始まる物語 ②
「それではエントリーNo.718番、ECO選手。ゲートへ移動してください。」
場内アナウンスが静かに響く。
待機室にいた人達が一斉に視線を向ける。
ECOはゆっくりと立ち上がり、シンへ振り返った。
「では、マスター――行ってきます。」
その声に迷いはない。
シンは拳を握り、いつものように笑った。
「おう! 行ってこい!!」
「はい。」
ECOは小さく頷くと、転送ゲートへ足を踏み入れる。
青白い光が足元から立ち昇り、身体を優しく包み込む。
輪郭が淡く溶けるように霞み――
次の瞬間、ECOの姿は光の中へ消えた。
シンは誰もいなくなったゲートを見つめ、小さく息を吐く。
「……さてと……やってやりますか!」
眩い光が晴れる。
ECOが降り立った先は、一面に白い砂が広がる戦場だった。
乾いた風が砂をさらい、細かな粒が足元を滑っていく。
遮るものは何もない。
空はどこまでも高く、冬の陽光だけが静かに大地を照らしていた。
『また……ここですか…』
観客席からは幾千もの歓声が押し寄せる。
期待。
歓喜。
野次。
様々な感情が混ざり合い、巨大なうねりとなって闘技場を震わせる。
黒い瞳は、ただ前だけを見据えている。
そして実況の声が、高らかに響き渡った。
『それでは――【師走】幾千神楽、開始します!!』
轟音のような歓声が、白い砂漠を揺らした。
乾いた風が砂を舞い上げる。
ECOは静かに腰の刀に手を当て、正面を見据えた。
視界の端に、青い文字が浮かび上がる。
《AI Level.1》
数メートル先。
転送ゲートが輝き、一人の少女が姿を現す。
小柄な体。
幼さの残る顔立ち。
両手に握られた大きな斧。
その姿を見た瞬間、シンの脳裏に、あの日の光景が蘇った。
――開始十秒。
いや。
十秒すら、なかった。
足を砂に呑まれ、何もできないまま終わった、
あの日。
響いたのは歓声ではない。
笑い声。
《最速敗北記録更新》
目の前にいるのは、あの日と同じ少女だった。
ECOは静かに息を整える。
『……認識しました。』
黒い瞳に映るのは、かつて越えられなかった最初の壁。
だが、その瞳に迷いは、もうない。
少女が斧を振り上げる。
ECOが静かに横へ一歩。
ザンッ……
少女の斧が砂へ突き刺さる。
砂は空に舞い上がる。
ECOは静かに言う。
『【風】…上手くいきましたね』
「よっしゃー!そのまま行け!」
『了解』
ECOは静かに抜刀した。
『____雪ノ太刀。【細雪】』
一閃。
少女の体が地面へと倒れ行く。
静寂。
実況が一拍遅れて叫ぶ。
「ECO選手ッ!!良いスタートだーーーッ!!」
シンは思わず笑う。
「ははっ……。やっとスタートラインだな。」




