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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第7話 Aliceとアリス

 翌日の午前中。

 休日の雪夜は自宅にいたが、1人ではなかった。

 朱里を家に招いての、以前から約束してあった勉強会である。

 自身の勉強道具も準備万端な彼は、テーブルに着いて早速とばかりに、取り掛かろうとしたが――


「それで、あの情報が嘘って本当なの?」

「いきなりか」


 開口一番、朱里が放った話題は生存戦争のことだった。

 雪夜は昨晩、就寝前に連絡していた訳だが、朱里はそこをはっきりさせたいらしい。

 勉強会の目的をわかっているのか、雪夜は心配になったものの、彼女の気持ちも理解出来る。

 小さく溜息をこぼした彼は、対面に座る朱里に向かって、言い聞かせるように言葉を紡いだ。


「絶対とは言わないが、ほぼ間違いない」

「絶対じゃないんだ。 あたしもSCOを代表して聞くからには、曖昧な情報は持ち帰りたくないんだけど」

「そうだろうな。 だが、貴音ちゃん……CBO運営の分析が100%正しいとは、言い切れない。 また、情報自体は嘘だったとしても、実際のGENESISクエストと一致してしまう可能性は、ゼロじゃないからな」

「うーん。 それを言い出したら、キリがないけど……」

「とにかく俺から言えるのは、広まっている情報の信憑性は低いと言うことだ。 その上でどうするかは、フレンや他の仲間たちと決めてくれ」

「……うん、わかった。 有難う、セツ兄。 対状態異常用のアイテムとか装備を揃えるのって、意外と手間だしお金も掛かるから、事前に防止出来たのは助かるよ」

「礼を言うなら、CBO運営にしてくれ。 俺は何も気付けなかったからな。 さぁ、そろそろ勉強を始めるぞ」

「う、やっぱりそうなるよね……」

「当たり前だろう。 何しに来たと思っているんだ?」


 呻く朱里にジト目を向ける雪夜。

 縮こまった朱里は上目遣いで何かを訴え掛けていたが、彼は微塵も動じない。

 諦めた朱里は嘆息して、大人しくノートと参考書を開いた。

 それを確認した雪夜も自身の勉強を始め、ページをめくる音とペンを走らせる音だけが響く。

 暫くはそのような時間が続いたが、不意に視線を上げた雪夜は、眉根を寄せて悩んでいる様子の朱里を視界に収めた。

 どうやら難問に当たったらしいと察した彼は、何ともなしに声を掛ける。


「どこかわからないところがあるのか?」

「え? あ、うん、そうなんだけど……」

「そうか、見せてみろ」

「……良いの?」

「何がだ?」

「いや、だって、凄く集中してるみたいだったから……」


 もごもごと声を発する朱里を眺めた雪夜は、呆れ返った様子で溜息をついた。

 そんな彼を朱里は不安そうに見ていたが、彼は当然の如く言い放つ。


「そんなこと、気にするな。 今日は元々、朱里の勉強を見る予定だっただろう?」

「そ、そうだけど、セツ兄の邪魔したくないし……」

「邪魔なんかじゃない。 人に勉強を教えるのは、自分の為にもなるんだ」

「え? そうなの?」

「あぁ。 人に教えるには、まず自分が理解していなければならない。 つまり、自分の確認作業になるってことだ」

「なるほど……」

「これは、何も勉強に限った話じゃない。 誰かに何かを教えると言うのは、そう言うことだと俺は思っている」

「……ホント、セツ兄って高校生らしくないよね」

「それは、良い意味か?」

「あはは、どうだろうねー。 そんなことより、早く教えてよ!」

「引っ掛かるが……まぁ、良いだろう」


 僅かに不服に思いつつ、雪夜は朱里の隣に座って手元を覗き込んだ。

 見たところ、彼にとっては大した難易度ではなかったが、確かにそれなりに面倒な問題ではある。

 思考を巡らせた雪夜は問題を噛み砕いて、理解し易いように順序立てて朱里に説明した。

 ただ公式や答えを教えるのではなく、自分の力として吸収させるように。

