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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第17話 暴走の代償

 雪夜がエスコートクエストに入り浸っていた頃、MLOではペンタゴンが集結していた。

 いつものように大樹の1室に集まり、まずは定期連絡から始める。

 最近は目立った動きをしていないこともあって、これに関しては大して言うことはない。

 むしろ、ダリアにとってはここからが本番だと思っていたが――


『会議中に失礼します』


 いきなり虚空にウィンドウが開き、高垣が顔を出した。

 驚いたモエモエとエリスが目を丸くしていた一方で、ネーヴェとノイは視線を鋭くさせている。

 ダリアは表面上は穏やかな笑みのままだったが、内心では思い切り舌打ちして鬱陶しく思っていた。

 しかし、そのような素振りは一切見せずに、平然と問い掛ける。


「これはこれは、高垣さん。 どうかされましたか?」

『いえ、大事な報告がありましてね』

「大事な報告、ですか。 取り敢えず聞きましょう」


 このときダリアは、反射的に眉を顰めそうになっていた。

 高垣は自信満々な様子で語っているが、それが余計に彼に不信感を抱かせている。

 それはダリアだけではなく、他のペンタゴンも同様だった。

 だが、高垣はそれに気付くこともなく、誇らしそうに言い放つ。


『今から、アップデートを行います。 これによって、MLOの戦力は飛躍的に向上するでしょう』

「え!? そんな急に……」

「モエモエの言う通りよ。 高垣さん、勝手な真似は慎んでもらえないかしら?」

『心配ご無用ですよ、モエモエさん、ネーヴェさん。 このアップデートを行えば、必ずやMLOは勝利出来るでしょう』


 心配そうなモエモエと、強い眼差しを注いで来るネーヴェをものともせず、高垣は自己陶酔しているかのようだった。

 そんな彼を見てノイとエリスは横目で視線を交換し、ダリアは笑顔の裏でますます苛立ちを募らせている。

 ところが、暴走した高垣は止まらず、遂にアップデートを実行した。

 MLO全域にその通知がなされ、ペンタゴン以外のプレイヤーたちも驚いている。

 そして、肝心のアップデート内容は――


「古代魔法を習得するアイテムを配布する、ボーナスクエストの実施だと……?」

『その通りです、ノイさん! クエスト難易度は低くしているので、実質的に全プレイヤーが古代魔法を習得出来ます! そうすれば、全員がペンタゴンと同等の戦力になるのですよ! 更に、既に古代魔法を習得している皆さんは、更なる力を手に入れると言うことです!』


 盛り上がっている高垣に比して、ペンタゴンは冷ややかな目を彼に向けていた。

 厳密に言えば、ダリアだけは変わらず微笑を湛えているものの、本音を言えば罵詈雑言を叩き付けたい。

 それほど、高垣の行いが愚かだとわかっている。

 何故なら、このようなあからさまなアップデートを、彼らが許すはずがないからだ。

 MLOの世界にアラート音が鳴り響き、各地にGENESISのマークが表示されたウィンドウが開く。

 この部屋も例外ではなく、高垣は呆然としていたが、ペンタゴンはむしろ当然だと感じていた。

 そうして温度差がある中、GENESISは無慈悲に告げる。


『常識の範囲を逸脱する、アップデートを検知。 直ちに無効化する』


 機械音声が流れると同時に、高垣が実装したボーナスクエストが消滅した。

 この結果がわかっていたペンタゴンは嘆息し、高垣は絶句している。

 もっとも、これで終わりではなかったが。


『ペナルティ発動。 今後、MLO運営のプレイヤーへの接触を禁ずる。 それに伴い、残りのアップデート権を失う』

「な!?」


 ようやく声を発した高垣だが、続きの言葉を述べることは出来なかった。

 呆気なく全てのウィンドウが消失し、部屋にはペンタゴンのみが残される。

 しばし無言の時間が続いたが、口火を切ったのはダリア。


「では、続いての議題に移りましょうか」

「あ、あの……。 高垣さんのことは……?」

「エリスさん、残念ではありますが、いなくなった人のことを考えても仕方がありません。 それでなくともわたしたちは、アップデート権がなくなってしまったのですから。 もっと、実りのある話をしましょう」

「お前に賛同したくはないが、確かにその通りだ。 高垣の余計な行動のせいで、俺たちは大きなアドバンテージをなくした。 このことは他のタイトルにも、知られていると思った方が良い」

「そうね、ノイ。 はっきり言って、SCOはともかくBKOとTHOよりは圧倒的に不利になったわ。 この2つのタイトルは、まだアップデート権を使っていないのだしね」

「ネーヴェさん……。 認めたくありませんけど、そうも行きませんね。 あたしたち、どうなっちゃうんでしょう……」


 ノイとネーヴェの客観的な意見を聞いたモエモエは、沈痛な面持ちで俯いた。

 エリスも似たようなものだったが、ダリアはあくまでも余裕の態度を崩さない。


「まぁまぁ、そこまで悲観する必要はありませんよ。 わたしたちには、そもそものアドバンテージがあるんですし」

「そもそものアドバンテージ? 何かしら、それは?」

「単純なことですよ、ネーヴェさん。 MLOの主力であるペンタゴンは5人。 それに対してBKOの四獣王とTHOのTETRAは、4人ずつ。 そして、1人1人の実力は拮抗していると、わたしは考えています。 つまり、最初からMLOは、戦力で勝っているんです。 当初はSCOが突出していましたが、今や七剣星は2人ですからね」

