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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第8話 いつも通り

 アリスとの騒動に巻き込まれた雪夜だが、その後は無事に帰宅して朱里と食事をともにした。

 オムライスの美味しさを堪能した彼女は、午後からも勉強に励み、かなりの手応えを得たらしい。

 そのことに雪夜も満足しており、夕方にまで勉強会は続いた。

 すぐそこではあるが、朱里を家まで送った雪夜は、淡々と告げる。


「今日は良く頑張ったな。 その調子で続けてくれ」

「うん、有難う。 まぁ、セツ兄と一緒だったからだと思うんだけど……」

「俺は少し手を貸したに過ぎない。 朱里なら、自分で努力出来る。 自信を持て」

「あはは、セツ兄にそう言ってもらえたら嬉しいな。 でも……たまには、また付き合ってくれる?」

「勿論だ。 俺にとっても、有意義な時間だしな」

「有意義、か……」

「朱里?」


 雪夜の率直な言葉に、朱里は微かに寂しそうな笑みを作った。

 そのことを疑問に思った雪夜だが、理由がわからず黙ることしか出来ない。

 しかし、立ち直った朱里は別の話題を口にする。


「それより今度、部活の大会があるんだよね。 場所が遠いから、防衛に間に合わないかも……」

「こればかりは仕方ないな。 リアル事情を優先するのは、当然のことだ」

「そうなんだけど……。 うーん、いっそ休んじゃおうかな……」

「それは駄目だ。 いくら生存戦争を頑張ると言っても、リアルを犠牲にするのは間違っている」

「セツ兄の言ってることは、正論だと思う。 でも、今のSCOからあたしが抜けたら……」

「俺たちがいる」

「え?」

「忘れたのか? 俺たちは、限定的とは言え同盟を結んでいる。 朱里がいない間に何かあっても、なんとかしてみせる」

「……CBOも同時に襲われたら?」

「それも含めて、考える」

「そっか……」


 泰然とした雪夜を前に、朱里は心底安堵したように息をついた。

 そして、ニコリと笑って声を発する。


「うん。 セツ兄たちが手伝ってくれるなら、何の心配もいらないね」

「そう言うことだ。 わかったら、大会に向けて練習も頑張れ」

「ゲームに勉強に部活にって、あたし頑張り過ぎじゃない?」

「自分で選んだことだろう?」

「そうだけど……」

「冗談だ。 朱里は、良く頑張っている。 幼馴染として、誇らしい」

「幼馴染としてね……」

「どうかしたか?」

「ううん、何でもなーい。 じゃあね、セツ兄! 今日は有難う!」


 そう言って踵を返した朱里は、家の中に入って行った。

 見送った雪夜は小首を傾げつつ、自宅へと向かう。

 やるべきことを終えた彼は、CBOにログインした。

 日常となった感覚を経て町に足を着け、即座にクリスタルを目指す。

 定番となりつつあるが、既に他のEGOISTSメンバーは揃っており、周囲には他のプレイヤーたちの姿もあった。

 彼らもすっかり慣れたもので、雑談混じりに防衛時間を待つゆとりさえ生まれている。

 決して油断している訳ではなく、オンとオフの切り替えが上手くなっていた。

 辺りを眺めていた雪夜は足を進め、いつもの如く挨拶をしたのだが――


「皆、こんばんは」

「雪夜さん、こんばんは。 お待ちしていました」

「おう、雪夜! 今日も張り切って行こうぜ!」


 花のような笑みを咲かせるケーキと、快活に笑うゼロ。

 ところが、Aliceから返事はなかった。

 そのことに2人も不思議そうにしていたが、雪夜はなんとなく事情を察している。

 だが、そこに踏み込むことはせず、あくまでも仲間として接した。


「Aliceも、こんばんは」

「こ、こんばんは……」


 頬を朱に染めたAliceが目を泳がせながら、辛うじて返事する。

 彼女の態度を不審に思ったケーキとゼロは、顔を見合わせて頭上に疑問符を浮かべていた。

