表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/136

第1話 無理だ

 SCOやMLOの助力もあり、BKOとTHOの侵攻を退けたCBOは生き残った。

 しかし、喜びを噛み締める暇もないほど唐突に、状況は激変した。

 同盟関係や敵対関係、最後まで残ったタイトルをGENESISが援助すると言う取り決めなど、あらゆるものが引っ繰り返された。

 あまりの事態に収拾が付かず、各々が気持ちや頭の整理をする為に、その場は解散となった。

 これを提案したのは白太で、誰も反論はなかった。

 それどころか、声を発することも出来ずにログアウトする者が、ほとんどだった。

 ケーキを奪われたことと、ゼロの裏切りによって多大な衝撃を受けた雪夜も、例外ではない。

 Aliceと言葉を交わすことすらなく現実に戻り、真っ暗な部屋でベッドに腰を掛け、項垂れている。

 ようやく恋心を自覚した途端の別れ。

 過去のトラウマを抉るような裏切り。

 雪夜の心を折るには、充分過ぎるほどだった。

 何もかもが嫌になった雪夜は、CBOをアンインストールして、全てを忘れようとすら考え始めている。

 だが、そのとき、スマートフォンから通知音が聞こえた。

 億劫そうに手に取った彼が画面を確認すると、貴音からのメッセージが届いていた。

 無視しようかとも思った雪夜だが、指が勝手に画面をタップする。

 そうして、表示されたメッセージは――


『ケーキちゃんを助けてあげて』


 極めて短く、これ以上ないほど純粋な願い。

 思わず目を見張った雪夜はフリーズしたが、すぐに返事をチャット欄に打ち込んだ。


『助けてどうする? 今度はCBOがケーキを利用するのか?』

『違うわ。 あの子は、わたしが作った……ううん、生んだ子なの。 だから、どうしても救いたいのよ』

『仮にそれが本当だとしても、手遅れじゃないのか? GENESISの手に渡った以上、取り返す手段があるとは思えない』


 文言だけ見れば淡々としているが、このとき雪夜の指は震えていた。

 客観的な意見を述べたとは言え、彼自身が受け入れ難い現実である。

 自然とスマートフォンを握る力が、強くなっていた。

 すると、暫く時間を置いてから貴音の返信があったが、雪夜はまたしても驚くことになる。


『諦められるの?』


 シンプルな問い掛け。

 だが、それゆえに雪夜の心を揺さぶった。

 勿論、本音を言えば諦めたくはない。

 それでも彼の冷静な思考は、諦めざるを得ないと訴え掛けている。

 だからこそ雪夜は、諦める旨を伝えようとして――


『無理だ』


 気付けば、その3文字を送っていた。

 我ながら馬鹿なことをと思いつつ、本心を語ることが出来たからか、気持ちは少し楽になっている。

 そんな自分に雪夜が苦笑していると、今度はすぐに貴音からメッセージが返って来た。


『そうこなくちゃね。 確かに難しいけど、わたしは可能性があると思ってるわ』

『俺には思い付かないが……根拠はあるのか?』

『根拠ってほどじゃないけど、少し気になることがあるのよ』

『気になること?』

『えぇ。 確信が持てないからはっきりとは言えないけど……わたしの考えが合っていれば、ケーキちゃんはまだ無事よ』

『希望的観測にしか聞こえないが……。 だが、貴音ちゃんが言うのなら、本当に何かあるんだろう』

『有難う、信じてくれて。 ただ、どっちにしろ期間は1週間しかないわ。 アップデートを急ぐから、少しでも強くなって。 雪夜くんが望むなら、攻略法を教えても良いんだけど……』

