第19話 貫き通せ
GENESISクエストが実施されて、3時間が経とうとしている。
一通り情報をかき集めた雪夜たちは、いつもの喫茶店で作戦会議をしていた。
このとき、雪夜とケーキ、Aliceは思うことはありつつも、それを胸の内に仕舞い込んで真剣に取り組んでいた。
そんな仲間たちをゼロは、傍にいながら心情的には1歩引いたところから見守っている。
彼らの恋愛事情は複雑だが、今はGENESISクエストに集中と言うことだ。
その結果として、かなり有意義な時間が過ごせている。
「なるほど。 どうやら、どちらから転移しても、やることは同じのようだ」
「そうだな、雪夜。 ただ、ルートとか出て来る敵の弱点部位、宝箱の中身は全く違うぜ。 まぁ、これに関しては覚えるしかねぇな」
「ゼロさん、簡単に言ってくれるね~。 これを完璧に覚えるの、相当大変だと思うよ?」
「Aliceさんの言う通りです。 メモを見ながらなら確実ですが、今回は合流後の道が閉ざされていました。 予想通りではありますが、ボスと戦うには時間との勝負になります」
「ケーキの見解は正しいと思う。 ただし、果たしてボスと戦うのが最善なのかと言えば、現時点では何とも言えない。 皆も、リザルトを見ただろう?」
「勿論だよ、雪夜くん。 今回のGENESISクエストの評価対象は、宝箱から得られるスコアとダンジョンの踏破率、ゴール地点への到達時間とボスを撃破したかどうか。 この4つだよね?」
「たぶん合ってるぜ、Aliceちゃん。 俺らはこのうち、宝箱とダンジョン踏破率はほぼ完璧だったはずだ。 まぁ、時間を掛け過ぎて到達時間は遅かったし、当然ボスとも戦えてないけどよ」
「到達時間に関しては仕方がないでしょう、ゼロさん。 そこはこれから何度も挑戦して、ルート開拓するしかありません。 雪夜さんが問題視しているのは、ボス撃破に関してですよね?」
「あぁ。 ボスと戦う資格を得る為に、どれくらいの速さでゴールしなければならないか知らないが、恐らく全ての宝箱を回収した上で完璧に踏破していては間に合わないと思う。 そうなると、ボスと戦うにはある程度の取捨選択が必要だ。 だが、そこまでして倒したボスから、どれだけのスコアが得られるかはわからない」
「それはもう、やってみるしかねぇだろ? 次は取り敢えず、最短ルートでボスに直行してみようぜ」
「あたしも、ゼロさんに賛成かな~。 どっちにしろ、1度は戦ってみたいし! 雪夜くんも、そうじゃないの?」
「……そうだな。 情報を得ると言う意味でも、少なくとも1度は戦う必要がある。 今日はもう遅いから明日にするが、皆もそのつもりにしてくれ。 ケーキも、問題ないか?」
「はい、雪夜さんが決めたのなら……いえ、わたしもそれが良いと思います」
柔らかく微笑むケーキ。
雪夜に盲目的に従うのではなく、自分の選択として意志を示した。
同じ結果だとしても、これは大きな進歩だと言える。
雪夜やAlice、ゼロも漠然とそのことを察して、笑みを浮かべていた。
しかし、雪夜は表情を引き締め直し、再び真剣な声音で語る。
「正直、道中のモンスターは、弱点部位さえ覚えていれば相手にならない。 これは俺たちだけではなく、他のCBOプレイヤーも同じだろう。 しかし、ボスもそうだとは限らない。 だからこそ、全力で挑むべきだ」
「あたしは、初めからそのつもりだよ! 思い切りやっちゃうんだから!」
「Aliceさん、やる気を出すのは結構ですが、空回りはしないで下さい」
「わかってるよ! ホントにケーキちゃんは、あたしが大好きなんだから~」
ニコニコとした笑みを、Aliceはケーキに向けた。
完全にからかっており、今回もケーキの恥ずかしがる姿が見られると思っていたが――
「そうですね、大切な仲間ですから」
「……へ?」
「どうかしましたか?」
「あ……ううん、何でもないよ」
「顔が赤いですが」
「は、話し合いが白熱して、ちょっと火照っただけ!」
「そうですか」
澄まし顔でミルクティーを飲むケーキと、大慌てで釈明するAlice。
不意打ちの一撃は、Aliceに多大な衝撃を与えたようだ。
2人の関係性の変化に雪夜とゼロは興味深そうにしつつ、話題を元に戻す。
「とにかく、明日はボス撃破を目指す。 その上で、最適解を探ろう。 他のプレイヤーにも、俺たちの方針は伝えておくべきだと思う。 その上で、彼らがどうするかは自由だ」
「おう。 EGOISTSはCBOの代表みたいな立場だけどよ、周りに指図するつもりなんかねぇし。 だろ、Aliceちゃん?」
「え!? あ、うん、当然だよ! 皆、平等な立場なんだから! 生存戦争でも、好きにプレイすれば良いと思うもん!」
「生き残ることを優先するなら、全員が足並みを揃える方が合理的ですが……それでは楽しくありませんからね。 わたしも、最後まで皆さんとゲームを楽しみたいです」
「ケーキ……。 良し、そうと決まれば早速行こう」
話を締め括った雪夜は席を立ち、喫茶店の出口へと向かう。
それに続いてケーキたちも腰を上げ、他のプレイヤーに説明するべく動いた。
そのとき――
「雪夜、ちょっと話があるんだけどよ、良いか? ケーキちゃんとAliceちゃんは、先に行っててくれ」
ゼロがそんなことを言い出した。
微かに雪夜は驚きつつ、目線で2人を促す。
それを受けたケーキとAliceは顔を見合わせながら、大人しくこの場をあとにした。
雪夜とゼロだけになった喫茶店に、僅かな沈黙が落ちたが、すぐに打ち破られる。
「雪夜、今後の生存戦争、どうなると思う?」
「何だ、藪から棒に」
「良いから、答えろよ」
「……GENESISクエストを無事に乗り越えたと言う前提で話すが、THOとBKOが動くだろうな。 どこに攻め入るかまではわからないが、俺たちも無関係ではいられないはずだ」
「なるほどな。 他には?」
「正直、不透明だが……そこも切り抜けられたなら、いよいよ生存戦争も大詰めになると思う。 まだ残っているタイトルはあるとは言え、実質的に活動出来ているところはほとんどない」
「だよな。 俺も大体、似たような意見だぜ」
「それで? 俺の考えを聞いて、お前は何がしたかったんだ?」
雪夜からすれば当然の疑問で、さして深く考えてのものではない。
ところがゼロは即答せず、口を堅く引き結んでいる。
訝しく思った雪夜は言葉を重ねようとしたが、その前にゼロが言葉を滑り込ませた。
「雪夜、お前は何があっても、自分を貫き通せよ」
「何の話だ?」
「これからのことだよ。 生存戦争では、何が起こるかわからねぇ。 だから、今のうちから心の準備をしておこうぜ」
「……言われるまでもない。 俺は常に、最悪のケースを想定して動いている」
「そうか、なら心配いらねぇな。 そんじゃ、俺らも行こうぜ。 あんまり遅くなったら、2人に怒られちまう」
「……わかった」
快活に笑ったゼロは、雪夜の肩をポンと叩いて喫茶店を出て行った。
そんな彼の背中を雪夜は黙って見送ったが、すぐに足を踏み出す。
こうして第4回GENESISクエストの初日は終わり、CBOに迫る影も近付いていた。




