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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第4話 獄炎と氷狼

 時間を夕方頃まで巻き戻す。

 ここは、とある少女の自室だ。

 特別目を引くようなものはないが、敢えて言うなら使い込まれたバスケットボールくらいだろう。

 部屋の主は雪夜のように机に向かい合い、うんうん唸りながら問題を解いていた。

 綺麗に切り揃えられたボブカットに、活発な印象の面持ち。

 座っている為にわかり難いが、かなり身長は低く、胸元は悲しいくらいに平坦。

 名を赤城萌香と言い、高校3年生の18歳だ。

 外見で言えば中学生くらいだが。

 そして、何を隠そう彼女こそ、獄炎の魔女モエモエの正体。

 あの高身長のアバターは、現実のコンプレックスに影響されている。

 大学受験を控えている萌香は、勉強に勤しんでいる訳だが、この場にはもう1人いた。


「そろそろ出来たかしら?」

「も、もうちょっと」

「早くしないと、防衛に間に合わないわよ?」

「わ、わかってるから、焦らすのやめてよ、先生!」

「事実を言っただけよ。 さぁ、続けなさい」

「うぅ……」


 喚く萌香を涼しげに躱しつつ、ローテーブルにレポート用紙を広げている女性。

 萌香とは対照的にスタイルが良く、身長も高そうだ。

 黒いロングヘアーが、清潔で真面目な印象を与える。

 彼女の名は柊木環奈と言い、20歳の女子大生で、萌香の家庭教師。

 また、MLOでは氷狼の魔女ネーヴェと呼ばれている。

 要するに彼女たちは、現実では先生と生徒と言う関係ながら、ペンタゴンの一角を担うプレイヤーでもあるのだ。

 何故、このようなことになったかと言うと――


「ねぇ先生、今度あたしたちと一緒に遊ばない? ソロ活動だと、いろいろ不便でしょ?」

「駄目よ。 わたしはあくまでも、お目付け役なの。 貴女が羽目を外して、遊び過ぎないように監視する為のね。 その役に徹するには、ソロの方が動き易くて良いのよ」

「……本当は誰かと遊びたいくせに」

「何か言ったかしら?」

「べ、別に? ほら、出来たから採点して!」

「まったく……見せてみなさい」


 萌香から答案用紙を受け取った環奈は、鋭い視線でチェックして行った。

 その様子をボンヤリ眺めていた萌香は、あることを思い出して、興味深そうに問い掛ける。


「そう言えば、モデルの話はどうなったの? 結構有名な雑誌から、スカウトされたって聞いたよ?」

「……貴女には関係ないでしょう?」

「良いじゃない、教えてよ。 自分の先生が、モデルになるかもしれないんだよ? 気になって勉強に集中出来ないよ」

「またそう言うことを……。 はぁ……まだ、答えは出していないわ」

「え、どうして? 先生綺麗だし、スタイルも良いし、絶対向いてると思うんだけど」

「そう簡単な話ではないわよ。 仮に貴女の言う通りだとしても、モデルの世界って厳しいと思うし。 それに、外見のことを言うなら……」

「うん? どうしたの、先生?」

「な、何でもないわ」


 一瞬、手を止めて萌香を見つめた環奈だが、すぐに仕事に戻った。

 そんな彼女を萌香は不思議そうに見やっている。

 実のところ、この両者はない物ねだりをしていた。

 萌香は環奈を理想の女性だと思い、アバターの参考にしている。

 対する環奈も、小柄な萌香を可愛らしいと感じており、自身のアバターに反映させていた。

 そうして、やや複雑な事情を抱えている2人だが、共通していることもある。

 採点を終えた環奈は1つ息をつき、萌香に用紙を返しながら告げた。


「まぁまぁね。 まだミスもあるけれど、悪くないわ」

「もう、もっと素直に褒めてよ」

「それは、受験に合格してからね。 今どれだけ高得点を取っても、通らなかったら意味がないのだから」

「う、嫌なこと言うね……。 まぁ、その通りなんだけど」

