表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/137

第28話 舞い踊る剣姫

 蛇族を引き連れたナーガの顔には、嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 自分が負けるなど露ほども思っておらず、相手を蹂躙することのみを考えている。

 直属の部下とも言える他の蛇族は、彼女ほど余裕はないものの、自信が漲っているように感じた。

 そうして、町の東から大群で押し寄せていたナーガだが、ある異変に気付く。

 目に映ったのは、まるで天を衝くかのように、聳え立つ光の柱。

 最初は見間違いかと思った。

 しかし、距離が近付くにつれてそれは、長く大きく、輝きを増して行く。

 その正体が何かを考えたナーガは――


「ちッ!」


 大きく舌打ちしながら、横に跳ねた。

 直後、光の柱のように見えていた巨大な剣が振り下ろされ、大勢の蛇族を纏めて消滅させる。

 回避していなければ、ナーガも今頃脱落していたかもしれない。

 忌々しい事実に苛立ちつつ、ナーガは視線を転じた。

 そこに立っていたのは、草原を断つ勢いの【グロリアス・キャリバー】を放ったケーキ。

 彼女は敵がこの場所を通ると計算して、最大限までチャージをしていたのだ。

 見事に先手を取ったケーキだが、その顔には極めて冷然とした表情が浮かんでいる。

 彼女の刺すようなプレッシャーに、ほとんどの蛇族が委縮している中、ナーガだけは平然と声を発した。


「随分と手荒な歓迎ですわね。 まぁ、まともにやっても勝てないから、ない知恵を絞ったのでしょうけど」

「知恵を絞ったことは否定しませんが、まともにやっても勝てないと言うのは違います。 ただ、わたしはより効率的に、戦おうとしているまでですよ」

「ふん、生意気ですわね。 言っておきますが、有象無象を倒したくらいで調子に乗っていると痛い目を見ますよ?」

「お気遣い有難うございます。 ですが、わたしが油断することはありません。 貴女の方こそ、口ではなく実力で挑んで来たらどうですか?」

「本当に生意気ですわね! けれど、無駄ですわ。 わたくしと1対1を望んでいるんでしょうが、そうは行きません。 直接手を下すまでもなく、嬲り殺しにしてやりますわ」


 ニヤリと笑ったナーガが、右手を軽く挙げる。

 それを見た蛇族たちに緊張が走り、即座に行動に出た。

 ケーキを取り囲むように展開し、戦闘態勢を取る。

 あとはナーガの合図1つで、襲い掛かるだろう。

 周囲をグルリと見渡したケーキも『【華剣】プリンセス・フルール』を構え、チャージを開始した。

 進化したことであっと言う間にチャージが終わり、溜めた状態を維持。

 ケーキの威圧感に蛇族は気圧されながら、退く気はなかった。

 そのようなことをすれば、ナーガに何をされるかわからないからだ。

 そんな手下たちの心情など知ったことかとばかりに、更に笑みを深めたナーガが手を振り下ろす。


「行きなさい!」


 瞬間、夥しい数の蛇族がケーキに殺到した。

 攻撃すると言うよりは圧し潰すような感じで、ケーキの小柄な体が飲み込まれ――


「はぁッ!」


 蛇族の包囲網を、最大チャージの【ツイスト・リッパー】で突破する。

 元々が範囲攻撃ではあるが、解放能力である花弁による追撃が、輪を掛けて殲滅力を上げていた。

 今の攻防だけでも、ケーキが自分たちより遥かに格上だと思い知らされた蛇族たちは、呆気に取られて固まっている。

 だが、ナーガはそれを許さない。


「何をしているんですか! 相手はたったの1人ですよ!? 貴方たちはアップデートで強化もされているんですから、無様な姿を晒すんじゃありません!」


 足があれば地団太でも踏みそうなほど、ヒステリックに叫ぶナーガ。

 彼女の言うように、ナーガはアップデート権の1つを使い、蛇族全体のステータス強化を行った。

 これは生存戦争に勝つ為だが、BKOが平常運転に戻った際に、種族間競争を有利に運ぼうと企んだからでもある。

 それにもかかわらずケーキに圧倒されている手下たちを、不甲斐なく思ったナーガは、もう1歩彼らを追い詰めた。


「下手な戦いをした者は、わたくしが潰してやりますわ! それが嫌なら、死ぬ気であの小娘を仕留めなさい!」

『は、はい!』


 ナーガの言う「潰す」の意味が、単に生存戦争から脱落するだけに留まらないことを、蛇族たちは良く知っている。

 過去に彼女に逆らった者が、郡山同様に社会的に葬られたからだ。

 その件があってから蛇族は、ナーガに絶対服従を誓っている。

 もっとも、彼女に付き従っていれば甘い蜜が吸えるとも思っているので、どっちもどっちな側面はあるが。

 何はともあれ戦意を取り戻した蛇族たちは、恐怖を抑え込んでケーキと相対する。

 ナーガたちのやり取りを黙って聞いていたケーキだが、小さく嘆息してからポツリと呟いた。


「醜いですね」

「はぁ? このわたくしが醜いですって? 貴女、目が相当悪いんですね」

「そう言う意味ではありません。 貴女たちの関係性が、醜いと言っているのです。 わたしは人間が嫌いではありませんが……少なくとも、貴女たちとは時間を共有したくありません」

