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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第26話 生き残る為に楽しむ

 Aliceとネーヴェの間に、純粋な実力差はさほどなかった。

 むしろ、Aliceの方がプレイヤースキルと言う面においては、上かもしれない。

 しかし、相性は最悪。

 魔法が主な戦法のMLOに対して、CBOの魔導士はあくまでも職業の1つに過ぎないのだ。

 どうしても正面から魔法でぶつかれば、後手に回ってしまう。

 実際、Aliceはネーヴェとリルの攻撃を捌くのに必死で、まともに反撃出来ていない。

 それも完全には守り切れておらず、次第にAliceのHPゲージは危険域へと到達して行った。

 だからと言って彼女が諦めることはなく、隙を見付けてはリルに【イグニス・フレア】をお見舞いしている。

 1発1発は大きなダメージを与えられないが、何度も繰り返すことで、リルのHPゲージは半分を切っていた。

 ところが――


「残念でした」


 ネーヴェから柔らかな光が照射され、リルのHPを8割近くまで回復する。

 それを見たAliceは目を丸くしたが、戦う意志は捨てていない。

 とは言え、状況が悪化したのは事実。

 ここまで戦ってわかったのは、ネーヴェの手札の多さが尋常ではないこと。

 属性も魔法の種類も多種多様で、5種類のアーツしか持たないCBOの魔導士とは、雲泥の差だ。

 何よりネーヴェは、Aliceに楽をさせない選択を取り続けている。

 いくら手札が多くても使いこなせなければ意味はないが、ネーヴェに関しては見事な運用方法だと言わざるを得ない。

 文字通り肌でそれを感じているAliceだが、彼女もまだ諦めてはいなかった。

 無言で勝気な笑みを浮かべて、最早数え切れないほど繰り返した【イグニス・フレア】を、リルにぶつける。

 やはり最短発動ではあまり威力が出せないが、動きの速いリルにはこれが精一杯。

 そして、ダメージを蓄積させたところで、ネーヴェの回復魔法によって、努力が水泡に帰すのだ。

 何度も同じことの繰り返しで、Aliceは遂に4つ目の回復薬を使う。

 残りの回復薬が1つだと知っているネーヴェは、もう一息だと思いながら、あることが気になっていた。


「わたしを足止めして、向こうの決着が付くのを待っているのかしら?」


 開始当初にSCOに大打撃を与えたとは言え、フレンはまだ健在で、軍勢同士の戦いもケーキの参戦によって押し返されつつある。

 それゆえにネーヴェは、なるべく早くAliceを倒して戦線復帰したいと考えていたが、彼女の粘りを崩し切れずにいた。

 だからこその問だったが――


「え? そんなつもりないよ? 言ったじゃない、貴女はわたしが倒すって」

「強がり……ではなさそうだけれど、この状況をどうやって引っ繰り返すつもりなのかしら」

「あはは、それは言えないね~。 でも、そろそろかな~」

「そろそろ……?」

「うん! 覚悟してね、ネーヴェちゃん? あたしの本気、見せてあげる!」


 そう言って笑みを深めたAliceからは、闘気が幻視出来るほどのやる気を感じた。

 ネーヴェは目を細め、これ以上長引かせるには危険だと判断する。

 リルに指示を出し、Aliceの側面から噛み付かせた。

 対するAliceは即座に反応し、攻防一体の【イグニス・フレア】を発動。

 だが、その頃にはネーヴェが自身の魔法を完成させており、5本の光の槍をAliceの周囲から撃ち出した。

 トドメを刺せるとまでは考えていなかったものの、ネーヴェの計算では多少なりともダメージを与えられる。

 その計算自体は、間違っていなかったが――


「行くよ!」

「な……!?」


 光の槍が自身に突き立つのに構わず、Aliceが前に出た。

 HPゲージがゴッソリと削れたが、お構いなし。

 思わぬ特攻に目を見開いたネーヴェは、咄嗟にリルを向かわせる。

 Aliceの前方に回り込んだリルは、前足を高速で振り下ろした。

 しかし、Aliceが止まることはなく、高く跳躍することでリルを飛び越えつつ、【イグニス・フレア】を放つ。

 またしてもリルにダメージを与えたが、自身も爪による一撃を完全回避することは出来ず、更にHPが減少していた。

 それでもAliceは愚直に走り続け、遂にネーヴェの眼前に辿り着く。

 彼女の思惑が理解出来ないネーヴェは、困惑しながらも迎撃態勢を取った。

 Aliceの影から黒い棘が生えて、彼女に殺到する。

 今度こそ退けられると考えていたネーヴェだが、Aliceは強引に突っ切った。

 それによって残りHPは2割にまで達しているものの、本人は会心の笑みを浮かべている。

