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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第5話 確かな幸せ

 侵攻時間が終了して、MLOに戻って来たノイとエリス。

 ノイの肩には小悪魔のナーデが座り、エリスの周りには天使のチヒが飛んでいる。

 2人はダリアの指示でCBOに潜入していた訳だが、成果自体は芳しくない。

 と言うのも、平穏だったCBOでは雪夜たちの実力を見ることが出来ず、戦闘力を計ることが出来なかったからだ。

 ただし、全くの無駄足だったかと言えば、そうとも言い切れない。

 難しい顔で考え込みながら、大樹へと足を進めていたノイは、隣を歩くエリスに問い掛ける。


「エリスは、どう思った?」

「え? どうって?」

「雪夜たちだ。 もっと言えば、CBO全体だな」

「うぅん……。 ノイのお陰で近くで観察出来たけど、何て言うか……良い雰囲気だったね」

「そうだな。 気が抜けている訳でも、気を張り詰め過ぎている訳でもない。 理想的な状態に近いだろう」

「うん、わたしもそう思う。 それに……楽しそうだった。 特に、雪夜さんたち。 本当にゲームが好きなんだろうなって、感じたね……」

「あぁ……。 何より、強い。 実力を見ることは出来なかったが、間違いなくな」

「それは、わたしにはわからないよ。 でも、ノイが言うなら確かなんだろうね」

「誰か1人だけなら、奇襲で落とせたかもしれない。 だがその場合、高確率で俺もやられていただろう」

「そんなの駄目! ノイが危険な目に遭うなんて……」

「落ち着け、もしもの話だ。 実際、そうならないように自重しただろう?」


 取り乱したエリスの背中に、ポンと手を当てるノイ。

 それを受けたエリスは落ち着きを取り戻していたものの、まだ少し不安そうに見える。

 そのことに苦笑したノイは、マフラーで口元を隠しながら言い放った。


「ひとまず、報告だ。 それが終わったら、今日は帰ろう」

「……うん、わかった」


 エリスはまだ何かを言いたそうだったが、最終的には言葉を飲み込む。

 そうして2人がいつもの部屋に到着すると、そこにはモエモエとネーヴェの姿があった。

 再会を果たした4人は、互いに労いの言葉を掛ける。


「ノイさん、エリスさん、お疲れ様です。 無事で何よりです」

「こちらのセリフですよ、モエモエさん。 侵攻があったようですし。 ネーヴェさんも、お疲れ様でした」

「大した相手ではなかったわ。 多少は頭を使ったようだけれど、それだけね。 それよりノイ、何か有益な情報は得られたの?」

「残念ながら詳しいことは不明だ、ネーヴェ。 だが、共有しておくべきことは、あると思う」

「そう。 わたしも話しておくことがあるから、早速情報交換と行きましょうか。 取り敢えず座りましょう」


 そう言って4人は、いつもの席に着いて簡易的な会議を始める。

 ノイとエリスはCBOの現状を、ネーヴェはダリアから聞かされた情報を。

 特にGENESISクエストの偽情報に対する衝撃は大きかったが、被害を防げて良かったと、モエモエとエリスはホッとしていた。

 ところが――


「……ネーヴェ、その情報はダリアから聞いたんだな?」

「えぇ、そうね。 それがどうかした?」

「……いや、単なる邪推だ。 ここで話すことじゃない」

「え、気になるじゃないですか。 教えて下さいよ」

「すまないな、モエモエ。 だが、無駄に事を荒立てるつもりはない」

「良くわからないけれど……貴方がそう言うなら、わたしは聞かないでおくわ」

「そうしてもらえると助かる、ネーヴェ。 では、俺はそろそろ現実に帰る。 CBOのことに緊急性はないから、明日にでも俺からダリアに伝えておく」

「あ、わたしも、そろそろ戻らないと。 モエモエさん、ネーヴェさん、お疲れ様でした」


 手早く挨拶したノイとエリスが、ログアウトする。

 それを見送ったモエモエは、2人きりになったネーヴェに、躊躇いがちに尋ねた。


「ねぇ、先生」

「モエモエ」

「ご、ごめんなさい、ネーヴェさん! えっと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら?」

「あの2人って、いつも同じタイミングで落ちるよね? もしかして、付き合ってるとか……?」

「気持ちはわかるけれど、それを詮索するのはマナー違反よ。 仮にそうだとしても、わたしたちがどうこう言う問題ではないわ」

「そうだけど……。 うぅ、気になるー」

「我慢しなさい。 それより、そろそろ時間よ。 貴女も帰って寝なさい」

「はーい。 お休みなさい、先生……じゃなくて、ネーヴェさん!」


 慌てて訂正したモエモエは、言い返されない速度でログアウトした。

 そんな彼女に溜息をついたネーヴェは、自身も現実に帰るべくウィンドウを開く。

 そして、ログアウト画面にタッチする直前に、ダリアの席をチラリと見た。

 しかし、結局何を言うこともなく、姿を掻き消す。

 あとには、無音の部屋が残された。











 現実に戻ったノイは、すぐに身を起こして部屋を出た。

 何の変哲もないアパートだが、掃除は行き届いている。