「とは言え、このまま勉強を続けていれば、第一志望も充分に現実的よ。 あとは……」

「生存戦争、だね……」

「家庭教師としての立場から言わせてもらうなら、サッサとやめて勉強に集中して欲しいのだけれど」

「じゃあ、同じMLOプレイヤーとしてなら?」

「……簡単に負ける訳には行かないわね」

「あはは。 先生のそう言うとこ、好きだよ。 あたしも、皆との居場所を守る為に頑張る」

「バスケ部の友だちね……。 引退してからも、仲良くしているの?」

「当然! まぁ、一緒にいる時間は減っちゃったけどね。 だからこそ、MLOで遊ぶのが楽しみなの」

「そう……」

「……ねぇ、先生。 やっぱり、あたしたちのギルドに――」

「入らないわ。 少なくとも、今は他人のふりを続けるわよ」

「……だったら、生存戦争で生き残って、あたしが受験に合格したあとなら?」

「そのときは……考えてあげても良いわ」

「そっか。 なら、余計に負けられないね。 ……あ、そろそろ時間だ」

「本当ね。 わたしは一旦帰るわ」

「うん、今日も有難う。 先生、またあとでね」

「えぇ」


 短く答えた環奈が、手早く帰り支度を済ませて部屋を出て行く。

 淡泊に見えるが、萌香は彼女が防衛に向けて、やる気になっていることを知っていた。

 苦笑をこぼした萌香は勉強道具を片付け、バイザー型デバイスを装着し、MLOにログインする。

 モエモエの姿で拠点の町に降り立った彼女は、迷うことなく大樹に向かった。

 これはペンタゴンの決まりで、防衛前に1度集まることをダリアが提案している。

 道中に彼女は多くのプレイヤーから声を掛けられ、気さくに手を振って応えていた。

 近くでは、使い魔である小竜のフランが、パタパタと飛んでいる。

 モエモエはペンタゴンの中でもフレンドリーな方で、その実力と容姿も相まってファンが多い。

 本人としては、あまり特別扱いして欲しくないようだが。

 何はともあれ、いつもの1室にモエモエが辿り着くと、そこにはダリアの姿があった。

 なんとなく居住まいを正した彼女は、なるべく普段通りに声を掛ける。


「こんばんは、ダリアさん」

「おや。 こんばんは、モエモエさん」

「あの……他の人たちは?」

「ノイさんとエリスさんは、偵察の準備をしています。 ネーヴェさんはまだですね」

「そ、そうですか」


 ダリアの返答を受けて、微妙にぎこちない笑みを浮かべるモエモエ。

 彼女はダリアの実力を認めており、人柄も良いと思っているが――


(なんとなく、落ち着かないんだよね……)


 と、直感的に彼に対して警戒心を持っていた。

 ただし、そこに明確な理由はなく、だからこそどうすることも出来ない。

 それに比してダリアは穏やかな笑みを絶やさず、余裕を崩さずにいる。

 そのまま無言の時間が経過し、いよいよモエモエがいたたまれなくなって来た頃、彼女がやって来た。


「ギリギリになって悪いわね」


 言わずもがな、ネーヴェ。

 彼女を見たモエモエは反射的に喜びかけたが、MLOでは他人。

 そのことを思い出したモエモエは、敢えて淡々と声を発する。


「こんばんは、ネーヴェさん」

「こんばんは、モエモエ」


 自分を見ようともしないネーヴェに、僅かに胸がチクリとしつつ、モエモエはダリアに目を向けた。

 ノイとエリスが既に行動に移っていると言うことは、ペンタゴンはこれで全員。

 そしてメンバーが揃った段階で、ダリアが指示を出すのが慣例。

 ネーヴェもダリアのことは完全に信用していないが、能力は買っている。

 それゆえ、2人はこれまで大人しく指示に従っており、今日もそのつもりだ。

 彼女たちの様子を見ていたダリアは、少しばかり間を置いてからニコリと笑い、ゆっくりと口を開く。


「モエモエさん、ネーヴェさん、今日は防衛に徹して下さい」

「え? 防衛ですか?」

「そうです、モエモエさん。 不確かな情報ですが、どこかのタイトルがMLOに攻めて来るかもしれないんです。 今は無理に侵攻する必要もありませんし、守りを固めましょう」

