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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第27話 よろしくね

 CBOに転移したNicoleとEdenは、南方に回り込んでから真っ直ぐに北上していた。

 脚部と背部からエネルギーを放出することで推進する、スラスター走行。

 これはTHOの機械人に共通する特徴だ。

 Edenは両手でアサルトライフルサイズの銃を抱え、Nicoleは背中に巨大なバズーカのような兵器を担いでいる。

 既に遠くからは戦闘音が響いて来ており、BKOとTHOの同盟軍がCBOプレイヤーとぶつかっているのが察せられた。

 最悪、同盟軍は他のプレイヤーを足止め出来れば良い。

 その間に、CBOの主力の誰かを落としさえすれば、最低限の戦果は得られる。

 無論、今回でCBOを落とせたらそれが理想だが、少しずつ戦力を削いで行く展開でも構わない。

 四獣王とTETRAは同じ見解を持っており、EdenとNicoleも異論はなかった。

 そして、この進路上に立っているのが誰であっても、2対1なら必ず勝てると思っている。

 ただし、簡単に行くとは思っておらず、その認識は正しい。


「わ!?」


 突然、Nicoleの体が止まる。

 自分に何が起きたのかわからない彼女は、慌てて状況を確認した。

 すると目に映ったのは、自身の四肢を拘束する4つの水玉。

 苛立ったNicoleは強引に振り払おうとしたが、ビクともしない。

 更に水玉は収縮を始め、このままだとダメージを受けそうだ。

 そこまで考えたNicoleは、別の手段を取ろうとして――


「それはまだ早いよ、Nicole」


 Edenがプラズマ弾を連射して、Nicoleを傷付けることなく水玉を破壊した。

 自由が戻った彼女は、取り敢えずEdenに礼を言おうとして、咄嗟に口元の言葉を入れ替える。


「上!」


 極めて短い言葉でNicoleが叫んだ瞬間、Edenの頭上から雷が落ちた。

 反射的に身を投げたEdenは事なきを得て、彼のすぐ隣にクレーターが出来ている。

 この段階になって2人は、自分たちの相手が誰かを悟った。

 Edenたちの進行方向から、隠れることもなく歩み寄って来たのは、Alice。

 ニコニコと笑っているが、それに反して強烈な戦意を感じた。

 EdenとNicoleも油断することなく、それぞれの武器の照準をAliceに向けている。

 それを受けても彼女が怯むことはなく、平常運転で口を開いた。


「えっと、TETRAのEdenくんとNicoleちゃんだっけ? あたしはAlice、よろしくね!」

「ご丁寧にどうも。 でも俺たちは、戦争をしに来たんであって、よろしくするつもりはないよ」

「Edenの言う通りよ! て言うか、いきなり攻撃して来ておいて、良く言うわね!?」

「え~? だって、先制攻撃は基本でしょ? Nicoleちゃんは、結構狙えそうな感じしてたしね~」

「はぁ!? あんた、舐めてんの!?」

「落ち着けNicole、挑発だ。 それに、結果として彼女の先制攻撃とやらは、不発に終わった。 それどころか、不用意に俺たちの前に出て来ている。 こうなるとどちらが有利かは、明らかだよ」

