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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第19話 【葬衣】影桜

 迫り来る光線を回避して、前へ。

 背後から撃たれたが、姿勢を低くして更に疾走。

 右前方、左前方、右後方、左後方の、4方向からの一斉射撃を、跳躍することで躱した。

 真下からの光線は回避不能に思えたが、天井に足を着けて、前方にジャンプする。

 完璧な動きでスプリントクエストの通路を踏破した雪夜は、流れるような動作で【天衝】を右の壁に飛ばした。

 壁が斬り裂かれるのを確認する前に駆け出していた彼は、そのまま中に跳び込んで小道を行く。

 ここまで来ればあとは予定調和で、出口を斬り崩して通路に戻り、注がれる光線を【瞬影】で躱しつつ、即座にクリスタルに【閃裂】を放ち――


「やっとか……」


 100個めの『レジェンド・クリスタル』を入手した。

 これによって、UR装備をLR装備に進化させる権利を得た訳だが、雪夜の顔には厳しい表情が浮かんでいる。

 しばしゴール地点に佇んでいた彼は、無言で拠点へと戻って行った。

 その段階で大きく息をついた雪夜が目を転じると、そこには仲間たちの姿がある。

 華やかな笑みを湛えたケーキ。

 ニコニコとしたAlice。

 深い苦笑を漏らしているゼロ。

 更には、何かを期待している他のCBOプレイヤーたち。

 黙って自分を見ている彼女たちに雪夜も苦笑し、なるべく普段通りを装って告げた。


「100個集まった。 これで取り敢えず、1つはLRに出来る」

「わぁ! おめでとう、雪夜くん!」

「俺なんかまだ半分くらいだってのに、とんでもねぇな」

「雪夜さん、流石です。 同じパーティとして、誇らしく思います」


 万歳して喜びを表現しているAliceに、肩を竦めたゼロ、心底嬉しそうなケーキに祝福された雪夜は、少し恥ずかしそうに目を逸らした。

 他のCBOプレイヤーも「やっぱスゲェな」、「負けてられないよ!」などと、やる気を滾らせている。

 尚、スプリントクエストの攻略法に関して雪夜は共有しているが、やはり誰にでもクリア出来るものではない。

 戦闘力が関係ない一方で、極めて精密な動きを要求されるのだ。

 ある意味では、最もプレイヤースキルを要求されるクエストだと言える。

 ちなみに、戦闘AIであるケーキにとっては得意分野だが、彼女は装備経験値を溜めることを優先しているので、まだほとんど『レジェンド・クリスタル』は集まっていない。

 何はともあれ、雪夜は更なる飛躍を遂げようとしていた――が――


「問題は、どれを進化させるかだな……」

「あん? そんなもん、武器に決まってねぇか?」

「うんうん。 あたしも、そのつもりで集めてるよ」


 腕を組んで考え込む雪夜に、ゼロとAliceが不思議そうな目を向ける。

 他のプレイヤーも同意見のようだが、ケーキだけは何かを察しているようだった。

 それに気付いているのかいないのか、雪夜は淡々と自身の見解を語る。


「確かに、通常ならまずは武器からで良いと思う。 だが、今は生存戦争の真っ最中だ。 純粋な火力よりも、機動力などの方が重要になる可能性も捨て切れない」

「なるほどです……。 つまり雪夜さんは、『無命』と『影桜』で迷っているのでしょうか?」

「そう言うことだ、ケーキ。 最終的にはどちらも進化させるつもりだが、知っての通り時間は掛かりそうだからな。 ここでの選択は、重要かもしれない」

「う~ん。 そう言われると、迷っちゃうね」

「だな、Aliceちゃん。 それでも俺なら、武器を選んじまいそうだけどよ」

「ゼロ、それも決して間違いじゃないと思うぞ。 最終的には好みだと思うしな」


 雪夜の考えを聞いたケーキやAlice、ゼロ、そして周囲のプレイヤーたちも、何やら悩み始めたようだった。

 そのことに気付いた雪夜は、これ以上は混乱させかねないと思い、決断を下す。


「良し、『影桜』からにする」

「あ、そっちなんだ。 ちなみに、理由は?」

「大して深い理由はないぞ、Alice。 俺のビルドは元々火力特化だから、機動力を優先しようと思っただけだ。 どんな進化の仕方をするのかは、やってみないとわからないが」

