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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第11話 【黒腕】滅龍

 翌日の防衛時間、雪夜たちはいつものようにクリスタル近くに集まっていた。

 適度な緊張感はありつつも、硬くなってはいない。

 全員が戦う覚悟を持ちながら、今このときを楽しもうとしている。

 それは他のCBOプレイヤーも同様で、生存戦争の終わりが近付いていることで、腹を決めている節があった。

 そんな仲間たちを雪夜は頼もしそうに眺めていたが、現実で気になることが起こっている。

 端的に言えば、朱里の様子がおかしいのだ。

 どことなくよそよそしく、何かを窺っている節がある。

 登校中の距離感も微妙に変化しており、近付こうとしては少し離れると言う行為を、何度も繰り返していた。

 明らかに不審な朱里に雪夜は困惑しつつ、ひとまず放置することにしている。

 ただし見放すのではなく、常に頭の片隅に置いていた。

 今も朱里に何があったのか考えていたのだが、雑談していたAliceとゼロが急に話を振る。


「そう言えば雪夜くん、そろそろ2つ目をLRに進化出来るんじゃない?」

「俺も思ってたぜ。 実際どれくらい集まってんだよ?」


 興味津々な2人に対して、ケーキは沈黙を保っている。

 それでいて視線の温度は高く、雪夜の答えに期待しているようだ。

 メンバーの様子に苦笑した雪夜は、敢えて何でもないように告げる。


「昨日、進化させた」

「え!? なんで言ってくれないの!?」

「ホントそれな! 雪夜、そう言う大事なことは、ちゃんと教えてくれよ!」

「すまない。 隠すつもりはなかったんだが、言うタイミングがなくてな」

「いやいや、タイミングなんかいくらでもあっただろ!? 俺らなんか今、味噌汁の種類の話をしてたんだぜ!?」

「ゼロさんの言う通りだよ! 雪夜くん、そう言うところあるんだから~!」


 愕然とするゼロと、プンスカ頬を膨らませるAlice。

 雪夜に他意はなかったが、想像より怒らせたことに戸惑っている。

 そこにケーキが、落ち着いた声で助け舟を出した。


「それで雪夜さん、どちらを進化させたのですか?」

「『滅龍』だ。 進化した名前は、『【黒腕】滅龍』だな」

「あ、武器を最後にしたんだ。 やっぱり、火力は充分だから?」

「Alice、充分かはわからないが、生存戦争に向けて対人戦を想定するなら、こちらが優先かと思ったんだ」

「『影桜』のときも、そんなことを言ってたな。 で? どんな進化をしたんだよ?」

「特殊能力の強化自体は順当なものだ、ゼロ。 デメリットのHP減少を含めて、AP関係も回復効果も倍になった。 HP管理は以前よりシビアになったが、これも強力な進化だと言える」

「HP管理が難しくなったのは心配ですが……雪夜さんなら大丈夫だと信じます。 ただ、くれぐれも無理はしないで下さい」


 ギュッと握った手を胸に当てて、不安そうに眉を落とすケーキ。

 Aliceとゼロも懸念を捨て切れないようで、周囲で話を盗み聞きしていた他のプレイヤーからも、雪夜に心配そうな目が向けられる。

 単なる戦力ではなく、自分を仲間として案じてくれているのだと感じた雪夜は、胸が熱くなる思いだ。

 しかし、それを表面には出さずに、あくまでも淡々と事実のみを語る。


「わかっている、ケーキ。 それに、その為の解放能力だと思うしな」

「お、そうだよ。 解放能力は何だったんだ?」

「『納刀速度300%上昇』だ、ゼロ」

「300%!? 何それ凄い! ……て、納刀速度? 抜刀じゃなくて?」

「間違っていないぞ、Alice。 間違いなく納刀速度だ」

「うーん、それって実際どうなんだ? 抜刀なら強そうなんだけどよ」

「だよね、ゼロさん。 抜刀速度300%上昇なら、わかってても当たりそうだもん」

「ですが恐らく、それだとGENESISの言う常識的な範囲の強化から逸脱します。 そうなると、アップデートそのものを無効化されかねません」

「たぶんケーキの見解が、この調整になった理由だろうな。 ギリギリの範囲で強化を目指した結果だと思う」

「でも、納刀速度が上がって良いことあるの? あたし『魔導士』しか使ったことないから、ピンと来ないんだけど」


 頬に手を当てて、Aliceは小首を傾げた。

 隣ではゼロが腕を組んで、考えを巡らせている。

 確かに納刀速度が上がったところで、直接的な火力には繋がらない。

 だが、雪夜が説明する前にケーキが答えを示した。


「『侍』のアーツは【破陣】を除いて、全て抜刀と納刀がセットになっています。 つまり、納刀速度が上がると言うことは、次の攻撃への連携が速くなります。 これは単なるDPSの向上に留まらず、隙が小さくなることも意味します。 勿論、アーツを連打すればAPの消耗も激しくなりますが、『滅龍』の特殊能力がAP周りの強化なので、上手く立ち回れば補えるでしょう。 そして、デメリットは抜刀中にHPが減少するものですから、納刀が速くなることで最低限に抑えることが可能です。 以上のことから、『滅龍』の進化は非常に意味があるものだと思われます」


