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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第25話 ノイとエリス

 夜空の下、絶え間なく刃と刃がぶつかる音が鳴り響く。

 短刀と短剣と言う、奇しくも似た武器を持つゼロとノイが、激しく斬り結んでいた。

 技量は僅かにゼロが上とは言え、覆せないほどの違いはない。

 また、ゼロは【忍の志】によって正面からの攻撃力が下がっており、たまに攻撃を当てても思ったようなダメージが出せずにいる。

 その代わりに【カース】による反射ダメージも低い為、一概に完全な不利とは言い難いが。

 もっとも、今はまだ互いに様子見段階。

 本格的に戦況が変わるのは、ここからだった。


「うお!?」


 ノイに斬り掛かろうとしたゼロの側面に出現した、使い魔であるナーデによる闇のレーザー。

 不意を突かれたゼロは回避が間に合わず、ガードが間に合いつつも被弾してしまう。

 致命的なダメージではないものの、無視することも出来ない。

 仕方なく先にナーデを処理しようとしたゼロだが、そのときには再び姿を消していた。

 これがナーデの能力であり、神出鬼没にノイをサポートする。

 面倒だと思ったゼロは小さく舌打ちしそうになったが、そのような暇すら与えられない。


「どこを見ている」

「ちッ!」


 ナーデに気を取られていたゼロに、ノイが連続で闇の弾丸を撃ち込んだ。

 そのうち何発かが掠め、更にゼロのHPを削る。

 しかし彼もやられっ放しではなく、【放たれる暗器】で反撃した。

 これは反射的なもので、高い実力を持つゼロだからこそ、取った選択だと言える。

 ところが、結果としては裏目に出た。


「もらおう」

「……!? メンドクセェ!」


 敢えて手裏剣を受けたノイのHPが大きく減り、それに伴ってゼロも反射ダメージを受ける。

 残りHPで言えば同じくらいだが、その意味合いは全くと言って良いほど違っていた。

 ゼロはもうあとがない一方で、ノイにはエリスと言う強力な味方がいる。

 ここで仮にノイを戦闘不能に追い込んでも、すぐに復活させられるのは目に見えていた。

 即座に結論付けたゼロは後方に跳躍し、間合いを空けてから回復薬を口にする。

 この戦法を取れば、負けることはないと思われるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

 CBOにおける回復アイテムは強力な反面、持ち歩けるのは5個までと決まっているからだ。

 つまり、このまま戦いが長引けば、回復薬が尽きて万事休す。

 エリスのアイテムも無尽蔵ではないだろうが、MLOがCBOより様々な面で緩いことを思えば、ある程度ストックがあると思っている方が良い。

 考えを纏めたゼロは大きく息を吐き出し、ニヤリと笑って声を発した。


「ノイだったか? お前、生粋のMLOプレイヤーじゃねぇだろ?」

「……どうしてそう思う?」

「普通のMLOプレイヤーなら、もっと魔法に頼るはずだ。 だが、お前はそうじゃねぇ。 むしろ、接近戦がメインなほどだ。 たぶん、SCO辺りから移住したんじゃねぇか?」

「ふぅ……見事な洞察力だと言っておこう。 確かに俺は、過去にSCOをプレイしていた」

「やっぱりな。 なんで移住したんだよ? フレンと渡り合えるほどの実力者なら、相当上の方にいたんじゃねぇか?」

「昔の話だ。 それに、お前には関係な――」

「わたしの為ですよ」


 ゼロの問をノイは突っ撥ねようとしたが、その前にエリスが言葉を滑り込ませた。

 意外に思ったゼロとフレンは目を丸くしており、ノイは渋い面持ちになっている。

 そんな男性陣に構うことなく、エリスは苦笑気味に口を開いた。


「ノイって本当に優しいんですよ。 わたし、彼がSCOをしてるって知らずに、MLOに興味があるって言っちゃって……。 そうしたら、迷わず一緒に始めるって言ってくれたんです。 凄く申し訳なかったですけど……嬉しかったです」

