第25話 総力戦
朱里と別れて帰宅した雪夜は、全ての用事を済ませてからベッドに腰掛けて、スマートフォンを眺めていた。
表示されているのは、EGOISTS専用のチャットアプリ。
開いているのは個別チャットで、相手はAlice。
暫く厳しい顔でディスプレイを見つめていた雪夜だが、大きく息を吐いてからゆっくりと文字を打ち込んだ。
内容は、『今日の防衛が終わったら話がある』と言う、簡潔ながら重大なもの。
僅かな躊躇いを持ちつつも、朱里とのやり取りを思い出した雪夜は、思い切って送信した。
するとすぐに既読にはなったものの、中々返信が来ない。
少しばかり不安になった雪夜は、知らず内にスマートフォンを握り力が強くなっていたが――通知音が鳴る。
即座にアプリを開いた雪夜が見たものは――
『わかった』
いつもの絵文字や顔文字は一切使わない、たったの4文字。
どのような感情が込められているのかわからず、雪夜は大いに悩んだ。
しかし、全ては防衛を終えてからだと意識を切り替えた彼は、半ば無理やり胸の中に押し込んで、ログインの準備をする。
幾度となく行って来た行為だが、今日はやけにバイザー型デバイスが重く感じた。
それでも逃げることはなく、心を落ち着けるべく瞳を閉じる。
時計の秒針が1回転するほどの時間、集中力を高めた雪夜は、目を開いてベッドに横になった。
そのときには――少なくとも表面上は――調子を取り戻しており、淀みなくCBOの世界へと旅立つ。
慣れ親しんだ拠点の町は、早朝の陽の光に照らされており、雪夜は眩しさに目を細めた。
だが、長々と居座ることはせず、すぐにクリスタルの方へと移動する。
様々なものを抱えつつも、足取りに迷いはなく、思考もクリアに保てていた。
こうして自身を律することが出来るのは、彼の持つ大きな武器の1つだと言える。
辿り着いたクリスタルの傍には、数多くのCBOプレイヤーの姿があった。
全員が戦意に満ちており、今日の防衛が特別だとわかっているらしい。
そのことに満足しつつ、雪夜は視線をずらした。
そこにいるのは、最も信頼している仲間たち。
柔らかな微笑を湛えたケーキ。
笑顔が輝いて見えるAlice。
快活な笑みを浮かべて、サムズアップしているゼロ。
全員が自然体だが、それに反して戦いに備えていることが窺えた。
彼女たちの様子を見た雪夜は、気を引き締めると同時に安堵し、力強く声を発する。
「皆、準備万端のようだな」
「まぁな。 出来ることはしたつもりだぜ」
「あたしも! あとは思い切り戦うだけだよ!」
「実際に攻めて来るかは定かではありませんが、用意は出来ています」
雪夜の言葉を受けたゼロ、Alice、ケーキが、それぞれの答えを返す。
Aliceがいつも通りなことに、雪夜は改めてホッとしながら、敢えて淡々と言葉を紡いだ。
「攻めて来た場合は、打ち合わせ通りに頼む。 イレギュラーが起きる可能性は充分にあるが、大抵のパターンは網羅したつもりだ。 何も起こらなければ、待機していてくれ」
「お任せ下さい。 必ずや、CBOを守り切ってみせます」
「ケーキちゃん、1人で頑張ろうとしないでね? 皆で守るんだから!」
「Aliceちゃんの言う通りだぜ。 今回ばかりは、全員の力が必要だろうからな」
「わかっていますよ、Aliceさん、ゼロさん。 お2人のことも、頼りにしています。 勿論、雪夜さんも」
「あぁ、俺も出来る限りのことはする。 さぁ、そろそろ時間だ。 何としても、生き残るぞ」
雪夜の最後の言葉は、周囲のCBOプレイヤーにも向けたものだった。
対するケーキたちや他のプレイヤーたちは、真剣な顔で大きく首を縦に振っている。
かつてはソロを貫き、憎悪や恐怖の対象だった雪夜だが、すっかりCBOのリーダーのような役割になっていた。
生存戦争で失ったものも数多くありながら、彼らが掛け替えのない絆を手に入れたのも、動かせない事実。
そのことに雪夜はくすぐったい思いを抱きつつ、悪くないと思っている。
そうして彼が薄く笑みを浮かべていると、遂に時計の針が19時を回り――
「来たな」
「うん。 四獣王にTETRA、それに大勢のプレイヤーだね。 いや~、壮観だな~」
「呑気だな、Aliceちゃん。 俺なんか怖過ぎて、震えが止まらねぇぜ」
「良く言いますね、ゼロさん。 今にも最前線に飛び出しそうなのは、わかっています。 ですが、まだ早いですよ」
「そうだな。 ケーキの言うように、もう少し様子を見よう。 まだ転移して来たばかりで、相手がどう動くかわからない」
安全エリアに、BKOとTHOの大軍が現れた。
即座に侵攻配信を開いた雪夜は、SCOとMLOにもある程度の軍勢が迫っているのを確認する。
こちらに関してはフレンとアリエッタ、ネーヴェとモエモエがいれば、充分に対応出来そうだ。
ただし、CBOに加勢する余裕はないかもしれない。
最悪は自分たちだけで、四獣王とTETRAを相手する必要があると判断した雪夜。
かなり厳しい戦いにはなるが、敵の動きはわかり易かった。
ナーガと蛇族が東から迫り、白太とミントのペアは西から向かっている。
Evolは北から飛んで来ており、EdenとNicoleが南から。
Zenithの姿が消えているのは気になるが、彼がスナイパーなのは既に知っている為、どこかに潜んでいるのは間違いない。
他のプレイヤーたちは拠点を包囲するように展開しており、そのまま圧し潰す勢いだ。
敵の陣形を見た雪夜は険しい顔付きのまま、はっきりと告げる。
「行くぞ」
「はい」
「頑張っちゃうよ~!」
「大仕事だな!」
絶体絶命な状況の中で、誰1人として気後れしていないEGOISTS。
顔を見合わせた彼らは無言で背を向け合い、四方へと駆け出す。
こうして、CBO最大の戦いは幕を開けた。




