.11》は、回避動作すら取れない。
眩い光に呑まれ――
その姿は、一瞬で消滅した。
しばしの静寂。
やがて、空中に文字が浮かび上がる。
《AI Level.11》 CLEAR
「っしゃぁぁぁぁ!!」
シンが拳を突き上げる。
上空からECOがゆっくりと降下してきた。
『マスター。』
「ん?」
『これは一般的に――出待ちと呼ばれる行為では?』
「戦略な、戦略!」
『了解しました。記録を訂正します』
『――出待ち戦略。』
「訂正できてねぇよ!!」
「戦略な、戦略!」
『了解しました。記録を訂正します』
一拍。
『――出待ち戦略。』
「訂正できてねぇよ!!」
会場からは、笑い声と野次――そして賛否の声が飛び交っていた。
「いや今のアリなのか!?」
「勝ちは勝ちだろ!」
「ひでぇ戦い方だな、おい!」
そんな声を聞きながら、ECOがゆっくりと降下してくる。
『本当に良かったのでしょうか? かなり卑怯だとは思いますが……』
「問題ないだろ? 《AI Level.10》だって登場した瞬間に狙撃してきたしな!」
『それとこれとは別問題かと』
「やられたらやり返す……文化だ!」
『……ですが』
ECOは、自らの身体を包む光へ視線を落とした。
『【天照】は、《AI Level.12》まで温存したかったのですが……』
「あー……」
シンは頬を掻く。
そして――肩をすくめた。
「ま、あとは……なんとかなる! 根性だ!」
『……やはり、あなたの作戦は非合理的です』
「けどさ」
「?」
シンは拳を握る。
「やっと、ここまで来れたんだぜ?」
笑い者から始まった物語。
負けて。負けて。
また負けて。
何度やっても負けて。
【ガラクタ】と笑われて。
それでも――ここまで来た。
シンが笑う。
「楽しもうぜ!」
『…………』
ほんの少しだけ間を置いて。
『はい。マスター』
二人は同時に正面を見る。
――静寂。
それまで響いていた歓声が、不思議なほど遠くなった。
ステージ中央。
転送ゲートが、ゆっくりと輝き始める。
表示された文字は――
《AI Level.12》
【天照】の光が揺らぐ。
役目を終えた装備が、光の粒となって一つ、また一つと空へ舞い上がっていく。
装甲が剥がれ落ちるように解除され――
ECOは静かに砂地へ降り立った。
もう、太陽のような輝きはない。
残ったのは、いつもの小さな御子。
ECOは腰の刀へ手を伸ばす。
――カチリ。
柄を握り直した。
『……行きましょう、マスター』
「ああ」
もう、切り札はない。
残っているのは。
シンと。
ECOと。
ここまで積み重ねてきた経験だけだった。
転送ゲートの光が――満ちる。