 そのことに薄く微笑んだ彼は、これと言って特徴のない、中肉中背の男性。

 歳は20代半ばくらいだろうか。

 人混みに紛れたら、すぐに見失いかねないほどだ。

 彼の名前は影山千尋で、ごく一般的なサラリーマン。

 そう言う意味でも、どこにでもいるような人物かもしれない。

 するとそこに、トントントンと、まな板を包丁が小気味良く叩く音が聞こえる。

 千尋が振り向いた先では、キッチンに向かった1人の女性が、慣れた手付きで料理していた。

 彼女にも目立った特徴はないものの、非常に楽しそうにしている。

 名前は光井奏と言い、歳は20歳を超えた辺り。

 奏の姿を見た千尋は苦笑を漏らし、無言で隣に立って手伝いを始めた。

 奏は一瞬驚いていたものの、すぐに微笑んで調理を続ける。

 その後は会話らしい会話はなかった代わりに、温かい空気が充満していた。

 説明は必要ないかもしれないが、モエモエが睨んだ通り、2人は恋愛関係にある。

 幼馴染でもある彼らは順調に想いを育み、紆余曲折ありつつも現在に至っていた。

 同棲はしていないものの、毎日一緒に夕食を食べるほど。

 今日も協力して完成させた食事は、お世辞にも豪華とは言えないが、2人にとってはご馳走である。

 食事中もあまり会話はなかったが、これが彼らの日常だ。

 そうして片付けまで済ませた千尋と奏は、湯呑みでお茶を飲みながら、食後のひとときを満喫していたが――


「ねぇ、千尋くん。 さっき、何を言いかけてたの?」

「さっき? 何のことだ?」

「だから……GENESISクエストの偽情報のこと。 ダリアさんが、どうかしたの?」

「……気にするな。 俺が考え過ぎているだけかもしれないからな」

「それでも良いの。 千尋くんが何を考えてるか、教えて欲しい」


 いつになく真剣な奏を前に、千尋はどうするべきか迷った。

 だが彼は、基本的に奏には甘い。

 小さく溜息をついた千尋は、湯呑みに視線を落としながら、ポツリポツリと語る。


「ネーヴェに情報を与えたのが、ダリアだと言うのは覚えているな?」

「うん」

「そして、その誤情報を高垣が見抜いたとも言っていたな?」

「そうだね。 それがどうかした?」

「なんとなく、話が出来過ぎてるように感じたんだ」

「話が出来過ぎてる……?」

「そうだ。 もしかしてダリアと高垣が組んで、良からぬことを考えているんじゃないかってな」

「良からぬことって……まさか……」

「偽情報を流した張本人が、奴らかもしれないと言うことだ。 それによって他のタイトルを陥れ、見抜いた自分たちの株を上げる為にな」

「さ、流石に、それはないんじゃないかな? 高垣さんはともかく、ダリアさんはそんなことしないと思うけど……」

「……俺も、そう願う」


 そう言いつつ、千尋と奏の表情は晴れない。

 彼らも心のどこかで、ダリアを信用し切れていないと言うことだ。

 楽しかった団欒の雰囲気が、暗くなっていることに気付いた千尋は、話を変えるべく声を発する。


「それより、体調はどうだ? 問題ないか?」

「もう、いつまで言ってるの? 完治したんだから、大丈夫だってば」

「そうだな……。 奏はもう、健康なんだよな」

「うん。 これも、千尋くんのお陰だね。 ずっと支えてくれて、有難う」


 柔らかく微笑んだ奏を直視出来ず、千尋は誤魔化すように湯呑みを口元に運んだ。

 そんな彼を奏は、苦笑混じりに見つめている。

 彼女は幼い頃から、体が弱かった。

 1日の大半をベッドの上で過ごし、他の子どもたちが遊んでいるのを、窓から眺めるだけ。

 しかし、そんな奏の元に現れたのが、千尋である。

 彼は毎日のように奏の家を訪れ、絵本を読んだりゲームをしたり、とにかく彼女を楽しませていた。

 思えば、この頃から2人は気持ちが通じ合っていたのだろう。

 最近になってようやく薬からも解放された奏だが、心配性の千尋はまだ完全には油断していない。

 彼の優しさに申し訳なくなると同時に、嬉しくも思った奏は、席を立ちながら口を開いた。


「時間も時間だし、そろそろ帰るね」

「あ……そうだな。 送ろう」

「すぐそこなのに?」

「すぐそこなのにだ。 万が一にも何かあったら、俺は一生後悔する」

「ふふ、それは困るね。 じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「任せろ」


 やけに気合の入っている千尋に奏は、再び苦笑をこぼした。

 その後、帰り支度を整えた彼女は部屋を出ようとしたが、ドアの前で立ち止まる。

 背後の千尋が不思議そうにしていると、彼女はゆっくりと振り向いて言い放った。


「絶対、勝ち残ろうね」

「……勿論だ。 俺たちの居場所は、誰にも奪わせない」


 ニコリと笑いながら紡がれた奏の言葉に、千尋は力強く答える。

 それを聞いた奏は笑みを深め、今度こそ部屋をあとにした。

 世の中では華々しい生活を送っている者が注目されがちだが、ここにも確かな幸せの形がある。

 それを何としてでも守ろうと考えている千尋たち。

 だが、必死なのは雪夜たちも同じだ。

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