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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第32話 収まり

 AliceとEdenが死闘を繰り広げていた一方、ネーヴェとNicoleも負けていなかった。


「吹き飛べッ!」


 チャージした『Ultimate』から、極大の閃光が放たれる。

 草原を抉りながらネーヴェに迫り、飲み込もうとしたが――


「聞けない相談ね」


 ネーヴェの眼前に氷壁が生成され、砲撃を受け止めた。

 ただし、やはり『Ultimate』の威力は凄まじく、すぐにひび割れ始める。

 もっとも、ネーヴェにとっては、その数秒を稼げれば充分だったが。

 氷壁が破壊される前に攻撃範囲から離れた彼女は、草原を駆けながら反撃の魔法を放つ。

 無数の風刃がNicoleを取り囲み、全身を斬り刻んだ。

 並の相手であれば、これだけで戦闘不能に陥るだろうが、彼女は並ではない。


「ふん。 そんなもんじゃ、あたしは倒せないわよ」


 全くのノーダメージとは言わないまでも、有効打とも言い難い程度。

 白太もかなりの耐久力を誇っていたが、Nicoleはそれ以上かもしれない。

 自身の魔法が通用していないことに、ネーヴェは腹立たしく思いつつ、冷静に行動に出る。


「リル」


 ネーヴェが指示するより早く、【フェンリル】状態のリルがNicoleの背後から爪を振り下ろした。

 『Ultimate』は確かに強力だが、砲身はあくまでも正面を向いている。

 そして、ここまでの戦いから、見た目通り小回りは利かないと判明していた。

 それゆえにネーヴェは、自分が注意を引いてリルに奇襲を掛けさせたのだが、Nicoleも伊達にTETRAの一員を名乗ってはいない。


「甘いっての!」

『グゥッ……!?』

「リル!?」


 Nicoleの全身から電磁フィールドが発生し、リルを押し返した。

 ダメージ自体も馬鹿に出来ず、これではむやみに近付く訳には行かない。

 一旦、リルを呼び寄せたネーヴェは、厳しい表情でNicoleを睨む。

 それを受けたNicoleは『Ultimate』を構え直し、得意そうに語った。


「あたしと戦おうって奴は、大体似たようなことを考えんだよね。 だから、その対策もバッチリってこと」

「なるほどね……。 単なる火力馬鹿ではなかったと言うことかしら」

「ふふん、恐れ入った?」

「えぇ。 単なる火力馬鹿ではなく、厄介な火力馬鹿だと言うことがわかったわ」

「ちょっと!? あんまり馬鹿って言わないでよ!」

「実際、あまり頭は良くなさそうだけれど?」

「ムカつく! 上等じゃん! その澄まし顔、絶対泣かせてやるんだから!」


 今にも地団太を踏みそうな勢いのNicoleが、怒りをエネルギーに変えて、砲撃を放った。

 やはり途轍もない威力で、言葉とは裏腹に、ネーヴェは必死に守りを固める。

 氷壁で受け止め、その間に退避し、少しでもダメージを与えるべく攻撃。

 この繰り返しだが、実のところかなり苦しかった。

 いくら魔法が主戦力のMLOとは言え、使い続ければリソースは底を突く。

 他のタイトルより自然回復が早かったり、回転が速くなる仕様ではあるものの、それにも限界はあるのだ。

 力を溜めればまだ太刀打ち出来るだろうが、『Ultimate』のチャージは意外と速い。

 自分が大技を仕掛ける前にやられる可能性が高いと結論付け、ネーヴェはその選択を取れずにいる。

 なおかつ、頼みの綱であるリルも容易には使えない。

 Nicoleにそこまで正確なことはわかっていなかったが、漠然と自分が有利だと言うことは把握していた。

 だからこそ手を緩めることなく、怒涛の勢いで攻勢を掛けている。

 多少の被弾など、お構いなし。

 しかし、そのような力押しが通用するほど、ペンタゴンも甘くはなかった。


「ふぅ……。 本当は、ここで使うつもりはなかったのだけれど」

「は? 何よ、負け惜しみ?」

