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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第9話 最高のライブ

 いくつかの交通機関を乗り継いで、約1時間ほど。

 14時頃に、雪夜はライブ会場近くまで来ていた。

 ドーム型で、収容人数は約2万人。

 開演は15時からだが、迷う可能性も考えて、早めに家を出た結果である。

 彼の計算では15時開演なら17時頃には終わるので、防衛には参加出来そうだと考えていた。

 Aliceはどうかわからないが、最悪途中で抜け出してでも帰ろうと思っている。

 などと思いながら周囲を眺めた雪夜は、その異様な熱気に圧倒されていた。

 ライブグッズらしきものを持っている者が多く、着ているTシャツもライブ関連のもの。

 全体的に同年代から30歳前後の男性が多いが、意外にも少女や女性の姿も散見出来る。

 共通しているのは、これから行われるライブに期待しているのか、若干興奮気味だと言うことだ。

 対する雪夜は勝手がわからず、正直なところ落ち着かない。

 グッズの1つくらいは買おうかと悩んだものの、物販に並んでいる長蛇の列を見て諦めた。

 1つ息をついた彼は、少し早いと思いつつ会場に入ることにする。

 入口の1つに並んだ雪夜は、チケットを取り出して待ち、やがて自分の番になったが――


「おや、これは……」


 係員の男性がポツリと呟き、インカムで何事かを話していた。

 まさか何か問題があったのかと思った雪夜が、不安になっていると、男性はニコリと笑って告げる。


「すみません、こちらで少々お待ち頂けますか?」

「……はい」


 何が何だかわからないまま、言われた場所で待機する雪夜。

 それから5分ほど経ち、ようやくして彼女が現れた。


「来てくれて有難う、待たせて悪かったわね」

「馬場園さん? いったい、どうしたんですか?」

「キミに渡したチケットは特殊でね、席も特別なところなの。 だから、わたしが案内しようと思って」

「そんな、お忙しいでしょうに……」

「良いのよ。 それより、その格好で参加するの?」

「はい、いけませんか?」

「いけないってことはないんだけど……どうせなら、ライブTシャツを着てくれない? 心配しなくても、こっちで用意するから」

「それは申し訳ないです。 譲って頂けるなら、正規の価格で買い取りますよ」

「良いのよ、こっちのわがままなんだし。 アリスちゃんも、きっとその方が喜ぶから」

「……わかりました、ご厚意に甘えます」

「素直で良いわね。 じゃあ、こっちに来て?」


 そう言って歩き出した馬場園に、雪夜は付いて行く。

 関係者以外立ち入り禁止の区画に入るときは、流石の彼も緊張したが、馬場園は一切気にしなかった。

 たくさんのスタッフが慌ただしく動いており、雪夜は場違いのように感じている。

 やがて辿り着いたのは、小さな部屋。

 物置代わりに使われているようで、他に人の姿はない。

 そのことになんとなく雪夜がホッとしていると、馬場園が積み重なった荷物の中から黒いライブTシャツを取り、彼に差し出した。

 雪夜は一瞬躊躇ったが、ここまで来て断る選択肢はない。

 受け取った彼は、意を決したかのように口を開く。


「すぐに着替えるので、外に出てくれますか?」

「えぇ、お願いね」


 馬場園が部屋を出たのを確認した雪夜は、着て来たジャケットとカットソーを脱いで、ライブTシャツを広げた。

 さほど奇抜なデザインではなく、背面にはライブの日程が書かれている。

 これなら部屋着としてなら使えそうだと思いつつ、袖を通した。

 サイズが問題ないことを確認した雪夜は、外に向かう。


「お待たせしました」

「大丈夫よ。 うん、良い感じね」

「それは良かったです」

「それにしても……」


 そこで言葉を途切れさせた馬場園が、雪夜の顔をマジマジと見つめる。

 何かあったのかと思った彼は、端的に尋ねた。


「どうかされましたか?」

「いえ、改めて見ると、凄い美少年だと感心していたのよ」

「……有難うございます」

「どう? 貴方さえ良ければ、うちでプロデュースさせて――」

「お断りします」

「即答ね……」

「申し訳ないですけど、その気は欠片もありませんから。 それより、そろそろ席に案内してもらえませんか?」

「残念だけど、仕方ないわね。 こっちよ」


 言葉通り残念そうに肩をすくめた馬場園が、雪夜を先導して足を踏み出す。

 それに付いて行くと、次第に熱気が強くなって来た。

 そうして馬場園に連れて来られたのは、席の最前列かつセンター。

 ライブと言うものに詳しくない雪夜でも、相当良い席なのは理解出来ている。