『すまない。 こんな状況で何をと言われるかもしれないが、俺だけ特別扱いされる訳には行かない。 他のCBOプレイヤーと同じ条件で、挑ませてもらう』

『はぁ……。 やっぱり、そう言うと思ったわ。 仕方ないわね。 その代わり、覚悟はしておきなさい』

『言われるまでもない。 それより、頼みがある』

『何? 出来ることなら何でもするわよ』

『俺たちのアップデート権は、もう1つ残っていたな? それを使って、やってもらいたいことがある。 具体的には――』


 雪夜からアップデート内容を聞いた貴音は、しばし考え込んだ。

 可能か不可能かで言えば、可能。

 ただし、この短期間で実施出来るかと言えば、微妙なところだ。

 しかし彼女は、覚悟を込めて告げる。


『わかった、やってみせるわ』

『有難う』

『お礼なんて必要ないわよ。 でも、間に合ったとしても、役に立つのかしら? もっと、実施と同時に強くなれる方が良くない?』

『確かにそうだが、今のままだと最悪詰むかもしれない。 その予防策だ』

『……良いわ。 どの道、短時間じゃ大規模なアップデートは出来ないしね。 雪夜くんの案に乗るわ』

『では、今日は失礼する。 今後のことについて、考えたいからな』

『うん、了解よ。 わたしも早速、作業に取り組むから』

『今からか? 頼んでおいて何だが、無理はしないで欲しい』

『それはお互い様よ。 それに、今頑張らないで、いつ頑張るのって感じだし』

『それもそうか……。 俺も、自分の限界を見誤らないようにする』

『そうして頂戴。 じゃあ、取り敢えずお休み』

『あぁ、取り敢えずな』


 それっきりチャットが止まり、雪夜は大きく息を吐き出した。

 まだ何も解決していない。

 それでも、足を踏み出す心積もりは出来た。

 数秒だけ目を閉じた彼は、スマートフォンを取り出して手早く文章を作成し始める。

 NGOがどれだけの戦力を有しているのか知らないが、少なくともCBOだけで対抗出来るとは思えない。

 そうなると、取れる選択肢は限られていた。

 SCOのフレン、MLOのネーヴェ、BKOの白太、THOのEden。

 4大タイトルの代表格に、話し合う必要があると伝える。

 フレンとネーヴェとは以前から繋がりがあったが、白太とEdenはSNSのアカウントを探すことでなんとかした。

 その際、SNSがNGOの出現に関する話題で持ち切りだと知ったものの、雪夜が気にすることはない。

 もしかしたら、返事がないかもしれないと思っていた雪夜だが、すぐに反応があり、4人全員から同意を得られた。

 どうやら、考えることは同じらしい。

 第1段階をクリア出来たと判断した雪夜は、詳しい場所と日時を調整して、この件については見切りを付ける。

 どれほど絶望的な状況だとしても、やれることをやるしかないのだ。

 自分に言い聞かせた雪夜は、続いての事柄に向き合う。

 そしてそれは、ある意味で最も難しい問題だった。

 緊張した表情でチャットアプリを開いた雪夜は、目当ての人物を表示させる。

 相手は、Alice。

 どのような結末を迎えるとしても、彼女にはきちんと返事をしなければならない。

 決意を新たにした雪夜は、若干躊躇いながら文字を打ち込んだ。


『今、話せるか?』


 たったこれだけを打っただけで、雪夜は酷く消耗するのを感じている。

 それから間もなくして既読が付いたが、返事が中々来ない。

 段々不安になって来た雪夜が、画面を凝視していると――


『外で会いたい』


 この返事を見た雪夜は、ドキリとした。

 だが逃げることはなく、深呼吸してから了承の意を返す。


『わかった』

『有難う。 場所なんだけど、位置情報を送るから来てくれるかな? そんなに遠くじゃないから』

『あぁ。 じゃあ、またあとでな』

『うん、あとでね』


 チャットを区切った直後、Alice――アリスから位置情報が届いた。

 それを確認した雪夜は、出掛ける準備をして玄関に向かう。

 本心を言えば、アリスを泣かせるかもしれないことが怖い。

 だとしても、行くしかなかった。

 夜空の下、目的地への道を1歩1歩踏み締めて、雪夜は前へ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