「違うわ。 単に今後に備えて、手札を明かしたくなかっただけ。 でも、流石にTETRAを相手に手加減は出来ないようね」

「ふん、当然じゃん。 て言うか、舐められてたの腹立つんだけど」

「それに関しては、素直に謝罪するわ。 貴女は強い。 馬鹿は馬鹿っぽいけれど」

「やっぱり舐めてんでしょ!?」

「そう聞こえたと言うことは、心当たりがあるのね?」

「こんの……! あったま来た! 絶対ぶっ飛ばす!」


 より一層勢い込んだNicoleが、『Ultimate』にエネルギーをチャージする。

 対するネーヴェは、リルを呼び寄せた。

 使い魔もろとも始末しようと考えたNicoleは、躊躇なく渾身の一撃を繰り出す。

 閃光が迸り、ネーヴェとリルを消し去ったかに思われたが――


「遅いわよ」

「な!?」


 Nicoleの後方から、炎の槍が飛来した。

 これまでで最大のダメージを受けたNicoleは、慌てて後ろを振り返る。

 だが、既にそこには誰もおらず、今度は右方向から雷のレーザーが走った。

 まともに被弾したNicoleのHPゲージが更に削られ、それまでの余裕がなくなる。

 ここまでのダメージを受けると言うことは、ネーヴェはそれなりに強力な魔法を使っていると言う証だが、Nicoleは解せなかった。

 そもそも移動速度が速過ぎる上に、MLOでは基本的にチャージ中は動けない。

 まさかチートでも使っているのかとNicoleは疑ったが、事実はもっと単純である。

 右に視線を転じたNicoleが見たのは、リルに跨ったネーヴェ。

 あまりにもわかり易い答えに、Nicoleは呆れ返りつつ、苦々しい思いで言い捨てた。


「使い魔を移動手段に使って、自分は攻撃に専念するって訳ね……。 あー、鬱陶しい」

「有難う。 貴女に鬱陶しいと思ってもらえるのは、わたしにとっては嬉しいことよ」

「いちいち腹立つわね! けど、正直ちょっとキツイかも。 あたし、素早い奴って得意じゃないし、その上あんたは火力もある。 結構ヤバそうじゃん」

「意外と冷静なのね。 今のわたしはリルの力を借りた、高火力移動砲台のようなものよ。 貴女では付いて来ることは出来ないわ」


 誇るでもなく、事実としてネーヴェは告げる。

 実際問題として、リルのスピードを得たネーヴェを止めるのは、並大抵のことではない。

 それゆえに彼女は、上手く行けば撤退するように説得出来るかと考えたが、Nicoleもそのような性格ではなかった。


「まぁ、確かにね。 このままじゃ無理かも」

「このまま……?」

「そうよ。 1つ聞くけど、あたしの『Ultimate』ってどれだと思ってる?」

「どれって……そのバズーカでしょう?」

「ぶぶー。 残念。 その答えじゃ、半分よ」

「回りくどいわね。 いったい、何が言いたいの?」


 問い掛けながら、ネーヴェは警戒の度合いを引き上げる。

 Nicoleが何を考えているのかわからないが、態度から察するに諦めてはいない。

 むしろ、ここからが本番だと言わんばかりだ。

 低く唸るリルの背を撫でながら、ネーヴェがいつでも動ける準備をしていると――


「正解は……これよ!」


 Nicoleが大声を発すると同時に、彼女のボディからパーツが分離する。

 それと同時にバズーカが変形し、2丁のビームライフルとなった。

 重量級の巨体から、一気に超軽量級に様変わりしたNicoleに戸惑いながら、ネーヴェは思考を止めはしない。

 即座にリルに指示を出し、Nicoleの背後を取る。

 そして、その間にチャージしていた魔法を発動しようとしたが、今のNicoleには通用しなかった。


「甘いっての!」


 超速でターンしたNicoleが、両手のビームライフルを連射する。

 思わぬ反撃にネーヴェは攻撃をキャンセルし、リルに回避を命じた。

 しかし、全てを避け切ることは叶わず、数発を被弾してしまう。

 ただし、当たったのはネーヴェ本人ではない。

 胴体と脚を撃ち抜かれたリルのHPゲージが減少し、半分を割った。

 その事実にネーヴェは表情を硬くして、冷ややかな声音で言葉を紡ぐ。


