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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第20話 逆撃

 数日後、この日は休日だった。

 午前中はスプリントクエストにこもっていた雪夜だが、昼食を兼ねた休憩をしてからは、勉強の時間にしている。

 黙々と机に向かい続け、ひたすら問題を解いていた。

 当然と言うべきか、彼にもわからない問題はあるものの、自力で調べて理解する力は持っている。

 そうして無音の自室で集中していた雪夜だが、16時を回った辺りで突如として静寂が破られた。

 スマートフォンが着信を伝え、手がピタリと止まる。

 ゆっくりと振り向いた彼はスマートフォンを取って、相手を確認した。

 そこには朱里の名前が表示されており、なんとなく事情を察した雪夜が苦笑しつつ、応答すると――


『悔しい~~~!!!』


 スピーカーから大音声が響く。

 事前にスマートフォンを耳から離していた雪夜は、鼓膜を死守しながら告げた。


「終わったのか?」

『うん……。 ベスト4止まりだったよ……』

「お前は1年生だ。 まだまだ、これからチャンスはある」

『そうかもしれないけど……。 う~、やっぱり悔しい~』


 顔は見えなくても、雪夜は朱里が涙目になっているのをわかっている。

 今日は以前に言っていた部活の大会だったのだが、優勝を目指していた彼女にとっては、本人の言う通り悔しい結果だったようだ。

 雪夜からすれば充分だと思いつつ、そのような慰めが通用する状態ではない。

 その代わりに彼は、別角度から声を掛ける。


「その気持ちがあれば、もっと上を目指せる。 俺も協力出来ることはするから、次も頑張れ」

『セツ兄……。 うん、頑張る……』

「良し。 じゃあ、今度何かご馳走してやろう。 ベスト4に残ったご褒美だ」

『ホント!? わーい! 何にしようかなー!』

「言っておくが、あまり高いのは駄目だぞ?」

『わかってるって! あ、そろそろ行かないと。 セツ兄、有難う。 お陰で、スッキリしたよ』

「気にするな」

『それと、改めてお願いなんだけど……』

「防衛だろう? 心配しなくても、可能な限りのことはする」

『うん……信じてる。 じゃあ、またね!』

「あぁ、またな」


 朱里が元気を取り戻したことに、微笑をこぼした雪夜。

 しかし、次の瞬間には厳しい面持ちを浮かべた。

 朱里が防衛に参加していないことを知られれば、SCOを狙っているタイトルは、まず間違いなく動く。

 雪夜はそう考えており、それは正しい。

 それゆえに彼は気を引き締めて、夕食や準備を終えてからCBOにログインした。

 ゲーム内の時間は夜で、空を見上げれば星の海が広がっている。

 その光景に微かに心を奪われつつ、周りのプレイヤーたちと軽く挨拶を交わしながら、雪夜はクリスタルを目指した。

 珍しく今日は彼が1番乗りで、ケーキやAlice、ゼロの姿がない。

 もしかしたら不参加かと思った雪夜だが、そうではなかった。


「ふ~、なんとか間に合ったね~」

「良かったな、Aliceちゃん。 俺もだけどよ」

「わたしは防具の強化値を8にするので精一杯でしたが、大きな進歩だと思います」

「うんうん! ケーキちゃんも、良く頑張りました!」

「あ、頭を撫でないで下さい……」


 賑やかに話しながら、ケーキたちが歩み寄って来た。

 内容からおおよそのことを悟った雪夜だが、ひとまずは挨拶をする。


「こんばんは、皆」

「あ、雪夜くん! こんばんは!」

「よう、雪夜。 なんとか、俺とAliceちゃんは武器を進化出来たぜ」

「そのようだな、おめでとう。 ケーキは、防具の最後の特殊能力を解放出来たみたいだな」

「はい。 これで次は、『プリンセス・フルール』の進化に注力出来ます」

「まぁ、それほど急ぐ理由はなかったんだけど、やっぱり速く進化させたかったしね~」

「だよな、Aliceちゃん。 今日の防衛に間に合わせる必要があったかわかんねぇけど、なんとなくな」


 満足そうな仲間たちを見て、雪夜も嬉しくなっていた。

 だが、すぐに思考を切り替えて、鋭い声を発する。


「いや、このタイミングで進化してくれたのは、正直なところ助かる。 ケーキの特殊能力解放に関してもそうだ」

「どう言うことですか?」

「まだ確定じゃないが、今日の防衛は注意が必要なんだ、ケーキ。 もっとも、危険なのはCBOではなくSCOだが」

「穏やかじゃねぇな。 SCOがどうしたんだよ?」

「ゼロ、今日はアリエッタが防衛に参加出来ない。 つまり、SCOを落とすチャンスだと言うことだ」

「え、そうなんだ! と言うことは……」

「優先するのはCBOだが、もしものときは俺は動く。 出来れば、皆にも手伝って欲しいが……」

「勿論です。 同盟を結んだときに、言ったではないですか。 わたしたちも協力すると」

「ケーキちゃんの言う通りだぜ。 雪夜、水臭いことを言ってんじゃねぇよ」

「ホントにね! むしろ、断られても付いて行っちゃうかも!」


 一切の躊躇もない3人に、雪夜は苦笑をこぼした。

 ただし、そう簡単な話ではないのも事実。

 その点をどうするべきか悩んだ彼は、難しそうな顔で口を開いた。


