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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第31話 恋する乙女

 Aliceは、比較的臨機応変な戦い方の出来るプレイヤーだ。

 【イグニス・フレア】は範囲や威力を調整することで、小爆発から大爆発まで引き起こせる。

 【グラン・ランサー】は発動が速く、他のプレイヤーの邪魔をしなくて済む。

 【ウィンド・スライサー】は範囲が広く、威力も低くない。

 【サンダー・ストライク】は溜めが大きいが、大ダメージを与えることが可能。

 【アクア・ケージ】はテクニカルで使用頻度は少ない反面、ハマれば効果的だ。

 要するに、どのような場面でも強みを発揮出来るのだが、今回の相手はそれでも厳しい。


「どんどん行くよ」


 草原をスラスターで滑走しながら、『Tonitrus』でプラズマ弾を連射するEden。

 一撃必殺とまでは言わないが、1発1発が高い威力を誇っている。

 対するAliceは【ウィンド・スライサー】によって、全てのプラズマ弾を吹き散らした。

 それによって難を逃れたかに思われたが、彼女の試練は続く。


「そう来ると思っていた」


 今の一瞬で接近したEdenが、プラズマブレードを振り下ろした。

 【ウィンド・スライサー】は広範囲をカバー出来る代わりに、周囲の状況が一瞬わからなくなると言う欠点を持つ。

 もっとも、本来なら気にもならない程度の時間なのだが、Edenはその一瞬を許さない。

 眼前に迫ったプラズマブレードを、Aliceは杖で受け止めた。

 しかしかなりギリギリで、あと少しで押し切られそうである。

 それでもAliceは、必死に押し返そうとしていたが――


「甘い」

「う!」


 Edenが突然力を抜き、Aliceの体を前方に流した。

 それと同時に彼女の背後に回り、プラズマブレードを一閃する。

 辛うじて身を捻ったAliceは致命傷を避けたものの、浅くないダメージを受けてしまった。

 だが、そのことを嘆くよりも早く立ち直った彼女は、最速の【グラン・ランサー】を発動する。

 Edenの足元から何本もの土の槍が突き上がり、彼を害さんとした。

 ところが、それを見越していたEdenは軽くバックステップを踏むだけで回避し、またしてもプラズマ弾を放つ。

 反射的に身構えたAliceだが、今回はやけに弾速が遅い。

 フワフワと滞空するかのように、ゆっくりとAliceに近付いて行った。

 どう言うことかと訝しんだ彼女は、ひとまず様子を見ようとしたが――発光。

 明滅を繰り返すプラズマ弾を見たAliceは、このあとの流れを察して地面に身を投げる。

 同時に、全てのプラズマ弾が爆発した。

 爆風に身を揺らされながら耐え切ったAliceは、なんとか無事だったことに安堵したが、すぐさま立ち上がる。

 そして、今度こそ反撃しようと振り向き――Edenがプラズマブレードを振り下ろし始めていた。

 瞠目したAliceだが、体は即座に反応する。

 後方に跳躍することで、プラズマブレードの空振りを誘おうとした。

 ここまで防戦一方になっているが、そのお陰でAliceは間合いを完全に熟知している――はずだった。


「悪いね」

「え!?」


 Edenの呟きとともに、プラズマブレードの剣身が僅かに伸びて、Aliceの体を袈裟斬りにする。

 完全なるクリーンヒットではなかったものの、先ほどよりもダメージは重い。

 とにかくこのままでは不味いと考えたAliceは距離を取り、回復薬を口にした。

 削られていたHPゲージが元に戻り、危険域を脱出する。

 ただし、これは一時凌ぎに過ぎない。

 根本的な現状打破が叶わない限り、何度も同じことを繰り返すだろう。

 そのことを自覚したAliceは、自分を落ち着けるべく深呼吸して、半ば無理やり笑いながら口を開いた。


「便利な武器だね。 遠距離も近距離もお手の物って感じ。 その上、微妙にアレンジを加えられるんだから。 まぁ、使いこなせてるキミが1番凄いんだけど」

「お褒めに預かり、光栄だね。 『Tonitrus』は唯一無二の性能を持っている訳じゃないけど、汎用性は随一だ。 キミにとっては、かなりやり辛いんじゃないかな?」

「……確かに、そうだね。 あたしとしては、何かに特化してくれてた方が、まだマシだったよ。 キミみたいなタイプは、どちらかと言えば苦手かな」


 Aliceは笑顔を崩さなかったが、内心は悔しさでいっぱいである。

 自身も対応力の高さが武器だと思っていた為、現時点では似た分野でEdenに上を行かれていた。

 だからと言ってAliceの実力が劣っているとは言い切れないが、戦況がEden有利なのは間違いない。

 どうしたものかと思ったAliceが、必死で思考を巡らせていると――


「そんなに脱落するのが怖いかい?」

「へ……?」

「キミはずっと笑ってるけど、なんとなく怯えているように見える。 俺の勘違いかな?」

「あたしが怯えてる……」

「俺としては、どっちでも良いんだけど。 ただ、正直拍子抜けだ。 もっと苦戦すると思っていたからね」


 どこまで本気かわからない口調で告げたEdenが、『Tonitrus』の銃口をAliceに向ける。

 一方のAliceは、自分自身に問い掛けた。

 本当に脱落するのが怖いのか?