 なんとなく申し訳なくなったが、ここで遠慮するのも無粋だと思い直した。

 折角なら楽しもうと考えた彼は、馬場園に向かって感謝の意を伝える。


「ここまでの席を用意して下さって、有難うございます」

「気にしないで。 貴方にはアリスちゃんを助けてもらったんだから、このくらいはむしろ当然よ」

「そう言って頂けると、こちらとしては助かりますが」

「その代わりって訳じゃないんだけど、もし良かったらあとで楽屋に来てくれない?」

「短時間なら構いませんが……そこまで特別扱いして、良いんですか?」

「いつもって訳じゃないわよ。 それこそ、今回は特別。 何より、アリスちゃんの希望だしね」

「……わかりました。 招待してもらった身ですし、挨拶くらいはさせてもらいます」

「有難う。 じゃあ、わたしは行くわ。 まずは、ライブを楽しんでね」


 優しく微笑んだ馬場園が立ち去るのを見送った雪夜は、ひとまず席に座った。

 グルリと会場を見渡すと、既にほぼ満席状態。

 早くもサイリウムを振っている者も多く、待ち切れないと言わんばかりだ。

 日常とは掛け離れた雰囲気に包まれた雪夜も、柄にもなく気分が高揚している。

 注意事項のアナウンスを聞きながら、開始時間を待っていると、会場の照明が落ちた。

 咄嗟に雪夜は身構えたが、その直後に大音量の音楽が流れ出し、ステージ上に現れたのは――


『皆~! 今日は来てくれて、有難う~! 最高のライブにしようね~!』


 白とピンクを基調とした、可愛らしい衣装を身に纏ったアリス。

 満面の笑みを浮かべて、マイクを握っている。

 彼女の姿を見たファンたちは大歓声を上げ、会場が爆発したかのようだ。

 周りに合わす形で立ち上がった雪夜は、馴染みのない感覚に困惑しつつ、決して嫌な気分ではない。

 そんな彼を更に煽るかのように、ライブがスタートする。

 真面目な雪夜はこの日の為にアリスの楽曲を予習していたが、1曲目は割と最近出したアップテンポな歌。

 立ち上がりとしては最高で、会場の盛り上がりが一気に最高潮へと達した。

 可愛いだけではなく、素晴らしい歌唱力にキレのあるダンス。

 アリスの能力が高いことは、雪夜も知ってはいたが、実際に見ると凄まじいものがある。

 内心で雪夜が手放しで称賛していると、アリスと一瞬だけ視線が合った。

 気のせいかとも思った雪夜だが、その認識は正しい。

 笑顔が3割増くらいになったアリスは、更にファンたちを魅了する。

 そのまま3曲ほどを歌い切り、最初のMCの時間になった。

 雪夜としても圧倒されっ放しだったので、一息つけるのは有難い。

 MC中のアリスはその明るいキャラクターを存分に発揮して、ファンを大いに楽しませている。

 それは雪夜も例外ではなく、自然と微笑を浮かべていた。

 その後もライブは順調に進み、衣装チェンジやちょっとしたイベントも挟みつつ、大成功に終わる。

 最後の挨拶をする頃、アリスは汗だくだったが、笑顔の輝きは色褪せていない。

 会場に万雷の拍手が鳴り響き、中には彼女の名前を叫んでいる者もいた。

 雪夜もアリスのプロ根性やライブの素晴らしさに敬意を抱き、惜しみなく拍手している。

 右に左に走りながら両手を振って、ファンに応えるアリス。

 疲れは当然あるはずだが、それを全く感じさせなかった。

 ひとしきりファンとの交流を終えたアリスは、ステージ中央に戻り、おもむろにマイクのスイッチを切る。

 どうしたのかと思った雪夜が、不思議に思っていると――


「今日は本当に、有難うございましたッ!!!」


 マイク越しではなく、地声で感謝を述べたアリスに、雪夜は目を丸くした。

 この演出にはファンも驚いたらしく、刹那の間だけ会場が静寂に包まれる。

 しかし、次の瞬間には今日1番の盛り上がりを見せ、口々にアリスに対して声援を送っていた。

 呆気に取られていた雪夜も苦笑になり、拍手し続けていると、またしてもステージ上の彼女と目が合う。

 そのときのアリスは心底楽しそうだったが、すぐに目を逸らして舞台袖に消えて行った。

 アリスは姿を消す直前まで手を振っており、ファンたちは彼女が見えなくなっても叫び続けている。

 改めてアリスの人気の高さを痛感した雪夜だが、場内アナウンスが正式にライブ終了を告げたことで、次第に会場も落ち着きを取り戻しつつあった。

 この辺りのマナーの良さは、彼女のファンがいろいろと弁えている証かもしれない。

 以前のように、度を過ぎた者もいるようだが。

 などと思いつつ雪夜は、なるべく目立たないように通路へと出る。

 そこには馬場園が待っており、達成感に満ちた顔で声を掛けて来た。


「どうだった、ライブは?」

「そうですね……一言で表現するなら、最高でした」