 特攻を通り越して自爆に思えたネーヴェだが、Aliceは間違いなく勝利への一手を打っていた。


「やぁッ!」

「……!? う……!」


 Aliceが杖で、横殴りの一撃を繰り出す。

 まさかの接近戦にネーヴェは驚きながら、咄嗟にガードした。

 だが、ネーヴェの近接戦闘能力は、はっきり言ってその辺のSCOプレイヤーと比べても低い。

 衝撃をモロに受けた彼女は吹き飛び、今回初めてHPゲージを減少させる。

 よろめきながらすぐに立ち上がったネーヴェだが、Aliceは手を緩めなかった。


「まだまだ!」

「く……!」


 『クリスタル・ロッド』――いや、進化した『【聖杖】クリスタル・ロッド』を剣のように持ち、ネーヴェを攻撃するAlice。

 これこそが、彼女の考えた逆転の秘策だった。

 ネーヴェが純粋な魔法戦専門のプレイヤーだと見破った彼女は、接近戦に持ち込む計画を立てたのだ。

 もっとも、誰にでも出来ることではない。

 むしろ、ほとんどのプレイヤーはネーヴェに近付くことも出来ず、敗れることになるだろう。

 それでは何故、Aliceには可能だったかだが――


「伊達にいつも、雪夜くんを見てないよ!」


 と言うことだ。

 常日頃から雪夜と行動をともにし、彼の動きを間近で見続けているAliceは、魔法戦のみならず接近戦の技量も他を圧倒していた。

 無論、彼女自身のセンスが図抜けて高いからでもある。

 巧みに杖を操り、距離を取ろうとするネーヴェを逃がさず、猛烈な攻撃をAliceは加えた。

 ネーヴェとて最初から相手が接近戦を仕掛けて来るとわかっていれば、もう少し対処出来ただろう。

 ところが、今回はほとんど奇襲のようなもの。

 守り切ることが出来ず、被弾も増え、HPゲージは5割以下になった。

 流石に焦ったネーヴェは、強硬策に出る。


「調子に……乗らないで!」

「わわ!?」


 自分とAliceの間で爆発を起こし、無理やりに距離を空ける。

 残りHPが僅かだったAliceは大きく後方に飛び退き、際どいところで生き残った。

 一方のネーヴェもHPゲージは危険域に達していたが、アイテムを使うことで立ち直る。

 それを見たAliceも最後の回復薬を飲み、態勢を整えた。

 これで仕切り直し――かに思われたが、奇しくも両者ともにそのつもりはない。

 リルを呼び寄せたネーヴェは体を優しく撫でながら、Aliceを真っ直ぐに見つめる。

 それを受けたAliceも真剣な表情で、強気な眼差しを返した。

 互いに無言のまま時が過ぎ、風の音がやけに大きく聞こえ――


「ぷ」

「クス……」

「あ、笑ったね?」

「わ、笑っていないわよ。 貴女こそ、笑ったでしょう?」

「うん! 楽しくて!」

「お気楽ね、こちらは必死だと言うのに」

「別にふざけてるんじゃないよ? でも、ゲームなんだから、楽しまないと損でしょ? 生き残る為に楽しむ! それが、あたしたちEGOISTSなんだから!」

「生き残る為に楽しむ、ね……。 楽しむだなんて、ここ暫く考えたことなかったわ」

「え~、勿体ないよ! ネーヴェちゃん、そんなに強いんだし、もっと楽しもうよ!」

「そうね……。 貴女を倒したら、もう少し楽しんでみようかしら」

「あ、それは無理だね。 勝つのはあたしだから! てことで、楽しむなら生存戦争とは関係ないゲームでね!」

「言っていることがメチャクチャだけれど……まぁ良いわ。 決着を付けましょう」

「オッケー! 最後の勝負だよ!」


 笑みを交換し合ったAliceとネーヴェ。

 本当に、生存戦争と言う状況でなければ、良いライバルであり友人になれたかもしれない。

 似たようなことを思った2人だが、だからと言って手を抜きはしなかった。

 Aliceは右手を前に突き出して、力を集束して行く。

 それに呼応するかのように、ネーヴェもリルに力を注いで行った。

 そうして準備が整った両者は、示し合わせたかのように声を上げる。


「行くよ、ネーヴェちゃん!」

「来なさい、Alice!」


 Aliceの右手から極大の砲撃がなされ、リルの口から極寒のブレスが吐き出された。

 中間地点でぶつかり、大気が震えるほどの衝撃が草原を走る。

 Aliceのフィニッシュアーツ、【エレメンタル・マスター】。

 全APを消費した一撃を繰り出し、確定で弱点判定になり、全状態異常を付与する、正真正銘の切り札。

 ただし、発動条件は「弱点ダメージを100回以上与える」こと。

 効果が薄いにもかかわらず、リルに【イグニス・フレア】を撃ち続けていたのは、これが理由だった。

 対するネーヴェも奥の手を出しており、これを使うとリルが通常状態に戻ってしまう。