 それはそうだ、怖いに決まっている。

 しかし、本質からはズレている気がした。

 自分が本当に恐れているのは――


「……あはは」

「……? どうしたんだい?」

「ううん。 キミの言う通り、あたし怖がってたんだな~って」

「そうかい。 まぁ、俺だって脱落するのは――」

「ううん、そうじゃないの。 脱落するのは確かに怖いけど、本当の理由は別にある」

「本当の理由……?」


 怪訝そうなEden。

 そんな彼に苦笑したAliceは、『本当の』笑みを見せて告げた。


「あたし、雪夜くんに告白したの。 それで、この戦いが終わったら答えを聞かせてもらうんだよね」

「……驚いたな。 まさか、敵の恋愛事情を聞かされるとは思わなかったよ」

「あはは、ごめんごめん。 でも、あたしにとっては大事なことなの。 その答えを聞くまでは、絶対に負けられないんだよね。 だから、いつもより脱落することを怖がってたみたい」

「なるほど。 キミの事情はわかったけど、手は抜かないよ」

「だよね。 けど、ここからのあたしは、別人だと思った方が良いよ。 もう、覚悟を決めちゃったから。 今までの弱腰のあたしじゃ、雪夜くんに合わせる顔がないもん」

「……どうやら、余計なことを言ったようだ。 だが、俺だって負ける訳には行かない。 守りたいものがあるからね」


 吹っ切れた様子で微笑むAliceに、Edenは警戒心を強めた。

 だからと言って怯むことはなく、しばしの沈黙を挟んでから動き出す。

 『Tonitrus』を構えて、プラズマ弾を発射し――


「それそれそれそれ!」


 その直前、無数の【グラン・ランサー】がEdenを襲った。

 AP効率など考えていない、怒涛の連続攻撃。

 立ち回りを意識していたこれまでとは打って変わった攻勢に、流石のEdenも驚きを禁じ得なかった。

 だが、Aliceの猛攻を前にしてもEdenは落ち着き払っており、最小限の動きで回避してみせる。

 射撃の腕前などはともかく、身のこなしに関しては、THOで彼の右に出る者はいない。

 だからと言って余裕はなく、反撃することは出来なかった。

 それでも粘り続けたEdenは、とうとう突破口を見付ける。

 【グラン・ランサー】の間隔が空いて、Aliceへの射線が生まれた。

 そこを見逃さなかったEdenは、瞬時にプラズマ弾を放つ。

 最短距離を走った一撃は、見事にAliceを捉えるかに思われたが――


「えい!」


 完璧なタイミングでAliceが『【聖杖】クリスタル・ロッド』を振り切り、プラズマ弾を打ち返した。

 まさか防ぐどころか返されるとは思っていなかったEdenは、咄嗟に地面にプラズマ弾を撃ち込んで障壁を展開する。

 打ち返されたプラズマ弾は障壁に阻まれ、ノーダメージに終わった。

 そのとき、Edenの緊張の糸がほんの少しだけ緩む。

 そしてAliceが狙うのは、まさにそこだった。


「そう来ると思ってたよ!」


 先ほどEdenに言われたセリフを真似た彼女は、全速力で接近して杖を振り下ろす。

 この段階になってEdenは、自分が策にハマったのだと気付いた。

 【グラン・ランサー】の連続発動によって動きを制限し、そこに敢えて隙を見せる。

 まんまと乗った彼はプラズマ弾を撃ったが、それはAliceの注文通り。

 来ることがわかっている攻撃を返す技量を彼女は持っており、結果としてEdenに更なる守りを強いた。

 そして障壁を張る際、Edenがその場に留まり続ける必要があることを、Aliceは初見で見破っている。

 だからこそ迷いなく突っ込むことが出来て、今まさに痛烈な一撃を食らわせようとしていた。

 1秒にも満たない時間で思考を巡らせたEdenだが、感心しつつも諦めてはいない。

 右に転身することで杖の直撃を避けて、肩で受け止める。

 それなりのダメージを受けたものの、『魔導士』の近接攻撃力自体は決して高くない。

 事前調査でその事実を知っていたEdenは、計算通り最小限の被害で抑えたのだが、そのようなことはAliceが誰よりわかっていた。


「さ~て、付き合ってもらおうかな!」

「……!? まさか!?」


 至近距離で顔を突き合わせている2人を中心に、膨大なエネルギーが膨れ上がる。

 これが【イグニス・フレア】の前兆だとEdenは察知したが、それにしてもチャージのし過ぎだ。

 今から逃げても攻撃範囲から逃れることは不可能で、それはAliceも同様。

 思わぬ自爆特攻を受けようとしていることに焦ったEdenは、必死に説得を試みた。


「待て! このままじゃ、お互いに落ちるよ!? それでも良いのかい!?」

「ううん、良くないよ。 あたしは、雪夜くんの返事をもらうって、決めてるんだから」

「だったら!」

「大丈夫だよ。 『魔導士』は魔法に対する耐久力が高いから、運が良ければ生き残れると思うし」

「運が良ければって……。 もし失敗したら、どうするんだい?」

「そのときはそのときだよ。 そう言う運命だったんだろうね」

「……諦められるのかい?」

「違うよ、運命を信じてるの。 雪夜くんに選んでもらえるかはわからないけど、返事も聞けずに終わる訳ないってね」

「……はぁ。 恋する乙女は強い……なんて聞いたことはあるけど、ここまで厄介だとは思わなかったな」

「あはは。 てことで、覚悟してね?」

「わかった。 どちらにせよ、今更逃れられないんだ。 付き合ってあげるよ」

「有難う! じゃあ……行くよ~!」


 完全に戦闘態勢を解いて、事の成り行きを見守るEden。

 彼の潔さにAliceは笑みを漏らし――2人を爆炎が包み込んだ。

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