第27話 よろしくね
CBOに転移したNicoleとEdenは、南方に回り込んでから真っ直ぐに北上していた。
脚部と背部からエネルギーを放出することで推進する、スラスター走行。
これはTHOの機械人に共通する特徴だ。
Edenは両手でアサルトライフルサイズの銃を抱え、Nicoleは背中に巨大なバズーカのような兵器を担いでいる。
既に遠くからは戦闘音が響いて来ており、BKOとTHOの同盟軍がCBOプレイヤーとぶつかっているのが察せられた。
最悪、同盟軍は他のプレイヤーを足止め出来れば良い。
その間に、CBOの主力の誰かを落としさえすれば、最低限の戦果は得られる。
無論、今回でCBOを落とせたらそれが理想だが、少しずつ戦力を削いで行く展開でも構わない。
四獣王とTETRAは同じ見解を持っており、EdenとNicoleも異論はなかった。
そして、この進路上に立っているのが誰であっても、2対1なら必ず勝てると思っている。
ただし、簡単に行くとは思っておらず、その認識は正しい。
「わ!?」
突然、Nicoleの体が止まる。
自分に何が起きたのかわからない彼女は、慌てて状況を確認した。
すると目に映ったのは、自身の四肢を拘束する4つの水玉。
苛立ったNicoleは強引に振り払おうとしたが、ビクともしない。
更に水玉は収縮を始め、このままだとダメージを受けそうだ。
そこまで考えたNicoleは、別の手段を取ろうとして――
「それはまだ早いよ、Nicole」
Edenがプラズマ弾を連射して、Nicoleを傷付けることなく水玉を破壊した。
自由が戻った彼女は、取り敢えずEdenに礼を言おうとして、咄嗟に口元の言葉を入れ替える。
「上!」
極めて短い言葉でNicoleが叫んだ瞬間、Edenの頭上から雷が落ちた。
反射的に身を投げたEdenは事なきを得て、彼のすぐ隣にクレーターが出来ている。
この段階になって2人は、自分たちの相手が誰かを悟った。
Edenたちの進行方向から、隠れることもなく歩み寄って来たのは、Alice。
ニコニコと笑っているが、それに反して強烈な戦意を感じた。
EdenとNicoleも油断することなく、それぞれの武器の照準をAliceに向けている。
それを受けても彼女が怯むことはなく、平常運転で口を開いた。
「えっと、TETRAのEdenくんとNicoleちゃんだっけ? あたしはAlice、よろしくね!」
「ご丁寧にどうも。 でも俺たちは、戦争をしに来たんであって、よろしくするつもりはないよ」
「Edenの言う通りよ! て言うか、いきなり攻撃して来ておいて、良く言うわね!?」
「え~? だって、先制攻撃は基本でしょ? Nicoleちゃんは、結構狙えそうな感じしてたしね~」
「はぁ!? あんた、舐めてんの!?」
「落ち着けNicole、挑発だ。 それに、結果として彼女の先制攻撃とやらは、不発に終わった。 それどころか、不用意に俺たちの前に出て来ている。 こうなるとどちらが有利かは、明らかだよ」
「Eden……。 確かにそうね。 Aliceだっけ? 捕まえられたのは認めてあげるけど、もうあんたに勝ち目はないわよ」
激昂しかけたNicoleを、静かに宥めたEden。
2人の関係が単なるチームメンバーとは違うように感じたAliceだが、ひとまず好奇心には蓋をする。
その代わりに彼女は、勝気な笑みを湛えて言い放った。
「どうかな? やってみないとわかんないよ?」
「それはそうだね。 なら、実際にやってみようか。 キミを突破出来たら、俺たちを阻む者はいない。 行くよ、Nicole」
「オッケー。 思い切り、ぶっ放してやろうじゃん!」
言うが早いか、バズーカにエネルギーをチャージし始めるNicole。
対するAliceは表情を引き締めて、妨害するべくアーツを発動しようとした。
しかし、当然と言うべきか、そう容易くは行かない。
「やらせないよ」
Edenがプラズマ弾を射出し、Aliceの出鼻を挫いた。
アーツをキャンセルしたAliceは、その全てを軽やかに躱したが、Nicoleのチャージが進んでしまう。
出来れば止めたいと思いつつ、Aliceは撃たせても良いと考えた。
そうすれば、敵の力の1つが明らかになるからだ。
だが、そんな彼女の思惑を、Nicoleは豪快に吹き飛ばす。
「喰らえ!」
チャージが完了したバズーカから、極大の閃光が放たれた。
視界を埋め尽くす光の奔流を前に、流石のAliceも裂けんばかりに目を見開く。
それでも彼女は止まらず、精一杯抗ってみせた。
