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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第16話 スプリントクエスト

 次期生徒会長と決まったからと言って、雪夜の日常が大きく変わることはない。

 少しばかり話題が続きはしたが、それも放課後には沈静化していた。

 そのことに対して彼は特に何を思うでもなく、既に気持ちは生存戦争に向いている。

 いや、より正確に言うなら、今日に限ってはCBOのアップデートを純粋に楽しみにしていた。

 少年のように――実際に少年だが――気分が昂るのを抑えて、防衛に臨む。

 ケーキは落ち着いていたが、Aliceとゼロはワクワクを隠そうともしていない。

 防衛自体には真面目に取り組んでいたが、終始アップデートを話題にしていた。

 そうしているとあっと言う間に時間が過ぎ、22時になると同時に――


『アップデートを実行しました。 繰り返します、アップデートを実行しました。 繰り返します――』


 CBOの世界に機械音声が流れる。

 それを確認した雪夜たちが、我先にとウィンドウを開くと、見慣れないクエストが追加されていた。


「スプリントクエスト?」

「みてぇだな、Aliceちゃん。 スプリントって、短距離走とかのあれか?」

「確かに、ゼロさんが言ったような意味で使われることもあります。 とは言え、本当にただ走るだけとも思えませんが……」

「ケーキ、こればかりは受けてみないとわからない。 受注条件は……UR装備を、1つ以上装備していることか。 参加人数は1人だから、それぞれで頑張るしかない」

「そうなるね、雪夜くん。 うぅん、皆と一緒なら、安心だったんだけどな~」

「甘えないで下さい、Aliceさん。 それに……貴女なら大丈夫ですよ」

「ホント? ケーキちゃんにそう言われちゃったら、気合い入っちゃうね!」

「はは! 現金だな、Aliceちゃん。 さて、そんじゃ行ってみっか?」

「そうだな、ゼロ。 皆、幸運を祈る」


 雪夜の言葉を最後に、4人が視線を交換してから、スプリントクエストを受注する。

 瞬間、その姿が掻き消えて、雪夜が立っていたのは、石造りの通路のようなところだった。

 横幅はそれなりにあるが、天井はさほど高くない。

 しかし、前方は先が見えないほど、一直線に続いている。

 足元には白線が引かれており、背後を振り返ると行き止まりになっていた。

 つまり、前に進むしかないと言うこと。

 更にもう1つ、気になるものがある。

 それは、視界右上に表示されている、『0:00』と言う数字だ。

 ほぼ間違いなく時間を計測するもので、雪夜は白線が引かれていることもあって、ますます陸上競技のようだと感じている。

 もっとも、ただ走るだけとは思えないが。

 一通りの状況を確認した雪夜は、ひとまずスタートしてみようとしたが――


『目標を破壊して下さい』


 唐突に、そのような機械音声が聞こえる。

 咄嗟に構えた雪夜だが、見える範囲にそれらしきものはない。

 そうなると結局、この通路を進むしかないだろう。

 しかも、タイマーがあることを考えれば、可能な限り速く。

 小さく息を吐いて呼吸を整えた雪夜は脚に力を込め――疾駆。

 まずは何も考えずに、全力疾走を敢行した。

 『影桜』の特殊能力もあり、現実ではあり得ない速度で通路を踏破し、スタート地点がどんどん遠くなる。

 だが、景色は変わり映えせずに、延々と石造りの通路が進んでいた。

 そのまま10秒ほど走り続けた雪夜だが、ようやくして変化が出始める。

 前方の通路に夥しい数の光玉が浮かんでいるのを見て、警戒心を最大限まで高めた雪夜。

 光玉はゆっくりと移動しているものの、今のところ何の脅威も見当たらない。

 雪夜はそう判断しそうになったが、その前に光玉が発光し――射出。

 数え切れない光線に曝された雪夜は、急ブレーキを掛けて、必死に回避行動に移った。

 ところが、全てを完璧に避けることは叶わず、仕方なく刀で弾き――


「……! やってくれる……」


 スタート地点に戻される。

 忌々しく思った雪夜だが、それとは裏腹に獰猛な笑みが浮かんでいた。

 また、ここに至ってスプリントクエストの意味も、おおよそ把握している。

 要は障害物を乗り越えた先にあるだろうターゲットを、破壊しろと言うことだ。

 ひとまずの結論を出した雪夜は、先ほどの一幕を思い返す。

 直撃ではなく刀で防ぐことすら許されないと言うことは、完全回避するしかない。

 その為には、何度も挑戦して最適な動きを探る必要があった。

 決意を新たにした雪夜は、それから何度も繰り返して通路を走り続ける。

 何度やっても、すぐにスタート地点に戻されていたが、彼に焦りはなかった。

 ここまで続けたことで、様々なデータを得ることに成功しているからだ。


「光玉の動きは不規則なようで、実はある程度法則性がある。 光線が撃ち出されるのは、光ってから約0.3秒後。 撃ったあとは約1秒間止まる。 軌道は直線のみ。 まともに行っても突破は出来ないが、光玉の位置を調整して光線を撃たせれば……」


