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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第15話 向き合って

 第4回GENESISクエスト当日の放課後。

 雪夜は朱里と宗隆、透流とともに、街の喫茶店に来ていた。

 テラス席の丸テーブルを囲っているのだが、朱里はやけに雪夜に寄っている。

 そのことに宗隆と透流は不思議そうにしていたものの、敢えて問い質すようなことはしなかった。

 大事なクエスト前に、何を呑気なと思われるかもしれないが、雪夜としては今からジタバタしても仕方ないと思っている。

 と言うのも、事前に得られた情報だけでは、大した対策が取れないからだ。


「にしても、今度はダンジョン攻略かぁ。 GENESISの奴ら、ムカつくけど面白そうなクエストを用意してくれたじゃねぇか」

「確かにね。 僕は参加してないけど、観てる方は結構楽しいよ」

「おい雪夜、聞いたか? 透流はお前らが必死に戦ってるのを見て、嘲笑ってるらしいぜ」

「だ、誰もそんなこと言ってないだろ!? 違うからね、雪夜!?」


 ニヤニヤした宗隆にからかわれて、透流が大慌てで否定した。

 それを見た雪夜は苦笑し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「落ち着け、透流。 お前に悪気がないとはわかっている」

「そうですよ、榊先輩! それに、プレイヤーのあたしたち自身が楽しんでますから! 気にしなくて良いですよ!」

「あ、有難う、雪夜、日高さん。 そう言ってもらえると、助かるよ」

「まったく、冗談の通じねぇ野郎だぜ。 そんなんだから、彼女が出来ねぇんだよ」

「宗隆、それって特大のブーメランだってわかってる?」

「う、うるせぇな! 今はGENESISクエストの話だろ!?」

「キミが話を逸らしたんじゃないか……」


 顔を赤くして怒鳴る宗隆と、額に手を当てて嘆く透流。

 愉快な友人たちの姿に雪夜は再び苦笑しつつ、自ら軌道修正を図った。


「クエストのタイプはダンジョン攻略だが、やはりただクリアすれば良い訳ではないらしい。 いかに速くクリア出来るか。 これがまずは、重要だ」

「だねー。 でも見逃せないのが、クリア時点の状況に応じて、スコアが変動するってルールかな。 その状況って言うのが何のことかわからないけど、単純なタイムアタックじゃないみたい」

「スコアが変動するってんだから、最終的な評価は攻略時間じゃなくてそのスコアなんだろうな。 どんな条件がスコアに影響するのか、気になるぜ。 なぁ、透流?」

「うん。 僕の知る限り速さが大きな基準で、それ以外にもスコアがプラスされる要素があるんだよね? 雪夜、具体的なことは予想出来てるの?」

「メンバーと話し合って、いくつか候補は挙げているが、実際にやってみないとわからない。 だが、今回はアンリミテッドクエストと同じで、何度も挑戦可能だからな。 試行錯誤する必要はありそうだ」

「1回勝負も緊張するけど、回数制限がないのも、それはそれで不安があるよね」

「朱里、気持ちはわからなくもないが、俺たちはゲームをするんだ。 どうせなら、楽しんだ方が良いぞ」

「そうだぜ、朱里ちゃん! 俺なんか、参加したくても出来ねぇんだからよ……」

「あ……。 ご、ごめんなさい、東郷先輩!」

「いやいや、気にすんなって! それより、朱里ちゃんはSCOプレイヤーなんだよな? 七剣星と繋がりはあったりするのか?」


 東郷のこの質問は、特に深い意味があった訳ではない。

 それでも朱里はドキリとしたが、表面上はにこやかに答えを返す。


「あたしは並のプレイヤーなんで、滅多に接する機会はないですねー」

「SCOの七剣星か……。 僕も知識としては知ってたけど、やっぱり特別な人たちなんだね」

「あ! そ、そんなことはないですよ、榊先輩。 七剣星だって、1人のプレイヤーに違いはないです! 特にフレン様は人当たりも良くて、慕ってるプレイヤーも多いんですよ!」

