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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第6話 偽情報

 それから数日、CBOは特に代わり映えのない日々を過ごしていた。

 外の情勢も大きな変化はないが、MLOやBKOによる侵攻によって、少しずつタイトルの数は削られて行っている。

 このままなら、再びCBOが標的になる未来も、そう遠くないかもしれない。

 だからと言って雪夜たちは焦っておらず、出来ることをしようと誓っていた。

 その一環として、今日も防衛後にケーキの装備経験値を稼ぐべく、ダンジョンに潜っていたのだが――


「やったね、ケーキちゃん! これで、3つ目の能力を解放出来るよ!」

「はい、Aliceさん。 強化値を6まで鍛えるのは、中々大変ですけれど……」

「こればかりは、仕方ねぇな。 誰もが通る道だぜ。 つっても、素材集めとか資金集めもやってたから、足りないってことはねぇだろ」


 ダンジョンを出たAliceがケーキの手を取って、ぶんぶん振りながら喜んでいる。

 対するケーキは恥ずかしそうに目を逸らしつつ、嫌な気はしていないらしい。

 ゼロも上機嫌で、頭の後ろで手を組んで笑っている。

 彼女たちの会話からわかるだろうが、ケーキの『プリンセス・ドレス』と『プリンセス・ミラー』は、強化値6まで鍛えられるようになった。

 実際に強化するには膨大な素材や費用が掛かるとは言え、これでケーキは更なる高みに上る。

 仲間たちの姿を1歩離れたところから眺めていた雪夜だが、満足した気持ちになっていた。

 EGOISTSとして活動し、仲間が強くなる手助けが出来ている。

 この事実は、彼にとって非常に大きな意味を持っていた。

 次第にソロだった頃の感覚も抜けて来て、本来の雪夜に戻りつつある。

 それと同時に、生存戦争を戦い抜こうと言う気持ちも強くなっていた。

 結果がどうなるかはわからないが、全力を尽くそうと雪夜が改めて決意していると、ケーキが不思議そうに問い掛ける。


「雪夜さん? どうかされましたか?」

「……いや、何でもない。 それより、今回解放される能力はどんなものだ?」

「えぇと、『プリンセス・ドレス』が『魔法攻撃被ダメージ20%減少』で、『プリンセス・ミラー』が『ジャストガード成功時のダウン値上昇率30%増加』ですね」

「わ! 相変わらずカチカチだけど、ダウン値が増えるのは大きいね~」

「だな、Aliceちゃん。 これで、ボス戦がまた楽になるぜ!」

「Aliceさん、ゼロさん、過信はしないで下さい。 あくまでもジャストガード成功時のダウン値なので、決められなければ意味はありません」

「心配するな、ケーキ。 キミなら、たとえ初見の相手でもすぐに対応出来る」

「そ、そうでしょうか? いえ、雪夜さんがそう仰るなら、きっとそうなのでしょうね」


 雪夜から信頼を寄せられたケーキは、手をモジモジさせて顔を赤らめた。

 そんな2人を見たAliceは、頬を膨らませて不満そうにしていたが、敢えて文句を言うことはしない。

 ゼロはニヤニヤと笑いつつ、やはり口出しするつもりはなさそうだ。

 パーティの空気が少しばかりおかしくなりつつあると感じた雪夜は、咄嗟に別の話題を取り出す。