 おとがいに手を当てて、ブツブツと呟く雪夜。

 控えめに言っても怪しいが、彼は極めて真剣。

 その後、方針を固めた雪夜は、少しずつ前進し始める。

 僅かに進んでは戻されるのを繰り返しつつ、着実に攻略して行った。

 こうして、一足飛びの成果を求めるのではなく、地道な作業が出来るのは、雪夜の持つ大きな能力の1つだと言える。

 正面からの光線を右に転身しつつ躱し、1歩前へ。

 そこを左右から狙い撃たれたが、飛び込み前転する要領で更に進んだ。

 起き上がる体勢を作る頃には、低い位置から一射が襲い掛かって来たが、軽く跳躍することで避ける。

 見てから動くのではなく、全てを読み切っての行動だ。

 すると遂に、ターゲットだと思われる、大きな水晶を視界に捉える。

 通路の奥に鎮座しており、雪夜はもう一息だと自身を叱咤した。

 しかし、そのとき――曲がる。

 それまで真っ直ぐにしか撃たれなかった光線の中に、湾曲するものが混ざり始めた。

 予想外の事態に目を見開いた雪夜は、あえなく被弾してしまう。

 当然、スタート位置に戻され、これまでの苦労が水泡に帰した。

 それでも彼が挫けることはなく、ニヤリと笑って言い放つ。


「これまでは戦闘面での嫌がらせが多かったが……面白い。 流石はCBO運営だと言っておこう」


 むしろやる気を漲らせた雪夜は、生存戦争のことも学業のことも忘れて、スプリントクエストにのめり込んだ。

 時間も忘れて走り続け、少しずつパターンを解析し、突破する道筋を見付けて行く。

 光線が曲がるエリアに差し掛かってもそのスタイルは変わらず、次第にゴールのクリスタルに近付きつつあった。

 そしていよいよ、ゴール地点に到着しようとしたが――


「な……!?」


 目の前に壁が出現し、行く手を阻まれてしまう。

 流石の雪夜も驚愕の声を漏らし、背後から光線に撃たれてスタート地点に戻った。

 何が起こったのかわからなかった彼は、しばし無言で佇んでいたが、あることに気付く。

 視界の右上に映るタイマーが、『10:00』で止まっていたのだ。

 つまりこれは、タイム測定ではなく制限時間を表すもの。

 その事実を悟った雪夜は苦々しい面持ちを浮かべたものの、深呼吸することですぐに落ち着きを取り戻す。

 嘆いたところで意味はない。

 むしろ、新たな情報が手に入ったと思うべきだ。

 前向きに考えた雪夜は、改めて思考の海に沈む。

 これまで通りのルートで走っても、恐らく間に合わない。

 だが、雪夜は自分なりに、最適解を選び続けて来たつもりだった。

 もしかしたら、まだ改善点があるのかもしれないが、彼の直感はそうではないと告げている。

 だからと言ってすぐに答えが出ることはなく、ひとまず新たな道を探すべく、疾走を再開した。

 ところが、どうしてもギリギリで時間切れになる。

 聡明な雪夜の頭脳をもってしても、手詰まりになりつつあったが、彼は諦めない。

 焦らず、淡々と、ひたすらに解を求め続けた。

 何度やり直すことになっても、放棄することなく取り組み続ける。

 踏破の理論値を叩き出すつもりで脚を動かし続けていた雪夜だが、彼も人間であることに変わりはない。

 VRなので体力的には平気だが、精神が摩耗して行き、ほんの一瞬だけ集中力が途切れた。

 通路の5分の4を過ぎた辺りで、僅かに体勢が崩れ、最適ルートから逸れてしまう。

 小さく舌打ちした雪夜だが、最後まで走り抜けようとして――気付いた。

