『如月の英冠』――流星群とマシンガン
2/15『如月の英冠』
公式アリーナは、これ以上ない熱気に包まれていた。
決勝戦。
ランキング8位
【直感主義者】雷ちゃん
対
ランキング2位
【歩く要塞】不動丸。
誰がどう見ても、不利なカード。
理由は単純だった。
――雷ちゃんの攻撃が、通らない。
不動丸。厚すぎる装甲。
常時展開されるシールドビット。
そして、破壊力。
不動丸はステージ中央に鎮座し、ただ静かにエネルギーを溜め続けていた。
まるで、勝利を確信しているかのように。
実況席。
「いや~雷ちゃんにとっては非常に厳しい相手ですね」
「ええそうですね。【不動丸は動かない】で有名ですが動かないからこそ崩れない。
天草選手の直感と雷ちゃん選手の機動力で何とか回避していますが……」
「さあ、まもなく5度目の砲撃チャージが完了です。命中すれば――おおっと不動丸選手が動いた!なにやら塔の先端に登ったぞ!?なにをするつもりだ不動丸ッ!!」
塔の先端が、光を帯びる。
不動丸が空に向って放った光は、これまでの一点集中ではなかった。
――振り注ぐ無数の光。まるで流星群。
ステージ全体へと降り注ぎ、地面を削り、壁を砕き、 遮蔽物を消し飛ばしていく。
「凄まじい制圧!!」
「隠れる場所がありません!」
光が収まった頃には、 ステージはほぼ更地となった。
物陰に身を潜めていた雷ちゃんも、 ついに逃げ場を失う。
天草が、少しだけ困った声を出す。
「あちゃ~……次は直感でも全部は避けられないね~」
「……うん」
「どうする?降参する~?」
一瞬の沈黙。
「……したい?」
「うん!……って言えたら楽なんだろうね~」
少しだけ、笑う。
「でもさ~」
視線は、カメラの奥。
「友達が、諦めてないからさ……続けよっか♪」
雷ちゃんは、静かに頷く。
「……うん。同じ」
そして天草が言う。
「ちょっと提案なんだけどさ――」
【クイックユニット】
装備換装。実況が息を呑む。
「またクイックユニット! 今期は流行のようですが……あれは……」
前のめりで画面をのぞき込む実況者。
雷ちゃんをズームで映すように指示。
「あれは…ろマシンガン……!?」
観客席がどよめく。
「今どき?」 「精度終わってるだろ」 「当たるかよ!」
不動丸側のマスター――鋼堂が、鼻で笑う。
「なにを血迷ったか天草!悪あがきかッ!?」
銃声が鳴る。
ダダダダダダダッ!
だが。
当たらない。当たらない。
当たれど装甲に弾かれ、 シールドに逸らされる。
ほとんど意味を持たない。
空薬莢が、乾いた音を立てて落ちる。
実況も戸惑う。
「えぇっと……ダメージはほぼゼロでしょうか?」
「なぜこのような武器を選択したのでしょうか!」
雷ちゃんは、少し困った顔で言う。
「……当たらない」
「だね~当たらないね~。でもそれでいいんだよ♪」
不動丸は、動かない。
シールドの内側で、再びチャージを開始。
メイン武器は巨大砲撃。当たれば終わり。
観客の誰もがそう思っていた。
鋼堂が宣言する。
「引導を渡すぞ天草。格の違いを知れ」
エネルギーが最大に達する。
その瞬間
。
天草が、静かに呟いた。
「……いくよ」
雷ちゃんが応じる。
「……うん」
巨大砲撃、発射される。
その瞬間。
――足場が沈む。
「なっ?!」
、
マシンガンの弾丸が、撃ち込まれていたのは不動丸の足場。
重量と反動に耐えきれず、 地面が崩落する。
不動丸の体勢が傾く。
砲撃が、逸れる。
その“ほんの一瞬”。
雷ちゃんは、もう動いていた。
最短距離。 最速。
放つ瞬間。シールドの角度が変わった隙間へ。
「……終わり」
軽い一撃。
けれど、それは。
致命的な一撃だった。
静寂。
そして。
「……勝者、雷ちゃん選手!!」
アリーナが遅れて爆発する。
鋼堂は、静かに呟く。
「……精度の悪さを、利用したか天草ッ!?」
雷ちゃんは、マシンガンを肩に担ぎ、天草の元へ歩み寄る。
「いや~上手くいったね~」
「……うん。……重かった」
二人はカメラに向ってピースサインを送る。
テレビ越しに見ていたシンは、 言葉を失っていた。
(旧式で……勝った?)
理解した瞬間。
胸の奥が、ざわつく。
天草と雷ちゃんは、
もう“追いつける存在”じゃない。
確実に差がある。
シンは、ゆっくり拳を握る。
(……俺はどうすれば、あそこに届く?いや、ちかづける……)
この日、
如月の英冠は。
古い武器と、新しい発想で――一人の男が手に入れた。




