12月26日 ①
12月26日 PM2:00。
――大神楽まで、残り5日。
だが………
「やっべぇ……完全に寝過ごした……」
シンは頭を抱えながら、店へと降りてきた。
昨夜の大騒ぎ。
師走萬神楽の疲労。
そして――日頃の疲れ。
そのすべてが一気に押し寄せた結果。
目が覚めたら――昼をとっくに過ぎていた。
「おはよう、兄」
シュウが、開店の下準備をしてくれていた。
「えっと……すまん」
「気にすることはないよ。毎日お疲れ様」
「…………」
その一言が、妙に染みた。
「シュウ……」
「私はちゃんと起こしましたよ」
「…………」
一瞬で引っ込んだ。
「何時に?」
「AM7:00です」
「…………記憶にない」
「何度も「あと五分」と仰いました」
「…………」
「その後、五時間ほど延長されました」
「五分の概念どうなってんだよ……」
「兄の五分は長いね」
「シュウまで言うなよ……」
「ねぇねぇ~~」
「…………ん?」
ぐでぇぇぇぇぇ。
店の隅。
テーブルに突っ伏したまま――
シュガー☆が溶けていた。
「シュガー☆たいくつ~~~」
「…………」
「早く神楽しようよぉ♡」
「…………」
シンは時計を見る。
《PM2:03》
シュガー☆を見る。
「……お前、まだいたの?」
「うん♡」
「いや、もう2時だぞ?」
「うん♡」
「…………」
「いや、家に帰れよ! 俺がお前のマスターに怒られるわ!」
「大丈夫だよ☆」
「何が?」
「シュガー☆、マスターいないから☆」
「…………」
一瞬。
空気が止まった。
「…………え?」
シンとシュウが、シュガー☆を見る。
「今、なんつった?」
「シュガー☆のマスター、いなくなっちゃったの☆」
にこっ♡
いつもと変わらない笑顔だった。
「…………」
「…………」
「でもシュガー☆、賞金いっぱい持ってるから困らないよ☆」
シュウが苦笑する。
「なんか……すごい話をサラッと言ったねぇ……」
シンは持っていたコップを置いた。
「お前……今までどこで暮らしてたんだ?」
「ん~~?」
シュガー☆は少し考える。
そして。
にこっ♡
「雨風の凌げる場所♡」
「…………」
「…………」
あまりにも――軽い。
今日の天気でも答えるような口調だった。
「お前、それ――」
シンが何かを聞こうとした。
だが――
「兄」
シュウが止めた。
「…………」
静かに首を横へ振る。
「…………そっか」
シンは、それ以上聞かなかった。
何があったのか。
どうしてマスターがいなくなったのか。
聞きたいことなら――いくらでもあった。
だけど。
「それよりぃ~~」
ぐでぇぇぇぇ。
シュガー☆はテーブルに頬を乗せる。
足をぱたぱた。
「シュガー☆たいくつ~~☆」
「…………」
「神楽しようよ、神楽ぁ♡」
いつもの――シュガー☆だった。
「…………」
シンは少し考える。
そして。
出た答えは――
「よし」
「?」
シンは立ち上がった。
「なら、出かけようか」
「え♡」
シュガー☆が、がばっと顔を上げる。
「どこ行くの!?♡」
「面白い場所、教えてやんよ!」
「…………!」
ぱぁぁぁぁぁっ♡
「行く行くぅ♡ シュガー☆お出かけする☆」
椅子から飛び降りる。
「どこ!? どこ!?♡」
「まあまあ」
シンは上着を羽織る。
「行けば分かるって」
「神楽できる!?♡」
「…………」
「チャンバラ!?♡」
「…………」
「殴り合い!?♡」
「…………」
シンは――笑った。
「たぶん全部できる」
「行くぅぅぅぅぅぅ♡♡♡」
『…………』
ECOが呆れたように二人を見る。
「兄」
「ん?」
シュウは、仕込みの手を止めなかった。
「店のことは全部、僕に任せて」
「…………」
「兄は大神楽に集中してよ」
「シュウ……」
「あと五日しかないんだから」
「…………」
シンは――
ガバッ!!
シュウに抱きついた。
「シュウゥゥゥゥ!! お前って奴はぁぁぁ!!」
「ちょっ……兄! 包丁持ってる! 危ない!!」
「愛してるぞシュウゥゥゥ!!」
「分かったから離れて!!」
「はいはい。出かけますよ、マスター」
「おう!!」
「お出かけぇぇぇ♡」
「まったく……」
シュウは苦笑しながら。
出ていく三人を見送った。
◇ ◇ ◇
町から少し離れた――郊外。
「ねぇねぇ♡ まだぁ?」
「もうすぐだ。」
「シュガー☆待ちきれなぁい♡」
「ほら」
シンが足を止めた。
「着いたぞ」
「…………?」
シュガー☆が顔を上げる。
そこに――
その建物はあった。
シンにとっても――久しぶりの場所だった。
そして。
近接戦をこよなく愛する猛者たちが集う――
トレーニングジム兼バトルアリーナ。
その名も。
――【近接魂堂】。
「…………」
シュガー☆が看板を見つめる。
「きん……せつ……」
その瞬間。
建物の中から響いてくる――
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「押忍ッッッ!!!」
「根性ォォォォォォォ!!!」
「押忍ッッッ!!!」
「もっと腰入れろォォォォ!!」
「押忍ッッッ!!!」
怒号と雄叫び。
ドシンッと何かが床へ叩きつけられる音。
そして――
「…………」
その音にシュガー☆の瞳がキラッと輝く。
「…………♡」
キラキラキラキラキラキラ――!!
シンにも【嬉しい】が伝わってきた。
「ここはだな!俺達がーーーーー」
「マスター」
「なんだ?」
「シュガー☆はもう中へ行ましたよ」
「…………話を聞けよッ!!!」
受付を済ませ――中へ入る。
「…………」
シュガー☆が――固まっていた。
「ん?」
ゆっくり。
シュガー☆がシンを見る。
今にも泣きそうなほど――
感動していた。
「…………天国?♡」
「違う」
熱気。
汗。
鉄。
筋肉。
御子。
竹刀。
槍。
大剣。
そして――
「うぉぉぉりゃああああああ!!!」
「カウントッ!!!」
相変わらずだった。
いや。
以前より――酷くなっている気さえする。
「…………」
シュガー☆が、一歩。
中へ入る。
「…………♡」
一歩。
また一歩。
そして――
両手を広げた。
「シュガー☆ここに住むーーーー♡」




