甘い怪物 ②
『さァァ!! いよいよ決勝戦の時間ダァァァァッ!!!』
『まずは――皆さんご存じ!! 歴戦、師走の覇者!!』
『今年も大神楽へと王手をかけた!! 甘い怪物!シュガー☆キャラメル☆ニッパァァァァァッ!!!』
割れんばかりの歓声が、スタジアムを揺らす。
『そしてそして、まさかここまで這い上がってくるとは、意外の意外!!過去の亡霊は下剋上なるかァァァ?! ガラクタのーーーECO選手ゥゥゥゥ!!』
「出しゃばんなガラクタァァァッ!!!」
「やったれ!ECOーーーー!!」
ヤジや声援が交差する
シンとECOは、その歓声の中をゆっくりと歩いていく。
そして――
「あっ♡」
その先。ステージの中央
「ECOちゃぁぁぁぁん♡」
満面の笑みで大きく手を振る。
シュガー☆が、二人を待っていた。
「来てくれたんだね♡」
「…………」
シンは足を止めた。
ロロロ戦とは格好が違う。
シュガー☆が身に纏っているのは、一着のドレス。
だが。
切れている。
裂けている。
ところどころほつれている。
どう見ても、ボロボロだった。
「……すんげぇ年季の入った服だな?」
シンが指を差す。
「もしかして金欠か?」
「ん?違うよ☆これは女の子の大切な勝負服だよ♡」
シュガー☆は嬉しそうに、自分のドレスを摘まんだ。
「ふふ♡ これはねぇ――」
シュガー☆は脇腹近くの裂け目を指差す。
「この切れ目はねぇ、ハナコちゃんからのプレゼントでしょ♡」
「…………プレゼント?」
「それでぇ――」
今度は肩口。
「こっちはサキナちゃんからのプレゼント♡」
「…………」
「あっ! あとね☆あとね!」
背中を向ける。
「ここ! 切れてるのはね____」
「おう……」
「雷ちゃんからのプレゼント!」
シュガー☆はまだ楽しそうにドレスを指差している。
「それでねぇ♡ この切り傷は――」
シンは――
すべてを理解した。
「いいじゃん!強敵からの寄せ書きみたいじゃん!」
シュガー☆は、ボロボロのドレスを大切そうに見つめる。
「うん♡」
にこっ。
「ぜ~んぶ、シュガー☆の大事な思い出だもん♡」
その笑顔を見て、シュガー☆という御子を、理解した気がした。
「だからね、ECOちゃん☆――つまんない試合だったら、シュガー☆はビターになっちゃうからね☆」
「了解しました。」
『え~お二方は定位置にお戻りくださーい。間もなく開始しますよ』
アナウンスで忠告を受けた為戻る。
「なぁECO。作戦の変更だ。」
今更何を言っているんだ?と言わんばかりの表情のECO
「いやさ、あんな笑顔なのにさ、楽しみを奪ったら……かわいそうじゃん」
「敵に情けは不要です。それに、手を抜く方が失礼かと」
「うん。だからさ――」
シンは、ECOに作戦を伝えた。
「…………」
聞き終えたECOの顔を見れば分かる。
呆れている。
――とても馬鹿げた作戦だと。
だが。
シンは、一つの可能性に賭けていた。
「……本当に、そうなるのですか?」
「多分」
「…………」
「きっと大丈夫」
「…………」
「な?」
「言葉に確定要素がありません」
「大丈夫だって!」
ECOは振り返り、シュガー☆を見る。
「…………」
その視線に気づいたのか。
シュガー☆は――
ぶんぶんぶんっ♡
満面の笑みで、大きく手を振っていた。
「…………」
ECOは再びシンを見る。
「俺の経験上――アイツはそう動く」
「エビデンスはありますか?」
「天草に鍛えられたフィーリングだ!」
「信憑性がありませんね」
「いやいや!一番弟子だぞ!?」
ECOは小さく息を吐く。
「せっかく掴んだ好機ですが……どうなっても知りませんよ?」
「そん時は――また来年」
「…………」
シンは、笑った。
「またここまで来てやるさ!」
「…………」
ECOはしばらくシンを見つめ――
やがて、前を向いた。
「やれやれ……了解しました」
◇ ◇ ◇
そして――
試合が始まる。
ECOは【空】を握り締め、一気に駆け出した。
真っ直ぐ。
ただ真っ直ぐ――シュガー☆へ。
「――♡」
その瞬間。
シュガー☆の顔が、ぱぁぁぁっと輝いた。
「シュガー☆に会いに来てくれるんだね♡♡♡」
今にも笑顔が爆発しそうなほど――
嬉しそうに、頬が緩んでいる。
『…………』
ECOが踏み込む。
斬ッ!!