「リルを狙うだなんて、許せないわね」

「何を言ってんのよ。 素早い相手の機動力を奪うなんて、戦いの常識でしょ?」

「えぇ、その通りよ。 けれど、だからと言って許容は出来ないわ。 わたしにとってリルは、大事なパートナーなのだから」

「関係ないわよ。 あたしだって、こうなった以上は退けないんだからね。 さぁて、決着を付けようじゃん」

「望むところよ。 見たところ、今の貴女の耐久力は決して高くないはず。 なら、いくらでもチャンスはあるわ」

「それはこっちのセリフだっての。 その犬っころを始末して、そのあとにあんたも仲良く落としてあげるから」

「リルは犬ではなく狼よ」

「どっちでも良いでしょ!? そんなの――」


 Nicoleの言葉が途中で途切れる。

 ネーヴェが前置きなく戦端を開いたからだ。

 リルの速度にものを言わせ、多角的な動きでNicoleの周囲を駆け回る。

 だがNicoleも負けておらず、確実にリルを追ってビームを撃っていた。

 ところが、彼女が自分たちに付いて来れることをわかっているネーヴェは、微妙に緩急を付けることで翻弄し、狙いを絞らせない。

 結果として両者ともに決定打を放てないまま時間が経過したが、突如としてそれは起こる。


「これで決めるわ!」


 力強く宣言したネーヴェが、極大の氷塊をNicoleの頭上から落とした。

 かなりの威力と範囲を誇っており、このままだとぺしゃんこになる。

 もっとも、今のNicoleにとっては大味過ぎる魔法だったが。


「そんなもんが、当たる訳ないじゃん!」


 足裏からブースターを噴出した勢いで、高速でバックダッシュするNicole。

 目の前に氷塊が地響きを立てて落ち、粉々に砕け散った。

 ネーヴェが多くのリソースを使ったことを悟ったNicoleは、ここが勝負だと勢い込み――


「リル!」


 リルが口を大きく開き、極寒のブレスを吐き出した。

 ネーヴェの大技をカモフラージュにした、真の奥の手。

 予想外の一撃にNicoleは度肝を抜かれたが、彼女もやはり優れたプレイヤーだ。


「負けられないっての!」


 両手のビームライフルを重ねて、巨大なバズーカに変形させる。

 間髪入れずに全力の砲撃を繰り出し、リルのブレスとせめぎ合った。

 歯を食い縛るネーヴェと、オーバーヒートしつつあるNicole。

 空間が震えるほどの衝撃が辺りに走り抜け――消失。

 互いに全てを出し切った、完全なる相殺。

 リルは通常形態に戻り、ネーヴェはリソースを使い果たした。

 オーバーヒートしたNicoleも、最早まともに動ける状態ではない。

 2人の間に何とも気まずい空気が流れ、何も言えずにいたが――爆音。

 少し離れたところから聞こえたその音に、両者が同時に振り向く。

 そして、ボロボロの体を無理やり動かし、必死に駆け寄った先には――


「……ふぅ~。 なんとか生き残ったね~」

「いや、本来ならお互い終わってたじゃないか」

「そうだけど、結果良ければ全て良しだよ!」

「やれやれ……。 まぁ、障壁を展開したのは僕の意思だから、文句はないけど」


 心底安堵したように息をつくAliceと、完全に呆れ果てたEden。

 彼女たちはEdenの『Tonitrus』による障壁に守られており、辛うじてHPを残していた。

 2人の無事を確認したネーヴェとNicoleは、揃ってホッとしているが、まだ片付けなければならない問題が残っている。

 どちらからともなく顔を見合わせたネーヴェとNicoleは、AliceとEdenに近寄りながら口を開いた。


「それで、どっちが勝ったの?」

「あ、ネーヴェちゃん! 無事だったんだね!」

「当然でしょう。 それより、質問に答えてくれるかしら?」

「う~ん……。 Edenくんの障壁のお陰で生き残ったから、実質あたしの負けかな~……」

「いや、俺が障壁を展開したのは、あくまでも自分が助かる為だ。 出来ればキミだけ落としたかったけど、そこまでシビアな範囲指定は出来ないからね。 そう言う意味では、痛み分けってところかな」

