12月26日 ②
「シュガー☆ここに住むーーーー♡」
「お前はヤドカリかッ!」
その時だった。
ドシンッ!!
「ん?」
近くで重たい物が落ちた音。
一人の男が、持っていたダンベルを床に落としていた。
「うわぁ!ビックリしたぁ!!ッてフランキーじゃん!久しぶり」
「…………」
男はシュガー☆を指差している。
「お……お前……」
「うん?」
男の顔が――青ざめていく。
「ま……まさか……」
「おいおい、どうした?」
「シュ……」
「しゅ?」
フランキーの指先が震える。
そして――
「シュ、シュガー☆キャラメル☆ニッパーァァァァァァァァ??!」
「はぁーーい♡」
ピタッ――。
その瞬間。
近接魂堂から――
音が消えた。
「…………」
「…………」
「…………」
竹刀を振っていた者。
組手をしていた者。
筋トレをしていた者。
全員が――止まっている。
「…………なんだ?」
シンが辺りを見回す。
「え?……どうしたんだよ?」
「どうしたじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「うおっ!?」
フランキーがシンの胸ぐらを掴んだ。
「なんてもん連れてきやがったァァァァ!!」
「なんてもんって……」
「あれ、あれれ、あれはシュガー☆だぞ?」
「えへへ♡ シュガー☆だよ♡」
ザワッ――。
ようやく。
周囲の猛者たちも状況を理解し始める。
「あ……あれが……?」
「嘘だろ……」
「近接だけで甲級まで登りつめた……」
「俺達の憧れ……」
「……そして壁でもある。」
誰かが呟く。
「【甘い怪物】シュガー☆キャラメル☆ニッパー」
シュガー☆は嬉しそうに笑った。
「よろしくね♡」
その笑顔を見て――
「ひっ……!」
一人が後ずさる。
そして。
道場の奥。
椅子に腰掛けていた老人が、ゆっくりと目を閉じた。
「…………ついに来たか」
「館長?」
「ワシも、もう……潮時か……」
「館長ォォォォォォ!!!」
「なに引退しようとしてんだよ!?」
「道場破りジャァァァァァァァ!!!」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「いや、そうじゃなくて!!!」
「まさか……刀狩りじゃァァァ!!!」
「いつの時代だよ!」
「武器を隠せぇぇぇぇ!!」
「だから刀狩りじゃねぇって!!」
「どうか……どうかワシの愛刀だけはぁぁぁ!!」
「いや、取らないから……」
「…………」
「それはそれで傷つくのぉ……」
「……めんどくせぇな!!」
◇ ◇ ◇
とりあえず。
シンは館長に事情を説明した。
「なるほど……」
館長は腕を組む。
「つまり……ワシらがシュガー☆君の暇つぶしの“人柱”となれと?」
「いや、言い方!」
「…………」
「……いや、合ってるかな?」
シンはシュガー☆を片手に乗せ、館長へ見せた。
「コイツは組手で遊んでくれる御子たちをずっと探してるんですよ……ここなら近接特化の猛者が集う場所でしょ?」
「よろしくねぇ♡」
シュガー☆が手を振る。
「…………」
館長は腕を組み直した。
「確かに……そうじゃが……」
「だろ?」
「ここは近接戦を愛する者たちの聖地じゃ」
「おう!」
「刀、槍、拳……己の技を磨き、頂点を目指す者たちが集う場所……」
「うんうん♡」
館長は――シュガー☆を見た。
「その頂点が……目の前におる」
「…………」
「…………」
「……どうしよう?」
「いや、俺に聞くなよ!! アンタ館長だろ!?」
「…………」
館長は目を閉じた。
しばしの沈黙。
そして――
「……じゃがの」
ゆっくりと立ち上がる。
「近接を愛する者が、近接を否定するわけにはいかんじゃろ」
「館長……」
「それは己を否定すること……」
館長は拳を握り締めた。
「そして何より――」
ドンッ!!
己の胸を叩く。
「筋肉への侮辱じゃッ!!!」
「館長ォォォォォ!!!」
「そうだ……俺たちは近接魂堂だ!!」
「相手が甲級だろうが関係ねぇ!!」
「俺たちには、この鍛え抜いた身体がある!!」
館長は――拳を天高く突き上げた。
「己が磨いたその筋肉に偽りなしッ!!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
「ヤロー共ッ!! 気合い入れていけよッ!!!」
「「「押忍ッッッ!!!」」」
ビリビリビリッ!!
近接魂堂が震えるほどの大歓声。
先ほどまで怯えていた猛者たちが、今は拳を突き上げていた。
「…………」
シンは、その光景を見つめる。
「……相変わらず暑苦しい場所だな」
『熱気による室温上昇を確認しました』
「そういう意味じゃねぇよ」
「…………♡」
シュガー☆は――
ぱぁぁぁぁぁぁっ♡
満面の笑みを浮かべていた。
「みんなぁ♡」
「「「押忍ッ!!!」」」
「シュガー☆と遊んでくれるの?♡」
館長が胸を張る。
「無論じゃッ!!」
「やったぁぁぁぁぁ♡♡♡」
シュガー☆は両手を広げた。
そして――
「じゃあ♡」
にこぉぉぉっ♡
「誰から壊していい?♡」
「「「…………」」」
ピタッ――。
再び。
近接魂堂から音が消えた。
男たちは――
そっと。自分たちの御子を背中に隠した。
「…………」
「…………」
「お前らさっきの気合いはどこ行ったァァァァ!!!」
シンはシュガー☆の頭に、コツンッと軽いゲンコツを落とした。
「だから組手だって言ってんだろォォ!!!」
「えへへっ♡」




