第12話 ダークホース
思わぬ申し出に瞠目する雪夜に、ゼロは勝気な笑みを向けている。
ケーキやAlice、近くのCBOプレイヤーも言葉を失っていたが、ゼロは構わず続けた。
「新装備の力、試したいんだろ? それも、出来れば対人戦の方が良いんじゃねぇか?」
「それはそうだが、危険じゃないか? 同じタイトルでも、PVPで敗れたら脱落するんだぞ?」
「勿論、ガチ勝負じゃねぇよ。 簡単に言えば、初撃決着ルールだ」
「初撃決着……先に攻撃を当てた方が勝ちと言うことか?」
「その通り。 そんで、場所はここでする。 町の中なら安全圏だから、当たってもダメージにはなんねぇからな」
「なるほど、それなら脱落の心配はない。 良いだろう、それで頼む」
「おっし! 言っておくが、俺は本気で勝ちに行くからな? 油断してると、CBO最強の座を奪っちまうぞ?」
「そんなものに拘りはないが……俺も、負ける気はない」
闘志を燃え上がらせるゼロに、雪夜のニヤリとした笑みを見せる。
それを見たケーキたちは、彼がベルセルクと呼ばれる所以を思い出していた。
そうして、他のプレイヤーたちを置き去りにした2人は、クリスタルから離れた開けた場所で、正面から相対する。
自然と彼らを取り囲むようにギャラリーが出来、準備が完了した。
本来PVPをする際は専用のシステムが働くが、安全圏では使えない。
そこで雪夜とゼロは、同時にAliceを見る。
彼らの意図を察した彼女は、嘆息してから手を挙げて――
「始め!」
戦いの火蓋を切った。
瞬間、空気を震わせるほどの剣戟音が鳴り響く。
雪夜とゼロが真っ向から衝突し、『無命』と『【隠刀】闇丸』がぶつかった。
そのことにギャラリーが気付いたときには、両者が後方に跳び退り、間髪入れずに再度踏み込む。
今回のルールの性質上、単純な火力は意味がない。
勝敗を分かつのは、動きの精度と読み合いの深さ。
暫くは通常攻撃の応酬が続き、刃と刃が火花を散らす。
両者1歩も譲らず、ギャラリーからは全くの互角に見えていた。
しかし、ケーキとAliceは違う。
「やはり、1つ1つの動きで雪夜さんが僅かに上を行っていますね」
「だね~。 今のところゼロさんも付いて行ってるけど、余裕があるのは雪夜くんかな~」
「しかし、雪夜さんとここまで戦えるとは……。 わたしは、ゼロさんを侮っていたかもしれません」
「あはは! ケーキちゃんは、雪夜くん贔屓だからね~。 まぁ、あたしもちょっとびっくりしてるけど」
一瞬たりとも見逃すまいと、真剣な面持ちで勝負の行く末を見守るケーキ。
取り出したポップコーンのようなアイテムを頬張りながら、楽しそうに観戦しているAlice。
様子は全く違うものの、両者とも見解は似通っている。
ギャラリーたちも、どちらかと言うとゼロが雪夜に対抗出来ている事実に、度肝を抜かれていた。
その驚きはいつしか興奮に変わり、奇妙な静寂が一気に過熱して行く。
「ゼロ、やるじゃねぇか! いっそ、ベルセルクを倒しちまえ!」
「ただのお調子者じゃなかったんだね! 行け行けー!」
「もしかして、CBO最強の世代交代が起こるか!?」
ギャラリーの大半がゼロを応援し、歓声が沸き上がった。
断っておくと、雪夜が疎まれている訳ではない。
単に、ゼロと言うダークホースの登場を面白がっている。
周囲の声を浴びる中、雪夜たちは斬り結び、中間地点で鍔迫り合いの体勢に入った。
至近距離で笑みを交換しながら、雪夜が口を開く。
「人気者だな、ゼロ」
「へ! ギャラリーはな、弱い者の味方になるもんなんだよ!」
「誰が弱い者だ。 こちらはLR装備2つにもかかわらず、押し切れていないんだぞ?」
「そんなことを言えば、俺は防戦一方だ。 攻める隙なんか、ありゃしねぇ」
「それにしては、余裕を残していそうだが。 本当は――」
そこで、雪夜の言葉が途切れる。
目の前にいたゼロが、消えたからだ。