 この時点で雪夜は、Alice=アリスだと確信していたものの、だからと言って何かを変えるつもりはない。

 彼にとって彼女は、アイドルである前に仲間だからだ。


「皆、他のCBOプレイヤーへの説明は終わったのか?」

「あ、はい。 全員かどうかはわかりませんが、可能な限りは伝えました」

「有難う、ケーキ。 情報が出回ったのは最近だから、まだ大きな被害は出ないはずだ」

「にしても、偽情報の内容がいやらしいよな。 絶対に嘘だってバレるほどじゃなく、実際にあり得そうなんだからよ」

「確かにな、ゼロ。 まぁ、それくらいじゃなければ、意味はないが」

「違ぇねぇ」


 雪夜の言葉を受けて、苦笑気味に肩をすくめるゼロ。

 相変わらずAliceは挙動不審で、ケーキとゼロはそのことに言及しようとしたが、その前に雪夜が口を挟んだ。


「そろそろ時間だ。 皆、集中しよう」

「はい、雪夜さん」

「なんとなく、今日も無事に終わりそうだけどよ。 なぁ、Aliceちゃん?」

「え……? あ……そ、そうだね、ゼロさん!」


 話を振られたAliceは、なんとか笑顔を取り繕ったものの、どう見てもおかしい。

 ケーキとゼロは不審を通り越して心配になっていたが、雪夜に視線で詮索を止められる。

 仕方なく言葉を飲み込んだ2人を含めて、EGOISTSは戦闘態勢に入った。

 結果として今日も侵攻はなく、一方でMLOとBKOは猛威を振るっている。

 それ自体はいつも通りだが、相変わらずAliceの様子が変なまま。

 どうしたものか雪夜が悩んでいると、ゼロが行動に出た。


「ケーキちゃん、ちょっと見回りに付き合ってくれねぇか?」

「え? 見回り、ですか?」

「おう。 ずっとジッとしてるのも暇だしな。 てことで、雪夜、Aliceちゃん、10分くらいで戻るぜ。 行くぞ、ケーキちゃん」

「……わかりました」


 ゼロが何を考えているか、漠然と悟ったケーキは、逡巡した後に了承する。

 歩み去るゼロは顔だけで雪夜に振り向き、意味ありげに笑っていた。

 対するケーキは不安を隠せないまま、雪夜にペコリと頭を下げている。

 仲間たちに気を遣わせたと思った雪夜は苦笑し、リーダーとして状況改善に努めようと考えた。

 Aliceも状況は把握しているようで、恥ずかしそうに俯いている。

 どう切り出すべきか雪夜は迷いつつ、単純な方法を選択した。


「あのあと、何ともなかったか?」

「……ッ! な、何のことかな?」

「誤魔化さなくて良い。 どうしても話したくないなら、ここで終わるが」

「う……。 流石に、わかっちゃうよね……」

「映像やポスターで見るだけなら、確信までは持てなかったんだがな。 実際に会ったとなれば、話は別だ」

「凄いね……。 ファンの人たちにだって、バレたことないのに……」

「そこは、あれだ。 俺たちは仲間として、いつも一緒にいるからな」

「……そっか。 そうだよね」


 話している間に落ち着いて来たのか、Aliceから余計な力が抜けて来た。

 それを確認した雪夜は、小声で宣言する。


「心配しなくても、言いふらすつもりはない。 キミは、今まで通りで良いんだ」

「……うん、雪夜くんのことは信用してるよ」

「そうか。 じゃあ今回のことは、解決したと見て良いのか? それとも、まだ何か問題が残っているのか?」

「問題って言うか……」


 そこで言葉を切ったAliceは、雪夜を上目遣いで見つめた。

 どうしたのかと思った雪夜が沈黙していると、Aliceは顔を赤くしたままポツリと呟く。


「雪夜くんって、現実でも強かったんだね」

「まぁ……。 それなりに鍛えているからな」

「うん、ビックリした。 正直、結構危なかったんだけど、まさかあんな形で助けられるなんてね」

「それに関しては、お互い様だ。 俺もまさか、あんな形で出会うなんて、夢にも思っていなかった」

「ふふ、それはそうだよね。 でも……怖かったけど……少しだけ、あの人には感謝しないと」

「どう言うことだ?」

「だって、現実の雪夜くんに会えたから。 ライブ、来てくれるよね?」

