第14話 CBOの一員
エスコートクエストが終了して数日。
生存戦争の情勢は、比較的穏やかだった。
MLOもBKOも侵攻の度合いが落ちており、全体的に静かな日々が続いている。
しかし雪夜は、それが嵐の前の静けさに思えてならなかった。
夕方の勉強を終えた彼は、頭の片隅でそのようなことを思いながら、CBOにログインしようとしたが――
「……! これは……」
スマートフォンが震える。
生存戦争関連の情報かと思った雪夜だが、表示されていたのは、CBOの公式アカウントからの通知。
即座に内容を確認したところ、『22時に重大発表!』と言う一文が綴られていた。
今は生存戦争と言う特殊な状況ではあるが、元来がゲーマーである雪夜は気分が高揚している。
何より今の彼には、それを分かち合う仲間たちがいた。
逸る気持ちを抑えてベッドに横になった雪夜は、デバイスを装着して起動ボタンを押す。
すぐさま拠点である町に足を着け、何も考えずにクリスタルに向かったが、その道中に驚くべきことが起こった。
「……よう」
名も知らぬ男性プレイヤーから、不愛想ながら挨拶された雪夜。
思わず目を見開いて立ち止まっていると、そのプレイヤーはそそくさと歩み去る。
我に返った雪夜は慌てて返答しようとしたが、既に遠くへ行ってしまった。
未だに衝撃を受けていた彼だが、これはまだ始まりに過ぎない。
「……こんばんは」
「……今日も頼むぜ」
「……お前にだけ任せるつもりはねぇけどな」
全員が何かを抱えながらも、間違いなく雪夜に声を掛ける。
エスコートクエストの情報共有の際に、彼が的確にアドバイスしたことが切っ掛けとなり、彼らのわだかまりが溶けようとしていた。
それは昨日今日の話ではなく、これまでの雪夜の行動が積み重なったからこそ。
その事実に思い至った彼は、珍しく照れたように顔を背けながら、敢えて淡々と言い返す。
「こんばんは。 よろしく頼む」
プレイヤーたちから返事はなかったが、雪夜はそれで良いと思っている。
足早に歩き出した彼が、クリスタルに到着すると、微笑を浮かべたケーキとニコニコ笑ったAlice、ニヤニヤ笑ったゼロに出迎えられた。
理由をわかっている雪夜は、なんとなく憮然としながら咳払いをし、ひとまず挨拶を交わす。
「コホン……皆、こんばんは」
「こんばんは! いや~、良かった、良かった! やっと雪夜くんも、CBOの一員になったって感じだね!」
「ホントそれな、Aliceちゃん。 なんつーか、雛鳥の成長を見届けた親鳥の気分だぜ」
「ゼロさんの感覚は良くわかりませんが、わたしも嬉しいです。 雪夜さん、今日から改めて頑張りましょうね」
仲間たちに周囲との変化を思い切り指摘された雪夜は、恥ずかしさからそっぽを向いて沈黙した。
この辺りは、彼もまだ年相応の少年らしいと言えるかもしれない。
そんな雪夜の反応に、ケーキたちは苦笑を浮かべていたが、喜んでいるのは確か。
だが、いつまでも引き摺る雪夜ではなく、なんとか気を取り直して口を開く。
「皆、運営からの告知は見たか?」
「おう、見たぜ。 重大発表だってな」
「内容はわかりませんが、恐らく貴音ちゃんの言っていたアップデート関連だと思われます」
「だよね、ケーキちゃん! どんなのか気になる~!」
「Alice、気持ちはわかるが、まずは防衛だ」
「わかってるよ! 雪夜くんだって、気になって仕方ないくせに~」
「そんなことは……ないぞ?」
「嘘つけ! お前がソワソワしてることくらい、わかってるっての!」
「ふふ……雪夜さん、隠さなくても良いと思います」
「……そろそろ始まるから備えろ」
「あ、誤魔化した」
「誤魔化したな」
「誤魔化しましたね」
Alice、ゼロ、ケーキからツッコまれた雪夜だが、努めて無視を決め込んだ。
3人は顔を見合わせて苦笑していたが、決して雰囲気は悪くない。
むしろ、緊張感と高い戦意、和気藹々とした雰囲気が同居している。
それは周りのプレイヤーにも伝染しており、今やEGOISTSはCBOの象徴となっていた。
そうして今日も防衛時間は無事に過ぎ去り、時計が22時を示すと同時に、CBO公式アカウントから通知が入る。
「来たな」
「はい、雪夜さん」
「サッサとチェックしようぜ!」
「うんうん! 何だろうな~」
雪夜たちだけではなく他のプレイヤーも一斉に内容を確認した。
そこには――
「え!? URの上のレジェンドレア、LR解禁!?」
「マジかよ……。 どんだけドロップ率低いんだ……?」
「待て、ゼロ。 どうやら、直接ドロップする訳じゃなさそうだぞ」
「そのようですね、雪夜さん。 詳細は伏せられていますが、既存のURを鍛えることで進化させるようです」
「どっちにしろ~……。 苦行なんだろうね~……」
「諦めろ、Alice。 貴音ちゃん……いや、CBO運営はそう言うところだ」
「まぁ、覚悟しておくようにって言ってたしな。 で? いつから実装なんだよ?」
「明日の22時からですね。 急ではありますが、待たされるよりは良いかもしれません」
「ケーキの言う通りだな。 何をさせられるか知らないが……明日にはわかることだ」
「あ、雪夜くん、ベルセルクの顔になってる」
「……気のせいだ、Alice」
「いーや、なってたな。 ホント、どんだけ戦闘が好きなんだよ」
「そうは言うがゼロ、CBOプレイヤーは似たようなものじゃないか?」
「雪夜さんは、その中でも飛び抜けているのです。 わたしは良く知っています」
「ケーキ……。 とにかく、今はこれと言って出来ることはない。 いつも通り、装備の経験値を稼ぎに行こう」
「だね~。 LRか~、どんな性能か楽しみ!」
「Aliceちゃん、すぐに手に入るとは思わない方が良いぜ?」
「わかってるって、ゼロさん! でも、楽しみなのは楽しみなの!」
「わかりましたから、行きましょう。 時間は有限なのですから。 雪夜さん、お願いします」
ハイテンションなAliceを宥めたケーキに促されて、雪夜は近くのポータル端末にアクセスした。
パーティを組んでいる彼らは一斉に転移し、狩場としている最難関ダンジョンに向かう。
こうしてCBOは新たな境地へと到達するのだが、本当の意味でそれが可能なのは、極めて限られた者だけだった。