「今の第一星、フレンかぁ。 ガルフォードよりインパクトは弱いけど、実力は全然負けてねぇよな」

「勿論ですよ、東郷先輩! フレン様は、本当に強いんですから!」

「あはは。 日高さんは、フレンのことがよっぽど好きなんだね」

「それはもう! すっごく尊敬してます! でも……」


 そこで言葉を切った朱里は、チラリと傍にいる雪夜の顔を見た。

 そして、消え入りそうな声で告げる。


「1番好きな人は、別にいますけど」


 頬を朱に染めて俯き加減の朱里を前に、宗隆と透流は事情を察した。

 次いで雪夜の顔色を窺ったが、その様子は正反対と言っても過言ではない。

 宗隆はワクワクしているのを隠そうともせず、透流はどことなくソワソワしている。

 2人の眼差しを一身に浴びた雪夜は内心で嘆息し、素知らぬ顔で言い放った。


「そろそろ行こう。 帰って準備することもあるからな」

「何だよ、もうちょっとくらい良いじゃねぇか」

「邪魔しちゃ駄目だよ、宗隆。 それになんか、いたたまれないし……」

「まったく、しょうがねぇな。 雪夜、今日はこれくらいにしてやるけど、今度ゆっくり話を聞かせろよ?」

「約束は出来ないが、一応覚えておこう。 朱里、帰るぞ」

「う、うん」


 席を立った雪夜に続く形で、朱里たちも腰を上げる。

 その後、会計を終わらせた彼らは別れ、雪夜と朱里は並んで帰路に就いた。

 暫くはそのまま歩き続けていたが、人目が少なくなったのを見計らって、朱里が雪夜の手を握る。

 それに対して雪夜は抵抗せず、自然と指を絡ませた。

 無言の時間が続く中、朱里から幸せそうなオーラを感じる。

 しかし雪夜は、これで良いのかと本気で悩んでいた。

 彼は朱里の望みを可能な限り叶えたいが、彼女の気持ちを受け入れる覚悟が、少なくとも現時点ではない。

 だからこそ、今日に至るまでも、はっきりとした答えが出せずにいる。

 そんな自分を朱里は、酷いと思っているはずだ。

 胸中でそう考えていた雪夜だが、予想外の声が耳朶を打った。


「ごめんね、セツ兄」


 いきなり謝られた雪夜は、反射的に振り向いた。

 一方の朱里は視線を前方に向けたまま、更に言葉を連ねる。


「セツ兄が困ってるの、わかってる。 でも、こうしていたいの」

「朱里……」

「セツ兄がどんな答えを出しても、あたしはそれを尊重するよ。 だから、自分の気持ちに正直にいてね。 ただ、他の子を選ぶまで、ここはあたしの指定席にさせて欲しいの」

「……俺が朱里を選ばなかったら、どうなるんだ?」

「うーん、考えたくないけど……出来れば、元の関係に戻りたいかなー。 難しいかもしれないけど、あたしはそうしたい」


 雪夜に振り向いて、眉をハの字にした困ったような笑顔を見せる朱里。

 その顔を見た雪夜は、見えない刃で斬り裂かれたような錯覚に陥りつつ、表情には出さずに声を発する。


「我ながら最低だと思うが、正直に言うと今は決められない。 自分の気持ちが見えて来ないんだ」

「……そっか。 じゃあ、待ってるね」

「すまない、出来るだけ早く結論を出す」

「うぅん、焦らないで? その代わり、ちゃんと自分と向き合って決めて欲しいな」

「自分と向き合う、か……。 わかった」

「有難う。 ……と、もう家の近くまで来ちゃったね」

「そうだな。 自分勝手だと言われそうだが、ひとまずGENESISクエストに集中しよう」

「あはは、そんなこと言わないよ。 あたしだって、ここからは全力で攻略モードだから!」

「そうしてくれ。 じゃあ、また明日な」


 そう言って雪夜は朱里の手を離し、自宅へと入って行く。

 その直前――


「セツ兄」


 背中から朱里に呼び止められて、振り向いた。

 だが、朱里は何やら懊悩している様子で黙っており、雪夜は胸中で首を傾げる。

 すると彼女は、何度も深呼吸を繰り返してから、真剣な面持ちで言葉を紡いだ。


「さっき自分の気持ちが見えて来ないって言ってたけど、本当は違うんじゃないかな」

「違う……?」

「うん。 たぶん、セツ兄の気持ちはずっとそこにあるの。 ただ、目を背けてるだけ」

「俺が、目を背けてる……」

「あたしがそうさせてるんだとしたら、それは嫌なの。 だから、もう1回言うね? ちゃんと、自分と向き合ってあげて」


 覚悟を宿した、朱里の潤んだ瞳。

 逸らしたくなる視線を懸命に堪えて、雪夜は真っ直ぐな声で宣言する。


「やってみる」

「……うん、有難う。 じゃあ、今度こそ帰るね。 また明日!」


 満面の笑みになった朱里が踵を返し、家に入って行った。

 その際、目から雫が滴ったように見えたが、雪夜は見間違いではないと確信している。

 黙ってその場に佇んだ彼は瞑目し、朱里の言葉を胸に刻み込んだ。

 同時にアリスのことも思い出したが、どうしても脳裏を過るのは――


「ケーキ……」


 無意識にその名を口に出した雪夜は、踵を返して玄関のドアを開く。

 こうして彼は、答えを出す糸口を見付けるのだった。

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