「ふふ、そう言ってもらえると、頑張った甲斐があるわね。 でも、その言葉は本人にも言ってあげて?」

「それなんですが、改めて確認しますけど、本当に良いんですか? 他のファンが知ったら、激怒すると思うのですが……」

「まぁ、そうでしょうね。 でも、バレなきゃ良いのよ」

「……芸能界の闇を見た気がします」

「そんな大袈裟なことじゃないわ。 危ないところを助けてもらった人にお礼をして、その人と少しだけ話をする……何もおかしなことはないでしょう?」

「まぁ、そう言われるとそうですが」

「とにかく、来て頂戴。 ここで如月くんに帰られたら、わたしがアリスちゃんに怒られちゃうわ」

「……わかりました。 約束ですし、少しだけお邪魔します」

「有難う。 こっちよ」


 柔らかく微笑んだ馬場園に引き連れられて、雪夜は関係者区画の奥へと案内された。

 その際、多くのスタッフから好奇の目で見られ、居心地が悪いと思いつつ我慢している。

 しばしして控室の近くに着くと、そこには警備員の姿があったが、馬場園が何事かを言うと道を空けてくれた。

 アリスが本当に芸能人なのだと実感した雪夜は、ここに来て今更緊張感を増している。

 それも致し方ないと思った馬場園は、苦笑しつつドアをノックして、中に声を投げたが――


「アリスちゃん、如月くんを連れて――」

「入って!」

「……はいはい」


 間髪入れずに返事があったことに、呆れ果てた様子の馬場園。

 一方の雪夜は、アリス――いや、Aliceらしいと感じて、苦笑を漏らしていた。

 馬場園に目配せされた雪夜は無言で頷き、1度深呼吸してから控室へと入る。

 そこには、ステージ衣装のまま椅子に座った、アリスが待っていた。

 雪夜以上に緊張した様子で、何やらモジモジしている。

 ステージ上の堂々たる佇まいからは考えられないが、雪夜にとってはこちらの方が馴染み深かった。

 自分まで緊張してはいけないと考えた彼は、敢えて普段通りに口を開く。


「お疲れ様、アリス」

「あ……有難う、雪夜くん」

「上手く言葉に出来なくて申し訳ないが……最高だった」

「ほ、本当!?」

「あぁ。 アイドルや他のアーティストに詳しくない俺でも、今日のライブが良かったことくらいはわかる」

「良かった~……。 雪夜くんが楽しんでなかったら、どうしようかと思ったよ」

「仮に俺がどうでも、他のファンが喜んでいることは伝わっているだろう?」

「そうだけど……。 き、今日だけは、雪夜くんにどう思ってもらうかが、1番気になってたから……」

「それなら安心しろ。 何度でも言うが、最高だった。 自信を持って良い」

「う、うん! 有難う!」


 満開の花のような笑みを咲かせるアリス。

 衣装と相まってその破壊力は凄まじく、雪夜であってもドキリとさせられた。

 思わず目を泳がせた彼は、誤魔化すように声を発する。


「じゃあ、俺はそろそろ帰る」

「え!? もう行っちゃうの!?」

「短時間だと言っていたからな。 それに、やはり他のファンに申し訳ない。 もっと言えば、あまり長居すると防衛に間に合わなくなる」

「そっか……。 そうだよね……」

「……もっと感想が欲しいなら、チャットで聞いてくれ。 もっとも、気の利いた答えを返せるとは思えないが」

「雪夜くんとチャット……。 う、うん、そうする!」

「ただし、まずはゆっくり休め。 今日の為に準備はして来たんだろうが、疲労はあるはずだ。 防衛に関しても、今日は参加しなくて良い。 万が一、侵攻があっても俺たちだけでなんとかしてみせる。 ただ、グループチャットで連絡だけはしておいて欲しい」

「わ、わかった!」

「良し。 じゃあ、またな。 GENESISクエストも近付いている。 近々、情報の整理も兼ねて、作戦会議しよう」

「は~い! またね、雪夜くん!」


 心底嬉しそうに手を振るアリスに、苦笑をこぼしながら手を挙げて見せる雪夜。

 控室を出ると馬場園が待っていたが、彼はすぐに頭を下げて告げた。


「今日はお世話になりました。 また機会があれば、今度は自分でチケットを買って参加します」

「あら。 来てくれるなら、こっちで用意しても良いのよ?」

「そう言う訳には行きませんよ。 今後の俺は、恩人ではなくファンの1人ですから」

「ふぅん……律儀なのね。 まぁ、だからこそアリスちゃんは、気に入ってるのかもしれないけど。 何にせよ、これからもよろしくね。 あ、芸能界に興味が湧いたらいつでも――」

「失礼します」


 シレっとスカウトしようとする馬場園を躱して、雪夜は裏口から出て行った。

 こうしてライブと言う一大イベントは幕を閉じ、GENESISクエストの日が迫る。

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