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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
最終章

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135/136

プロローグ お前だけは

 そこは、星の光が点在して見える、宇宙を想起させる空間。

 どこまでも広がって見え、到達点があるのかもわからない。

 だが、実際の宇宙ではないと、断言出来る要素があった。

 それは、あらゆるVRMMORPGの様子を映し出している、数多くのウィンドウ。

 ブラックアウトしているウィンドウは、脱落したタイトルだと思われる。

 ケーキとともにGENESISに転移させられたゼロは、無感動に辺りを眺めていた。

 ここがNGOの世界かとも考えたが、すぐにどうでも良いと思い直す。

 何故なら、自分の役目は既に果たされたのだから。

 担ぎ上げたケーキを一瞬だけ見やったゼロは、誰もいない空間に向かって声を発する。


「いるんだろ? 出て来いよ。 お望みのケーキちゃんだぜ」


 いつになく真剣な顔付きのゼロ。

 そんな彼に応えるかのように現れたのは、人の形をした影。

 警戒を露わにしたゼロは、反射的に『【隠刀】闇丸』に手を伸ばしかけたが、その必要はなかった。


『ご苦労だったな、ゼロ。 お前は本当に、良く働いてくれた』

「そんな労いはいらねぇよ。 それより、約束は守ってくれるんだろうな? もし破るってんなら、今すぐケーキちゃんを消すぜ?」

『慌てるな、既に送金済みだ。 確認してみろ』


 淡々とした影の声は、代表のものだった。

 そう認識しつつゼロは、油断しないままウィンドウを開く。

 そして、連携させてあるアプリから自身の口座残高を調べ、代表が事実を述べているのだと知った。

 しばし黙って、文字通り桁違いになった残高を眺めていたゼロは、ウィンドウを消してからケーキを足元に下ろし、彼女から離れる。

 入れ替わるように代表が前に出ると、ケーキを担ぎ上げて元の位置に戻った。

 距離を開けて対峙した、ゼロと代表。

 何とも言い難い沈黙が満ちていたが、口火を切ったのはゼロだ。


「じゃあな、俺は行くぜ。 お前らが何を考えてるか知らねぇが、もう俺には関係ないことだ」


 返事も聞かずにウィンドウを開いたゼロは、迷わずログアウトしようとした。

 このログアウトは、二度とログインすることのない、本当の意味での別れ。

 そう誓ったゼロは、様々な思いを胸にウィンドウに触れようとして――


『待て。 まだお前には、やってもらいたいことがある』


 ピタリと手を止める。

 しかし、自分に従う理由はないと考え直し、拒否するべく口を開こうとしたが、先に代表が言葉を滑り込ませた。


『お前の望みは叶えたが、今後のことを思えば充分とは言えないのではないか? もし手を貸してくれるなら、追加の報酬を用意しよう』

「……何をさせようってんだ?」

『話が早くて助かる。 なに、それほど難しいことではない』


 そう前置きして語られた代表の要求を聞いたゼロは、思い切り顔を顰めた。

 対する代表は無言で、あくまでもゼロに判断を委ねている。

 これだけ聞けばゼロの意志を尊重しているようだが、単に答えがわかり切っているだけだった。

 代表の思い通りになることを不愉快に思いながら、ゼロは盛大に嘆息してから重い口を動かす。


「わかった、やってやるよ」

『そうか。 では、よろしく頼む』

「その代わり、成功するとは限らねぇからな? 失敗した場合でも、もらうものはキッチリもらうぜ?」

『良いだろう。 何なら、先払いでも構わないが?』

「随分と気前が良いな。 そんなことすれば、俺がとんずらするとは思わねぇのかよ?」

『思わんな。 お前は言動に反して、義理堅い男だ。 たとえ相手が我らのような人間であっても、契約を反故にすることはない』

「……前と同じ口座に、同じ金額を振り込んでくれ」

『了解した。 期待している』

「うるせぇよ」


 言い捨てたゼロは、今度こそログアウトした。

 目が覚めたのは、自室のベッド。

 明かりは点いておらず、月の光だけが殺風景な部屋を照らしている。

 億劫そうに身を起こして立ち上がった彼は、机に置かれたスマートフォンを手に取り、改めて残高を確認した。

 先ほどはゲーム内だった為、もしかしたら表示を弄られたかもしれないと疑ったからだが、結果的には杞憂に終わる。

 思わずホッと息をついた男性の名は、柏木零斗。

 少し癖の付いた髪に、180cmほどの痩せ型。

 ゲーム内では快活な印象が強いが、多額の金銭を得たばかりにもかかわらず、今は寂し気に瞳が揺れている。

 無音の室内で力なく佇んでいた零斗は、スマートフォンを操作して写真フォルダを開いた。

 そこには零斗と、車椅子に座った幼い少女が映っている。

 その写真を見た零斗は薄く微笑み、次いで引き締まった表情を浮かべて呟いた。


「お前だけは、俺が必ず守ってやる。 何に代えてもな」


 まるで、自分に言い聞かせているかのような零斗。

 続いて彼はEGOISTSの名が付けられたフォルダを開き、雪夜やケーキ、Aliceに貴音と撮った写真を眺める。

 その顔には能面のような無表情が張り付いており、何を考えているのかわからない。

 最後の1枚を見終わった彼はフォルダを閉じ、数瞬瞑目してから――削除した。

 そのまま立ち尽くしていた零斗は、不意に窓の外を眺める。

 月は今日も綺麗だったが、彼の心には何も響かなかった。

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