「まぁ、言われてみれば、雪夜に今以上の火力が必要なのか、疑問ではあるしな」

「そうですね、ゼロさん。 もっと言えば、『影桜』の能力を踏まえれば、火力も伸びる可能性はあります」

「ケーキ、俺もそれは考えていた。 あわよくば、良いとこ取りを出来るかもしれない」

「よ~し! そうと決まれば、早速進化させようよ! 行こう、雪夜くん!」

「わかったから、落ち着いてくれ」


 Aliceに腕をグイグイ引っ張られた雪夜は、苦笑しながら付いて行く。

 その背後をケーキが不満そうに歩き、ゼロは苦笑していた。

 尚、他のプレイヤーたちもやはり気になるらしく、ゾロゾロと移動している。

 そのことに少し恥ずかしくなりつつ、雪夜は努めて気にしないようにして、鍛冶屋の前に立った。

 Aliceから解放されてウィンドウを操作すると、見覚えのない『装備進化』の欄が表示されている。

 人知れず、僅かにドキドキする雪夜。

 表面上は落ち着き払ったまま指を動かし、『レジェンド・クリスタル』を消費して『影桜』を進化させると――


「……思った以上だな」

「どうしたのですか、雪夜さん?」

「ケーキは防具の強化を優先した方が良いだろうが、なんとか頑張ってくれ。 それだけの価値はある」

「そんなに凄いんだ! ちょっと見せてよ!」

「俺も気になるな。 雪夜、良いか?」


 目を輝かせたAliceと興味深そうなゼロに請われて、雪夜は無言で頷いた。

 野次馬プレイヤーたちも期待しているのを悟った彼は、ウィンドウを拡大して、進化結果を全員に見えるようにする。

 そこには――


装備名:『影桜』→『【葬衣】影桜』


特殊能力

・被ダメージ10%上昇→被ダメージ20%上昇

・移動速度10%上昇→移動速度20%上昇

・回避時AP5%回復→回避時AP10%回復

・カウンター威力30%上昇→カウンター威力50%上昇


進化能力

・回避成功時に攻撃力1%上昇(最大50%)


 と、表示されていた。

 それを見たケーキたちを含めたプレイヤーたちが、どよめく。

 単純な防御力は据え置きのようだが、特殊能力が大きく強化されている上に、新たに進化能力まで追加された。

 その事実に全員が興奮しているようだったが、雪夜は釘を刺しておくことを忘れない。


「見ての通り、かなりの強化だ。 ただ全てのUR装備が、ここまでの恩恵を受けられるかはわからない」

「ん? どう言うことだよ?」

「ゼロ、特殊能力を見てみろ。 デメリットも増えているだろう? つまり、『影桜』はデメリットを更に負うことで、ここまで他の能力が強化されたんじゃないかと考えている」

「あ~、言われてみればそうかも。 でも、それを差し引いても楽しみ!」

「わたしもです、Aliceさん。 防具の特殊能力を全て解放出来たら、わたしも『プリンセス・フルール』の進化を目指します」

「ケーキは、その方針が正しいだろうな。 ……皆も、可能なら進化を目指して欲しい」


 雪夜の最後の言葉は、周囲のプレイヤーに対するもの。

 まだ照れがあるようで、視線を逸らしながらだったが。

 それを受けたプレイヤーたちは互いの仲間たちと視線を交換してから、ややぎこちなく口を開く。


「お前に攻略法を聞いたからな。 あとは、試行錯誤してなんとかしてみるぜ」

「そもそも強化値10のUR装備を持ってないと意味ないけど、頑張ってみるわ」

「これ以上、あんたに差を付けられる訳には行かないしね」

「おう。 「CBOはEGOISTSだけ」なんて、他のタイトルに言わせられねぇよ」


 次々にスプリントクエストを受注して行く、プレイヤーたち。

 それを見送った雪夜が苦笑していると、仲間たちが嬉しそうに声を上げた。


「良い傾向だね! その調子で、皆と仲良くするんだよ?」

「いやぁ、雪夜と他の連中が話してるのを見てると、なんか気分が良くなるぜ。 さてと、俺も行くか!」

「わたしはダンジョンに潜って来ます。 防具の強化値が優先なので」

「ケーキ、俺も付いて行って良いか? 進化した『影桜』を試したい」

「え……!? も、勿論です! 一緒に行きましょう!」

「む~。 ケーキちゃん、ズルい! だったら、あたしも――」

「待て待て、Aliceちゃん。 今はそんな場合じゃねぇだろ? 俺らも速く、進化させねぇとな」

「ゼロさん……。 う~、わかったよ~」


 涙目で唸るAliceの肩をポンと叩いたゼロが、苦笑しながらスプリントクエストを受注する。

 続いて無念そうなAliceも転移して、この場には雪夜とケーキだけが残された。

 顔を赤らめてモジモジしているケーキに、何とも言い難い目を向けていた雪夜だが、小さく嘆息しながら告げる。


「行こう」

「はい!」


 心の底から喜んでいるケーキに圧倒されつつ、雪夜はパーティを組んでダンジョンへと向かった。

 それから彼は、『【葬衣】影桜』の力を存分に堪能しながら、自身の動きをアジャストする作業に取り組む。

 こうして雪夜は1段階上の強さを手に入れ――運命の日が近付いていた。

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