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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第26話 通行止め

 CBOの拠点の周囲は草原ではあるが、完全に見通しが良いとは言えない。

 と言うのも、巨大な岩が転がっていたり、勾配が急になっているせいで、隠れる場所は意外にあるからだ。

 もっとも、彼らにとっては大した問題ではないが。

 途轍もない速度で拠点の町へと迫る、白太とミント。

 ホームが大森林である2人からすれば、この程度の障害などあってないようなもの。

 しかし、白太はだからと言って油断してはいない。


「飛ばし過ぎだ、ミント。 もう少し、慎重に行くぞ」

「……はい」


 前を全速力で走っていたミントが、不承不承ながら速度を落とした。

 彼女が雪夜への復讐を望んでいるのは知っている白太だが、それにしても前のめり過ぎである。

 思わず嘆息した白太は、ミントを落ち着かせるべく言葉を重ねようとしたが――


「ここから先は、通行止めだぜ?」


 横合いから、多数の手裏剣が殺到した。

 反射的に振り向いた白太は右腕を振り切り、その全てを弾き飛ばす。

 しかし完全に防ぐことは出来ず、微かにHPゲージが減った。

 その事実に、白太は眉間に皺を寄せる。

 何故なら、彼の防御力はBKOでも圧倒的で、まともに被弾しない限りは、ダメージを受けないことがほとんどだからだ。

 そんな自分の守りを上回る攻撃力を誇る相手の登場に、警戒心を露わにしている。

 一方の襲撃者は、ニヤリと笑って言い放った。


「取り敢えず、攻撃が通って安心したぜ。 まぁ、大したダメージじゃなさそうだけどな」

「『隠密』、ゼロか……。 ノイとの戦いは見ていた。 ある意味、CBOで最も注意するべき奴だ」

「褒められたと思っておくけどよ、過大評価だぜ。 うちの最強は、間違いなく雪夜だ」

「確かに、あいつも要注意だ。 だが、どちらがやり難いかと言えば、俺はお前だと思っている」

「……ふぅ。 もっと油断してくれた方が、有難てぇんだけどな。 思い切りガチじゃねぇか」


 ウンザリとした様子で、後頭部をガリガリと掻くゼロ。

 一見すると隙だらけだが、白太はそうではないことを悟っている。

 拳を固めて構えを取り、いつでも仕掛けられる体勢を作りながらも、決して無理はしない。

 彼のクレバーさを察したゼロも、道化を演じるのをやめて、『【隠刀】闇丸』を抜き放った。

 そのとき――


「雪夜はどこですか?」


 ミントの凛とした声が響く。

 無視していた訳ではないが、白太に比重を大きく乗せていたゼロは、内心で驚きつつもあっさり言い返した。


「さぁな。 こっちの情報を、簡単に喋る訳ねぇだろ?」

「……わたしは、雪夜に復讐する為に来たんです。 教えてくれるなら、貴方とは戦わないと約束します」

「雪夜に復讐……? どう言う意味だ? あいつが嬢ちゃんに恨まれるようなこと、したとは思えねぇんだが」

「ふざけないで下さい! あの人は、わたしの……大切な人を脱落させたんです! しかも、卑怯な手を使って! そんな人を、わたしは絶対に許せません!」


 これまで静かだったミントが、激情のまま涙ながらに叫ぶ。

 彼女の気持ちを知っている白太は、痛ましく思いながら何も言えなかった。

 だがゼロは、ミントの言葉を正面から受け止めた上で、真っ直ぐに告げる。


「嬢ちゃん、それは自分の目で見たのか?」

「……いいえ」

「やっぱりな。 だったらそれは、勘違いだ。 もしくは、誰かに嘘を吹き込まれたかのどっちかだろ」

「ど、どうして言い切れるんですか!? 貴方だって、コースケさんが脱落したところは見てないでしょう!?」

「まぁな。 けどよ、俺はこれでも雪夜がどう言う奴か、良く知ってるつもりだ。 あいつは勝つことに拘ってるが、絶対に卑怯な真似なんてしない。 クソ真面目だからよ、いつでも真っ向勝負なんだ」

「……仲間だから、そう思いたいのはわかります。 でも……」

「逆に聞くが、嬢ちゃんに雪夜がやったって言った奴のことは、本当に信じられるのか? 絶対に嘘を言ってないって、断言出来るのかよ?」

「そ、それは……」

「大切な人を失って悲しいのは、辛いだろうけどな。 だからって、雪夜に八つ当たりするつもりなら、容赦しねぇぞ」


 いつになく、剣呑な雰囲気を撒き散らすゼロ。

 それを受けたミントは、最早何を信じれば良いかわからず、怒りの矛先を失いかけている。

 それでも、このときの彼女に道は残されていなかった。


「……貴方の言っていることが、本当かどうかだってわかりません。 わたしはやっぱり、雪夜を狙います」

「……そうかよ。 守護王も同じ考えなのか?」

「本音を言えば、俺はコースケを落としたのが雪夜か、疑っている。 しかし、どちらにせよ倒さなければならない相手だ。 なら、ミントの気の済むようにさせてやる」

「まったく……話の通じねぇ奴らだぜ。 でもまぁ、どっちにしろ倒さないといけねぇってのは、同感だ。 あんたらが雪夜を狙おうがやめようが、俺らが戦うことに変わりはねぇんだろうよ」

