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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第24話 因果

 MLOに飛んだ雪夜が最初に思ったのは、同じ草原でもそれぞれ違うと言うことだ。

 CBOは強大なモンスターが闊歩している為、緊張感のある雰囲気。

 SCOは平和な場所だからか、爽やかな風が吹き抜けている。

 そしてMLOは、薄っすらと可視化出来る妖精らしきものが溢れる、幻想的な光景が広がっていた。

 新鮮な体験を、少しばかり堪能していた雪夜だが、やるべきことは忘れていない。

 遠くの森の中に見える大樹。

 そこが拠点の目印だと知っている彼は、真っ直ぐ――ではなく、迂回してから森に入った。

 流石の雪夜でも、真正面から単独でMLOに喧嘩を売るつもりはない。

 1人で来た甲斐もあって、今のところ気付かれている様子はなさそうだ。

 それでも気を抜かずに森を駆け抜けた彼は、決意を固めて拠点へと飛び込む。

 瞬間、防衛に当たっていた大勢のMLOプレイヤーが、驚いたように振り向いた。

 何事かを言おうとしていたが、先んじて雪夜が口を開く。


「現時点で交戦する気はない。 ペンタゴンのトップに話がある」


 敵意がないことを示すかのように、自然体で立つ雪夜。

 対するMLOプレイヤーたちは困惑した様子で、どう反応すれば良いのかわからないらしい。

 無理もないと思った雪夜は、言葉を追加しようとしたが――


「やれやれ、まさか貴方が乗り込んで来るとは。 ガルフォードさんも、こんな気分だったんでしょうか」


 仲間たちを掻き分けるように奥から現れたのは、空間の魔術師ダリアと、獄炎の魔女モエモエ。

 ダリアはモノクルの位置を整えつつ微笑を浮かべているが、目は全く笑っていなかった。

 モエモエは戦意に満ちた顔をしつつ、緊張していることを隠し切れていない。

 2人の近くでは、それぞれの使い魔が飛んでいる。

 今のところ両者とも戦闘態勢には入っていないが、ここからは何があるかわからないと、雪夜は警戒の度合いを最大限まで高めた。

 しかし、あくまでも話し合いの体勢を保ったまま、平坦な声を発する。


「もう知っているようだが、俺はCBOの雪夜だ。 そっちがモエモエで、お前がダリアか?」

「いかにも。 一応、貴方が会いたがっていた、ペンタゴンのトップですよ。 それで? たった1人で何の用ですか?」

「単刀直入に言う。 ひとまず、CBOとSCOから手を引いて欲しい。 そうすれば、俺たちもMLOを敵に回すのは最後にする」

「ほう? 理由を聞かせてもらっても良いですか?」

「俺たちがSCOに加担しているのは、知っているな? その状態でぶつかれば、互いに大きなダメージを受ける可能性がある。 ここまで言えば、あとはわかるだろう?」

「BKOやTHO、他のタイトルに狙われる危険が高まると言うことでしょう? 勿論、承知していますよ」

「話が速くて助かる。 なら、今すぐSCOに侵攻している連中を、撤退させてくれないか?」

「そうですねぇ……。 確かにSCOとCBOが組んでいるとなると、予定通りとは行かなさそうです。 わかりました、貴方の案を飲みましょう」


 ニコリと笑ったダリアの言葉を受けて、沈黙を保っていたモエモエや周囲のMLOプレイヤーがざわめく。

 だが、反対する者はおらず、ダリアの方針に従うつもりらしい。

 それを確認した雪夜は暫くダリアを見据えていたが、踵を返しながら言い放った。


「感謝する。 では、よろしく頼んだ」


 完全に背を向けた雪夜は、森の中に足を踏み入れようとして――横に跳ぶ。

 その直後、強力な重力場によって、寸前まで彼がいた地面が陥没した。