「間に合って!」
願いとともに繰り出された【イグニス・フレア】が、砲撃を相殺する。
それと同時にAliceは後方に跳躍し、爆風の勢いに乗ってその場を脱した。
範囲が広過ぎて完全に逃れることは出来なかったものの、致命傷にはなっていない。
そのことに安堵したAliceは、ホッと息をついたが――
「どこを見ているのかな?」
いつの間にか、Aliceの背後に回っていたEden。
気配に気付いたAliceは、少なからず驚いていた。
THOは銃火器がメインのゲームの為、ここまで接近して来るのは想定外。
内心で動揺しつつ反転したAliceは、『【聖杖】クリスタル・ロッド』を振り切る。
横殴りの一撃は、Edenの手を標的にしていた。
武器を弾き飛ばすことが出来れば、大きく弱体化出来ると考えたからだ。
発想自体は悪くなかったかもしれないが、今回は相手が悪い。
「残念」
両手で握った銃でAliceの打撃を受け流し、逆に彼女の態勢を崩す。
THOプレイヤーとは思えない、見事な技量に感心したAliceだが、これで終わりではない。
Edenの武器の銃口に、プラズマで出来た刃が装着された。
それを見たAliceはこのあとの流れを想像し、背筋が凍る思いを抱く。
そんな彼女に構わずEdenは、両手で銃を振り乱し、Aliceにプラズマブレードを繰り出した。
体勢が悪い中、Aliceは必死に捌き、辛うじてクリーンヒットは許さない。
しかし、Edenの近接戦闘能力は並ではなく、彼女であっても無被弾ではいられなかった。
次第に追い詰められて行くのを感じながら、Aliceがなんとか打開策を探っていると、急にEdenがバックステップを踏んだ。
何事かと思ったAliceだが、すぐに答えは判明する。
「がら空きじゃん!」
Edenに気を取られていた隙に、2度目のチャージを終えた、Nicoleによる砲撃。
僅かに反応が遅れたAliceは、【イグニス・フレア】では間に合わないと判断し、無数の【グラン・ランサー】を壁として突き上げた。
ところが、Nicoleの一撃はその全てを撃ち砕き、Aliceを飲み込む。
機械人の為、表情はないが、Nicoleは会心の笑みを浮かべる思いだ。
もっとも、これで終わるほどAliceは生易しくはない。
「あ~、ビックリした~。 今のは危なかったね!」
HPゲージを大きく減じながらも、Aliceの顔には笑みが浮かんでいる。
仕留めたと思っていたNicoleは驚いていたが、Edenは冷静に言葉を紡いだ。
「【グラン・ランサー】で一瞬時間を稼いで、【ウィンド・スライサー】で身を守った……ってところかい?」
「へ~、しっかり研究してるんだね。 大正解!」
「ふん、やるじゃん。 あたしの『Ultimate』を受けて立ってられた奴は、ほとんどいないわよ」
「あ、『Ultimate』って言うんだ。 たぶん、『God Weapon』の1つだよね。 Edenくんのもそうなの?」
「教えてやる義理はないよ……と言いたいところだけど、名前くらいなら良いか。 お察しの通りこれは『God Weapon』で、『Tonitrus』と言うんだ」
「ふ~ん、2人とも格好良いね! 雪夜くんから『God Weapon』に注意しろって言われてたんだけど、どんな性能かわからなくて困ってたの。 でも、ある程度はわかって来たかな」
「そうかい。 けど、だからって戦況が引っ繰り返る訳じゃない。 さっきは凌がれたけど、いつまでももつとは思わないことだ」
「Edenの言う通りよ。 次こそ、絶対ぶっ飛ばしてやるんだから!」
言うが早いか、チャージを開始するNicole。
Aliceはすぐさま阻止しようとしたが、寸前で思い留まった。
Edenが銃を構えて、牽制しているからだ。
ここで真っ直ぐにNicoleを狙えば、間違いなくEdenが黙っていない。
今のところNicoleは超火力の砲撃しかして来ないが、その威力と範囲は馬鹿げている。
何より、プラズマ弾とプラズマブレードによる、遠距離戦と近距離戦のどちらも行える、Edenの存在が厄介極まりなかった。
彼がAliceにプレッシャーを与え続け、その間にチャージを終わらせたNicoleが敵を一掃する。
これが彼らの戦法の根幹だと、Aliceは考えていた。
そして、どう対応するべきかも。
決意を固めたAliceは柳眉を逆立て――
「行くよ!」
「おっと」
Edenに突貫した。
杖を思い切り振り被り、大上段から叩き付ける。
『魔導士』であるAliceが接近戦を仕掛けた訳だが、ネーヴェ戦のデータを取っていたEdenにとっては予定調和。
