祭りの後の祭り
居酒屋『深夜の世界』。
その神棚には――
いつもとは違うものが、二つ並んでいた。
【師走萬神楽・優勝勲章】
そして。
【大神楽・招待状】
「…………」
シンは、その二つを眺める。
パンッ。
パンッ。
手を合わせた。
「…………よし」
何度見ても――ある。
夢じゃない。
ようやく。
本当に――ここまで来た。
「いや~~やったな、シンさん!!」
背後から、酔っぱらいの声が飛んできた。
「遂に大神楽だぞ!! 飲め飲め!!」
「おう! 今日は好きなだけ飲め!!」
「シンさんの奢りだけどよ! ガッハハハハ!!」
「いや、やんでだよ?!」
どっ――!!
店内が笑いに包まれる。
いつも以上に酒が進み。
いつも以上に声がデカく。
いつも以上に――酷かった。
「だっておらがECOを育てたんだぞ、このヤロー!」
「バカァ言え!! カンフーをおしぇたーのは、こにょおりぇだぞぉ!!」
「オメーの動きはただのどんたくじゃろ!」
「どこがどんたくじゃあ!!」
「一回やってみぃ!」
「ホアァァァァァ!!」
「やっぱどんたくじゃねぇか!!」
「ガッハハハハハハ!!」
『…………』
ECOは、その光景を眺めていた。
誰もが笑っている。
誰もが祝ってくれている。
そして――
誰もが。
ほんの少しでも、自分がECOの役に立ったのだと言いたがっていた。
『…………』
その事実を。
ECOは何も言わず――ただ見つめていた。
しかし。
そんな店内で――
一人だけ。
「…………」
不満そうな者がいた。
「むぅぅぅぅぅぅ……」
ユイだった。
頬を膨らませ。
神棚を睨んでいる。
正確には――
【大神楽・招待状】を。
「本当なら師走は――」
ビシッ!!
「アタシとメリーが取るはずだったのにーーッ!!」
「知らねぇよ!」
「シン!!」
ユイが神棚を指差した。
「その招待状、寄越すネ!!」
「嫌に決まってんだろ!!」
「ユイ様」
「ん?」
傍らに立つメリーが、静かに口を開く。
「少々、横暴が過ぎます」
「メリー?」
「物を拝借する際は――」
メリーはシンの前へ進む。
そして。
すっ――。
深々と頭を下げた。
「必ず、下からお願いするものでございます」
「おお! さすがメリー!」
「いや『借りる』前提なのがおかしいからね?!」
メリーは構わず続ける。
「シン様」
「はい」
「大変恐縮ではございますが――」
丁寧に。
それはもう、非の打ち所がないほど丁寧に。
「大神楽への招待状を、我々へお譲りいただけないでしょうか」
「なんでそれでいけると思ったッ?!」
「……残念です」
「マジでいけると思ったの?!」
シンは二人を指差す。
「そもそもお前ら、まだ丙級だろ!?」
「ギクッ」
「師走萬神楽の出場資格すらねぇーじゃん!」
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
ユイが拳を震わせる。
「仕方ないネ!!」
「何が?」
「アタシは毎日――」
ドンッ!!
胸を張る。
「花嫁修行が忙しくて、神楽に行く暇がないネ!!」
「どんな準備してんの?」
「それは――」
「シン様」
メリーが遮った。
「聞かない方がよろしいかと」
「なんで?!」
「とにかくネ!!」
ユイが立ち上がる。
「シン!!」
「今度はなんだよ!」
ビシッ!!
ECOを指差した。
「今ここで――メリーと神楽するネ!!」
「…………は?」
店内が静かになる。が、この状況を理解し、店内は活気に湧く。
「お!?喧嘩か!!やったれECOちゃん!!」
ユイはニヤリと笑った。
「丙級のアタシ達に負けるようなら、大神楽なんて百年早いネ!」
「…………」
「その時は――」
神棚の招待状を指差す。
「アタシ達が大神楽に行くネ!!」
「だから出場資格ねぇって言ってんだろ!!」
「うるさいネ!!」
「え……」
「いいから勝負ネ!!」
「話聞けよ!!」
「勝負!!」
「嫌だ!!」
「勝負ネ!!」
「嫌だっつってんだろ!!」
「メリー!!」
「かしこまりました」
メリーが静かに立ち上がる。
『…………』
ECOも立ち上がった。
「ECO!?」
『よろしいのでは?』
「え?」
ECOはメリーを見る。
かつて戦った――相手。
そして。
神棚に飾られた招待状を見る。
『大神楽へ向かう前の――』
再び、メリーへ。
『肩慣らしにはなるかと』
「…………」
メリーの目が、僅かに細くなる。
「あの時から――」
一礼。
「私は成長しておりますよ。ECO様」
『私です』
「…………」
二人の視線が――ぶつかる。
「…………」
シンは頭を掻いた。
「ったく……」
そして。
神棚を見上げる。
師走萬神楽の勲章。
大神楽への招待状。
ようやく手にした――その二つ。
「……絶対やらねぇからな」
「勝ったら貰うネ!!」
「だから横暴だっつってんだろ!!」
そして、店内での神楽がはじまった。
◇ ◇ ◇
久しぶりのメリーとの神楽だが、一つ違和感を覚えた。
『なぜでしょうか。以前より指示を受ける頻度が減っていますね』
「だよな?」
『第四期は、マスターからの詳細な指示を前提としているはずですが』
「仰る通りです」
メリーは銃口をECOへ向ける。
「ですが――」
その背後。
ユイが腕を組み、得意げに胸を張っていた。
「アタシがメリーに教えたネ!」
「何を?」
「戦いの極意ネ!!」
「……嫌な予感するな」
ユイがビシッとECOを指差す。
「メリー!!」
「はい、ユイ様」
そして――叫んだ。
「"Don't think! Shoot!"」
「…………は?」
「要は――『考えるな!!』」
ユイが拳を突き上げる。
「『撃てェェェェェェェェェッ!!!』ネ!」
「いえす、まい、ますたー」
メリーはガトリングを掲げ起動させた。
ドドドドドドドドドドドドドッ!!
