表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/137

第16話 組み合わせ

 いつものようにログインし、いつものようにクリスタルの元へ向かう雪夜。

 周囲との挨拶も、最近は自然と出来るようになっており、彼らの確執は既に過去のもの。

 しかし雪夜は、この現状は決して自分だけの力ではないと、常々思っている。

 リアルも含めて、周囲の人たちに恵まれた結果だと、己に言い聞かせていた。

 そしてその中でも、特に大きな切っ掛けになった人物がいる。

 ソロを貫いていた自分に、強引に付いて来たケーキ。

 当時は困ることも多かったが、彼女がいなければ今はないはずだ。

 だからこそ雪夜は、ケーキに多大なる恩を感じている。

 いや、本当にそれだけなのか?――と、自問自答する雪夜。

 朱里に言われたこともあり、今一度自分の気持ちと向き合ってみようと決めた。

 ただし、まずはGENESISクエスト。

 気を入れ直した雪夜は、晴天の下に集まったEGOISTSメンバーに向かって、なるべくいつも通りに声を掛ける。


「こんばんは、皆。 いよいよだな」

「こんばんは、雪夜くん! どんなダンジョンなんだろうね~。 楽しみだな~」

「Aliceさん、楽しむのは結構ですが、油断はしないで下さい。 打ち合わせ通り、最初は攻略の速度は考えず、安全第一で行きましょう」

「まぁまぁ、良いじゃねぇか、ケーキちゃん。 Aliceちゃんだって、お気楽な訳じゃないって。 だろ?」

「勿論だよ! ケーキちゃん、楽しみ尽くして勝つのがEGOISTSなんだからね! 今回のGENESISクエストだって、思い切り楽しんでやるんだから!」

「……気を抜かないのなら、それで構いません」


 快活な笑みを浮かべるゼロと、ニコニコ笑うAlice。

 2人を前にケーキは嘆息していたが、本気で非難している訳ではない。

 むしろ、このような状況においても自分を保てることに、敬意を表してさえいた。

 3人のやり取りを、雪夜は黙って聞いていたが、どうしても意識はケーキに持って行かれてしまう。

 自然と視線を向けて、思わずまじまじと観察してしまった。

 今更言うまでもなく、途轍もない美少女。

 目的の為に努力し続け、尚も成長を続けている。

 戦いとなれば、これほど頼りになる仲間はいない。

 その反面で泣き虫なところがあり、どちらかと言えば内気な性格だ。

 だが、それは決して欠点ではなく、むしろ魅力だと言える。

 雪夜が改めてケーキと言う存在を確認していると、彼女は恥ずかしそうにモジモジしながら口を開いた。


「あ、あの、雪夜さん……どうかされましたか……?」


 顔を紅潮させて上目遣いで問われた雪夜はハッとして、自然な動作で目を逸らしながら言い返す。


「いや、何でもない。 少し考え事をしていただけだ」

「そ、そうですか……。 それなら良いんですけど……」

「いや、良くねぇだろ。 雪夜、今から大事なクエストなんだぜ? しっかりしてくれよ。 リーダーのお前が上の空じゃ、不安になるじゃねぇか」

「そうだよ! 雪夜くんも、一緒に楽しむんだからね?」

「すまない、ゼロ、Alice。 もう本当に大丈夫だ。 ケーキの言う通り、最初は様子見感覚で安全に行動するぞ」

「はい、わかりました」

「うんうん! やっと、らしくなって来たね!」

「だな。 それでこそ雪夜だぜ」


 メンバーから信頼を寄せられた雪夜は、苦笑しながらウィンドウを開き、念の為にアイテムチェックを始めた。

 ケーキたちも同じように準備に取り掛かり、間もなくして完了する。

 その後は、各人が思い思いに過ごし、時計の針が19時を示した。

 サイレン音が鳴り響き、空が真っ赤に染まる。

 最早、見慣れた光景に動揺する者はおらず、周囲のプレイヤーは早速とばかりにクエストを受注し始めた。

 安全策を取るなら、雪夜たちの帰還を待った方が確実だが、彼らにもゲーマーとしての矜持がある。

 いつまでもEGOISTSに頼ってばかりはいられないと考え、自らの力で道を切り開こうとしていた。

 仲間たちの向上心に、雪夜は胸中で舌を巻きつつ、自分たちもそれに負けないと誓う。


「行くぞ」

「オッケー!」

「任せろ!」

「全力を尽くします」


 雪夜の号令に、Alice、ゼロ、ケーキがそれぞれ応えた。

 それを確認した雪夜は小さく頷き、ウィンドウにタッチする。

 瞬間、4人の姿が転移して、気が付けば暗雲の下に立っていた。

 反射的に雪夜たちは戦闘態勢に入り、全周囲を警戒する。

 しかし、現時点ではこれと言った脅威はなく、不気味な荒野が広がっていた。

 もっとも、眼前に嫌でも目に入るものがあったが。