 ツラツラと紡がれたケーキの解説を、Aliceやゼロ、周囲のプレイヤーは感心しながら聞いていた。

 一方の雪夜は、自分が言うことがなくなって苦笑したが、有難く思って締め括る。


「と言うことだ。 要するに、火力も生存能力も上がったと思ってくれ」

「なるほどね~。 当人の雪夜くんはともかく、ケーキちゃんが凄く詳しかったことには驚いたけど、納得したよ!」

「Aliceちゃん、俺もだ。 て言うか、この場合は絶妙な調整をした、貴音ちゃんを褒めるべきじゃねぇか?」

「そうですね、ゼロさん。 わたしたちに苦労を強いる代わりに強力なアップデートを実施して、その中でも抜群の調整を行う……見事です」

「まったくだな、ケーキ。 さて、そろそろ防衛の時間だ。 新装備の力を試してみたいが……攻めて来て欲しいかと言えば、微妙かもしれない」

「俺はサッサとケリを付けたいけどな。 当然、俺らが勝つ結末でだぜ?」

「当たり前だよ、ゼロさん! さぁて、来るなら来なさいってことで!」


 クルクルと『【聖杖】クリスタル・ロッド』を操って、ビシッと構えるAlice。

 それに呼応するかのように、防衛に参加中の全CBOプレイヤーが戦闘態勢に入った。

 ところが19時を回っても侵攻して来る様子はなく、平穏な時間が30分ほど続く。

 この時点でかなり空気は弛緩していたが、突如としてそれは起こった。


「わわ!?」

「これは……」


 焦ったAliceと、緊迫したケーキの声が重なる。

 それも致し方あるまい。

 大地が――いや、CBOの世界そのものが揺らいだのだから。

 地震と言うよりは空間震のような現象に、雪夜を含む全員が驚きを隠せずにいる。

 またGENESISが何かしたのかと疑った雪夜だが、今回はそうではなかった。

 世界崩壊の前触れのようだった空間震がピタリと止まり、まるで何事もなかったかのよう。

 プレイヤーたちは未だパニック状態だったが、突如として空に巨大なウィンドウが出現した。

 表示されているのはCBOのロゴで、注目が集まる中、機械音声が驚くべき事実を明かす。


『外部よりサーバー攻撃を受けましたが、対処済みです。 ゲーム続行に支障はありません。 繰り返します。 外部よりサーバー攻撃を受けましたが――』


 サーバー攻撃。

 全く馴染みがないとは言わないが、現代においてはほぼ絶滅したワード。

 と言うのも、成功率が途轍もなく低いからだ。

 よしんば成功したところで、確実に実行犯は特定される。

 そんな馬鹿げたことをする者がいたことに、先ほどまでとは別種の動揺が辺りに広がった。

 しかし、1人だけ落ち着きを保っていた雪夜はウィンドウを開き、フレンとネーヴェにメッセージを送る。

 すると間もなくして返信があり、そこには予想通りの内容が綴られていた。


「どうやら、SCOとMLOもサーバー攻撃を受けたらしい。 もっとも、何の問題もなさそうだが」

「マジかよ!? どこのどいつか知らねぇけど、何を考えてんだ!?」

「ちょっと普通じゃないよね~。 生存戦争関係だろうけど、まさかここまでやるとは思わなかったな~」

「……調べたところ、THOでも同じことがあったようです。 BKOは何もなかったようなので、犯人はBKOの関係者だと考えるのが自然ですね」


 呆れ返るAliceとゼロ。

 ウィンドウを開いて、冷静に状況分析を行うケーキ。

 それぞれの反応を受けた雪夜はおとがいに手を当てて、自身の考えを述べた。


「取り敢えず、今回のことはこれで終わりだと見て良いだろう。 もし問題があるなら、貴音ちゃんが接触して来るはずだ」

「そうですね。 今はひとまず、防衛に集中しましょう」

「だね、ケーキちゃん! どさくさに紛れて、攻め込んで来るかもしれないしね~」

「おっし! 皆、改めて気合い入れようぜ!」


 ゼロの言葉は、周囲のプレイヤーに向けてのものだった。

 それによって落ち着きを取り戻し、再び戦う準備を整えている。

 その後も警戒を続け、今日もCBOは生き残った。

 雪夜が確認したところ、SCOとMLOも無事である。

 残念ながら、THOとBKOも。

 未だ膠着状態が続いていることをどう捉えるべきか、雪夜が考えていると――


「雪夜、俺が相手してやろうか?」


 ゼロが唐突なことを言い出した。

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