「ところで皆、GENESISクエストの噂を聞いたか?」

「あ、うん。 なんか、ジェネシス・タイタンみたいなボス戦だけど、毒とか燃焼とか麻痺とか、とにかく状態異常に気を付けないといけないらしいね」

「俺が聞いたのも、そんな感じだったな。 今のうちに、状態異常を回復するアイテムを、とにかく集めとけって話になってるな」


 雪夜の問いに、Aliceとゼロがすぐさま答えた。

 ケーキは黙っていたが、雪夜が見る限り似たような情報を持っているらしい。

 それを確認した彼は、少しばかり考えてからゆっくりと口を開く。


「皆、その情報はどこで得たものだ?」

「どこと言われてもな……。 もう、SNSとかで話題になってるから、嫌でも耳に入って来る感じだぜ」

「あたしも、ゼロさんと同じかな。 わざわざ調べなくても、勝手に情報が入るの。 こんなに拡散されるなんて、GENESISも意外と抜けてるよね」

「ホントだぜ。 あいつらも、ミスするときはするんだな。 てことで、俺らもそろそろアイテム集めを始めるか?」


 ケラケラと笑うAliceとゼロ。

 だが雪夜は、それに便乗することは出来なかった。

 ケーキも、表情を引き締めて何事かを考えている。

 とは言え、2人ともなんとなく違和感を覚えているだけだった。

 それゆえ、引っ掛かりを抱えながらゼロの案を採用しようとして――


『ちょっと待った』


 ウィンドウが出現し、貴音の顔が表示された。

 突然の登場にAliceとゼロ、ケーキは驚いていたが、雪夜としてはむしろ待ってましたと言わんばかり。

 すぐさま考えを纏めた彼は、迷いなく口を開く。


「場所を変えよう」


 返事も聞かずにウィンドウを操作した雪夜は、剣姫と戦った訓練用のクエストを受注した。

 いきなり青白い空間に飛ばされた仲間たちは驚いていたが、再び現れた貴音は真剣そのもの。

 それを察した雪夜は、鋭い声を発する。


「貴音ちゃん、もしかしてGENESISクエストの話か?」

『流石、雪夜くん。 話が速いわね。 単刀直入に言うけど、その情報はデマよ』

「え!? デマってどう言うこと?」

『この間、言ったでしょ? わたしも情報を手に入れたって。 それが皆と同じものなんだけど、調べた結果わかったことがあるの』

「何がわかったってんだよ?」

『発信源よ、ゼロくん。 いくつもの捨てアカウントが元になっていて、そこからどんどん広まったみたい。 どのアカウントも同じ時期に作られたものだから、意図的に偽情報を流したんでしょうね』

「何か不自然だと思っていましたが、そう言うことでしたか……。 それにしても、いったい誰がそのようなことを?」

『ごめんねケーキちゃん、そこまではわからないの。 どちらにせよ、今の情報を信じちゃ駄目。 GENESISが公開するのを待ちましょう』

「そうだな。 だが、このまま放置する訳には行かない。 ケーキ、Alice、ゼロ、他のCBOプレイヤーに伝えてくれるか? 俺は、同盟関係のSCOに話しておく」

「そ、そうだね、雪夜くん。 あ、て言うか、この情報がデマだってSNSで発信すれば良いんじゃないの?」

「やめとけよ、Aliceちゃん。 もう、かなり広く拡散されてんだ。 今更、俺らがちょっと動いたくらいで、どうこうならねぇよ。 むしろ、それこそ嘘情報を流してるって思われて、叩かれるかもしれねぇぜ? もっと言えば、これは俺たちにとってチャンスでもある」