「情報源が気になるけれど……良いわ、引き受けてあげる。 どの道、わたしは防衛のつもりだったしね」

「ネーヴェさん、助かります。 モエモエさんも、お友だちと一緒に頑張って下さいね」

「は、はい、わかりました」


 ダリアに微笑み掛けられたモエモエは、緊張しつつも首を縦に振った。

 すると、ネーヴェが何も言わずに踵を返す。

 MLOでは可能な限り会話しない方針なので、致し方ないと思ったモエモエは、フレンドに一斉メッセージを送った。

 それから大樹を出て、待ち合わせ場所に向かう。

 そこには、3人の少女たちと、それぞれの使い魔が待っていた。


「あ、モエモエ!」

「ごめん、皆。 待たせた?」

「いやいや、さっきメッセージ送って来たばかりでしょ? あたしたちは、たまたま近くにいただけだよ」

「そうそう! それより、今日は侵攻じゃないんだね?」

「うん、ダリアさんからの指示なの。 もしかしたら、MLOにどこかが攻めて来るかもしれないんだって」

「そっかぁ。 ちょっと怖いけど、モエモエが一緒なら大丈夫だよね!」

「うんうん! なんてったって、獄炎の魔女なんだから!」

「ちょっと、その呼び方はやめてよ! 結構恥ずかしいんだからね?」

「えー。 格好良くて良いじゃない。 実際強いんだし、照れなくても良いのにね?」

「だね」

「ねー」

「照れてないってば!」


 顔を真っ赤にして叫ぶモエモエ。

 しかし、嫌な気はしておらず、こうしてふざけ合えることを喜んでいた。

 その一方で――


「楽しそうね……」


 離れた場所から4人を眺めていたネーヴェは、眩しそうに目を細めていた。

 自身の役割を全うする為に孤高の存在を貫いている彼女だが、本心では他のプレイヤーと遊びたいと思っている。

 それでもネーヴェは、優先事項を間違えない。

 防衛に備えて装備などのチェックを済ませ、使い魔である白い狼を呼び出した。

 味方にもかかわらず、周囲のプレイヤーが僅かにどよめくほどの、存在感を放っている。

 だが、ネーヴェは一切気にした素振りもなく狼を撫でて、慈しむように声を発した。


「今日もお願いね、リル」


 狼ことリルは返事をしなかったが、発する迫力が一段と増した。

 それこそが答えだと感じたネーヴェは微笑を漏らし、そのときが訪れる。


「来たぞ!」

「上等よ! やってやるわ!」

「MLOを舐めんじゃねぇぞ!」


 19時を回り暫くして、大勢のプレイヤーが転移して来た。

 それなりに知名度が高く、残っている中でも活発なタイトルの1つ。

 拠点である町に向かって来ており、森に入ろうとして――獄炎。

 寸前で放たれた地獄の業火が、辺り一面を焼き払った。

 それを成し遂げたのは、言うまでもなくモエモエ。

 いきなり【インフェルノ】を受けた相手タイトルは二の足を踏んでおり、そこに3人の少女が襲い掛かる。


「あたしたちだって!」

「モエモエにだけ、任せてられないよ!」

「頑張っちゃうよー!」


 元気いっぱいなモエモエの仲間たちが、得意の炎魔法で次々と敵を倒して行く。

 使い魔たちも頑張っており、それぞれの主を援護していた。

 その様子をモエモエは苦笑を浮かべて眺め、自身もより一層勢い込んで戦いに臨む。

 フランも気合いが入っているようで、炎のブレスを吐き出していた。

 彼女たちのギルドであるプラーミャは、炎魔法のみを使うことで知られている。

 属性の相性で不利になることもあるが、その実力は間違いない。

 モエモエを筆頭に膨大な炎を撒き散らす4人に続くかのように、他のMLOプレイヤーも奮起していた。

 しかし、そのとき――


「え!? 向こう!?」

「もしかして、こいつら囮だったのか!?」


 町を挟んで戦場とは反対側に、新たなプレイヤーが出現した。

 どうやら、主戦力にMLOプレイヤーの意識を集中させて、迂回した別動隊がクリスタルを破壊する算段だったらしい。

