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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第4章

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第6話 成長

 ケーキは雪夜が好きだ。

 このようなことは、今更確認するまでもない。

 だが、よくよく考えてみたら、かなりの異常事態である。

 AIが人格を持つことでさえ、本来ならあり得ないにもかかわらず、それが恋愛感情にまで発展するなど、いったいどれほどの奇跡なのだろうか。

 ケーキもそのことは自覚しており、次はないと思っている。

 だからこそ誰よりも生存戦争に本気であり、何があっても生き残ろうと誓っていた。

 しかし、その過程で変わりつつあるものもある。

 当初は、自分と雪夜さえいれば、他はどうでも良かった。

 ところが最近は、Aliceやゼロと言ったEGOISTSの仲間たちを筆頭に、他のプレイヤーのことも考えるようになっている。

 あまり表面には出していないが、ケーキはその事実に悩んでいた。

 モヤモヤとしたものを抱えた彼女は、木の陰に腰を下ろして花畑を眺めながら、チャットアプリを起動する。

 雪夜たちとは基本的にはクエスト関連の話題が多いが、何でもない雑談をすることも珍しくない。

 もっとも、ケーキには理解出来ないことも多々あるので、専ら聞き役だが。

 ずっとCBOの世界にいる彼女は、雪夜たちがいない間は、1人で行動することがほとんど。

 他のプレイヤーたちと挨拶を交わすことはあっても、一緒にクエストに行くほどの仲ではない。

 そして、雪夜から適度に休憩するように言われているケーキは、度々こうして花畑に来る。

 とは言え、本当に休憩しているだけでやることなどないので、本音を言えば時間を持て余していた。

 雪夜にチャットを送ってみようかと思ったケーキだが、迷惑ではないかと考えて断念する。

 小さく嘆息した彼女が、自身の悩みをどうするべきか考えていると、1件の通知が届いた。

 まさか雪夜かと思ったケーキは目を見開いたが、残念ながら相手は違う。

 ただし、話し相手としては文句などない。


『やっほー、ケーキちゃん。 今って時間ある?』


 貴音の軽い文面を見てケーキは苦笑をこぼし、すぐさま返事を送信した。


『はい、大丈夫です。 どうかしましたか?』

『ううん、特に何もないわよ。 ただ、ケーキちゃんはどうしてるかなって』

『わたしは、いつも通りです。 休憩を挟みながら、装備経験値を稼いでいました。 貴音ちゃんはお休みですか?』

『わたし? バリバリ仕事中よ。 だから、チャットだけでごめんね?』

『それは構いませんが……仕事に集中しなくて良いのですか?』

『良いの良いの。 ちゃんと、やることはやってるんだから。 それに、プレイヤーとの橋渡しだって、わたしの仕事なんだから』

『なんだか、屁理屈に聞こえますが……不問とします』

『うんうん、それで良いのよ』


 今はケーキから貴音の顔は見えないが、彼女が笑っていることを、なんとなく悟っていた。

 そのことに苦笑を深めたケーキだが、次いで送られて来た文面には、ドキリとさせられる。


『ケーキちゃん、何か悩んでるんじゃないの?』


 単刀直入な貴音の問に、ケーキは何と言うべきか迷った。

 しばし逡巡した彼女は、ゆっくりとウィンドウに文字を打ち込んで行く。


『どうしてそう思うのですか?』

『どうしてと言われると難しいけど、勘かな? これでもわたし、ケーキちゃんのお母さんだし』

『凄いですね……。 実際には悩みと言うべきかわかりませんけど、考え事があるのは確かです』

『そうなんだ。 良かったら、話してくれない? 役に立てるかわからないけど、1人で考え込むより良いかもしれないわよ?』

『そうですね……。 何から話せば良いかわかりませんが、1つ1つ確認しながらで良いですか?』

『勿論よ。 焦らずゆっくり、ね』


 貴音に諭されたケーキは、胸に手を当てて深呼吸した。

 それから自分の気持ちを考え、文字として綴って行く。


『わたしは、雪夜さんが好きです。 その気持ちだけは、何があっても変わりません』

『うん』