「どう言う意味ですか、ゼロさん?」

「わかんねぇか、ケーキちゃん? 誰が仕掛けたのか知らねぇが、他のタイトルが罠にはまるのは有難いってことだよ。 その分、俺らが有利になるからな」

「ゼ、ゼロさん、それはちょっと卑怯じゃない……?」

「Aliceちゃん、意外と甘いな。 これは戦争なんだぜ? 利用出来るものは、利用しねぇとな」


 珍しく真面目な面持ちのゼロが、強い口調で言い切る。

 一方のAliceが、辛そうに俯いていると――


「わたしも、ゼロさんに賛成です」

「……! ケーキちゃん……」

「わたしにとっては、CBOが最優先です。 他のタイトルのことまで、気に掛けている余裕はありません」

「……うん、そうだね」


 毅然とした顔付きのケーキを前に、Aliceは控えめながら同意した。

 しかし、ケーキの言葉は終わっていない。


「ただ……Aliceさんの優しさは、尊いものだと思います。 わたしは非情に徹しますが、貴女はそのままでいて下さい」


 Aliceの手を握ったケーキが、少し困ったように眉を落としながら、笑みを見せた。

 それを受けたAliceは瞠目したが、すぐに言い返す。


「駄目だよ、ケーキちゃん」

「え?」

「ケーキちゃんが悪役になるなんて、許さない。 ゼロさんも、悪ぶったって無駄だよ? 本当は優しいの、知ってるんだから」

「べ、別に俺は、悪ぶってなんかねぇよ?」

「とにかく! あたしだって、CBOを勝たせたい気持ちは一緒なの! だからこれは、EGOISTSの方針! あとで誰に何を言われたって、皆で受け止めようよ!」

「Aliceの言う通りだ。 そもそも、俺たちに非難される覚えはない。 堂々としていよう」

「だよね、雪夜くん! じゃあ早速、他のCBOプレイヤーに教えに行こうか!」

「わ、わかりましたから、離れて下さい……」


 何やらテンションが上がったAliceに、抱き着かれて困惑するケーキ。

 2人の様子に雪夜とゼロは苦笑を交換していたが、話はまだ終わっていなかった。


『ごめん、もうちょっと時間くれる?』

「ん? 貴音ちゃん、まだ何かあるのか?」

『うん、ゼロくん。 割と大事な話よ。 実は、今後の戦いに備えて、アップデートを実行しようと思うんだけど――』

「待て」

『どうしたの、雪夜くん?』

「アップデートの内容は、他のプレイヤーと同じタイミングで教えて欲しい。 先に聞くのは、不公平だからな」

『ホント、真面目ね……。 皆もそれで良いの?』

「はい。 雪夜さんがそう決めたのなら、わたしもそれに従います」

「あたしも、なるべくズルはしたくないしね~」

「俺としては、先に聞いておきたいのが本音だけどよ……まぁ、別に構わねぇぜ」

『そっか……。 わかったわ、なるべく早く実装出来るように頑張るわね』

「すまないな、貴音ちゃん。 今回の偽情報に関してもそうだが、いつも助かっている」

『気にしないで。 あたしたちとしても、雪夜くんたちに勝ってもらわないと、困るんだから。 それじゃあ、またね』


 笑顔で手を振りながら、貴音は姿を消した。

 それを見送った雪夜は、改めて指示を出す。


「3人とも、CBOプレイヤーに対する説明は頼んだ。 今ならまだ、無駄な行動を最小限にすることが出来るはずだ」

「任せろよ。 逆に、SCOのことは頼んだぜ」

「勿論だ、ゼロ。 明日会う約束があるから、ちょうど良い」

「会うって……アリエッタさんとですか?」

「そうだが……どうかしたのか、ケーキ?」

「……いえ、何でもありません」


 などと言いつつ、ケーキはプイっとそっぽを向いた。

 その仕草を受けて、雪夜はある程度の事情を悟ったが、どうしようもない。

 困った彼は、視線でAliceとゼロに助けを求めたが――


「雪夜くん、よろしくね~」

「ぷふ……が、頑張れよ、雪夜」


 全く目が笑っていない笑顔のAliceと、必死に吹き出すのを堪えているゼロ。

 援護が期待出来ないと知った雪夜は憮然とし、深く息を吐いてから声を落とす。


「……お休み」

「あ、逃げた!」

「ぷ……逃げやがった」

「逃げるのですね……」


 仲間たちの言葉通り、逃げるようにログアウトする雪夜。

 現実に戻った彼は盛大に嘆息したが、次いで苦笑を漏らした。

 こうしたやり取りが出来るのも、人と関わりを持てているからこそ。

 それを楽しもうと思い直した彼は、就寝支度に取り掛かる。

 だが、雪夜は知らない。

 現実でまたしても、厄介事に巻き込まれることを。

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