「勝てると思っているのか? お前が強いのは知っているが、2対1では勝機はないぞ?」

「さてな。 やってみねぇと、わかんねぇぞ?」

「わたしは雪夜を倒すんです。 貴方に時間を掛けてはいられません。 すぐに終わらせます」

「逸るな、ミント。 何度でも言うが、奴は強い。 慌てず確実に、追い詰めて行くぞ」

「白太さん……。 わかりました」

「ちッ……。 勢いに任せて来てくれるなら、楽だったんだがな。 BKOのトップは毒蛇王だって聞いてたけどよ、本当は守護王なんじゃねぇか?」

「誰がトップかなど、興味はないな。 そろそろ始めるぞ、ゼロ。 慌てはしないが、無駄に長引かせるつもりもない」


 そう言って姿勢を低くした白太が、両脚に力を溜めて――突進。

 砲弾のような速度で巨体が撃ち出され、ゼロへと真っ直ぐに進む。

 あまりの速さにゼロは目を見開きつつ、辛うじて右に転身することで躱した。

 しかし、そこに襲い掛かるミント。

 既に回し蹴りの体勢に入っており、右足を振り切る。

 途轍もない威力を秘めており、回避直後のゼロの側頭部を的確に捉えた。

 会心の手応えを得たミントだが――


「え!?」


 ゼロの体が木材に変わる。

 それを見た白太も片眉を跳ね上げ、2人から離れた場所にゼロは立っていた。

 緊急回避スキル【変わり身】。

 雪夜も認める練度で、今回もゼロの窮地を救った。

 ゆっくりと振り向いた白太と、今にも駆け出しそうなミント。

 そんな四獣王たちを、ゼロは強気な笑みで見つめていたが、背中にはビッショリと汗をかいている。

 彼らが強いのは、わかっていた。

 映像では何度も見たし、彼なりに対策も立てている。

 ところが、実際に体験した実力は想定以上だ。

 改めてこの2人を相手にすることの難しさを、痛いほど感じているゼロ。

 だが、退く気は一切なく、速くなった鼓動を鎮めるように呼吸してから、今度は自分から打って出る。

 白太たちの周りを駆けながら、【放たれる暗器】を何度も繰り出した。

 無数の手裏剣が2人に殺到し、細かいダメージを蓄積させて行く。

 とは言え、このまま続けていれば、確実にゼロのAPが先に尽きるはずだ。

 白太とミントもそう考え、守りを固めながらゼロの息切れを待つ。

 ところが――


「む……!」

「白太さん!?」


 白太が毒と眩暈の状態異常に陥り、動きが鈍る。

 彼らはゼロの実力が高いことは知っていたが、装備の詳細までは把握していなかった。

 あまりダメージはないと知りながらも、ゼロが攻撃し続けたのは、手数を増やして状態異常を付与する確率を上げる為。

 驚いたミントは悲鳴を上げたが、ゼロは止まりはしない。

 チャンスだと考えた彼は一気に距離を詰め、短刀を白太の脇腹に突き入れる。

 深々と突き刺さった刃は、白太のHPゲージを目に見えて削り取った。

 もっとも、やはり白太の耐久力は高く、致命傷には至っていない。

 それでも、毒の継続ダメージもあり、尚も眩暈は続いている。

 このまま押し切れると考えたゼロは、【刹那の刻】から【五月雨の如く】へのコンボを発動しようとしたが、それを許さない者がいた。


「させません!」


 ミントの体が眩く光り、現れたのは――角の生えた真っ白な馬。

 彼女の超獣化は、【ユニコーン】。

 その力は――


『わたしはこれ以上、大切な人を失いたくないんです!』


 角の先端から放たれた光が辺りを照らし、それを浴びた白太のHPゲージを回復する。

 更に、付与されていた状態異常も解除され、彼の動きに精彩が戻った。

 計算を完全に狂わされたゼロは、直前で行動をキャンセルして、白太から距離を取るべく動く。

 しかし、僅かに遅かった。


「おぉッ!」

「ぐ……!」


 白太が繰り出したボディブローがゼロに叩き込まれ、豪快に殴り飛ばす。

 際どいところでガードが間に合ったものの、元々『隠密』は耐久力が低い職業だ。

 HPゲージの30%以上が吹き飛び、地面を何度かバウンドしてから立ち上がる。

 実際に肉体的なダメージがある訳ではないが、ゼロは思わず自分の脇腹に手を当てて、骨の具合を確認しようとした。

 取り敢えず無事を確認出来てホッとしつつ、現状は最悪に近い。

 BKOは魔法などの超常的な力を使えない代わりに、驚異的な身体能力を体感出来るのが売りのゲームだが、超獣化だけは例外だ。

 コースケの【フェニックス】が復活能力を備えていたように、【ユニコーン】は治癒能力を持っている。

 HP回復量こそエリスの【リザレクション】ほどではない反面、状態異常を含めた全デバフを解除すると言うのが強味。