 壁の1箇所に、微かな亀裂が走っていることに。

 即座に思考を回転させた彼は抜刀し、【天衝】を繰り出す。

 飛翔した斬撃は、狙い違わず壁を斬り裂き、その奥に小道が姿を現した。

 思わず苦笑した雪夜だが、すぐさま表情を引き締めて小道に跳び込む。

 小道は『コ』の字のように続いており、光玉の妨害はない。

 自由に走れることの有難みを痛感しつつ、雪夜は全速力で駆け抜け、突き当りを刀で斬り崩した。

 そこはゴールの目の前であり、出ると同時に数多の光線に襲われたが、その程度は予測済み。

 【瞬影】で加速した雪夜は光線を置き去りにして、ゴールへと突き進んだ。

 そのときには別の光玉が、彼に狙いを定めていたが――


「やれやれだ」


 【閃裂】によってクリスタルが砕かれ、綺麗な欠片が散る。

 すると、全ての光玉が消滅し、『Quest Clear』の文字とファンファーレ。

 間違いなく、スプリントクエストをクリアしたことを確認した雪夜は、安堵から大きく溜息をついた。

 チラリとタイマーを見ると、『8:32』と表示されている。

 どうやら、最適解を選んだ上で小道の存在に気付ければ、間に合う設計になっていたらしい。

 CBO運営のいやらしさに苦笑した雪夜は、ウィンドウを開いた。

 クリア出来たのは良いが、問題はLRへの進化条件が整ったかどうかである。

 どことなく緊張した面持ちで所持品を確認した雪夜だが、装備品には特に変わりはなかった。

 しかし、見慣れないアイテムが1つ追加されている。

 名前は『レジェンド・クリスタル』。

 これが進化素材だと思った雪夜は、早速説明文を読んでみた。


「『UR装備をLR装備へ進化させる為に必要な、クリスタルの欠片』……なんとも直球だな」


 このとき雪夜は、苦笑を漏らしつつ内心で喜んでいた。

 自身の苦労が報われ、新たな力が手に入ると確信したからだ。

 だが――


「必要個数、100個……だと……?」


 馬鹿げた現実に直面して、唖然とする。

 この苦行を、あと99回も繰り返せと言うのかと、CBO運営に文句を言いたくなったが、寸前で考えを改めた。

 初回は攻略に苦戦したが、次からはもうルートも確立している。

 それゆえ、意外と楽かもしれないと思った雪夜だが、なんとなく嫌な予感が過った。

 まさかと思いつつ受注し直した彼は、意を決したかのように足を踏み出したが――


「……やはり、か」


 少し進んだだけで止まる。

 その顔には憮然とした表情を湛えており、腹立たしそうに光玉の群れを見つめていた。

 断っておくと、光玉の種類や数は変わっていない。

 ただし、動きのパターンが初回と違う。

 要するに、また最初からルートを調べる必要があると言うことだ。

 その事実にゲンナリとした雪夜だが、なんとか頭を切り替える。


「面倒ではあるが、大枠の攻略法は同じのはず。 むしろ、この程度の手間がなければ、飛躍的な強化は見込めない。 ある意味、貴音ちゃんたちには感謝しなくてはな」


 口にすることで無理やり自分を納得させた雪夜は、盛大に嘆息してから2度目の挑戦を始めた。

 それから彼は、限界ギリギリまでスプリントクエストに潜り続け、『レジェンド・クリスタル』を集め続ける。

 こうしてCBOが良いか悪いか評価の難しいアップデートを行っていた頃、奇しくもMLO運営である高垣も動きを見せていた。

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