「は! 何を言うかと思えば。 こちらこそ、貴女のような不細工で陰湿な人はお断りですわ。 顔を洗って出直して来なさい」

「お断りします。 それに、ここで落ちる人たちとは、どちらにせよお別れですから」

「どこまでも舐め腐ってますわね! 貴方たち、やっておしまい!」


 叫喚を上げたナーガに従って、蛇族が一斉に動き出す。

 鋭い爪が伸びた手を振り被りながら、跳び掛かる者。

 長い尻尾を叩き付ける者。

 口から毒液を吐き掛ける者。

 尖った牙で噛み付こうとする者。

 蛇族のあらゆる攻撃手段を駆使して、なんとかケーキにダメージを与えようとした。

 ところが――


「連携が雑です」


 舞い踊るように躱し、優雅な挙措でガードし、勇猛果敢に斬り捨てる。

 あまりにも美しい姿に、蛇族たちは思わず心を奪われそうになった。

 しかし、引き起こされる現象は凄惨なもの。

 ケーキが大剣を振るう度にプレイヤーが脱落し、その数をどんどん増やして行く。

 逆に蛇族の攻撃はまともに当たる気配がなく、焦りが生まれ始めた。

 普通に考えればこれだけの人数差があれば、勝てる道理はない。

 だが、どれだけ数がいようと、1度にケーキを攻撃出来るプレイヤーは限られている。

 そして彼女なら、それが誰かを瞬時に判断可能――いや、誘導することすら難しくない。

 自身の立ち位置や相手の場所、攻撃手段、その他にも様々な情報を加味して、ケーキの人工知能は最適解を出し続けた。

 このようなことが出来る自分は、やはり人間ではないのだと思う反面で、今だけはそれを存分に活かそうと決めている。

 そうして、圧倒的なまでの戦いを繰り広げていたケーキだが、このままで終わるとは思っておらず、事実として戦局は次なる展開に移ろうとしていた。


「はぁ……もう良いですわ」


 俯いたナーガが、らしくないほど落胆した声を落とす。

 それを聞いた蛇族たちはビクリと震え、ケーキは気を引き締めた。

 そんな彼女たちに構うことなく、幽鬼のように顔を上げたナーガは、どこまでも平坦な口調で告げる。


「もう、貴方たちに期待はしません。 その小娘はわたくしが潰すので、とっとと本拠地を攻めて来て下さい。 今後の扱いは、全てが終わってから決めますわ」

「そ、そんな!? ナーガ様、俺たちはまだ――」

「黙りなさい。 2度は言いませんわよ?」

「ひ……!? か、かしこまりました……」


 制裁を恐れた男性が何事かを言おうとしたが、ナーガは全く取り合わない。

 絶望に暮れた面持ちで、それは他の蛇族も同じだ。

 それでも彼らは命令に背くことなく、誰からともなく町を目指そうとする。

 当然と言うべきか、ケーキはそれを見過ごすことなど出来なかった。

 すぐさま進路上に立ち塞がるべく、駆け出そうとして――


「どこに行くんですか?」

「……ッ!」


 他の蛇族とは比べ物にならない速度で跳び掛かったナーガが、ケーキに右拳を繰り出す。

 咄嗟に盾を掲げたケーキは事なきを得たが、足元が陥没しており、凄まじい威力を物語っていた。

 その間にも蛇族たちは行軍を続けており、この場から離れて行く。

 このときケーキは、冷静な顔付きの裏で焦燥感を抱いていた。

 実際に戦った上での分析の結果、強化された蛇族の相手は、並のCBOプレイヤーでは荷が重い。

 厳密に言うと1対1なら良い勝負だろうが、町を狙っているのは蛇族だけではないのだ。

 今ですらギリギリ持ち堪えているところに、強力な新手が現れたとなると、戦線が瓦解しかねないだろう。

 それゆえ、自分がこの場で足止めするのは必須だと考えたケーキだが、ナーガの強さは予想以上だった。

 たったの一撃でそのことを悟ったケーキは、拳を受け止めながら問い掛ける。


「もしかして、もう1つのアップデート権を自己強化に使いましたか?」

「あら、良くわかりましたわね。 褒美に教えてやりますわ。 今のわたくしは、通常時で超獣化と同等の力を使えるんです。 当然、超獣化すればもっと強くなりますわ」