 はっきり言って、ゼロにとっては天敵のような存在だ。

 加えて厄介なことに、戦闘力も決して低くない。


『やぁッ!』

「うぉ!?」


 馬の体で草原を駆けたミントが、角でゼロを串刺しにしようとした。

 ゼロであっても反応が遅れるスピードで、脇腹を浅く抉られる。

 それだけでもHPゲージが10%ほど消滅し、残りは半分ほど。

 止む無く回復薬を飲んだゼロだが、これは延命行為に過ぎない。

 治癒能力を持つ上に、自身も強力なミント。

 彼女だけでも相当な重荷とは言え、それだけならばゼロには充分勝ち目はある。

 だが――


「ミント、助かった。 侮っていたつもりはないが、やはりこいつは危険だ。 俺も全力で行く」


 静かに宣言した白太の体が光に包まれ、形が変容して行った。

 予想通りの展開にゼロは舌打ちしつつ、警戒の度合いを最大限まで高める。

 そうして現れたのは、白と黒の毛並みの巨大な虎。

 白太の超獣化である、【白虎】。

 超獣化することで様々な恩恵が得られるが、彼の場合は至極シンプル。


『行くぞ』


 告げると同時に――消えた。

 あらん限りに目を見開いたゼロだが、ほとんど勘だけで反転して短刀を振るう。

 そこには白太がおり、爪を振り下ろすところだった。

 ギリギリで間に合ったことにゼロは安堵したが、残念ながら早計である。


「……ッ!?」


 タイミングはほぼ同時だったにもかかわらず、完全に力負けして、ゼロの体が後方に弾け飛んだ。

 空中で態勢を立て直した彼は、着地すると同時に駆け出そうとして――いない。

 寸前までそこにいた白太が、姿を消している。

 いったいどこに――と考える暇もなく、ゼロは前方に身を投げ出した。


『良い反応だ』


 またしても背後を取っていた白太の噛み付きから、なんとか逃れたゼロ。

 受け身を取りながら起き上がりつつ、【爆ぜる命】で爆弾を放った。

 それによって白太をミントを足止め出来たが、これこそ本当に延命行為。

 特殊な力を有していない白太だが、超獣化した彼のスピードは常軌を逸している。

 ゼロが対処出来ているのは、雪夜との模擬戦が大きく影響していた。

 そのことを認識したゼロは苦笑しつつ、必死に打開策を考える。

 しかし、そう都合の良いものは見付からず、いよいよもってどちらかを道連れにするしかないと、本気で考え――光の結界が展開された。

 何事かと驚いた白太とミントは身構え、ゼロは先ほどよりも深い苦笑を湛えながら言い放つ。


「前とは逆になっちまったな」

「僕としては、借りが返せて良かったよ」


 ゼロの言葉に爽やかに返したのは、ゆっくりと歩み寄るフレン。

 既にクラウソラスとエクスカリバーを抜き放っており、戦闘準備万端だ。

 彼の姿を視界に捉えた白太とミントは、緊張感を高めつつも動揺してはいない。

 CBOとSCOが同盟を結んでいる以上、こうなるのは織り込み済みである。

 ゼロと並び立ったフレンは白太とミントに視線を走らせ、凛々しい声で告げた。


「僕が一角王を抑える。 守護王を任せて良いかな?」

「それが妥当だろうな。 ちなみに、この結界は俺には影響ないのか?」

「心配しなくても、対象を選ぶことが出来る。 大したダメージにはならないだろうけど、守護王と戦うなら役立つはずだよ」

「……なるほどな。 おし、じゃあ行くか。 頼んだぜ、フレン」

「あぁ、任せてくれ」


 方針を固めたゼロとフレンは、少しずつ白太とミントへの間合いを詰めて行った。

 対する四獣王たちも覚悟を決めており、率先して白太が声を発する。


『ミント、ここが正念場だ。 第一星は強敵だが……行けるか?』

『はい、白太さん。 相手が誰だろうと、負けるつもりはありません』

『……わかった。 俺のサポートは考えなくて良い。 思う存分にやれ』

『はい。 白太さんも、気を付けて下さい』

『言われるまでもない』


 それぞれの相手と向かい合った白太とミントは、次第に距離を取り始めた。

 これは互いに、1対1での戦いを望んでいると言うこと。

 奇しくも全員が思いを同じくして、この場に奇妙な連帯感が生まれる。

 だが、誰もそのことには触れず、しばしの睨み合いが続き――


「行くぜ、守護王!」

『受けて立とう、ゼロ』

「キミの相手は僕だ、一角王」

『邪魔するのなら、落ちてもらいます!』


 ぶつかる。

 こうして4人の戦いは、終着駅へと走り出した。

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