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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第29話 見えない狙撃手

 Evolと言う男は、慎重な性格だ。

 Zenithに従っているのは信頼や尊敬の念もあるが、自分が目立つのを避けたいと言う思いもある。

 コースケを落とした際も、決して無理をするつもりはなかった。

 BKO陣営に雪夜が犯人だと吹き込んだのは、THOとBKOの関係よりも己の保身の為。

 そんな彼が真正面から乗り込んで行く訳もなく、途中まで『Fluegel』で飛行した後に、地上に降りて身を潜めながら進んでいる。

 岩陰から岩陰へ移動し、急な勾配を利用して敵の目を掻い潜ろうとしていた。

 事前に入念な調査をしており、予めルートも決めているので、多少遠回りになっても問題ない。

 だが、彼はあくまでもTHOプレイヤー。

 生粋のCBOプレイヤーに、地の利で勝てる道理はない。

 次の岩陰に移動しようとした瞬間、Evolを真空刃が襲う。

 咄嗟に身を捻った彼は掠めた程度で済んだが、それでもHPゲージを10%近く持って行かれた。

 このような馬鹿げた火力を誇る敵プレイヤーには、1人しか心当たりがない。

 内心で苦笑を浮かべたEvolは、両手にレーザー銃を構えながら振り向く。

 そこに立っていたのは、鋭い眼光を瞳に湛えた雪夜。

 欠片も隙がなく、最早感心するまでに至りそうになりつつ、Evolは敢えて軽い口調で言い放った。


「行けると思ったんだけどな。 どうして、この道を通るってわかった?」

「お前の反応が消えた地点から町を目指す場合、ここを通るのが最も気付かれ難い。 それだけだ」

「俺が裏をかいて、違うルートを選ぶとは思わなかったのかよ?」

「考えなかった訳じゃない。 ただその場合、必ず誰かが気付く。 それから動いても、間に合う計算だった」

「なるほどな。 どっち道、俺はお前と戦う運命だったってことか」

「撤退するなら、その運命から逃れられるぞ?」

「冗談だろ? 今更、俺だけ退ける訳ねぇだろうが。 力尽くってのは好きじゃねぇが、それしか手段がないならやらせてもらうぜ」


 宣言したEvolに『Fluegel』が装着され、上空へと浮かび上がる。

 やはり高度はさほど出ていないが、機動力は地上の比ではない。

 縦横無尽に旋回して雪夜を撹乱しながら、Evolはレーザーを連射した。

 何気なく行っているが、自身が高速で動きながら精確な射撃をするのは、かなりの高等技術。

 そのことを認めながら、雪夜は冷静に全てのレーザーを斬り払った。

 そして、反撃の【天衝】にまで繋げる。

 流れるような動作は美しくすらあるが、『侍』の対空戦の性能は決して高くない。


「遅ぇ、遅ぇ! 欠伸が出るぜ!」


 あっさりと回避したEvolは、まるで水を得た魚。

 空を自由自在に翔け回り、雪夜にレーザーの雨を降らせる。

 そのほとんどを彼は避けているものの、流石に全弾回避とは行かない。

 受けたのはたったの数発だが、雪夜のHPゲージは70%を切っていた。

 彼の耐久力が極端に低いことを悟ったEvolは、『Fluegel』の連続稼働時間が限界になる前に、勝負を決めようと誓う。

 そうして、より一層勢い込んで引き金を引き続けたEvolだが――


「く!」


 雪夜を追い詰めているはずが、段々と苦しくなって来た。

 と言うのも、少し前まではたまに被弾していた彼が、今は全く当たる気配がないからだ。

 全てを余裕を持って躱され、【天衝】を返される。

 これに関してはEvolも問題なく回避出来るとは言え、仕留められないのが不味い。

 『Fluegel』の連続稼働時間の限界は着々と近付いており、その前に着陸して回復させる必要がある。

 悔しさを噛み締めつつも仕切り直すことにしたEvolは、なるべく雪夜から離れた場所で『Fluegel』を解除した。

 回復までのインターバルは10秒。

 短いようだが、強敵との戦闘中の10秒は、途轍もなく長い。

 それでもEvolは、なんとか凌ぎ切れると考えていたが、彼はまだ雪夜がどれほどのプレイヤーか把握出来ていなかった。


「な!?」


 『Fluegel』を解除するのと同じタイミングで、連続の【瞬影】を発動する雪夜。

 一切の迷いもなく、一直線にEvolに肉薄する。

 完全に彼の行動を読み切っており、容赦なく斬り掛かった。

 目と鼻の先にまで接近した雪夜に対して、Evolは苦肉の策としてレーザーサーベルで応戦する。

 接近戦用に携行しているサブウェポンだが、Edenと違って射撃戦がメインのEvolと雪夜では、技量に大きな開きがあった。


「ふッ……!」

「ちッ!」


 【瞬影】、【閃裂】、【爪牙】と言う『侍』の最大DPSコンボを、Evolは必死に防ごうと足掻く。

 ところが、装備を進化させた雪夜に付いて来れず、大きくHPゲージが減少した。