『ですが、Aliceさんやゼロさんのことも……嫌いではありません。 他のプレイヤーたちにも、以前よりは仲間意識が芽生えています』

『うん』

『SCOやMLOと同盟を結んだことで、彼女たちのことも、守る対象と思うようになりました』

『うん』

『こう言った変化自体は、悪いことだとは思いません。 ただ……』

『ただ?』

『雪夜さんへの想いが、弱くなってしまったのかと不安になりました……。 彼にだけ向いていたわたしの心が、分散してしまったのではないかと……』


 そこまで語ったケーキは手を止め、沈痛な面持ちで俯いた。

 彼女にとって雪夜は、全てだと言っても過言ではない相手。

 それなのに他の者たちのことも考えるのは、良くないのではないか――そのような思考に陥っている。

 実際に言葉にすることで、ますます沈みそうだったケーキだが、貴音の見解は違った。


『ケーキちゃん』

『はい……』

『ケーキちゃんは、雪夜くんが好きなのよね?』

『はい!』

『ふふ、元気ね。 それは、前と同じくらい?』

『前と同じ……いえ、それ以上です。 雪夜さんと関われば関わるほど、彼のことを好きになって行きました』

『うんうん。 で、Aliceちゃんやゼロくんたちのことも、好きなのよね?』

『す、好きと言いますか……嫌いではないです』

『もう、素直じゃないわね。 とにかく、それは心が分散したんじゃなくて、成長したのよ』

『成長、ですか……?』

『そうよ。 生まれたてのケーキちゃんには、雪夜くんしかいなかった。 でも、今は違う。 いろんな人と接するようになって、大事なものが増えただけ。 雪夜くんへの想いが揺らいだ訳じゃないの』

『そうなのでしょうか……』

『そうよ! だから恐れずに、これからもいろんなことを経験しなさい。 ケーキちゃんの雪夜くんへの気持ちは、絶対になくなったりしないから』

『貴音ちゃん……。 わかりました、有難うございます』


 完全に咀嚼出来た訳ではないが、ケーキは貴音によって勇気付けられた。

 しかし――


『でも、そろそろ覚悟しておいた方が良いわよ』

『え?』

『わたしの勘が正しければ、Aliceちゃんの雪夜くんへの想いも、最高潮に達しつつあるの』

『それって……』

『あの子が告白するのも、時間の問題ってこと。 結果がどうなるかはわからないけど、もしかしたらくっ付いちゃうかもね』

『そ、そんな……』

『厳しいけど、それが現実よ。 だから、ケーキちゃんが恋路を突き進むと言うなら、残り時間は少ないと思っている方が良いわ。 どっちにしろ、報われる可能性は低いんだけど……』


 貴音の返信を読む度に、ケーキは胸を抉られるような衝撃を受けた。

 だが、それでも、彼女に諦めると言う選択はない。


『わかりました、覚悟しておきます』

『やっぱり言うの?』

『はい。 可能性はほとんどないとしても、わたしは雪夜さんの傍にいたいですから』

『そっか……。 どんな結果になっても、教えてね? 成功したら一緒に喜ぶし、駄目だったら思い切り慰めてあげる』

『ふふ……有難うございます。 わたしは幸せ者ですね。 大好きな人がいて、仲間たちもいて、これほど心配してくれる……お母さんもいるなんて。 本当に、生んでくれて有難うございました』

『ケーキちゃん……泣かせないでよ。 それに、まだまだこれからなんだからね? CBOが続く限り、ケーキちゃんも生き続けるの。 嬉しいことも辛いことも、皆で分け合いましょう?』

『はい、そう願います。 そろそろ休憩は終わりなので、行って来ますね』

『うん、行ってらっしゃい。 話してくれて、有難う。 頑張ってね』


 それっきり、チャットが止まる。

 貴音が言った最後の「頑張ってね」には、様々な意味が込められていることを、ケーキは理解していた。

 立ち上がった彼女は、背中の『【華剣】プリンセス・フルール』に触れて、瞑目しながらポツリと呟く。


「わたしは……雪夜さんが好きです。 大好きです。 叶わないとしても、想い続けます」


 その声は小さかったが、込められた感情は極めて強い。

 瞳を開いたケーキは狩場へと転移し、防衛時間まで戦い続ける。

 こうして、雪夜を巡る恋愛事情にも、大きな変化が訪れようとしていた。

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