 つまり、2人とも全身全霊を賭した攻撃だったのだが、果たしてどちらに軍配が上がるのか。

 歯を食い縛る少女たちの間で、力がせめぎ合い――


「わ!?」

「……ッ!」


 消失。

 急に支えがなくなったかのようにAliceはたたらを踏み、ネーヴェは目を丸くしている。

 すると【フェンリル】が解けてリルが元に戻り、グッタリとしていた。

 それを見たネーヴェは微笑を漏らしながらしゃがみ込み、リルを優しく撫でて告げる。


「良く頑張ったわね。 ゆっくり休んでいなさい」


 ネーヴェの言葉を受けたリルは、しばし主を見つめてから姿を消した。

 これでかなり戦い易くなったと思いつつ、Aliceは内心で緊張感を高めている。

 APが尽きた状態でネーヴェと渡り合うのは、かなり厳しいからだ。

 接近さえすればなんとかなるだろうが、もう簡単には懐に入れてもらえないはず。

 そう考えたAliceは、どう攻めるか頭を回転させていたが――


「引き分け……と言うのはどうかしら?」

「へ?」

「貴女の先ほどの魔法、何の代償もないとは考え難いわ。 そしてわたしは、リルを失った。 これ以上やり合っても、消耗戦になるだけよ」

「そうかもしれないけど……」

「それに……ノイとエリスは、脱落したようだから。 フレンが帰って来ることを思えば、わたしたちとしては手を引きたいのだけれど」


 ネーヴェの提案は、はっきり言って苦しいものだった。

 Aliceだけならまだしも、フレンが健在だとすれば、どう考えても不利なのは彼女。

 もっと言えば、ネーヴェは知らないがゼロもいる。

 そのことは彼女自身が良くわかっており、聞き入れてもらえるとは思っていない。

 最悪は、自分の首を差し出してでも、他のMLOプレイヤーを助けたいと思っていた。

 しかしAliceは、少し考える素振りを見せてから、あっけらかんと答える。


「良いんじゃないかな」

「え……? 本当に……?」

「うん。 あたしたちはSCOを守る手伝いが目的であって、MLOを倒すのはまた別の話だし」

「……随分と甘いのね。 ここでわたしを見逃せば、今度はCBOが危険に陥るかもしれないわよ?」

「そのときは、またあたしが止めるよ! 皆で頑張れば、MLOにも他のタイトルにも、絶対負けないんだから!」


 屈託のない笑みを見せるAliceに、ネーヴェは唖然とした。

 ゼロがこの場にいれば、反対したかもしれない。

 だが、それでもAliceは、己を貫き通しただろう。

 底抜けに明るい彼女に苦笑したネーヴェは、ウィンドウを開いた。

 その様子をAliceが不思議そうに見ていると、ネーヴェは溜息混じりに言い放つ。


「今、侵攻中のMLOプレイヤー全員に、撤退するように通達したわ」

「ホント? 良かった~。 これで、今回の戦いは終わりだね!」

「えぇ、そうね。 次に会うのがどう言う状況かわからないけれど……これは借りにさせてもらうわ」

「あはは、別に気にしなくて良いよ。 あたしが勝手に決めたことだし」

「そう……。 じゃあ、わたしもそろそろ……」


 そこでネーヴェの言葉が途切れる。

 訝しく思ったAliceが様子を窺っていると、彼女はウィンドウを見て目を見開いた。


「そんな……MLOが……!?」

「ど、どうしたの、ネーヴェちゃん?」

「……BKOとTHOを攻めて来たらしいわ。 どうやら、わたしたちが侵攻して手薄なところを、狙われたようね。 モエモエたちが頑張っているようだけれど……このままでは、落とされるのは時間の問題ね」

「え!? た、大変、すぐに帰らないと!」

「わかっているわ」


 表面上は落ち着いたまま、大慌てで踵を返すネーヴェ。

 侵攻先から転移する為には、元の安全エリアに戻る必要がある。

 その時間すら惜しいと思った彼女だが、こればかりは致し方ない。

 全速力で駆け出したネーヴェは、一直線に安全エリアを目指したが――


「……何をしているの?」

「え? あたしも行こうと思って」

「どう言うつもり? 貴女には関係ないでしょう?」

「そうなんだけど……。 なんとなく、放っておけなくって」

「変わっているとは思っていたけれど、ここまで来たら意味不明ね。 言っておくけれど、他のMLOプレイヤーが貴女を襲わない保証なんてないのよ?」

「わかってるよ! 最悪すぐに逃げるから、あたしのことは気にしないで! ほら、行くよ!」


 ネーヴェを追い抜く勢いで、走り続けるAlice。

 彼女の真意がネーヴェにはわからなかったが、考えるだけ無駄だと思い直した。

 何より、今は時間がない。

 こうして死闘を終えたAliceとネーヴェは、揃ってMLOを目指した。

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