「Eden……。 確かにそうね。 Aliceだっけ? 捕まえられたのは認めてあげるけど、もうあんたに勝ち目はないわよ」


 激昂しかけたNicoleを、静かに宥めたEden。

 2人の関係が単なるチームメンバーとは違うように感じたAliceだが、ひとまず好奇心には蓋をする。

 その代わりに彼女は、勝気な笑みを湛えて言い放った。


「どうかな? やってみないとわかんないよ?」

「それはそうだね。 なら、実際にやってみようか。 キミを突破出来たら、俺たちを阻む者はいない。 行くよ、Nicole」

「オッケー。 思い切り、ぶっ放してやろうじゃん!」


 言うが早いか、バズーカにエネルギーをチャージし始めるNicole。

 対するAliceは表情を引き締めて、妨害するべくアーツを発動しようとした。

 しかし、当然と言うべきか、そう容易くは行かない。


「やらせないよ」


 Edenがプラズマ弾を射出し、Aliceの出鼻を挫いた。

 アーツをキャンセルしたAliceは、その全てを軽やかに躱したが、Nicoleのチャージが進んでしまう。

 出来れば止めたいと思いつつ、Aliceは撃たせても良いと考えた。

 そうすれば、敵の力の1つが明らかになるからだ。

 だが、そんな彼女の思惑を、Nicoleは豪快に吹き飛ばす。


「喰らえ!」


 チャージが完了したバズーカから、極大の閃光が放たれた。

 視界を埋め尽くす光の奔流を前に、流石のAliceも裂けんばかりに目を見開く。

 それでも彼女は止まらず、精一杯抗ってみせた。


「間に合って!」


 願いとともに繰り出された【イグニス・フレア】が、砲撃を相殺する。

 それと同時にAliceは後方に跳躍し、爆風の勢いに乗ってその場を脱した。

 範囲が広過ぎて完全に逃れることは出来なかったものの、致命傷にはなっていない。

 そのことに安堵したAliceは、ホッと息をついたが――


「どこを見ているのかな?」


 いつの間にか、Aliceの背後に回っていたEden。

 気配に気付いたAliceは、少なからず驚いていた。

 THOは銃火器がメインのゲームの為、ここまで接近して来るのは想定外。

 内心で動揺しつつ反転したAliceは、『【聖杖】クリスタル・ロッド』を振り切る。

 横殴りの一撃は、Edenの手を標的にしていた。

 武器を弾き飛ばすことが出来れば、大きく弱体化出来ると考えたからだ。

 発想自体は悪くなかったかもしれないが、今回は相手が悪い。


「残念」


 両手で握った銃でAliceの打撃を受け流し、逆に彼女の態勢を崩す。

 THOプレイヤーとは思えない、見事な技量に感心したAliceだが、これで終わりではない。

 Edenの武器の銃口に、プラズマで出来た刃が装着された。

 それを見たAliceはこのあとの流れを想像し、背筋が凍る思いを抱く。

 そんな彼女に構わずEdenは、両手で銃を振り乱し、Aliceにプラズマブレードを繰り出した。

 体勢が悪い中、Aliceは必死に捌き、辛うじてクリーンヒットは許さない。

 しかし、Edenの近接戦闘能力は並ではなく、彼女であっても無被弾ではいられなかった。

 次第に追い詰められて行くのを感じながら、Aliceがなんとか打開策を探っていると、急にEdenがバックステップを踏んだ。

 何事かと思ったAliceだが、すぐに答えは判明する。


「がら空きじゃん!」


 Edenに気を取られていた隙に、2度目のチャージを終えた、Nicoleによる砲撃。

 僅かに反応が遅れたAliceは、【イグニス・フレア】では間に合わないと判断し、無数の【グラン・ランサー】を壁として突き上げた。

 ところが、Nicoleの一撃はその全てを撃ち砕き、Aliceを飲み込む。

 機械人の為、表情はないが、Nicoleは会心の笑みを浮かべる思いだ。

 もっとも、これで終わるほどAliceは生易しくはない。


「あ~、ビックリした~。 今のは危なかったね!」


 HPゲージを大きく減じながらも、Aliceの顔には笑みが浮かんでいる。

 仕留めたと思っていたNicoleは驚いていたが、Edenは冷静に言葉を紡いだ。


「【グラン・ランサー】で一瞬時間を稼いで、【ウィンド・スライサー】で身を守った……ってところかい?」

「へ~、しっかり研究してるんだね。 大正解!」

「ふん、やるじゃん。 あたしの『Ultimate』を受けて立ってられた奴は、ほとんどいないわよ」

「あ、『Ultimate』って言うんだ。 たぶん、『God Weapon』の1つだよね。 Edenくんのもそうなの?」

「教えてやる義理はないよ……と言いたいところだけど、名前くらいなら良いか。 お察しの通りこれは『God Weapon』で、『Tonitrus』と言うんだ」

「ふ~ん、2人とも格好良いね! 雪夜くんから『God Weapon』に注意しろって言われてたんだけど、どんな性能かわからなくて困ってたの。 でも、ある程度はわかって来たかな」