それが何を意味するか理解するより先に、雪夜は【瞬影】を発動。
誰もいない場所に向かって、加速した。
一見すると無意味な行動だが、当然ながらそうではない。
「ちッ! 読まれてたかよ!」
背後から聞こえた、ゼロの声。
彼は鍔迫り合いの状態から【刹那の刻】で、雪夜の背後を取ったのだ。
しかし、『隠密』を相手にする際に最も警戒するべきポイントだと考えていた雪夜は、見事に危機を脱することに成功する。
更に振り向きながら抜刀し、【天衝】を放った。
高速で飛来する斬撃をゼロは弾く――ことなく、無防備で受ける。
意外な決着にギャラリーたちは騒めいたが、雪夜は鋭く目を研ぎ澄ませた。
すると、ゼロの体が木材を残して消え去る。
緊急回避スキル、【変わり身】。
相変わらず見事な運用だと感心した雪夜だが、対処は速かった。
「うお!?」
ゼロが出現した場所に向かって、【瞬影】で仕掛ける。
思わぬ強襲にゼロは目を見開きつつ、辛うじて弾くことに成功したが――
「終わりだ」
『【黒腕】滅龍』の解放能力によって、超速になった納刀速度を誇る雪夜は、既に次の攻撃態勢に移っていた。
そこに来てこの能力の真価を悟ったゼロは、悔しそうに笑う。
対する雪夜も微かに笑みを漏らし、次いで表情を引き締めて『無命』を一閃。
完璧にゼロの胴を捉えて、決着。
辺りが水を打ったように静まり返ったが、すぐに爆発したように盛り上がった。
当初はゼロに対する声援が多かったのも、いつしか両者を称えるように万雷の拍手が鳴り響いている。
それを受けた雪夜が、少しばかり恥ずかしそうにしていると、後頭部をガリガリと掻きながら歩み寄ったゼロが、苦笑しながら口を開いた。
「いやぁ、参った参った。 やっぱ強ぇなぁ」
「ゼロも強かった。 【刹那の刻】を避けるのは、かなりギリギリだったからな」
「つっても、そのギリギリを埋めるのが大変なんだよ。 お前相手に当てようと思えば、相当虚を突かないと無理だと思うぜ。 て言うか、最後のはどうやったんだよ?」
「最後のと言うと?」
「だから、【変わり身】のあとだよ。 完全に先読みしたとしか思えないタイミングで、突っ込んで来ただろ?」
「あれか。 教えてやっても良いが……やめておこう」
「あん? なんでだよ?」
「俺たちは仲間であると同時に、CBOが生き残ったあとはライバルにもなる。 こちらの手札は、なるべく見せないでおきたい」
「おいおい、生存戦争で負けたら何にもならねぇだろうが。 ……けど、そうだな。 CBOが元通りになったら、今度は真剣勝負しようぜ」
「あぁ、楽しみにしている。 ただし、覚悟はしておくことだ」
「言ってろ! すぐ追い付いてやるっての!」
快活な笑みを湛えたゼロが、手を差し出す。
それを見た雪夜は苦笑して、力強く握った。
途端にギャラリーの拍手がもう1段階大きくなり、最早お祭り状態。
悪ノリしたゼロは、勝利者をアピールするかのように、雪夜の手を掲げている。
雪夜はいたたまれない気分だったが、ゼロは中々解放しなかった。
尚、このとき――
「何て言うか……男の子同士の友情って、良いね~」
「ゼロさんは、男の子と言う歳ではないように思いますが」
「細かいことは良いんだよ、ケーキちゃん! 何なら、あたしたちもやる?」
「興味深い提案ではありますけど……今日はやめておきましょう。 わたしは、装備経験値を溜めに行きたいので」
「む~、つれないな~。 じゃあ、一緒に行こう! それなら良いよね?」
「……はい」
「わ~い! ケーキちゃん、有難う~!」
「ち、ちょっと、くっ付かないで下さい……!?」
抱き着いて来たAliceを持て余しながら、ケーキは強く拒否していない。
美少女たちの無邪気な(?)姿に、周囲のプレイヤーたちは微笑ましくなっていた。
こうして1日が終わりに近付き、衝撃とともに新しい朝がやって来る。