「なるほど。 ラグナロクのみを強化した、ガルフォードと同じ発想ですね。 大局を見ない、愚かな選択です」

「口の減らない小娘ですわね! 何と言おうが、結果が全てですわ! 現に貴女は足止めされて、CBOは終わるのです!」


 怒りと愉悦が混じったような表情で、ケーキを見据えるナーガ。

 悔しいが、ケーキは反論出来なかった。

 確かに自分だけでナーガと他の蛇族を押し留めるのは、ほぼ不可能。

 そうなると、彼女の言うようにCBOが落とされるのは避けられない。

 ただし、あくまでもケーキ1人なら。


「そろそろでしょうか」

「は? 何を言って――」


 草原に爆炎が走り、数多の蛇族を灰燼と化した。

 ナーガは目を見開いて固まっており、その隙を突いてケーキは一旦距離を取る。

 焼け野原になった草原に目を転じると、大混乱に陥っている蛇族と、1人の少女が視界に映った。

 獄炎の魔女モエモエ。

 マントをたなびかせながら、颯爽と歩み寄って来た彼女に、ケーキは端的に言い放つ。


「助力、感謝します」

「気にしないで? そう言う約束だったんだし」

「それもそうですね」

「いや、そう素直に返されると複雑なんだけど……まぁ、良いか。 それで、あたしはこの人たちを止めれば良いの?」

「はい。 ナーガは、わたしに任せて下さい」

「わかった。 この戦いが終わったら、MLOとCBOは敵対するかもだけど……気を付けてね」


 微妙に困ったような笑みを見せるモエモエに、ケーキは小さく頷いてから足を踏み出した。

 これで、後顧の憂いはない。

 いくら蛇族が強化されたとは言え、モエモエの殲滅力があれば物の数ではないはず。

 別のタイトルのプレイヤーだが、今回だけは全幅の信頼を置いたケーキは、ナーガに意識を集中させた。

 対する彼女は、またしても俯いていたかと思えば、勢い良く顔を振り上げて叫ぶ。


「どいつもこいつも、わたくしの邪魔をして! 絶対に許しませんわ!」

「許さなくて結構です。 勝つのはわたしですが」

「本当にムカつきますわね! そこまで言うなら、見せてあげましょう! わたくしの真の姿を!」


 宣言すると同時に、ナーガの体が膨張して行く。

 長く巨大で、強靭に。

 見上げるほどの大蛇になったナーガの超獣化。

 その名は【ヨルムンガンド】。

 紫色の鱗を纏い、とぐろ状に体をうねらせている。

 その威容を前にしてもケーキが怖気付くことなどなかったが、警戒心は最大限まで引き上げていた。

 対するナーガは長い舌をチロチロと出しながら、恍惚とした様子で声を発する。


『はぁ……なんて美しい姿なんでしょう。 貴女もそう思うでしょう?』

「すみませんが、わたしには理解出来ない美的感覚です」

『まぁ! この美しさがわからないなんて、どこまで残念な小娘なんでしょう!』

「恐らく、わたしの感覚の方が一般的かと思われます」

『その他大勢がどう思おうが、関係ありませんわ。 わたくしが美しいと言えば、それは美しいんですから』

「貴女の人間性が、良くわかる考えですね。 やはり、わかり合えるとは思えません。 決着を付けましょう」

『最初から、そのつもりですわ。 さぁて、どんな顔で泣いてくれるか、楽しみですわね』


 言葉通り、楽しそうに目を細めるナーガ。

 サイズだけで言えば、今のナーガに比べてケーキなどちっぽけな存在だ。

 しかし――


「わたしが泣くのは、大事な人の前だけです」


 力強く地面を踏み締めたケーキが、毅然とした眼差しをナーガに突き刺す。

 それを受けたナーガは、内心で気を引き締めた。

 この辺りは、彼女も四獣王の一角に違いはない証だと言える。

 沈黙が辺りを包み込み、草原を吹き抜ける風の音だけが聞こえた。

 そうして、しばしの時が経ち――


『丸呑みにしてやりますわ!』

「綺麗に捌いてあげましょう」


 毒蛇王と剣姫による、決戦の火蓋が切られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