だが――
ひらり。
「あはっ♡」
シュガー☆は、紙一重で躱した。
二撃目。
三撃目。
斬ッ!
斬ッ!!
「うれしい♡ うれしいなぁ♡」
すべて――躱す。
端から見れば。
狂っている。
刃が自分の身体を掠めるたび――
シュガー☆は、さらに嬉しそうに笑うのだから。
だが。
観客たちが疑問に思っていたのは――
そこではない。
『…………ん?』
実況が声を漏らす。
『ちょっと待て……』
『シン選手――』
ざわ……。
観客席にも、その違和感が広がり始める。
『ビットを――使っていない!?』
「…………」
シンは何もしていなかった。
指示を飛ばすこともない。
ビットを展開することもない。
ただ――
突っ立っている。
『これはどういうことだァァァ!?』
『これまでシン選手、試合開始直後のビット使用率はほぼ100%!!』
『にもかかわらず――決勝戦で使わないッ!!』
ざわざわ……。
「舐めプか?」
「何考えてんだ?」
「相手、シュガー☆だぞ!?遠距離武器が基本だぞ?!」
「…………」
シンはただ、ECOとシュガー☆の戦いを――見ていた。
「…………」
一撃。
また一撃。
ECOが攻める。
シュガー☆が躱す。
シンは――動かない。
『マスター』
不意に。
ECOから通信が入る。
『予定通りですか?』
「おう」
『…………』
「好きにやってみろ!」
『了解しました』
シュガー☆の耳が――
ぴくり。
「…………?」
初めて。
シュガー☆の視線が、ECOではなく――
シンへ向いた。
「…………」
シンは何もしない。
ただ、見ている。
その意味を。
シュガー☆は考える。
一秒。
二秒――。
そして。
「…………♡」
気づいた。
シュガー☆の口角が――
ゆっくりと。
ゆっくりと――吊り上がっていく。
「ECOちゃんのマスターさん……」
シュガー☆が、シンを見る。
「シュガー☆のこと――わかってくれてる」
「…………」
その顔が。
今日一番の笑顔になる。
「しゅきーーー♡」
「……は?」
「しゅきしゅきしゅき♡ だいしゅきぃぃぃ♡♡♡」
「ちょっ――」
シンが思わず一歩引く。
「急に好感度カンストすんな!? 怖ぇよ!!」
「だってぇ♡」
シュガー☆は頬に両手を添え――
くねくね。
「シュガー☆が何してほしいか、言ってないのに分かってくれたんだよぉ♡」
「いや、まあ……」
「しゅき♡」
「近づくな」
「しゅきしゅき♡」
「だから近づくなって」
「しゅきしゅきしゅきぃぃぃぃ♡♡♡」
「おい待て」
ダッ!!
「――は?」
シュガー☆が――
ステージを飛び出した。
一直線。
シンへ向かって。
「怖い怖い怖い怖い!!」
シンが逃げる。
「待ってぇぇぇ♡」
「来んなァァァァァ!!」
「しゅきぃぃぃぃ♡♡♡」
「ECOォォォ!!」
『はい』
「助けて!!」
『そうですか?』
ECOは、追いかけ回されるシンを眺める。
『これが目的かと』
「違ぇよ!!」
『御子たらしですね』
「ちがーーーーーう!!」
『あーーーっと!? シュガー☆選手!! 何をしているゥゥゥゥ!?』
会場がどよめく。
「止めろ! 止めろォ!!」
審判が慌てて飛び出した。
「シュガー☆キャラメル☆ニッパー選手!!」
「離してぇぇぇ♡」
「敵マスターへの直接攻撃はペナルティ対象です!!」
「攻撃じゃないよぉ!!」
スタッフ二人が、シュガー☆の両腕を掴む。
「しゅきって伝えたいだけぇぇぇ♡♡♡」
「それでもダメです!!」
「なんでぇぇぇぇぇ!?」
ズルズルズルズル――。
「ECOちゃんのマスターさぁぁぁぁん♡」
「…………」
シンは遠ざかっていくシュガー☆を見つめる。
「……俺、作戦間違えたかもしれん」
『大成功かと』
「どこがだよ!!」
『少なくとも――』
ECOは、未だスタッフに押さえられながら暴れるシュガー☆を見る。
『とても楽しそうです』
「…………」
「しゅきぃぃぃぃぃ♡♡♡」
「…………そうだね!!」




