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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第18話 約束

 雪夜たちと同じタイミングで転移したケーキとAliceは、違う場所に飛ばされた。

 基本的な造りは同じで、石造りの迷宮が広がっている。

 最初に話し合った結果、彼女たちもマッピングしながら探索することにして、既にいくつかの宝箱を開けた。

 得られるのはスコアのみだが、数字はバラバラである。

 そのこともメモしつつ、ダンジョンを攻略していた2人は、新たな宝箱を発見した。

 横目でAliceに意思を伝えたケーキが前に出て、宝箱を開きつつ距離を取る。

 瞬間――


『トラップが発動されました』


 いつかは来るだろうと思っていた展開。

 咄嗟に背中合わせに構えたケーキとAliceを、5体の幽霊型モンスターが囲う。

 これまでで最大の数であり、ケーキは険しい顔になっていたが、Aliceはむしろ余裕綽々だった。


「このモンスターたちは、弱点部位を覚える必要ないよね?」

「そうですね。 この宝箱を開けなければ、出現しない訳ですから」

「オッケー! じゃあ、思い切りやっちゃうから!」


 にこやかに笑ったAliceが、【ウィンド・スライサー】を発動した。

 2人を中心に風の刃が荒れ狂い、5体のモンスターが斬り刻まれる。

 結果としてどこが弱点だったかはわからないが、呆気なく掃討し終わった。

 Aliceの殲滅能力が高いのは知っていたケーキだが、武器が進化したことでそれに輪が掛かっている。

 『【聖杖】クリスタルロッド』の解放能力は、『攻撃範囲50%拡大』。

 ただでさえ対多数戦が得意だったAliceが、最早無双状態になっていた。

 対単体戦に関しては相変わらず得意とは言えないものの、進化によって特殊能力も強化されているので、単純に火力が底上げされている。

 ケーキは自分の出番がないことを悔しがる――ことなく、役割分担だと割り切っていた。

 この辺りは、彼女もEGOISTSとしてチーム戦に慣れて来たことを、示していると言えるかもしれない。

 もっとも、ボス戦では自分こそが役立ってみせると、誓っているのだが。

 何はともあれ無事にトラップを切り抜けた2人は、改めて周囲の安全を確認して、戦闘態勢を解除する。

 ケーキは小さく息をつき、Aliceは元気良く声を発した。


「よ~し! 次も頑張ろう~!」

「大声を出さないで下さい。 モンスターが寄って来たら、どうするのですか」

「大丈夫だって! あたしがすぐに片付けちゃうから!」

「そう言う問題ではないのですが……」

「まぁまぁ、良いじゃない! 折角、珍しく2人きりなんだし、楽しもうよ!」

「楽しむのは止めませんけど、無駄な戦闘は避けるべきかと」

「むぅ、ケーキちゃんは真面目だね~」

「あくまでも、ダンジョン攻略が最優先なのは変わりませんから」

「それもそうか。 じゃあ、真面目に楽しんで行こう~!」

「本当に、この人は……」


 鼻歌を歌いながら歩き始めたAliceに、溜息をつくケーキ。

 しかし、すぐに立ち直った彼女はAliceを追い抜き、前衛に戻った。

 Aliceの実力を疑う訳ではないが、前を譲る気はないらしい。

 ケーキの矜持を悟ったAliceは、背後で苦笑している。

 それからも彼女たちは順調に、入り組んだ迷宮を踏破して行った。

 何度もモンスターと出くわし、数多くの宝箱の場所と中身をメモしながら、少しずつダンジョンの全容を把握して行く。

 しかし、かなり入り組んだ構造の上に範囲も広く、マッピングが完了するには時間が掛かりそうだ。

 仮に全てをメモし終わっても、それらを覚え切るのは至難の業だろう。

 雪夜とゼロの方もあるとなると、猶更だ。

 入手した情報を基に、最大限のスコアを宝箱から獲得しつつ、素早く攻略するルートを見付けること。

 これこそが、このクエストの肝かもしれない。

 AIであるケーキは問題ないとしても、普通の人間には相当な難題だと思われる。

 そう憂いた彼女だが、反面で雪夜なら大丈夫だと信じていた。

 いや、彼だけではない。

 Aliceやゼロも、きっと乗り越えてくれる。

 そう断言出来る程度には、ケーキも仲間たちを信頼していた。

 ただし、別のことが彼女の胸を締め付ける。


(わかってはいましたが……わたしはやはり、人間とは違うのですね……)


