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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第3話 目玉焼き

 帰宅した雪夜は、雑務を終えてから夕食を摂り、机に向かっていた。

 修司や担任に宣言したからでもあるが、元から彼は勉学に励んでいる。

 このときばかりは生存戦争のことを忘れ、勉強に没頭していた。

 こう言った切り替えが出来るのが、雪夜の強さの秘訣かもしれない。

 静かに時間が経過し、やがてタイマーの電子音が室内に響く。

 それを聞いた雪夜は、忙しなく動かしていた手をピタリと止めて、片付けに入った。

 時刻は、18時30分。

 侵攻開始時間の30分前。

 余裕を持って準備を整えた彼は、ベッドに横になってCBOにログインする。

 瞬間、数多くの視線が雪夜に殺到した。

 アンリミテッドクエストで1位になったことに加えて、限定的ながらもSCOと同盟を組んだことで、彼に対する風当たりは弱くなっている。

 とは言え、仲良くとも行かないが。

 自分が嫌われることで仲間たちが悲しむと自覚した雪夜は、今の状況に少なからずホッとしている。

 そうして、なるべく敵対的な態度を取らないように気を付けながら、いつもの集合場所に向かった。

 そこにはケーキとAlice、ゼロの姿があり、仲間たちの姿を視界に収めた彼は、自然と表情を和らげている。

 しかし、もしかしたら今から別のタイトルが、攻めて来るかもしれないのだ。

 気を引き締め直した雪夜は、いつも通り平坦な声で呼び掛けた――が――


「皆、こんばんは」

「あ、雪夜くん! ちょっと聞いてよ! ゼロさんが酷いの!」

「酷いのはAliceちゃんだろ! 雪夜はどう思う!?」

「雪夜くんは、あたしの味方だよね!?」

「俺だよな!?」


 猛烈な勢いで詰め寄って来たAliceとゼロに、流石の雪夜も目を丸くした。

 次いで彼はケーキに視線を向けたが、彼女は困ったように眉を落としている。

 まったくもって状況が理解出来ない雪夜は、ひとまず2人を宥めることにした。


「落ち着け、Alice、ゼロ。 いったいどうしたんだ?」

「どうもこうもないよ! ゼロさんが、あり得ないことを言い出したの!」

「だから、それはAliceちゃんだろ! 雪夜はわかってくれるよな!?」

「内容を知らないのに、わかるも何もないだろう。 結局、何で言い争っているんだ?」


 このとき雪夜は、割と真剣だった。

 もし仲違いしているようなら、リーダーとして解決しなければならない。

 責任感の強い彼は、本気でそう考えていたが――


「目玉焼きにかけるもの! ゼロさん、醤油って言うんだよ!? 信じられない!」

「なんでだよ!? Aliceちゃんこそ、ソースとか意味わかんねぇよ!」

「どこがよ!? 普通、絶対ソースだって!」

「誰が決めたんだよ、そんなこと! 醤油の方が、美味いに決まってんじゃねぇか!」

「ソースだってば!」

「醤油だ!」

「ソース!」

「醤油!」


 と、極めて次元の低い話題だと知って、雪夜は思い切り脱力した。

 そして、改めてケーキを見たが、彼女はゆっくりと首を横に振っている。

 どう言う心情か良くわからないが、取り敢えず呆れているのは伝わって来た。

 などと現実逃避していた雪夜だが、すぐに渦中へと引き摺り戻される。


「それで、雪夜くんはどっちなの!?」

「醤油だよな、雪夜!?」


 ともすれば、過去最高に必死な仲間たちを冷めた目で見た雪夜は、いっそ無視しようかとすら考えている。

 だが――


「俺は塩派だ」

『え!?』


 反射的に返事した自分に驚く雪夜と、思わぬ答えに絶句しているAliceとゼロ。

 周囲で聞き耳を立てていたプレイヤーたちからは、吹き出すような笑声が漏れていた。

 それを聞いた雪夜は無性に恥ずかしくなったが、今更なかったことには出来ない。

 ほとんどヤケクソになった彼は、澄まし顔で捲し立てる。


「素材の味を最も引き立たせるのは、塩だ。 醤油もソースも、いらない」

「そ、そんな……。 雪夜くんは、ソースだって信じてたのに……」

「雪夜……裏切りやがったな……?」

「何を言っているか知らないが、俺の意見は変わらない。 目玉焼きには塩だ」