 真剣に聞いていた朱里は逐一頷きながら、なんとか自力で答えに辿り着く。

 そのことに安堵した彼女は息をつき、次いで満面の笑みを雪夜に向けた。


「有難う、セツ兄! なんか、パズルみたいで楽しかった!」

「そう思えたなら、朱里はもっと成績が伸びると思う。 元々、頭は良いんだ。 あとは本人のやる気と、勉強方法の問題だからな」

「……あたし、セツ兄が先生なら満点取れるかも」

「調子に乗るな」

「えへへ、ごめんなさい! でも、本当にわかり易かったよ。 セツ兄、先生にも向いてるんじゃない?」

「どうだろうな……。 子どもたちに剣道を教えるのは、楽しいが」

「うんうん。 皆と稽古してるときのセツ兄、いつもより表情が柔らかいもん!」

「そう言う朱里は、一緒になって遊んでたりするな」

「あ、何それ!? あたしが子どもだって言うの!?」

「そんなつもりで言った訳じゃないが……」

「ふんだ! セツ兄が大人っぽ過ぎるだけで、あたしが一般的なんだからね!」


 頬を膨らませて、プイっと顔を背ける朱里。

 この辺りが子どもっぽいと思った雪夜だが、流石にそれを言うのが下策なのはわかっていた。

 こっそりと嘆息した彼は朱里の頭を撫でて、噛んで含めるかのように言葉を連ねる。


「悪かった。 お詫びに、昼食は朱里が好きなものを作る」

「……ホントに?」

「本当だ。 何が良い?」

「じゃあ……ふわとろなオムライス。 ケチャップで」

「わかった。 じゃあ、街に買い出しに出て来る。 他にも補充しておくものがあるからな」

「え。 だったら、あたしも一緒に行く!」

「駄目だ。 お前が付いて来たら、そのまま遊びに行くって言い出しかねない」

「そ、そんなこと……ないですよ?」


 思い切り目を逸らす朱里を前に、雪夜は溜息を堪えられない。

 再び彼女の頭を撫でた雪夜は、優しく言い聞かせるように声を発した。


「なるべく早く帰って来るから、大人しく勉強しておいてくれ」

「うー……。 わかったよ」

「良い子だ」

「こ、子ども扱いしないでってば」


 などと言いつつ、顔を赤らめて気持ち良さそうに、朱里は撫でられ続ける。

 そのことに苦笑した雪夜は手を止めて、朱里の視線を背に浴びつつ家を出た。

 足早に通りを歩き、宣言通り短時間で街へ。

 スーパーで食材を中心に購入し、両手に袋をぶら下げて帰路に就く。

 このとき彼がこの場にいたのは、本当に偶然だった。

 だが人は、それを運命と呼ぶのかもしれない。


「……! 何だ……?」


 向かって左手。

 路地裏の方で、騒がしい足音が聞こえた。

 無視しようかと思った雪夜だが、なんとなく気になってしまう。

 迷った末に彼は、路地の奥へと足を踏み入れた。

 それにつれて足音がはっきり聞こえるようになり、人数は2人。

 何が起きてるかはわからないが、走っていることは確か。

 そしてもう1つ。

 雪夜の方に近付いて来ていた。

 嫌な予感を抱いた彼は、買い物袋を地面に置いて、すぐに動ける態勢を作る。

 そして、遂に――


「きゃ……!?」


 前を走っていた人物が曲がり角から現れ、雪夜を見て悲鳴を上げそうになった。

 しかし、何やら驚愕した様子で目を見開いており、口をあんぐり開けている。

 どうしたのかと疑問に思いつつ、雪夜はその人物を観察した。

 肩より少し長いプラチナブロンドの髪で、身長は160㎝ほど。

 帽子とサングラスで隠しているようだが、非常に可愛らしい少女である。

 それだけでも衝撃的だが、雪夜が感じているのは別のものだった。


「Alice……?」


 無意識のうちに、彼の口からこぼれた名前。

 それを聞いた少女は、雷に打たれたかのようにビクリと震えた。

 そして、何かを言おうと口を動かしたが、そこに無粋な声が響く。


「ま、待ってよ、アリスちゃん! 僕はただ、アリスちゃんに想いを受け取って欲しいだけなんだ!」


 遅れてやって来たのは、若い男性。

 息を荒らげていることもあるが、どうにも尋常ではない雰囲気を発している。

 まるで正気を失っているようで、口の端から涎が垂れていた。