「……予定がなければな」

「駄目! 絶対来て!」

「わかったから、落ち着け。 周りに聞こえるぞ?」

「むぅ、わかったよ。 とにかく、来てね?」

「あぁ、約束する」

「よろしい!」


 やっと本当の笑顔になったAliceは、上機嫌に鼻歌まで歌い始めた。

 彼女がすっかり調子を取り戻したと悟った雪夜は、苦笑を禁じ得ない。

 すると、きっかり10分経つ頃になって、ケーキとゼロが帰って来る。

 2人にも心配を掛けたと自覚しているAliceは、手をブンブン振って、殊更に明るく言い放った。


「お帰り、2人とも! 特に何もなかった?」

「おう、Aliceちゃん! ちょっとした散歩になっただけだぜ」

「無駄足でした」

「あはは! まぁ、良いじゃない。 それだけ、平和ってことだよ」

「そう言うAliceちゃんは、すっかり元気だな」

「ん? 何が? あたしはずっと元気だよ、ゼロさん!」

「まったく、良く言うぜ」


 わざとらしく力こぶを作るポーズを取るAliceに、腕を組んで苦笑するゼロ。

 ケーキは胸に手を当てて、密かにホッとしているようだった。

 仲間たちのやり取りに、雪夜も穏やかな気持ちになっていたが、やがて22時になり――


「……! 来たか……」


 上空に巨大なウィンドウが出現した。

 GENESISのマークが表示されており、いつもの如く不気味な雰囲気。

 ケーキたちも緊張した面持ちをしており、他のプレイヤーたちも表情を引き締めている。

 そうして、僅かなノイズの後に発せられた言葉は、予想通りと言えばその通りだった。


『第3回、GENESISクエスト告知。 1週間後。 19時スタート。 続報を待て』


 一方的に告げて、ウィンドウが消失する。

 3回目ともなると雪夜たちも慣れたものではあるが、今回はこれまでと若干の違いがある。


「クエストタイプが明らかになりませんでしたね……」

「だね、ケーキちゃん。 どう言うことなんだろ?」

「まさかGENESISの奴ら、今の状況を利用するつもりじゃねぇだろうな? 偽情報ではボス討伐系ってことになってるけどよ、そこをわざとぼかしてるんじゃねぇか?」

「あり得ないとは言い切れないが……とにかく、今は出来ることがない。 精々、1週間後の予定を調整するくらいだ。 焦らなくても、流石に当日まで全く情報を出さないことはないだろう」

「雪夜さんの言う通りですね。 わたしたちは、わたしたちに出来ることをするのみです」

「となると、今日もケーキちゃんの装備レベル上げか?」

「うんうん、そうしようよ! 実はあたしも、武器のレベル10が近いんだよね~」

「マジか、Aliceちゃん!? クソ、俺はちょっと出遅れた時期があるからなぁ。 そう言えば、雪夜はどうなんだよ?」

「俺は、もう少しで『影桜』が10になる。 それが済めば、オール10だな」

「URのオール10……流石です、雪夜さん」

「ケーキのお陰でもある。 キミのレベリングに付き合う過程で、俺の装備の経験値も溜まった」

「それは皆、そうだよね~。 じゃあ、今日も行こうか! 今のうちに、なるべく強くなりたいし!」

「Aliceちゃん、やる気だな! 俺も気合い入れて行くぜ!」


 戦意を昂らせるAliceとゼロを前に、顔を見合わせて苦笑を交換する雪夜とケーキ。

 それから4人はいつものダンジョンに赴き、時間の許す限り潜り続ける。

 この日から徐々に、GENESISクエストの情報は解禁されて行き、それに伴って偽情報のことも明るみに出た。

 情報を信じ切っていたタイトルは絶叫し、大慌てで対策を変更することになる。

 そんな中で、罠を仕掛けたMLOと、貴音によって危機を脱したCBOとSCOだけは、大した被害もない。

 そのまま数日が過ぎ、GENESISクエストの当日が迫っていたが、雪夜とAliceにとってはその前に、ライブと言う名の大きなイベントが待っていた。

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