 両手で口を覆ってAliceは瞳に涙を溜め、ゼロは無念そうに項垂れている。

 しかし、雪夜は1歩も譲ることなく、腕を組んでさえいた。

 更に悪ノリした彼は、もう1人の仲間にも水を向ける。


「ケーキは?」

「え?」

「目玉焼きには、何をかけるんだ?」

「えぇと……その……」

「俺に遠慮する必要はない。 本当のことを教えてくれ」


 手をモジモジさせて目を泳がせているケーキに、雪夜は出来るだけ穏やかに尋ね掛けた。

 彼女が言い淀んでいるのは、自分と違う意見だからだと考えたからだが、実際は違う。

 戦闘AIであるケーキに目玉焼きを食べた経験などなく、それゆえに答えに窮しているのだ。

 いつの間にか立ち直っていた、Aliceとゼロからも注目されたケーキが、どうしたものかと困っていると、そこに救いの手が差し伸べられる。

 4人のチャットアプリに同時に通知が入り、そこには端的な一文が添えられていた。


『わたしはケチャップかな』


 貴音の意見を聞いたAliceとゼロは、即座にチャットを返信しようとしたが、その前に続きのメッセージが届く。

 そしてその内容は、決して無視出来ないものだった。


『次回GENESISクエストの、情報が手に入ったわ』


 瞬間、EGOISTSの間に緊迫した空気が流れた。

 侵攻開始までは、もう少しある。

 視線を交換した4人は、他のプレイヤーには気付かれないように、チャットで話し合いを始めた。


『具体的に教えてくれるか、貴音ちゃん?』

『勿論よ、雪夜くん。 ……と言いたいところなんだけど……』

『どうかしたのですか?』

『少し気になることがあるのよ、ケーキちゃん』

『気になること? GENESISクエストの情報が手に入ったんじゃないの? それなら、共有してる方が良くない?』

『Aliceちゃんの言う通りなんだけど……うーん、やっぱり保留にさせてくれる?』

『なんだよ、期待させておいて』

『ごめんね、ゼロくん。 でも、お願い。 少しだけ時間を頂戴。 必ず、はっきりさせるから。 皆には、中途半端な情報を渡したくないのよ』

『わたしは、貴音ちゃんを信じます。 ですから、皆さんも納得してもらえませんか?』

『ケーキちゃん……。 わかったよ、あたしも待ってあげる』

『俺もだ。 そもそも、本来ならなかったもの。 少し手に入るのが遅れたからと言って、問題はない。 そうだな、ゼロ?』

『まぁ、不確かな情報を聞くよりはマシか。 じゃあ貴音ちゃん、今度こそ頼むぜ!』

『えぇ、任せなさい。 防衛前にごめんね? 攻めて来るタイトルがあるかわからないけど、頑張って』


 貴音の言葉を最後に、チャットが途絶える。

 それを確認した雪夜は、ケーキたちに向かって声を掛けた。


「一旦、貴音ちゃんの話は忘れよう。 とにかく、防衛に集中だ」

「はい、雪夜さん。 全身全霊を尽くします」

「ケーキちゃん、気負い過ぎだよ! あたしたちだっているんだから、自分だけで戦おうとしないでね?」

「Aliceさん……。 はい、頼りにしています」

「うんうん! 頼って~!」

「じゃあ、俺もAliceちゃんを頼って――」

「醤油派のゼロさんは、自分で頑張ってね」

「ちょ!? それは酷過ぎだろ! 雪夜、なんとか言ってやってくれよ!」

「さぁ、時間だ」

「無視!? 薄情者!」


 ギャアギャアと喧しいゼロを放置して、刀に手を掛ける雪夜。

 ケーキとAliceも静かに戦闘態勢を整え、防衛に備える。

 EGOISTSのやり取りを遠目に窺っていた他のプレイヤーたちは、適度に力が抜けた状態になっていた。

 雪夜たちは狙った訳ではないものの、戦闘力以外の部分でもCBOに貢献している。

 結局、侵攻して来るタイトルは存在せず、何事もなく時間が過ぎ去った。

 そのことにEGOISTSを含めたCBOプレイヤーは安堵し、それぞれのやるべきことへと戻って行く。

 雪夜たちは主にケーキの装備経験値を溜める為に、高難易度のダンジョンに潜ることが多く、今日もすぐに目的地へとワープして行った。

 こうしてこの日もCBOは平穏だったが、彼らは知らない。

 すぐ近くまで、招かれざる客がやって来ていたことを。

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