「ふーん、Edenが痛み分けね。 ネーヴェ、あたしたちの方はどう思ってんの?」

「わたしの勝ちよ。 ……と言いたいところだけれど、残念ながらこちらも似たようなものではないかしら。 不満があるなら、続きをしても構わないわよ?」

「それでも良いんだけど……なんか、気分じゃないのよね。 結構、満足しちゃったと言うか、何と言うか……」


 歯切れが悪く呟くNicoleを、Edenは内心で苦笑しながら見つめた。

 生存戦争と言う非日常の中、久しぶりに双子の妹がゲームを楽しんでいることを、密かに喜んでいる。

 だからと言って、このまま済ませることは出来ない。

 気を取り直したEdenは、Aliceに折衷案を持ち掛けた。


「Alice、ひとまずここまでにしないか? チームとしての勝敗は、他の連中の結果次第と言うのはどうだろう?」

「良いよ! あたしは正直、ここにいる誰にも脱落して欲しくないし!」

「ふん、とんだ甘ちゃんね。 気を抜いてたら、あたしがぶっ飛ばしてやるから」

「思ってもいないことを、言うものではないわ。 貴女だって、この結末は満更でもないのでしょう?」

「う、うっさいわね、ネーヴェ! あんたとは、絶対いつか白黒つけるんだから!」

「いつでも受けて立つわ。 そのときまで、貴女が生き残っていれば」

「上等じゃん! 今の言葉、絶対忘れんじゃないわよ!?」

「お生憎様。 わたしは貴女ほど、記憶力は悪くないの」

「あたしの記憶力なんか、あんた知らないでしょ!?」

「勘よ」

「勘で人を馬鹿にしないでよ!」


 ギャアギャアと喚き散らすNicoleを、ネーヴェはサラリと受け流す。

 しかし、彼女が楽しそうにしていることに、Aliceは気付いていた。

 意外と悪戯っぽいネーヴェに苦笑したAliceは、次いでEdenに目を向ける。

 そして、彼にしか聞こえないほどの声量で、自身の思いを告げた。


「有難う、Edenくん」

「何の話だい?」

「障壁のこと。 あれがなかったら、今頃あたしは脱落してたから」

「気にしないでくれ。 さっきも言ったけど、あれは俺が生き残る為だった」

「でも、その選択をしてくれたから、あたしも生き残れた。 それに、こうして落としどころを作ってくれたことにも、感謝してる。 もしかしたら、最後まで戦うかもって思ってたから」

「それも気にしなくて良い。 このまま続けても、泥仕合になると思っただけだから。 それなら、他の戦いの結果によって、勝敗を決める方が収まりが良い」

「そっか。 わかった、じゃあこれ以上は言わないよ」

「そうしてくれ。 ……雪夜からの返事、聞けると良いね」

「……うん。 有難う」


 Aliceの感謝に、Edenは返事をしなかった。

 機械人である彼の表情はわからないが、Aliceは彼が少し照れていることを察している。

 思わず苦笑をこぼした彼女は遠くを眺め、この戦いの行く末に思いを馳せた。

 仲間たちは無事だろうか。

 CBOは守られるのだろうか。

 そして――雪夜の返事はどう言った内容だろうか。

 様々な気持ちが綯い交ぜになったAliceは、速くなった鼓動を鎮めるように、胸に手を当てる。

 ネーヴェとNicoleの言い合いをBGMに、彼女はそっと目を伏せた。

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