 先ほどよりも大きな動揺が辺りに走ったが、雪夜は何でもないようにダリアと相対する。

 彼の顔は相変わらず笑みを湛えており、悪びれることもなく言葉を紡いだ。


「避けられてしまいましたか。 流石ですね」

「ダ……ダリアさん!? 何をしているんですか!?」

「落ち着いて下さい、モエモエさん。 ただの作戦ですよ」

「作戦……?」

「はい。 折角敵の最高戦力が、自ら首を差し出しているんです。 ここを狩らなくてどうするんですか」

「で、でも、案を飲むって……」

「あぁ、あれですか。 嘘ですよ。 騙せたと思ったんですが、完璧に読まれていたようですね」


 肩を竦めて苦笑を浮かべるダリアを、モエモエと他のMLOプレイヤーは恐ろしく感じた。

 紳士的だと思っていたダリアが、息を吸うかのように平然と、嘘をつける人間だったことに衝撃を受けている。

 雪夜にその辺りの詳しい事情はわからなかったが、はっきり言えることもあった。


「悪いが、俺は裏切りに敏感なんだ。 初めて会ったときから、お前は信用ならない人間だと思っていた」

「裏切りに敏感、ですか。 中々、興味深い特性ですね。 そんなことより、どうするつもりですか? こちらにはペンタゴンが2人に、大勢のMLOプレイヤーがいます。 勝ち目があると思いますか?」

「いや、無理だな。 ペンタゴン2人だけでも、手に余りそうだ。 だが、逃げるだけなら何とでもなる。 それに、俺の予想が正しければ、そろそろだ」

「そろそろですって?」


 そこで初めて、ダリアの表情に変化が出る。

 片眉をピクリと跳ねさせて、怪訝そうな面持ちになった。

 彼の人間性にようやく触れた気分の雪夜だが、彼が答えを与えるより前に、事態は急展開を迎える。

 遠くから爆音が轟き、空気を震わせた。

 何事かと思ったモエモエとMLOプレイヤーは驚いていたが、ダリアは眉根を寄せて舌打ちしている。

 すると、爆音が鳴った方から走って来た男性プレイヤーが、慌てふためきながら叫んだ。


「ダ、ダリアさん、大変です! ビ、BKOとTHOが攻めて来ました! 四獣王のコースケとTETRAのEvolがいます!」


 雪夜が登場したとき以上に、その場が騒然とする。

 それも無理はない。

 ダリアであっても、このタイミングでの侵攻は、予想外の出来事だった。

 思わず歯軋りした彼だが、なんとか表情を取り繕って指示を出す。


「モエモエさん、仲間たちと一緒に迎撃に当たって下さい」

「わ、わかりましたけど、ダリアさんは?」

「わたしは、雪夜さんを始末してから合流します」

「い、今はそんな場合じゃなくないですか!? MLOが危険なんですよ!?」


 モエモエの意見は、至極真っ当だと言えた。

 他のMLOプレイヤーたちも、雪夜よりも防衛が優先だと考えている。

 ところが――


「うるさい! 言われた通りに動けば良いんだよッ! お前らは、僕の駒に過ぎないんだからなッ!」

「……ッ! ダリアさん……」

「良いから行けよ! MLOが終わるぞ!?」

「……わかりました」


 豹変したダリアに失望したように、モエモエは視線を切って走り出した。

 他のMLOプレイヤーたちも困惑しつつ、彼女に続いて行く。

 あとには、肩で息をしているダリアと、無表情の雪夜が残された。

 しばしの間、静寂が満ちていたが、おもむろに雪夜が口を開く。


「モエモエに賛成だ。 俺に構う暇があるなら、全力でMLOを――」

「黙れ! 僕に命令するんじゃない! これもお前の差し金なのか!?」

「差し金かと聞かれれば、答えは否だ。 ただ、俺たちがSCOの援護に回ったと知った他のタイトルが、守りが薄くなったMLOを攻めるかもしれないとは考えていた。 だからこそ、退くようにも言ったんだしな」