 その策は見事にはまり、今から戻っても間に合わないだろう。

 もっとも、モエモエは何の心配もしていなかったが。


「行くわよ、リル」


 クリスタルの近くに陣取っていたネーヴェが呟き、リルに白い光が収束すると――巨大化。

 見上げるほどの白狼を目の当たりにして、別動隊は恐れ戦いていた。

 古代魔法、【フェンリル】。

 使い魔であるリルを強化する効果で、分類的には補助魔法。

 とは言え、実態はかなり攻撃的だ。


「始末しなさい」


 ネーヴェがゆらりと右手を前に出し、短く命じる。

 それと同時に、リルの姿が掻き消えた。

 驚愕した別動隊は、必死に周囲を見渡したが、全てが遅過ぎる。


「ぐぁッ!?」

「ぎゃあ!?」


 凄まじい速度で駆け回ったリルが、その爪で、牙で、尾で、敵を瞬く間に殲滅して行く。

 相手もなんとか反撃しようとしていたが、リルのスピードには付いて行けていない。

 結局、侵攻して来たタイトルはまともに攻撃することも出来ず、大打撃を受けて逃げ帰った。

 MLOプレイヤーたちは警戒を続けたが、無事に22時を迎える。

 そのときになって空気が弛緩し、喜びの声があちらこちらから聞こえて来た。

 モエモエたちプラーミャもはしゃいでおり、その光景を見てネーヴェは笑みを浮かべていたが――


「いやぁ、皆さん流石ですね。 お見事です」


 モノクルの位置を整えながら、にこやかに歩み寄って来たダリア。

 使い魔である単眼のコウモリ、アイも一緒だ。

 彼を視界に捉えた瞬間、ネーヴェが冷たい表情になる。

 だが、ダリアはマイペースに言葉を連ねた。


「今回も、わたしが出る幕はありませんでした。 素晴らしい仲間たちだと思います」

「仲間たち、ね……。 たまには、貴方にも働いてもらいたいのだけれど?」

「それに関しては、話し合ったでしょう? 敵に情報を与えない為にも、ペンタゴン全員が手の内を晒すのは得策じゃありません。 わたしは敢えて、手を出さないようにしているんですよ」

「物は言いようね。 まぁ、良いわ。 それより、何か用かしら?」

「おや、用がなければ仲間に話し掛けたらいけませんか?」

「悪いけれど、おふざけに付き合うつもりはないの」

「やれやれ、わかりましたよ。 実は、次回のGENESISクエストの情報を手に入れたんです」

「……! それは確かなの?」

「いいえ。 残念ながら、デマでした。 ちなみに、情報の真偽を確かめてくれたのは、高垣さんでした。 彼には感謝しなければなりませんね」

「……そう」


 ダリアの言葉を聞いて、難しい顔で黙り込むネーヴェ。

 彼女から見て高垣は、正直なところ当てにならない人物だった。

 それは的外れな感覚ではないのだが、ダリアの嘘によって、多少なりとも見直している。

 そんな彼女を内心で嘲笑いつつ、ダリアは続きを話した。


「それで本題なんですけど、このことを他のペンタゴンにも伝えてくれませんか? もし現時点でGENESISクエストの情報を掴んでも、偽の情報である可能性が高いので、事前に必ず相談するようにと」

「構わないけれど、どうして自分で言わないの?」

「わたしは、他のプレイヤーに説明して来ます。 それとも、役割と交代しますか?」

「……わたしはペンタゴンを担当するわ」

「有難うございます。 では、よろしくお願いしますね」


 最後まで笑顔を絶やさなかったダリアは、モノクルの位置を正しながら歩み去った。

 暗に自分が1人だと言われた気がするネーヴェは、渋い顔をしつつもモエモエの元に向かう。

 その足取りは軽く、事務的な話であっても、彼女と関われるのは楽しみらしい。

 こうしてMLOは侵攻を難なく退け、ダリアは偽情報の策を順調に進めるのだった。

 そしてこの頃、ノイとエリスは自身の仕事を果たしていた。

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