「で、ですが、わたしはあまり戦闘が得意じゃないです……」

「エリスさん、謙遜する必要はありませんよ。 確かに貴女は火力面では劣るかもしれませんが、それを補って余りある能力を持っています。 特にノイさんと組んだ場合、誰にも負けないと確信しています」

「当然だ。 エリスと俺は、最高のパートナーだからな」

「ノ、ノイ……」

「わぁ……熱々ですね! やっぱり、2人は付き合って――」

「モエモエ」

「う……。 じ、冗談ですよ、ネーヴェさん。 リアルの詮索なんて、しませんって」


 目を輝かせていたモエモエが、ネーヴェにジト目を向けられて慌てて取り繕う。

 そんな彼女に溜息を漏らしつつ、ネーヴェはダリアに尋ねた。


「それで? 今後どう動くかは決まっているの? 最近は敢えて、侵攻を抑えていたようだけれど」

「そうですね……。 前々からチャンスがあれば、SCOに攻め込む算段にはしていましたが、これからはそこに的を絞りましょう」

「ま、的を絞る、ですか……。 具体的にはどうするんですか……?」

「まず、基本的には防衛に徹するんです、エリスさん。 そうすることで少しでもチャンスがあれば、すぐに動けるようにします。 フレンさんかアリエッタさん、どちらかがログインしていないと判明した時点で、一気にSCOを落とします」

「放っておいても別のタイトルがSCOを落とすかもしれないが、俺たちが仕留めることで生存戦争の主導権を握る。 そして、他のMLOプレイヤーの士気も上げる……そんなところか?」

「流石はノイさん、ご名答です。 高垣さんによって、恐らくMLOプレイヤーはモチベーションが下がっているでしょう。 それを取り戻す必要がありますから」

「確かに、皆の様子は気になります……。 ダリアさん、ちょっと行って来て良いですか?」

「すみません、モエモエさん。 もう少しで終わるので、お付き合い下さい。 SCO侵攻のメンバーですが、ネーヴェさんとノイさん、エリスさんの3人を主体にしたいと思います。 言うまでもありませんが、他のMLOプレイヤーも一緒にです」

「わたしとノイ、エリスね……。 人選の理由を聞いて良いかしら?」

「勿論です。 わたしたちが攻めて来たと知れば、SCOは本気で防衛に当たるでしょう。 その中で最も厄介なのはフレンさん、もしくはアリエッタさん。 ここを、ノイさんとエリスさんで抑えてもらいます。 その間に、ネーヴェさんと他の仲間たちで、本拠地を攻めて下さい」

「抑える、か。 倒してしまっても構わないんだろう?」

「当然ですよ、ノイさん。 ただし、気を付けて下さい。 情報によると、フレンさんとアリエッタさんは、レジェンドソードを2本持っているそうですから」

「レジェンドソードを2本……!? だ、大丈夫でしょうか……」

「だからこそ、慎重に機会を窺っていたんですよ、エリスさん。 しかし、2本持っていようが相手は1人。 お2人が冷静に対処すれば、充分以上に渡り合えるはずです」

「……良いだろう。 その役目、引き受けてやる」

「ノイ……。 わかりました、わたしも頑張ります」

「頼みましたよ、ノイさん、エリスさん。 ネーヴェさんも、問題ありませんか?」

「1つ言っておくけれど、わたしは他のプレイヤーと連携を取ったりは出来ないわよ? それを踏まえた上で、一緒に攻める人を貴方が集めて頂戴」

「えぇ、わかりました。 モエモエさんは、お友だちと一緒にMLOを死守して下さい。 無論、わたしも全力を尽くしますよ」

「わ、わかりました、皆にも伝えておきます!」

「よろしくお願いします。 では、今日はここまでですね。 チャンスがいつやって来るかわかりませんが、それは明日かもしれません。 心の準備だけは、しておきましょう」


 モノクルの位置を直しながら、ニコリと笑ったダリア。

 それに対してネーヴェとノイは返事せず、モエモエとエリスはぎこちなく首肯した。

 4人の反応を見届けたダリアは、ウィンドウを開いてログアウトする。

 今日も彼は、完璧なリーダーとして役割を果たしたが――


「クソッ! 高垣の奴、マジで余計なことしやがってッ!」


 現実に戻ってベッドから起きると同時に、強烈な悪態をついた。

 その顔は真っ赤に染まり、怒りの形相を浮かべている。

 ダリアではなく弘和としての彼は、かなり感情を露わにするタイプだ。

 暫くは怒りが収まらなかった弘和だが、ようやくして落ち着きを取り戻す。

 それでも不愉快そうにベッドから下り、足元に散乱したゴミを乱暴に蹴り飛ばした。

 パソコンを立ち上げた彼はドカッと椅子に座り、モニターと向き合う。

 アップデート権がなくなったことで、作戦の変更を余儀なくされたのだ。

 苛立たしそうにキーボードを叩いていた弘和だが、半ば無理やり笑みを浮かべて言い放つ。


「まぁ良い。 痛手なのは間違いないが、予定自体はそのままだ。 SCOを落として、生存戦争を牛耳る。 BKOとTHOが潰し合うのが理想だけど、そこはどうなるかわからないな。 ネーヴェたちが攻めている間、MLOの守りが手薄になるから、流石に僕も動く必要があるだろうね。 面倒臭いけど、やるしかないか」


 ブツブツ呟きながらも、頭の中で方針を固めて行く弘和。

 だが、彼は知らない。

 THOが、BKOに同盟を持ち掛けたことを。

 そして、SCOとCBOが繋がっていることも。

 こうしてMLOを中心に、生存戦争の勢力図が書き換わろうとしていた。

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