「皆の心意気は、有難いと思う。 だが、CBOを完全に空ける訳にも行かない。 だから、誰がどう動くかが問題だ」


 雪夜としては、あくまでもCBOの守りを重視しての言葉だった。

 ケーキたちも理解していたが、それを良しと出来ない者たちがいる。


「聞き捨てならねぇな」


 少し離れた場所から声が聞こえて、雪夜はハッとしながら振り向いた。

 そこには大勢のCBOプレイヤーの姿があり、全員が不敵な笑みを浮かべている。

 いまいち状況が理解出来なかった雪夜が黙っていると、腕を組んだ男性が鼻を鳴らしつつ言い放った。


「お前たちがいなかったら、CBOが危ないとでも思ってんのか? 自惚れてんじゃねぇぞ」

「まったくだぜ。 俺らが今まで、遊んでたとでも思ってんのか? ……いや、ゲームしてるのはそうなんだけどよ」

「ちょっと、今はそんなことはどうでも良いのよ! とにかく! あたしたちだって強くなってんだから、少しは頼りなさいよね!」

「そうよ! て言うか、SCOに貸しを作れるってんなら、万々歳じゃない?」

「だよな。 つーことで、そのときはお前らに任せるからな?」


 CBOプレイヤーたちの意志を聞いた雪夜は、僅かに目を見開いた。

 次いでEGOISTSの仲間たちを見ると、揃って笑顔で頷いている。

 そこに来て彼らの想いを受け取った雪夜は小さく苦笑し、はっきりと告げた。


「わかった。 SCOに何かあった場合、俺たちEGOISTSは動く。 だから、CBOは頼んだ」

「ふん、言われるまでもねぇっての。 お前ら、行くぞ!」


 リーダー格の男性に続く形で、プレイヤーたちが歩み去った。

 その背中からは闘志が感じられ、雪夜は頼もしく思っている。

 何にせよ懸念材料が減ったことに安堵した彼は、改めて仲間たちに方針を打ち立てた。


「そう言うことだ。 SCOが危険に陥ったら、俺たちで対処する」

「了解だぜ!」

「あはは! ちょっと楽しみかも!」

「Aliceさん、不謹慎ですよ」

「とか言いつつ、ケーキちゃんもやる気だろ?」

「ゼロさん……。 わたしは、手を抜かないだけです」

「それがやる気って言うんだよ! よ~し、皆で頑張ろ~!」

「おう!」

「……はい」


 拳を天に突き上げるAliceに倣って、ゼロも同じようにした。

 ケーキは言葉だけだったものの、右手が微かに動いたのを雪夜は見逃さない。

 内心で苦笑した彼は、静かにそのときを待つ。

 そうして19時を過ぎた瞬間、CBOに緊張が走ったが、今のところ変化はなかった。

 ところが、15分が過ぎた辺りで――


「……! あれは……MLOですか」

「だな、ケーキちゃん。 しかも、ペンタゴンが3人もいやがるのか……」

「みたいだね、ゼロさん。 雪夜くん、どうする?」


 配信をチェックしていたEGOISTSと他のプレイヤーたちは、すぐにMLOのSCOへの侵攻を察知した。

 ネーヴェとノイ、エリスに加えて、多数のMLOプレイヤー。

 本気でSCOを落としに来たと確信した雪夜は、すぐに動こうとしたが、寸前であることを閃く。

 そんな彼をケーキたちは不思議そうに見ていたが、彼は構わず思考を回転させて、覚悟を決めた口調で言葉を紡いだ。


「ケーキ、Alice、ゼロ、SCOを援護してやってくれ」

「そのつもりですが……雪夜さんは?」

「俺は――」


 雪夜の口から飛び出した宣言に、3人だけではなく周囲で様子を窺っていた、他のCBOプレイヤーもざわつく。

 しかし彼は断固たる決意を持って、強く言い切った。


「無茶はしないと約束する」

「はぁ~……。 その選択自体が無茶だって、自覚ないの?」

「すまない、Alice。 だが、今後のことを考えれば、これはチャンスでもある」

「だからって、危ないと思うけどな……」

「ゼロ、危険は百も承知だ。 それでも、やってみる価値はあると俺は思う」


 Aliceとゼロに控えめに止められても、雪夜が翻意することはなかった。

 それでも2人は、なんとか思い留まらせようとして――


「行ってらっしゃい、雪夜さん」

「……ッ! ケーキちゃん……」

「良いのかよ?」

「大丈夫ですよ、Aliceさん、ゼロさん。 雪夜さんなら、必ず帰って来てくれますから」


 花のような笑みを咲かせて、雪夜を送り出そうとするケーキ。

 しかし、その手は硬く握られており、強がっているのは明らか。

 そんな彼女の健気さを見たAliceとゼロは、顔を見合わせて盛大に嘆息する。

 そして、苦笑しながら釘を刺した。


「わかったよ、雪夜くん。 その代わり! 約束を破ったら、許さないからね!?」

「俺もだ! だから、絶対に戻って来いよ?」

「……あぁ、わかった。 皆も、くれぐれも気を付けてくれ。 では……行くぞ」


 雪夜の言葉を合図に、EGOISTSがウィンドウを開く。

 ケーキとAlice、ゼロにとっては初めての侵攻先を選択する画面で、どことなく緊張が見て取れた。

 だからと言って怖気付くことはなく、互いに視線を交換してからウィンドウにタッチする。

 それと同時にケーキたちはSCOに飛んだが、雪夜が選んだのは――MLOだった。

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