始まる物語 ①
まだ町が眠っている午前四時半。
遠くで新聞配達のバイクが通り過ぎる音だけが、外の時間を知らせていた。
カウンターの奥。
ECOは調理台に整然と並んだ器具を、ただ静かに見つめていた。
光を受けた金属が、淡く冷たい光を返す。
その横で、シンは座敷に横たわり気持ちよさそうに寝息を立てている。
「ハァ……またですか……四時には起きると……まったく……」
呆れたように言いながらも、
ECOは起こさず、ただ見守っていた。
そのとき、シンの端末が小さく震えた。
――《師走【幾千神楽】のご案内・予約指定時間まで 残り5時間00分》
息を整える。胸の奥に、かすかな緊張と――もう一つ、別の感情が混ざる。
“私達は強くなれた”――ただ、それだけを確かめたかった。
ガラクタと揶揄される御子が、
今や世界を覆す存在になりかけている事……
――始まりは誰も期待してなかった。
けれど、今は沢山の人達が信じてくれている。
だからその“声援”が、今の私達を動かしている。
だからこそ、今度は私が“証明する番”です。
ECOは、眠るシンに視線を向けた。
「みんなから貰った声、そして約束。忘れません。」
短く息を整えると、ECOは静かに立ち上がり、
「マスター。起きて下さい。時間です。」
その声に反応するように、シンが寝ぼけた声を漏らした。
「……あれ……え? あっ!? やべっ……ECO!?」
「まったく…遅刻しては話になりません。あと10分で支度してください。始発に間に合いませんよ」
「うぉぉぉ!!!さっっむッ?!」
「……まったく」
師走の寒さに耐えながらも着替えをすませた。
ふと、カウンターの上に置かれた一枚のメモに気づいた。
『今年こそは頑張ってね♡
常連一同より
PS.砂以外のお土産待ってるわ♡』
シンはしばらく紙を見つめ、そして小さく笑った。
「おうよ!今年こそはな!」
まだ暗い師走の空、
二人の物語が、静かに始まろうとしていた。