「エリス……」

「照れなくて良いじゃない。 本当のことなんだから」


 満面の笑みを湛えるエリスと、居心地悪そうに顔を背けるノイ。

 一方のゼロとフレンは顔を見合わせ、苦笑を漏らした。

 敵であることに変わりはないが、2人はノイとエリスを好ましい人物だと感じている。

 だからと言って譲ることは出来ず、回復を終えたフレンがゼロと並び立った。

 そして、自分に言い聞かせるように告げる。


「素晴らしい関係だと思う。 キミたちを倒すことを躊躇いそうになるほどだが……僕も負けられないんだ」

「そう言うこったな。 あんたらに恨みはねぇし、むしろ良い奴らだと思うぜ。 けどよ、これは戦争なんだよ」

「こちらに気を遣う必要はない。 どちらにせよ、勝つのは俺たちだが」

「ノイ、わたしも頑張るね。 一緒に、MLOに帰ろう」


 クラウソラスとエクスカリバーの、双剣を構えるフレン。

 進化した『闇丸』、『【隠刀】闇丸』を握り直すゼロ。

 短剣を構えつつ、ナーデを従えるノイ。

 力強く杖を持ち、使い魔であるチヒを顕現させたエリス。

 それぞれが全力を持って、最後の勝負に出ようとしていた。

 草原に風が吹き抜け、無言の時間が続き――


「はッ!」


 効果が復活していたクラウソラスにチャージしたフレンが、必殺のレーザーを放つ。

 狙いは、エリス。

 一直線に突き進んで来る光線を前に、彼女は1歩も動けない。

 いや、動かなかった。


「チヒ!」


 エリスの前に立ち塞がったチヒが、半球状のシールドを張る。

 その防御力は非常に高く、必殺の威力を持つクラウソラスの一撃を防ぎ切った。

 フレンは少なからず驚いていたが、動きを止めることはしない。

 次のプランとしてノイに駆け込み、双剣で斬り掛かる。

 対するノイは守りに回っていたが、時折わざと攻撃を受ける素振りを見せることで、フレンの勢いを止めていた。

 逆に言えば、フレンがノイの誘いを見破っていると言うことでもある。

 【カース】が不発に終わっていることに、ノイはフラストレーションを溜めつつ、冷静さは失っていない。


「行かせん」

「やっぱり、視野が広ぇな!」


 密かに自分をスルーしようとしていたゼロに、ノイがナーデによるレーザーと闇の弾丸を繰り出した。

 その全てを彼は短刀で弾いたが、その間にノイの接近を許してしまう。

 短刀と短剣が交錯し、互いに細かな傷を負った。

 だが、反射ダメージを受けるゼロの方が被害が大きく、完全に押し負けている。

 しかし、彼の顔には不敵な笑みが浮かんでおり、そのことをノイが訝しく思った瞬間――消えた。

 眼前で姿を消したゼロにノイは目を見開いたが、即座に答えを出す。

 敢えてその場を動かなかったノイの背後に出現したゼロが、【刹那の刻】で斬り裂いた。

 スキルの効果もあり、強烈な一撃となったゼロのアーツは、ノイのHPゲージを削り切る。

 同時に彼自身のHPも残り僅かになったが、これは覚悟の上だった。

 戦闘不能になったノイは、このままなら脱落する。

 しかし、彼女がそれを許さない。


「わたしだって!」


 エリスの【リザレクション】によって、ノイのHPが最大まで回復した。

 彼女の援護を確信していたノイは、既に攻撃に移っており、反転しながら短剣をゼロに突き出す。

 結局、ゼロの苦労は水の泡になったかに思われたが、今の彼は1人ではない。


「させるかッ!」


 エクスカリバーにチャージしたフレンが、巨大な光刃を振り下ろした。

 ゼロにトドメを刺そうとしていたノイを飲み込み、またしても彼のHPゲージを消し飛ばす。

 【カース】によってフレンのHPも3割に達したが、これでノイを連続で戦闘不能に追い込んだ。

 そして、エリスが【リザレクション】を再発動する為には、アイテムを使う必要がある。

 その隙に彼女を仕留めることで、この戦いはフレンたちの勝利に終わる―――はずだった。


「チヒ、お願い!」


 エリスの呼び掛けに応えたチヒが、光の粒子を彼女に浴びせる。

 フレンにはその意味がわからなかったが、否応なく思い知らされることになった。


「な……!?」


 あらんばかりに目を見開くフレン。

 彼の見る先では、またしてもノイが完全復活を果たしていた。

 種明かしをすると、エリスの使い魔であるチヒは、1度だけMP――CBOで言うAP――を回復する力を持っている。

 エリスはその切り札を使った訳だが、最高のタイミングだった。

 要するに、フレンとゼロからすれば、最悪のタイミングである。

 瞳に暗い炎を灯したノイが、決着を付けるべく指先をゼロに向けた。

 この距離で弾丸を避けるのは不可能に近く、ガードしたところで戦闘不能は免れない。

 その認識は全員に共通しており、ノイとエリスは心苦しく思いながら、ゼロを落とそうとしている。