「なんつーか、いかにもって感じだな」

「確かにね~。 中はどんな感じなんだろう?」


 しみじみと呟くゼロと、ワクワクした様子のAlice。

 雪夜は返事をせずに、それを見上げた。

 一言で言うなら、巨大な城。

 それも、いわゆる魔王城の様相を呈している。

 数多くのプレイヤーが既視感を抱くだろうが、雪夜は別のことが気になった。

 ただし、自分がいったい何に引っ掛かっているのか、わかっていない。

 その為、難しい顔で考え込んでいると、ケーキがポツリと声を落とす。


「バトルキャッスル……」

「……! なるほど、そう言うことか」

「え? 雪夜くん、そう言うことって?」

「Alice、どこかで見たことがあるとは思っていたんだが、この城はバトルキャッスルに似ているんだ」

「おー、言われてみれば確かにな。 てことは、もしかしてボスは剣姫か?」

「不吉なこと言わないでよ、ゼロさん! 剣姫並のボスとか、考えるだけで怖いんだけど!?」

「怒んなよ、Aliceちゃん。 俺だって、絶対に死ねない剣姫戦とか怖過ぎるっての」


 このとき、Aliceとゼロに悪気など欠片もなかった。

 だが、自分を否定されたように感じたケーキは――


「Aliceさんとゼロさんは、剣姫が嫌いなんですね……」


 しょんぼりとした様子で呟く。

 そんな彼女を不思議に思ったAliceとゼロは、顔を見合わせてからあっけらかんと言い放った。


「ううん、全然嫌いじゃないよ? むしろ、好きかな~。 可愛いし!」

「俺も、嫌いなんてことはねぇよ。 ギリギリの戦いになるから、どうしても怖くなるけどな。 けど、だからこそ面白い! 雪夜もそうだろ?」

「あぁ。 元々、俺がCBOをプレイしているのは、剣姫と戦う為だったからな。 そう言う意味では……最も好ましいとすら言える」

「あはは! 好ましいって何? 素直に好きって言えば良いのに~」

「察してやれよ、Aliceちゃん。 雪夜は、そう言う年頃なんだよ」


 ニヤニヤと笑うAliceとゼロに、雪夜は憮然とした面持ちで反論しようとした。

 ところが、その前にケーキが不審な態度を取っていることに気付く。

 両手を頬に当てて下を向き、頭から湯気が出そうなほど顔が赤くなっていた。

 心配になった雪夜は口元の言葉を入れ替え、ケーキに問い掛ける。


「大丈夫か、ケーキ?」

「え!? だ、大丈夫です! 全くもって、問題ありません! さぁ、行きましょう!」

「……そうだな。 Alice、ゼロ、おふざけはここまでにしよう」

「はーい!」

「おし! やってやるか!」


 ギクシャクとした動作で歩き出したケーキに、雪夜たちも付いて行く。

 疑問は残ったままだが、ひとまず雪夜は横に置いておくことにした。

 城に近付くにつれて、威容がますます大きくなる。

 門扉の前まで辿り着いたEGOISTSは、改めて視線を交換した。

 流石に全員が集中しており、先ほどまでの緩い空気は霧散している。

 そのことを確かめた雪夜は、代表して巨大な門扉に手を触れた。

 すると、隙間から赤黒い光が発せられ、重い音を立てながら開く。

 そこには石造りの広間があり、不穏な空気が流れていた。

 中は暗いが、淡い光が最低限の視界を確保してくれている。

 全域を見渡した4人は慎重に足を踏み入れ、中央まで来た。

 その奥には――


「これは……厄介そうですね」

「あぁ、一筋縄では行かなさそうだ」


 警戒したケーキの言葉を、雪夜が静かに肯定する。

 彼らの眼前の壁には、怪しげな筆跡の文字が刻まれていた。

 その内容は、『遅き者たちに我と戦う資格なし』と言うもの。

 これが何を表しているのかは、現時点で確証はない。

 とは言え、ある程度推察することは可能。


「要するに速く攻略しないと、ボスと戦うことすら出来ないってことかな?」

「そう言うことだろうな、Aliceちゃん。 まぁ、何回でも挑戦出来るんだから、慌てる必要ねぇだろ」

「はい、ゼロさん。 まずはこのダンジョンの仕組みを把握して、ボス戦のことはそのあと考えれば良いかと」

「俺もケーキに賛成だ。 もっとも、のんびりし過ぎる訳にも行かない。 安全第一だが、その中で最善を尽くそう」

「りょーかいだよ、雪夜くん! レッツゴー!」

「おう!」


 気勢とともに右手を突き上げたAliceと、それに付き合うゼロ。

 雪夜とケーキは無言だったが、黙って気合いを入れている。

 すると、それを見計らっていたかのように、奥の壁が崩れ去って先への道が現れた。

 1本道ではあるが、見える範囲に敵はいない。

 それでも油断しない雪夜は、率先して中へと入って行く。

 ケーキたちもあとを付いて歩き、全員が即座に戦闘に移れるよう備えていた。