「クソ! どいつもこいつも、僕の邪魔ばかりしやがって!」

「何でもかんでも、自分の思い通りになると思っている方が馬鹿だ。 今からでも遅くない。 攻め込ませている連中を戻して、MLOを守った方が良いぞ」

「うるさいうるさいうるさい! お前の指図なんか受けるか! SCOとお前は落とす! その上でMLOも守ってやるよ!」


 モノクルを投げ捨てて、髪をグシャグシャにかき乱すダリア。

 まともな思考が出来ておらず、狂気すら孕んでいる。

 そんな彼を冷めた目で見た雪夜は嘆息し、刀に手を掛けながら言い放った。


「このままお前を残すのは、MLOの為にもならないかもしれないな」

「何だと!?」

「仲間に平気で嘘をつき、駒扱いする奴にリーダーは務まらないと言っている」

「舐めやがって……! ぶっ潰してやるッ!」


 叫喚を上げたダリアが右手を突き出すと、雪夜の周りの空間が歪んだ。

 それを察知すると同時に、【瞬影】を発動する雪夜。

 背後で何かがひしゃげるような音が聞こえたが、彼は気にせずダリアに斬り掛かる。

 その際、アイの動きにも注意を怠らない。

 MLOの使い魔はただのペットではなく、様々なサポート能力を持っているからだ。

 今のところ異常はないと判断した雪夜は、流れるような動きで抜刀したが――


「当たるかよ!」


 寸前でダリアが空間を渡り、別の場所に出現した。

 空振りに終わった雪夜だが、頓着することなく方向転換し、再び【瞬影】で接近。

 だが、進路上の空間に超重力が掛かり、彼を圧し潰そうとする。

 反射的に横に跳んだ雪夜は、その体勢のまま抜刀し、【天衝】を飛ばした。

 高速で飛来する真空刃を前にしてダリアはニヤリと笑い、またしても空間を渡る。

 離れたところに現れた彼を見据えた雪夜は、無感動に声を発した。


「なるほど、空間の魔術師と呼ばれるだけはある」

「ふん、すかしやがって。 飛び道具もあるみたいだけど、結局お前は斬るだけだろ? いくら強くても、それならやりようもあるってもんさ」

「確かに、ある意味でガルフォードよりやり難い。 だが、今のところ脅威は感じないな。 敢えて言うなら、性格の変貌が面白いくらいだ」

「どこまでもふざけやがって……! 良いよ、そこまで言うなら見せてやる! 僕の古代魔法をなぁッ!」


 唾を飛ばしながら叫んだダリアが、雪夜を睨み付ける。

 何が来ても対応出来るように備えた雪夜は、腰溜めに刀を構え――左腕が吹き飛んだ。

 微かに瞠目した彼だが、体は既に動いている。

 全力でその場を脱して、ダリアから距離を取った。

 対するダリアはニヤニヤと笑い、明らかに馬鹿にするように言葉を連ねる。


「どうかな、僕の古代魔法は? 何をされたか、わからなかっただろう? 安心しなよ。 すぐに他の部位も消して――」

「古代魔法、【イレイザー】」

「……は?」

「発動条件は、対象部位を使い魔が3秒間凝視すること」

「な、なんで……」

「制約は、いきなり頭部を吹き飛ばすなどの、致命傷を与えられないこと。 腕や脚など、最低2箇所は消滅させなければならない」

「なんでお前が知ってるんだよ!?」


 淡々と説明する雪夜に比して、ダリアは半狂乱だった。

 それも致し方あるまい。

 ここまで隠し続けて来た切り札を、呆気なく看破されたのだから。

 もっとも、これに関しては相手が悪い。


「因果なものだな」

「はぁ!? 何の話だ!?」

「いや、俺も開発したことがあるんだ。 その古代魔法を」

「は……?」

「だから、俺がMLOをプレイしていた頃に、開発したことがあると言っている。 まぁ、少し理不尽過ぎて面白くなかったから、ほとんど使わなかったが」

「う……嘘だ! 僕以外に、【イレイザー】の使い手がいるはずがない!」

「過去形だから、厳密に言えば今はお前だけかもしれない。 それにしても、懐かしいな」

「ぐ! け、けど、だから何だって言うんだ? どっちにしろ、この魔法を防ぐことなんて出来ない!」

「さぁ、どうだろうな。 難しいのは間違いないが、今の俺ならなんとかなりそうな気がする」


 珍しく挑発的な笑みを浮かべた雪夜が、隻腕のまま刀に手を掛けた。

 彼の迫力を前にダリアは気圧され、半歩後退している。

 それでも戦意は残っており、歯を食い縛って言い放った。


「調子に乗るな! 出来るもんなら、やってみろ!」

「言われなくても、そのつもりだ。 行くぞ、空間の魔術師。 お前にMLOは任せられない」


 ダリアとアイに意識を向けた雪夜は、全速力で駆け出した。

 迫り来る黒い死神を前に、ダリアは恐怖に支配されそうになったが、なんとかその場に踏み止まる。

 この辺りは、彼もペンタゴンとしての意地が勝ったと言えるかもしれない。

 遠くから爆音が響いて来ている中、雪夜とダリアの戦いは結末を迎えようとしていた。

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