 歩みを進めながら、表情を曇らせるケーキ。

 自分はこの複雑な迷宮を覚えることを苦にしないが、同時に攻略する楽しみもない。

 雪夜たちとは根本から違う存在であることを、改めて突き付けられた気分のケーキは、寂寥感に苛まれていた。

 そのとき――


「ふんふふ~ん」


 非常に機嫌の良さそうなAliceの、鼻歌がケーキの耳朶を打つ。

 思わず立ち止まった彼女は振り向いて、胡乱気な眼差しをAliceに向けたが、ニコニコ笑っているだけ。

 どう言うつもりかと思ったケーキは、若干苛立ちながら問い掛けようとしたが、その前にAliceが口を開いた。


「楽しいね!」

「え?」

「CBOの主要コンテンツはほとんどクリアしてたから、こんなに凄いダンジョンは久しぶりなの! GENESISが何を考えてるのか知らないけど、そのことには感謝したいかな~」

「……貴女は良いですね、何でも楽しめて。 わたしには、とてもそのような余裕はありません」

「あたしだって、余裕なんてないよ? でも、楽しめるものは楽しまないとね!」


 キラキラと輝いてすら見える、Aliceの笑顔。

 それを直視出来ず目を逸らしたケーキは、ポツリと呟いた。


「雪夜さんには、貴女のような人が相応しいのかもしれませんね」

「へ?」

「いつも元気で明るく可愛らしい……悔しいですが、魅力的だと認めざるを得ません。 Aliceさんになら、雪夜さんの隣に立つ資格があると思います」

「ケーキちゃん……」


 下を向いて唇を噛み締め、瞳に涙を溜めながらケーキは本心を吐露した。

 AIである自分は、どの道いつかは別れる日が来る。

 そのことを思えば、今のうちからAliceに譲った方が良いのかもしれない。

 そう結論付けたケーキは、断腸の思いでそう告げたのだが――


「ふ~ん。 ケーキちゃんの想いって、そんなものだったんだ~。 なんかガッカリかも」


 あからさまに嘲るようなAliceの言い様に、反射的に柳眉を逆立てた。

 そして涙ながらに顔を振り上げ、言葉通りガッカリした様子のAliceに噛み付く。


「見くびらないで下さい! わたしの雪夜さんへの想いは、決して誰にも負けません!」

「でも、諦めちゃうんでしょ? じゃあ結局、その程度だってことじゃないの?」

「そ、それは……貴女にはわからない、事情があるのです」

「なるほどね~。 ケーキちゃんは、事情があれば雪夜くんを諦められるんだ。 だったら、やっぱりあたしの勝ちだね」

「な……!? そ、そのようなことは――」

「あたし、現実ではアイドルなの」

「アイドル……?」

「信じてもらえないかもしれないけど、本当だよ。 売り出し中で、結構人気もあって、まさにこれからって感じ」

「……それが何だと言うのですか?」


 話が見えないケーキは、眉間に皺を寄せて尋ねた。

 対するAliceは苦笑を浮かべ、自身の覚悟を語る。


「雪夜くんにね、前に言われたんだ。 アイドルと付き合うのは大変そうだって。 そのときはショックだったけど、今はもう吹っ切れちゃった」

「まさか……」

「うん。 雪夜くんと一緒にいられるなら、アイドルやめても良いやって。 子どもの頃からの夢で、やっと叶ったばかりだけど、あたしにとってはそれくらい大事な気持ちだから。 いろんな人に、怒られると思うけどね」