 そうして辿り着いたのは、先ほどよりも狭いが、似たような造りの部屋。

 ただし、左右に通路が続いている。

 それ以外には何もなく、雪夜たちは選択を迫られた。


「さてと。 どうする、雪夜? 手分けするか、全員で片方に進むか」

「難しいな、ゼロ。 だが、今回は安全が最優先だ。 全員で同じ道を進もう。 まずは右から行くぞ」

「わかりました」

「は~い!」


 迅速に決断した雪夜に反論することもなく、4人が揃って右の通路へと進む。

 何の変哲もない1本道で、モンスターは見当たらなかった。

 そのことが逆に不可解だった雪夜だが、取り敢えず攻略のことだけを考える。

 暫くは足音だけが響き、ようやくして見えて来たものは、床に描かれた魔法陣。

 ここからが本番だと感じた雪夜たちは、気を抜かないまま魔法陣に踏み入り――


「……あれ?」

「何も起こりませんね……」

「どうなってんだ?」


 素っ頓狂な声を漏らしたAlice。

 困惑したケーキ。

 眉間に皺を寄せて首を捻るゼロ。

 そんな仲間たちに頓着することなく思考を巡らせた雪夜は、ある結論に至る。

 正解かどうかはわからないが、わからないからこそ行動あるのみ。


「引き返すぞ」

「あん? どう言うことだよ?」

「ゼロ、反対の道も調べる必要が出来た。 恐らく、そこに答えがある」

「なんか良くわかんないけど、付いて行くよ!」

「わたしも、雪夜さんの指示に従います」

「有難う。 ここまでモンスターは出ていないが、帰りもそうだとは限らない。 注意を怠らず、それでいて最速で戻るぞ」

「あー、なるほどな。 おし、行くか!」


 仲間たちの了承を得た雪夜は、駆け出した。

 彼が全力で走ると3人を置いてけぼりにしてしまうので、そこは調整している。

 やがて元の部屋に辿り着いた4人は1度止まったが、すぐにもう1つの通路へと飛び込んだ。

 ここからはゆっくりとした動きになったものの、やはりモンスターが出現する気配はない。

 何の問題もなく突き当りまでやって来て、同じような魔法陣を目の当たりにする。

 ケーキたちに視線で断りを入れた雪夜は、躊躇いなく魔法陣に足を着けた。

 ところが今回も反応はなく、無音の空間が広がっている。

 しかし雪夜に落胆の色はなく、むしろ納得した様子で言葉を紡いだ。


「やはり、そう言うことか」

「雪夜さん、もしかしてこれは、同時起動でしょうか?」

「同時起動? あ~、わかった! さっきの魔法陣と一緒じゃないと、動かないんだ!」

「てことは、どっちにしろ手分けするしかないってことかよ? 無駄に時間を使っちまったなぁ」

「無駄な時間じゃないぞ、ゼロ。 少なくともこれで、最初の選択肢では迷う必要がなくなった。 ただこうなると、別の問題が出て来る」

「誰と誰が組むか、だね? じゃあ、あたしは雪夜くんとが良い!」

「却下です、Aliceさん。 雪夜さんと一緒に進むのは、わたしです」

「駄目! 先に言ったのはあたしなんだから、優先権はこっちにあるんだよ!」

「先とかあとの問題ではないです。 絶対に譲りません」

「む~! それなら、雪夜くんに決めてもらおうよ!」

「雪夜さんに……良いでしょう、受けて立ちます」

「よ~し! 雪夜くん、あたしだよね!?」

「雪夜さん……」


 猛烈な勢いのAliceと、内に秘めた強い想いをぶつけるケーキ。

 思わぬ方向に話が転がったことに、雪夜は内心で戸惑っていた。

 特に今の彼は、2人のどちらかを選ぶと言う行為に、強い抵抗を覚えている。

 表情に出さないまま焦燥感を抱いた雪夜は、必死で考えを纏めようとして――


「雪夜とは、俺が組むぜ」


 ゼロが言葉を割り込ませた。

 雪夜に注目していたケーキとAliceは、目を丸くして振り返り、雪夜も意外に思っている。

 それでも立ち直った少女たちは、ゼロに文句を言おうとしたが、彼は先手を打った。


「Aliceちゃんは接近戦が出来るとは言え、『魔導士』だろ? だったら、『剣士』と組む方が安全だろうが。 それに、俺なら雪夜のスピードにそんなに遅れず付いて行ける。 戦闘スタイルの嚙み合わせも、悪くねぇからな。 これでもまだ、反論があるか?」

「う~!」

「く……」

「わかってくれたようで、何よりだぜ。 つーことで、よろしくな、雪夜!」

「……こちらこそ、頼む」


 サムズアップしてニカッと笑うゼロに、雪夜は何とも言い難い複雑な顔で返事した。

 ケーキとAliceは不満そうに、頬を膨らませている。

 こうしてEGOISTSは二手に分かれ、本格的な攻略に挑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