慌てることなく攻撃を受け流し、プラズマブレードで斬り返す。
脇腹を狙った一閃を、Aliceは杖を立てることで受け止めながら、最速でアーツを発動した。
Edenの左右から【グラン・ランサー】が突き上がり、彼を串刺しにせんとする。
だが、The Soldierの名は伊達ではなく、あっさりと後方宙返りで回避した。
その上、着地するまでに銃モードに切り替えた『Tonitrus』で、プラズマ弾を乱射する。
どの距離でも適切な戦法が取れるのが、Eden最大の強味かもしれない。
しかし、その程度のことはAliceも承知しており、逃がさないとばかりに再度接近した。
プラズマ弾の雨を最小限の動きで避けて、Edenに肉薄する。
あくまでも接近戦に拘るAliceを前に、Edenは彼女の思惑を察知した。
要するに、2人がくっ付いてさえいれば、Nicoleが攻撃出来ないと言うこと。
超火力、広範囲が持ち味の彼女の砲撃は、味方を巻き込む恐れがある。
そこに付け込んだAliceの選択は、間違ってはいない。
ただし、彼らの力が本当にこれだけならだが。
「Eden!」
「任せたよ」
チャージを終えたNicoleが呼び掛けた瞬間、Edenは自身の足元にプラズマ弾を撃ち込んだ。
何をしているのかわからなかったAliceは警戒していたが、眼前の光景に目を丸くする。
着弾地点を中心に、Edenをプラズマの障壁が覆ったのだ。
それが何をするのか理解したAliceは、咄嗟にNicoleに振り向く。
バズーカの銃口をAliceに向けたNicoleは、Edenを巻き込むのを承知で砲撃を放とうとしていた。
自分が罠にはまったと悟ったAliceは、なんとか窮地を脱する手段を模索したが、流石の彼女でもかなり厳しい。
緊張した面持ちで歯を食い縛り、今度こそ終わりを迎えるのを覚悟して――
「いつもの笑顔はどうしたのかしら?」
聞き覚えのある、涼やかな声が流れる。
すると、Nicoleの全周囲に生成された光の槍が、彼女に殺到した。
攻撃を中断して守りを固めたNicoleは、ダメージを最小限に抑えたものの、邪魔をされたことに立腹している。
それでも感情的にはならず、状況把握に努めようとしていた。
一旦仕切り直そうと考えたEdenも下がり、Nicoleと並び立つ。
ひとまずの危機は去ったと判断したAliceは、ホッと息をついたが、冷たい声が耳朶を打った。
「何を安心しているの。 戦いはこれからでしょう?」
Edenたちを鋭く睨みながら、Aliceに近寄って来たのは、氷狼の魔女ことネーヴェ。
既に【フェンリル】を発動しており、傍らには巨大化したリルの姿もある。
彼女の姿を見ても、EdenとNicoleに動揺はないが、必勝の状況ではなくなったと思っていた。
逆にAliceにとっては、これ以上ないほど頼もしい援軍である。
「ネーヴェちゃん、来てくれたんだね!」
「MLOの方は、落ち着いたからよ。 同盟を結んだ以上、役割は果たすわ」
「またまた~。 本当は、あたしに会いたかったんじゃないの~?」
「それだけ馬鹿なことが言えるなら、心配は必要なさそうね」
「酷い!?」
「良いから、サッサと終わらせるわよ。 Nicoleはわたしが相手してあげる。 貴女はEdenをなんとかしなさい」
「う~、わかったよ。 よろしくね、ネーヴェちゃん!」
気の抜けるようなやり取りをしつつ、Aliceは闘志を滾らせていた。
絶体絶命のピンチを潜り抜け、やって来た反撃のチャンス。
ネーヴェも静かに戦意を燃やしており、リルは低く唸り声を上げている。
一方のEdenとNicoleは、目を合わせることもなく言葉を交わした。
「氷狼の魔女か。 また、面倒なのが来たね」
「良いじゃん。 どっちにしろ落とす相手でしょ? 早いか遅いかの違いよ」
「まぁね。 どうやらNicoleをご所望のようだけど、サポートは大丈夫かい?」
「いらないわよ! Edenこそ、Aliceに勝てるの?」
「愚問だね。 余裕はないかもしれないけど、負けるとは思わない」
「上等じゃん。 さぁて、やってやるわよ!」
真っ向から対峙したAliceとEden、ネーヴェとNicole。
草原に一陣の風が吹き抜け――
「覚悟してね、Edenくん!」
「こちらのセリフだよ、Alice」
「Nicole、守ってもらわなくて良いのかしら?」
「舐めないでよ! 使い魔ごと、吹き飛ばしてやるんだから!」
激突。
こうしてAliceたちの戦いも、ますます過熱して行った。