「そうかい。 けど、だからって戦況が引っ繰り返る訳じゃない。 さっきは凌がれたけど、いつまでももつとは思わないことだ」

「Edenの言う通りよ。 次こそ、絶対ぶっ飛ばしてやるんだから!」


 言うが早いか、チャージを開始するNicole。

 Aliceはすぐさま阻止しようとしたが、寸前で思い留まった。

 Edenが銃を構えて、牽制しているからだ。

 ここで真っ直ぐにNicoleを狙えば、間違いなくEdenが黙っていない。

 今のところNicoleは超火力の砲撃しかして来ないが、その威力と範囲は馬鹿げている。

 何より、プラズマ弾とプラズマブレードによる、遠距離戦と近距離戦のどちらも行える、Edenの存在が厄介極まりなかった。

 彼がAliceにプレッシャーを与え続け、その間にチャージを終わらせたNicoleが敵を一掃する。

 これが彼らの戦法の根幹だと、Aliceは考えていた。

 そして、どう対応するべきかも。

 決意を固めたAliceは柳眉を逆立て――


「行くよ!」

「おっと」


 Edenに突貫した。

 杖を思い切り振り被り、大上段から叩き付ける。

 『魔導士』であるAliceが接近戦を仕掛けた訳だが、ネーヴェ戦のデータを取っていたEdenにとっては予定調和。

 慌てることなく攻撃を受け流し、プラズマブレードで斬り返す。

 脇腹を狙った一閃を、Aliceは杖を立てることで受け止めながら、最速でアーツを発動した。

 Edenの左右から【グラン・ランサー】が突き上がり、彼を串刺しにせんとする。

 だが、The Soldierの名は伊達ではなく、あっさりと後方宙返りで回避した。

 その上、着地するまでに銃モードに切り替えた『Tonitrus』で、プラズマ弾を乱射する。

 どの距離でも適切な戦法が取れるのが、Eden最大の強味かもしれない。

 しかし、その程度のことはAliceも承知しており、逃がさないとばかりに再度接近した。

 プラズマ弾の雨を最小限の動きで避けて、Edenに肉薄する。

 あくまでも接近戦に拘るAliceを前に、Edenは彼女の思惑を察知した。

 要するに、2人がくっ付いてさえいれば、Nicoleが攻撃出来ないと言うこと。

 超火力、広範囲が持ち味の彼女の砲撃は、味方を巻き込む恐れがある。

 そこに付け込んだAliceの選択は、間違ってはいない。

 ただし、彼らの力が本当にこれだけならだが。


「Eden!」

「任せたよ」


 チャージを終えたNicoleが呼び掛けた瞬間、Edenは自身の足元にプラズマ弾を撃ち込んだ。

 何をしているのかわからなかったAliceは警戒していたが、眼前の光景に目を丸くする。

 着弾地点を中心に、Edenをプラズマの障壁が覆ったのだ。

 それが何をするのか理解したAliceは、咄嗟にNicoleに振り向く。

 バズーカの銃口をAliceに向けたNicoleは、Edenを巻き込むのを承知で砲撃を放とうとしていた。

 自分が罠にはまったと悟ったAliceは、なんとか窮地を脱する手段を模索したが、流石の彼女でもかなり厳しい。

 緊張した面持ちで歯を食い縛り、今度こそ終わりを迎えるのを覚悟して――


「いつもの笑顔はどうしたのかしら?」


 聞き覚えのある、涼やかな声が流れる。

 すると、Nicoleの全周囲に生成された光の槍が、彼女に殺到した。

 攻撃を中断して守りを固めたNicoleは、ダメージを最小限に抑えたものの、邪魔をされたことに立腹している。

 それでも感情的にはならず、状況把握に努めようとしていた。

 一旦仕切り直そうと考えたEdenも下がり、Nicoleと並び立つ。

 ひとまずの危機は去ったと判断したAliceは、ホッと息をついたが、冷たい声が耳朶を打った。


「何を安心しているの。 戦いはこれからでしょう?」


 Edenたちを鋭く睨みながら、Aliceに近寄って来たのは、氷狼の魔女ことネーヴェ。

 既に【フェンリル】を発動しており、傍らには巨大化したリルの姿もある。

 彼女の姿を見ても、EdenとNicoleに動揺はないが、必勝の状況ではなくなったと思っていた。

 逆にAliceにとっては、これ以上ないほど頼もしい援軍である。


「ネーヴェちゃん、来てくれたんだね!」

「MLOの方は、落ち着いたからよ。 同盟を結んだ以上、役割は果たすわ」

「またまた~。 本当は、あたしに会いたかったんじゃないの~?」

「それだけ馬鹿なことが言えるなら、心配は必要なさそうね」

「酷い!?」

「良いから、サッサと終わらせるわよ。 Nicoleはわたしが相手してあげる。 貴女はEdenをなんとかしなさい」

「う~、わかったよ。 よろしくね、ネーヴェちゃん!」


 気の抜けるようなやり取りをしつつ、Aliceは闘志を滾らせていた。

 絶体絶命のピンチを潜り抜け、やって来た反撃のチャンス。

 ネーヴェも静かに戦意を燃やしており、リルは低く唸り声を上げている。

 一方のEdenとNicoleは、目を合わせることもなく言葉を交わした。


「氷狼の魔女か。 また、面倒なのが来たね」

「良いじゃん。 どっちにしろ落とす相手でしょ? 早いか遅いかの違いよ」

「まぁね。 どうやらNicoleをご所望のようだけど、サポートは大丈夫かい?」

「いらないわよ! Edenこそ、Aliceに勝てるの?」

「愚問だね。 余裕はないかもしれないけど、負けるとは思わない」

「上等じゃん。 さぁて、やってやるわよ!」


 真っ向から対峙したAliceとEden、ネーヴェとNicole。

 草原に一陣の風が吹き抜け――


「覚悟してね、Edenくん!」

「こちらのセリフだよ、Alice」

「Nicole、守ってもらわなくて良いのかしら?」

「舐めないでよ! 使い魔ごと、吹き飛ばしてやるんだから!」


 激突。

 こうしてAliceたちの戦いも、ますます過熱して行った。

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