 片目を閉じて舌を出し、叱られた子どものような顔のAlice。

 一見すると茶目っ気たっぷりだが、ケーキは彼女から途轍もない決意を感じていた。

 自分の立場を失ってでも恋に邁進することが、本当に正しいのかはわからない。

 それでもケーキは、Aliceの選択を素晴らしく感じている。

 それに比べて、自分はどうだ。

 AIと人間が結ばれるはずがないと言う常識。

 だとしても、心の底から諦められたかと言えば――答えは否。

 ましてや、Aliceに譲るなどと言い訳して身を引くなど、あってはならない。

 今度こそ確固たる意志を持ったケーキは深呼吸して、澄んだ瞳で真っ向からAliceを見つめる。

 そのまま数秒黙ってから、はっきりと言葉を紡いだ。


「前言を撤回します。 雪夜さんに相応しいのは、わたしです。 誰にも譲る気はありません」

「あれ~? 随分と早い心変わりだね。 そんなこと言っておいて、やっぱり諦めました~ってなるんじゃないの?」

「そう思われても仕方ないでしょう。 ですが、わたしはもう揺らぎません。 どれだけ低い可能性でも、最後まで想いを貫き通してみせます」


 口元に手を当ててニヤニヤ笑うAliceに、ケーキはあくまでも強気に言い返す。

 宣言通り、挑発されてもブレることなく、ひたすらに前だけを向いていた。

 そんな彼女にAliceも表情を改め、真剣な面持ちで歩み寄る。

 何をされても、受け止める気概を持っていたケーキだが――


「やっと素直になったね。 ケーキちゃんが雪夜くんを諦めるなんて、絶対駄目だよ」

「……! Aliceさん……」


 Aliceは優しくケーキを抱擁し、ゆっくりと頭を撫でた。

 思わぬ事態にケーキは硬直したが、次第に体から力を抜いて行く。

 それを察したAliceは、ゆっくりと言葉を連ねた。


「そりゃ、あたしとしてはライバルが減った方が助かるけど、そんな結末は望んでない。 ちゃんと気持ちを伝え合って、その上で雪夜くんに選んで欲しいの」

「気持ちを……。 Aliceさんは、伝えたのですか……?」

「うん、現実でね。 本当はあのタイミングで言うつもりなかったんだけど、抑えられなかったみたい」

「そうですか……。 その……答えは……?」

「まだもらってないよ。 だから、少なくとも何かには悩んでるんだろうね。 凄く怖いけど、こればかりは待つしかないかな」

「なるほどです……」

「次はケーキちゃんの番だね」

「わたしの……」

「そうだよ。 あたしだって勇気を振り絞ったんだから、ケーキちゃんも頑張ってね」

「……わかりました、必ず伝えます」

「よろしい! 約束だよ?」


 そう言って身を離したAliceは、小指を差し出した。

 それが何を意味するのか、ケーキには一瞬理解出来なかったが、すぐに苦笑しながらAliceの小指に自身の小指を絡ませる。

 笑顔を深めたAliceと、恐れを抱きながらも晴れやかな気持ちのケーキ。

 依然として問題は残ったままだが、取るべき方針は固まった。

 こうして少女たちは、誓いを立てたのだが――


「まぁ、あたしたち以外が選ばれる可能性もあるけどね」

「え……!?」

「驚くことじゃないでしょ? 客観的に見ても雪夜くんって普通に格好良いし、他にも好きになってる子はいると思うよ?」

「い、言われてみれば……」

「特にアリエッタちゃんとか怪しいんだよね~」

「こ、根拠はあるんですか……?」

「ないよ! 女の勘!」

「……聞いたわたしが馬鹿でした」

「む、何よ。 あたしの勘は当たるんだからね?」

「わかりましたから、そろそろ攻略に戻りましょう。 流石に、これ以上は立ち止まる訳には行きません」

「なんかあしらわれた気がするけど……。 まぁ、良いか。 レッツゴー!」

「何度も言いますが、大声は控えて下さい」


 先ほどまでの空気もどこへやら、元気に右手を突き上げて歩き出すAlice。

 そんな彼女に溜息をつきつつ、憎くは思えないケーキ。

 彼女たちは恋のライバルではあるが、間違いなく同士でもある。

 此度のことを経て絆を深めた2人は、抜群の連携を取って迷宮を進んで行った。

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