 反射的に身を引いた、アリスと呼ばれた少女。

 それとは逆に、前に進み出た雪夜。

 彼の行動にアリスは戸惑っていたが、彼は構わず告げた。


「下がっていろ」

「う、うん!」


 初対面にもかかわらず、至極当然のようなやり取り。

 欠片も違和感を抱かなかった雪夜は不思議に思いながら、今はそれどころではないと考え直した。

 目の前の男性は、明らかにおかしい状態ではあるものの、なんとか対話を試みた――が――


「何があったか知りませんが、取り敢えず落ち着いて――」

「何だテメェッ!? 僕とアリスちゃんの仲を、引き裂こうってのかぁッ!?」

「いえ、そうではなく――」

「アリスちゃん! 僕と言うものがありながら、なんでこんな奴とッ!?」

「話を聞いて――」

「うるさいうるさいッ! 邪魔するって言うなら、ぶっ飛ばしてやるッ!」


 目を血走らせて、今にも雪夜に跳び掛かりそうな男性。

 これ以上の問答は無意味と悟った雪夜は、最近荒事に良く巻き込まれると、内心で嘆きながら構えを取った。

 彼の迫力に男性は一瞬気圧されたようだが、すぐに立ち直って、喚きながら掴み掛かる。

 後ろで見ていたアリスが息を飲むのを感じつつ、雪夜は余裕を持って躱し――


「正当防衛です」

「うぐ!?」


 男性の腹部に、膝を叩き込んだ。

 凄まじい威力に男性は悶絶し、腹を抑えて蹲っている。

 ひとまず無力化出来たと判断した雪夜が安堵していると、路地の奥から新たな足音が複数聞こえて来た。

 新手かと思った雪夜は、逃げるべきかと考えたが、その必要はない。


「アリスちゃん! 大丈夫!?」

「ば、馬場園さん!」


 駆け付けたのはスーツ姿の女性と、2人の警官。

 なんとなく状況を把握した雪夜は構えを解いたものの、どう説明するべきか困っていた。

 馬場園と警官も雪夜に警戒心を露にしていたが、アリスが大慌てで口を開く。


「ま、待って! せ……こ、この人が助けてくれたの! あたしを狙ってたのは、こっち!」


 未だに沈んでいる男性にビシッと指を突き付けて、馬場園たちに告げるアリス。

 それを聞いた馬場園は警官たちと話し、倒れた男性を担いで連行させた。

 事態は解決したと思った雪夜は、買い物袋を持ってその場を辞そうとしたが――


「あ、あの!」


 どこか必死なアリスに呼び掛けられて、肩越しに振り返る。

 そんな彼にアリスは、何を言えば良いかわからないようで、ほとんどパニック状態。

 だからと言って、雪夜からアクションを起こすつもりもなかった。

 何とも言い難い沈黙がその場に落ち、収拾が付かなくなりそうになったとき、馬場園が動く。


「アリスちゃんを助けてくれて、有難う。 えぇと……」

「如月雪夜です」

「如月くんね。 わたしは馬場園と言って、アリスちゃんのマネージャーよ」

「マネージャー……。 と言うことは、この子はやはり……」

「たぶん、思ってる通りね。 いろいろ聞きたいこともあるだろうけど、今は時間がないの。 ごめんなさい」

「いえ、特に詮索するつもりはありませんから。 無事で何よりです」

「そう言ってもらえると、こっちも助かるわ。 そうだ。 せめてものお礼に、これを受け取って?」

「これは……?」

「アリスちゃんのライブの、チケットよ。 もし良かったら、遊びに来てね」

「……はい、都合が付けば」

「有難う。 じゃあ、わたしたちは行くわね。 ほら、アリスちゃん。 取り敢えず移動して、そこでゆっくり休みましょう。 打ち合わせ時間は、少しずらしてもらうから」

「え……? あ……う、うん。 えっと……ま、またね……せ、雪夜くん……」


 顔を真っ赤にして、アリスは馬場園と去って行った。

 残された雪夜は、いろいろと複雑な心境だったが――


「……早く帰って、オムライスを作らないとな」


 と言う結論に至る。

 そうして足を踏み出した彼は、渡されたチケットを、大事そうに懐に仕舞うのだった。

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