 フレンはゼロが倒される前提で、限りなく勝率の低い戦いをどう進めるか、考え始めていた。

 そのとき――


「む……!」


 再びゼロが、ノイの目の前で消える。

 一瞬だけ驚いたノイだが、この挙動が【刹那の刻】だと知っている彼は、落ち着いて対処した。

 わざとこの攻撃を受けることで、【カース】によってゼロを脱落させる。

 そのあとはエリスと連携を取って、確実にフレンを追い詰めれば良い。

 ノイの考えは至極合理的で、そこに間違いなどないかに思われたが――


「え……?」


 草原にエリスの呆然とした声が流れる。

 その目は皿のように丸くなっており、ノイを真っ直ぐに見つめていた。

 そしてノイは顔を歪めて、エリスを――いや、その背後の人物を見ている。


「悪いな」


 ポツリと呟いたのは、【刹那の刻】でエリスの背を斬ったゼロ。

 彼の狙いは、最初からこれだった。

 【刹那の刻】は、瞬間移動して相手の背後から斬り掛かるアーツ。

 ただし、その射程は決して長くない。

 そうでなければ無双状態になるので、当然と言えば当然。

 しかし、隠密を使いこなしているゼロは、【刹那の刻】の射程を正確に把握しており、さり気なくエリスをその内に捉えたのだ。

 まさしく刹那の時間、空気が凍ったかのように静かになったが、真っ先に立ち直ったのはノイ。


「やめろぉぉぉッ!!!」


 恥も外聞もなく叫んだノイが、エリスとゼロに向かって駆け出す。

 そんな彼をエリスは涙ながらに見つめ――笑った。

 彼女の笑みを見たノイは瞠目し――


「終わりだ」


 無慈悲なゼロによる、【五月雨の如く】。

 背後判定で全弾を受けたエリスは、戦闘不能となって草原に倒れ伏した。

 いくら【リザレクション】が使えようが、それは他者に対してのみ。

 自分を癒すことは不可能。

 脱落した彼女は光となって、消滅した。

 ノイは光に向かって手を伸ばしたが、すり抜けて行く。

 全身から力が抜けたノイは、感情を失った顔で地面に膝を突き、項垂れた。

 勝負は終わったと判断したフレンは、沈痛な面持ちでノイを見つめている。

 勝ちを望み、全力を尽くしたが、なんともやり切れない気持ちだった。

 だが、ゼロはそこで止まりはしない。


「あとは、お前だけだな」

「ゼロくん……」

「何だよ、フレン? まさか、見逃すってんじゃねぇだろうな? だとしたら、少なくとも俺は今後SCOには協力しねぇぜ。 どんな事情があろうが、敵の主力を落とすチャンスをふいにするなんざ、あったら駄目なんだよ」


 ゼロに冷たい眼差しで貫かれたフレンは、口を堅く引き結んだ。

 彼とて、ゼロの言っていることが正しいとわかっている。

 それでも、大事な人を失ったノイに、追い打ちを掛けることを躊躇っていた。

 そんなフレンに嘆息したゼロは、仕方なく自らが手を下そうとしたが、その前にノイがゆらりと立ち上がる。

 まさかやる気なのかと考えたゼロとフレンは、それぞれの武器を構えて様子を見た。

 するとノイは短剣を振り上げ――自らの胸に突き立てる。

 思わぬ行動に唖然とするフレンと、厳しい顔付きのゼロ。

 2人を順に見つめたノイは、力ない声で告げた。


「エリスのいないこの世界に、意味はない。 俺は下りる」

「……僕たちを恨んでいるか?」

「心配するな、フレン。 俺たちは互いに退けない理由があった。 その結果衝突し、刃を交わし、俺たちが敗れた。 ただ、それだけのことだ」

「やけに物分かりが良いな。 フレンはともかく、不意打ちした俺のことは恨んで良いんだぜ?」

「ゼロ、そんなつもりはない。 エリスに手を掛けたのは許せんが……それもこれも、生存戦争のせいだ。 お前自身に非がある訳じゃない」

「……そうかよ」

「さて、俺のHPも尽きる。 皮肉ではなく、最後に戦えたのがお前たちで良かった。 ……生き残れよ」


 その言葉を最後に、清々しい笑みをこぼしたノイが脱落した。

 フレンは硬く拳を握って俯いていたが、ゼロはすぐに行動に移る。

 彼の肩をポンと叩いて、あくまでも事務的に言い放った。


「ご苦労だったな、フレン。 俺はケーキちゃんとAliceちゃんのとこに行くけどよ、お前はどうする?」

「……僕も行く。 他のSCOプレイヤーの様子を、見に行かなければならない」

「そうか。 言っておくが、お前は何も間違っちゃいねぇ。 堂々としていろよ」

「……意外と優しいんだな、キミは」

「な、何を言ってやがる。 ほら、行くぞ」


 誤魔化すように歩き出したゼロを、苦笑交じりに見つめるフレン。

 未だに完全には消化し切れていないが、SCOの代表として立ち止まる訳には行かない。

 そう誓ったフレンは深呼吸して、ゼロの背中を追い掛ける。

 こうして1つの戦いは幕を閉じ、別の戦いの終わりも近付いていた。

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