『――!?』
「うおおおおおおおお!?」
弾幕が店内を四方八方に埋め尽くす。
ECOが飛び退く。
『行動予測――』
ドドドドドドドッ!!
『――訂正』
さらに後退。
『行動原理が単純すぎて、予測する意味がありません』
「ただ撃ってるだけじゃねぇか!!」
「違うネ!!」
ユイが胸を張る。
「考えながら撃つより――」
ドンッ!!
「考えず撃った方がいっぱい撃てるネ!!」
「小学生みたいな理論やめろ!!」
「小学生に言われたくないネ!!」
「誰が小学生だ!!」
その間にも――
ドドドドドドドドドドッ!!
メリーは撃ち続けている。
「ユイ様」
「なんだネ!?」
「非常に楽でございます。」
銃口をECOから一切逸らさない。
「メリー!!どんどん 撃つネ!!」
「承知しました」
ECOはシールドに身を隠す。
『シールド、耐久値…残り四十七パーセント』
「まだ待て」
「このまま押し切るネ!!ゴーゴー!!!」
ドドドドドドッ!!
『残り二十一パーセント』
「まだ」
『残り十二パーセント』
「…………」
カチッ。
「今だ」
『了解!』
「…………」
カチッ。カチッ。
「…………」
「ユイ様」
「どうしたネ?」
「大変申し上げにくいのですが」
「?」
「弾薬が尽きました」
「……………………聞いてないネェェェェェェ!!」
メリーは空になったガトリングを見る。
ECOは既にシールドを捨て、急接近。
もう弾の出ないガトリングを見る。
「…………」
『…………』
「少々、お待ちいただくことは可能でしょうか」
『お断りします』
「左様でございますか」
コツンッ。
「…………」
メリーの額を――
ECOの刀の柄が、軽く叩いた。
「勝者!! ECOちゃーーーん!!」
「うおおおおおお!!」
「さすが大神楽出場者ぁ!!」
「飲め飲めぇぇぇ!!」
店内が一気に沸き上がる。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……!!」
ユイは悔しそうに拳を握り締めていた。
「弾さえあれば……!」
「いやぁ……」
シンは頭を掻く。
「でも、驚いたわ」
「……?」
「ユイ」
「なんだネ?」
シンはメリーを見る。
空になったガトリングを抱えながら、静かに立っている。
「メリー、前と全然違ったな」
「…………」
「細かく指示しなくても、戦えるようになってるとは思わなかった」
「当然ネ!」
ユイが胸を張る。
「アタシはメリーのマスターネ!」
「…………そっか」
シンは笑った。
「ちゃんと考えてんだな」
「――!」
ユイが目を見開く。
「シンが……アタシを褒めた?!」
「…………」
「なんだよ?」
「シン……」
ユイの目が、じわぁっと潤む。
「お、おい……」
「これでアタシも――」
ぐっ、と拳を握る。
「乙級になれるネ!!」
「それは違う」
「シンが推薦すれば、アタシも乙級になれるはずネ!!」
「なんでそうなる!?」
ユイがシンの胸ぐらを掴む。
「今すぐ協会に推薦するネ!!」
「痛い痛い痛い!! 昇級ってそういう制度なの!?」
「大神楽出場者の推薦ならイケるネ!!」
「知らねぇよ!!」
「推薦するネェェェェ!!」
「褒めたの取り消すぞ!!」
「それはダメネェェェェ!!」
その横で。
メリーはECOへ向き直った。
そして――
深々と頭を下げる。
「お見事でございました」
『ありがとうございます』
「以前お会いした時より――」
メリーは顔を上げる。
「ずっと、お強くなられましたね」
『メリーも』
「…………」
ほんの僅かに。
メリーが微笑んだ。
「ありがとうございます」
そして再び、一礼。
「大神楽――」
「ご武運をお祈りしております」
『はい』
「絶対優勝してくるネーーー!!」
「お前さっき招待状奪おうとしてただろ!!」」