 完全に攻守交替しており、このままでは確実に『Fluegel』が復活する前に、自分が落ちると確信するEvol。

 しかし彼は、絶望していなかった。

 何故なら――


「……ッ!」


 遥か彼方から、1条の光線が雪夜に放たれた。

 反射的に身を捻った雪夜だが、躱し切れずに肩を撃ち抜かれる。

 大きくHPゲージが削り取られ、50%を下回った。

 もっとも、少しでも遅れていればヘッドショットとなり、一撃死していた可能性もある。

 そう言う意味では窮地を脱したとも言えるが、その代償は大きい。


「ふぅ。 流石、Zenithさんだぜ。 完璧なタイミングだったな。 まぁ、それでも生きてる辺り、お前も化物だけどよ」


 復活した『Fluegel』によって、Evolが再び空に飛び立つ。

 もう1度、限界時間まで粘って仕留めれば良いと思われるかもしれないが、雪夜の表情は硬い。

 初撃はなんとかなったものの、Zenithが本格参戦して来るとなれば、これまでのようには行かないとわかっているからだ。

 そしてそれは、Evolも同様。

 Zenithの援護を存分に受けられるとなれば、必ず勝機はあると考えている。

 こうして、またしても戦況は傾こうとしていたが――


「楽しそうだね、あたしも混ぜてよ」


 雪夜も1人ではない。

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、良い場面で姿を見せたのはアリエッタ。

 右手にジュワユーズ、左手にフラガラッハを装備している。

 勝気な笑みを浮かべ、雪夜と現実の公園で別れたときの面影はない。

 だからと言って彼女が傷付いていないのではないと、雪夜は理解しつつも敢えて触れず、淡々と言葉を連ねた。


「良く来てくれた。 危ないところだったから、助かる」

「またまたー。 セツ兄……じゃなくて雪夜くんなら、1人でも余裕だったんでしょ?」

「そんな訳あるか。 Evolだけでも、かなりの強敵だった。 そこにZenithも加わったんだぞ? 控えめに言っても厳しい状況だ」

「まぁ、それもそうか。 それで、あたしはどっちの相手をすれば良いの?」

「Evolを頼む。 俺はZenithを狙う。 ただし、奴の狙撃には気を付けろ。 なるべく早く仕留めるつもりだが、どちらを標的にするかは奴次第だ」

「りょーかい! 任されたよ!」


 殊更に明るく返事したアリエッタに、雪夜は苦笑を漏らした。

 しかしすぐに表情を引き締めて、彼女に顔を寄せる。

 突然の行動にアリエッタは目を見開いたが、雪夜は気にせず耳元に口を寄せて、あることを告げた。

 それを聞いたアリエッタは、驚いた後に真剣な顔になった。

 彼女が間違いなく自分の言葉を受け取ったと察した雪夜は満足し、アリエッタから顔を離して――反転しながら『無命』を振り切る。

 Zenithの狙撃を弾き、アリエッタに背中を見せたまま口を開いた。


「行って来る」

「……行ってらっしゃい」


 短いやり取りを最後に、雪夜が全速力で駆け出した。

 それを見送ったアリエッタは、小さく息をついてからEvolと相対する。

 既に完全戦闘モードに移行しており、力強く2本の『レジェンドソード』を構えた。

 そんな彼女を見下ろしたEvolは、深々と嘆息しつつ声を発する。


「まったく、あと少しだと思ったんだがな。 つっても、この展開は仕方ねぇか」

「ふーん、やけに物分かりが良いね。 じゃあ、このあと負けるところまで、仕方ないと思ってるんだ?」

「いいや、そうとは限らねぇよ。 確かに雪夜は化物だが、Zenithさんだって負けちゃいねぇ。 それに、お前を落としてすぐに追い掛けたら、今度こそこっちのもんだ」

「ふふん。 悪いけど、その計算は成り立たないね。 まず、雪夜くんとZenithが同レベルなんてことはないと思うし、何よりキミがあたしに勝てる訳ないでしょ?」

「随分と自信家なんだな。 言っておくが、俺の『Fluegel』がただ飛べるだけだと思うなよ?」


 そう言った瞬間、『Fluegel』の背部から5機のビットのようなものが飛び出て来た。

 Evolを取り囲むように展開され、先端をアリエッタに向けている。

 それが何を意味しているか、即座に彼女は理解して、フラガラッハの力を解放した。

 8本の光剣が生成され、アリエッタを守るように浮遊する。

 似たような構図になった両者は、沈黙を挟み――


「行くぜ、アリエッタ!」

「勝つのはあたしだよ、Evol!」


 轟音。

 Evolが両手の銃と全てのビットからレーザーを射出し、アリエッタは光剣と双剣を用いてそれを防ぐ。

 空中と地上、銃と剣と言う違いはありながら、両者のスタイルは似た部分があった。

 だからこそ2人は、互いのプライドに懸けても負けられないと思っている。

 一方で雪夜は、見えない狙撃手に向かって、草原を疾走していた。

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